君に恋していいですか?

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
14 / 61
社員食堂で昼食を

しおりを挟む
「いつもは昼飯、どうしてる?」
「SSの近くのコンビニとか弁当屋で買って、他のスタッフと一緒に食べてる」
「本社にいる時は?」
「たまに外に出て食べたりするけど……だいたい社食かな」
「一人で?」
「うん」
「じゃあ……本社にいる時は、また一緒に食べようよ」
「滅多にいないよ」
「うん、知ってる。いい?」
「いいけど…。」

また少し照れくさそうに、薫はうつむき加減で最後のおかずを口に運んだ。

「そろそろコーヒー買って来るよ、姫」
「もう……恥ずかしいから、それやめて……」

更に照れて恥ずかしそうにしている薫の顔を見ながら立ち上がり、笑いを堪えながらコーヒーを買うため席を離れた。

(恥ずかしがってる顔が見たいから言ってるんだって!!あーもう、めっちゃかわいい!!今すぐ抱きしめたい!!)


志信が席を離れると、薫は満足そうにお腹をさすった。
薫は志信の背中をなんとなく眺めながら、ぼんやりと考える。

(なんか笠松くんには変な気を遣わなくてラクって言うか、学生時代の友達みたいでちょっと楽しいかも……。やっぱり同期で同じ歳だからかな?)

他の男性社員より遠慮なく薫に話し掛けてくる志信は、少し強引だけど茶目っ気があって、なんとなく憎めない。

(弟気質……?なついて来ると、時々からかってやりたくなるんだよねぇ……。なんかちょっとかわいいし……)

二つのコーヒーを手に戻ってきた志信は、なんとなく視線を感じて薫の顔を見た。

「……どうかした?」
「ううん、どうもしないよ」
「そう……?」

(気のせい……じゃないと思うんだけどな……。今オレの事ジッと見てた?なんで?とか……やっぱ聞けないなぁ……)


コーヒーを飲み終えて食器を下げた後、一緒に喫煙室に向かう事にした。

「ごちそうさま、ありがとう」
「どういたしまして。また勝負しようよ。今度は何を掛けようか。飲み代とか?」
「負けて泣いても知らないよ」
「今度は負けないよ」

話しながら喫煙室にたどり着くと、喫煙室は食後の一服を楽しむ男性社員で混み合っていた。
薫は喫煙室の手前で一瞬立ち止まり、制服姿の自分を見る。

「喫煙室でこの制服だと、余計に浮いちゃうかな……。ちょっと入りづらいかも」
「大丈夫だよ、一緒に行こう」

志信が喫煙室のドアノブに手をかけようとした時、薫が慌てて志信の手を握った。

「え……?」

突然の事に驚き、目を大きく見開いている志信に、薫はうつむいて呟く。

「いい……。やっぱり私、もう戻るから……」
「えっ、急にどうしたの?!」
「なんでもない!じゃあね」

ポツンと取り残された志信は、慌てて走り去っていく薫の後ろ姿を呆然と見ていた。

(どうしたんだろ……。何か用事があったの忘れてたとか?もう少し一緒にいたかったんだけどな……)

志信は首をかしげながら喫煙室に入り、タバコに火をつけると、さっき薫に握られた手を眺めながら、柔らかい薫の手の感触を思い出していた。

(急にビックリした……。手……握られた……。なんだったんだろ、あれ……)


慌ててSS部のあるフロアに戻った薫は、喫煙室に入ってタバコに火をつけた。

(また顔合わせるとこだった……)

志信が喫煙室のドアを開けようとした時、ドアの小窓越しに、喫煙室の中でタバコを吸っている浩樹の姿を見つけた。

慌てて志信の手を握って止めた事を思い出した薫は、変に思われなかっただろうかと不安になる。

(あんな事、誰にも知られたくないよ……)

薫は吐き出した煙を目で追いながらため息をついた。
先週の金曜日、一人で喫煙室にいた時、支社にいるはずの浩樹と突然顔を合わせて驚いてしまった。
また今日も本社にいるとは思っていなかった。

(それにしても……なんで本社にいるの?支社にいるはずじゃ……。もしかして……異動……?)

浩樹がまた本社に戻って来るのではないかと思うと、薫の胸が嫌な音をたててざわついた。

(もう会いたくなかったのに……)



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜

朝永ゆうり
恋愛
憧れの上司と一夜をともにしてしまったらしい杷留。お酒のせいで記憶が曖昧なまま目が覚めると、隣りにいたのは同じく状況を飲み込めていない様子の三条副局長だった。 互いのためにこの夜のことは水に流そうと約束した杷留と三条だったが、始業後、なぜか朝会で呼び出され―― 「結婚、おめでとう!」 どうやら二人は、互いに記憶のないまま結婚してしまっていたらしい。 ほとぼりが冷めた頃に離婚をしようと約束する二人だったが、互いのことを知るたびに少しずつ惹かれ合ってゆき―― 「杷留を他の男に触れさせるなんて、考えただけでぞっとする」 ――鬼上司の独占愛は、いつの間にか止まらない!?

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

鳴宮鶉子
恋愛
Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

史上最強最低男からの求愛〜今更貴方とはやり直せません!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
中高一貫校時代に愛し合ってた仲だけど、大学時代に史上最強最低な別れ方をし、わたしを男嫌いにした相手と復縁できますか?

スパダリな義理兄と❤︎♡甘い恋物語♡❤︎

鳴宮鶉子
恋愛
IT関係の会社を起業しているエリートで見た目も極上にカッコイイ母の再婚相手の息子に恋をした。妹でなくわたしを女として見て

同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。 ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。 落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。 「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」 「さぁ、、試してみる?」 クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー 【登場人物】 早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳 姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆他にエブリスタ様にも掲載してます。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...