君に恋していいですか?

櫻井音衣

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詰めすぎた距離、引き離される心

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慌てふためく志信を見て、薫はおかしそうに吹き出した。

「ふふっ……ウソだよ」

志信はバツが悪そうに目をそらした。

「なんだよもう……」

(良かった、バレてない……)

自分の脳内がバレていない事と、すっかりいつもの薫に戻った事に、志信は少しホッとした。

「嫌がる卯月さんに、無理矢理アレコレしようなんて、オレは思ってません」
「ん?当たり前でしょ。そんな事思ってる人とは仲良くできません」

(うわー……キッツー……。無理矢理しようとは思ってないけど……嫌がってない君とアレコレしたいとは、めちゃめちゃ思ってますよ?)

『同期の仲間以上の事を期待されても困る』と最初に釘を刺されていた事を思うと、薫を攻略するのは本当に超難関だなと、志信は薫にはわからないようにため息をついた。

(はぁ……卯月さん攻略本が欲しい……)



会社を出てゲームセンターに足を運んだ二人は、とりあえずタバコを1本吸ってから、この間と同じリズムゲームの前に並んで座った。

「で……罰ゲームはさっきのでいい?」
「いいけど……絶対に負けないからね」
「オレも負けない」

(今日はわざと負けたりしないからな)

志信がゲームの機械に二人分のお金を入れて、ゲームをスタートした。
またしても二人の周りにはあっという間にギャラリーが集まる。

「すっげぇ!!」
「あっ、あの人たちまたやってるよ!」
「ここまで行くと神だな……」
「すごくね?ほぼ互角だ!!」

高校生らしき男子たちの声を聞きながら、二人は激しいバトルを繰り広げた。

「ぃよっしゃぁー!!オレの勝ちだぁ!!」

大喜びでガッツポーズをする志信に、ギャラリーから拍手が起こった。

「ウソ……。私、このゲーム誰にも負けた事ないのに……」

対照的に、薫は呆然として、ガックリ肩を落としている。

「さぁて……どんなお願いしようかなぁ……」

ニヤリと意地悪く笑う志信に、薫は一抹の不安を覚えた。

(笠松くん……私に何させるつもり……?)



それから二人は焼き鳥屋に入り、ジョッキで生ビールと焼き鳥の盛り合わせを注文した。

「あーあ……。まさか負けるなんて……」

薫はまだショックから立ち直れない様子でビールを飲んでいる。

「勝負は時の運だからねぇ」

嬉しそうに笑いながらビールを飲んでいる志信を、薫は恨めしそうに見た。

「で……私は何をすればいいの?」
「まだ考え中。せっかくだから、楽しい事がいいなぁ……」

またニヤリと笑う志信に、薫はポツリと呟く。

「笠松くん……もう一度言うけど、やらしい事とか絶対にナシだからね」
「わかってるよ。オレそんな鬼畜じゃない」
「鬼畜じゃないならドSだね」
「そうかなぁ……。オレめっちゃ優しいよ?」
「……なんか言い方がやらしい……」
「なんだそれ」

(オレもしかして、ドSでめちゃめちゃエロいって思われてる?)

薫は運ばれてきた焼き鳥を口に運んだ。

「わ……すっごく美味しい」
「だろ?」
「ここ、よく来るの?」
「わりとよく来る」

志信も焼き鳥を食べながら、薫に何をお願いしようかと考える。

(デートして、とか……あからさま過ぎか。なんかもっと自然な言い方は……)

「あ、そうだ」

何か閃いた様子で声を上げる志信に、薫は何を言われるのかとビクビクしている。

「……何?」
「明日、買い物付き合ってよ」
「え?」

拍子抜けした様子の薫の顔を見て、志信は笑いを堪えた。

「服買いに行きたいんだけど……自分で選ぶと、どうしても同じような感じの服ばっかり選んじゃうからさ。一緒に選んでもらえると助かるかなーって」

薫は少しホッとした様子で志信を見た。

「そんなんでいいの?」

志信は少し意地悪してやろうと、わざとイタズラっぽく尋ねる。

「え?もっとすごい事じゃないとダメ?」
「いや、そうじゃないけど……。って言うか……もっとすごい事って何よ……」
「ホントはもっとして欲しい事があるんだけど……卯月さんにソッコーで殴られそうだから」

薫は少し赤い顔をしてうつむきながら、拳を握りしめて志信の前に突き出した。

「……ホントにみぞおち殴っていい……?」
「ごめんなさい……。冗談です……」

(卯月さんって面白いなぁ……。意外と照れ屋だし……マジでかわいい……。罰ゲームでデートとかじゃなくて、ホントにオレの彼女になってくれないかなぁ……)

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