君に恋していいですか?

櫻井音衣

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詰めすぎた距離、引き離される心

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美味しい焼き鳥を堪能した二人は、タバコを吸いながらビールを飲んでいた。

「これ飲み終わったら、そろそろ出る?」

薫が時計を見ながら尋ねた。
志信も腕時計を見て答える。

「そうだな……。もういい時間だ」

(もうこんな時間か……。もう少し一緒にいたいんだけどな……)

一緒にいると楽しくて、時間が過ぎるのがやけに早くて、別れ際が名残惜しい。
こんな事を思っているのは自分だけなのだろうと思いながら、志信はもう少しだけ薫を引き留める方法はないものかと考える。

(もう少し一緒にいたいって、ちゃんと言えたらいいんだけど……。あ、そうだ)

「ねぇ卯月さん」
「何?」
「ここ出たら、もうひと勝負する?」
「え?」
「それとも、またオレに負けるの悔しいから、やめとく?」

挑発的な志信の目と言葉は、薫の負けず嫌いに火をつけた。

「やってやろうじゃない。いつも勝てると思わないでよ。次は勝つから」
「どうかな?オレは絶対に負けないよ。さぁ、次は何をしてもらおうかなぁ……」

余裕の態度で意地悪く呟きながら、志信は心の中でガッツポーズをした。

(よっしゃ、作戦成功だ!)


ビールを飲み終えて焼き鳥屋を出た二人は、またゲームセンターにやって来た。

「また同じゲームでいい?」
「もちろん」

見えない火花を散らしながらリズムゲームの機械の前に並んで座った二人を、また常連客が期待のこもった目で見ている。

「また来たよ、あの二人!!」
「オイ、見に行こうぜ!」

ゲームを始める前から、ワラワラとギャラリーが集まり始めた。

「前に負けた方がお金入れる事にしようか」
「……わかった、そうしよう」

薫が財布から100円玉を2枚取り出す。

(別にお金出すのが嫌なわけじゃないのに、何この屈辱感……)

さっき負けた悔しさが、またふつふつと薫の胸にわき上がる。

「次は絶対負けない!!」
「かかってこい!!」

ゲームがスタートすると、更に増えたギャラリーは、半ば殺気だった薫の気迫に圧倒された。

(完全本気モードだよ…面白いなぁ……)

志信は時おり笑みを浮かべながら、鮮やかに難易度の高いリズムをクリアしていく。

「何あれ……?速すぎてもう手の動きが見えないんだけど……」

若いカップルの彼女が、二人の手の動きのあまりの速さに驚いて思わず声を上げた。
たくさんのギャラリーに見守られながら、二人の今日二度目の勝負はフィニッシュを迎えた。

「よっしゃあーっ!!またオレの勝ちーっ!!」

大きくガッツポーズをする志信に、またしても歓声と拍手が沸き起こった。

「信じられない……。また負けた……」

呆然としている薫にも、ギャラリーから声が上がる。

「お姉さん、ナイスファイト!!」
「次は負けないでね!!」
「かっこ良かったよ、お姉さん!」
「ど……どうも……」

見ず知らずの若者に励まされた薫は、少し恥ずかしそうに小さく頭を下げた。

「なんか……いい歳して恥ずかしい……」
「なんで?お姉さんかっこいいって」
「やめてよもう……。いいから早く出よ」

そそくさと席を立つ薫の後を、志信は笑いを堪えながら追いかけた。

「ごめん、また勝っちゃった。少し手加減してあげたら良かったかなぁ……」

後ろで嬉しげに呟く志信を、薫は振り返って睨み付ける。

「何それ?すっごいムカつく」

ふてくされてぶっきらぼうに呟く薫の頭を、志信はグシャグシャと撫で回した。

「ちょっ……やめてよもう!!」

薫は慌ててその手を払い除けた。
志信は楽しそうに笑う。

「ごめんって。アイス買ってあげるから機嫌直して」
「子供扱いするな」
「してないよ。食べたくない?」
「……食べたい」
「よし、じゃあアイス買いに行こう」

志信は薫の手を引いて、上機嫌で歩き出した。

「もう……なんなの、この手?!」
「いいから、いいから!!こっちだよー」
「やっぱり子供扱いしてる!!」

不服そうな薫に、志信は心の中で呟いた。

(子供じゃないから、ただ手を繋ぐだけでも、いちいち苦労してるんだよ)


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