君に恋していいですか?

櫻井音衣

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社員食堂で昼食を

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「いつもは昼飯、どうしてる?」
「SSの近くのコンビニとか弁当屋で買って、他のスタッフと一緒に食べてる」
「本社にいる時は?」
「たまに外に出て食べたりするけど……だいたい社食かな」
「一人で?」
「うん」
「じゃあ……本社にいる時は、また一緒に食べようよ」
「滅多にいないよ」
「うん、知ってる。いい?」
「いいけど…。」

また少し照れくさそうに、薫はうつむき加減で最後のおかずを口に運んだ。

「そろそろコーヒー買って来るよ、姫」
「もう……恥ずかしいから、それやめて……」

更に照れて恥ずかしそうにしている薫の顔を見ながら立ち上がり、笑いを堪えながらコーヒーを買うため席を離れた。

(恥ずかしがってる顔が見たいから言ってるんだって!!あーもう、めっちゃかわいい!!今すぐ抱きしめたい!!)


志信が席を離れると、薫は満足そうにお腹をさすった。
薫は志信の背中をなんとなく眺めながら、ぼんやりと考える。

(なんか笠松くんには変な気を遣わなくてラクって言うか、学生時代の友達みたいでちょっと楽しいかも……。やっぱり同期で同じ歳だからかな?)

他の男性社員より遠慮なく薫に話し掛けてくる志信は、少し強引だけど茶目っ気があって、なんとなく憎めない。

(弟気質……?なついて来ると、時々からかってやりたくなるんだよねぇ……。なんかちょっとかわいいし……)

二つのコーヒーを手に戻ってきた志信は、なんとなく視線を感じて薫の顔を見た。

「……どうかした?」
「ううん、どうもしないよ」
「そう……?」

(気のせい……じゃないと思うんだけどな……。今オレの事ジッと見てた?なんで?とか……やっぱ聞けないなぁ……)


コーヒーを飲み終えて食器を下げた後、一緒に喫煙室に向かう事にした。

「ごちそうさま、ありがとう」
「どういたしまして。また勝負しようよ。今度は何を掛けようか。飲み代とか?」
「負けて泣いても知らないよ」
「今度は負けないよ」

話しながら喫煙室にたどり着くと、喫煙室は食後の一服を楽しむ男性社員で混み合っていた。
薫は喫煙室の手前で一瞬立ち止まり、制服姿の自分を見る。

「喫煙室でこの制服だと、余計に浮いちゃうかな……。ちょっと入りづらいかも」
「大丈夫だよ、一緒に行こう」

志信が喫煙室のドアノブに手をかけようとした時、薫が慌てて志信の手を握った。

「え……?」

突然の事に驚き、目を大きく見開いている志信に、薫はうつむいて呟く。

「いい……。やっぱり私、もう戻るから……」
「えっ、急にどうしたの?!」
「なんでもない!じゃあね」

ポツンと取り残された志信は、慌てて走り去っていく薫の後ろ姿を呆然と見ていた。

(どうしたんだろ……。何か用事があったの忘れてたとか?もう少し一緒にいたかったんだけどな……)

志信は首をかしげながら喫煙室に入り、タバコに火をつけると、さっき薫に握られた手を眺めながら、柔らかい薫の手の感触を思い出していた。

(急にビックリした……。手……握られた……。なんだったんだろ、あれ……)


慌ててSS部のあるフロアに戻った薫は、喫煙室に入ってタバコに火をつけた。

(また顔合わせるとこだった……)

志信が喫煙室のドアを開けようとした時、ドアの小窓越しに、喫煙室の中でタバコを吸っている浩樹の姿を見つけた。

慌てて志信の手を握って止めた事を思い出した薫は、変に思われなかっただろうかと不安になる。

(あんな事、誰にも知られたくないよ……)

薫は吐き出した煙を目で追いながらため息をついた。
先週の金曜日、一人で喫煙室にいた時、支社にいるはずの浩樹と突然顔を合わせて驚いてしまった。
また今日も本社にいるとは思っていなかった。

(それにしても……なんで本社にいるの?支社にいるはずじゃ……。もしかして……異動……?)

浩樹がまた本社に戻って来るのではないかと思うと、薫の胸が嫌な音をたててざわついた。

(もう会いたくなかったのに……)



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