君に恋していいですか?

櫻井音衣

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社員食堂で昼食を

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いつものように、なんの予定も誰との約束もないままに休日を過ごしたら、憂鬱な月曜の朝がやって来た。
いつも通りに出勤した薫は、いつもと違って、他の女性社員と同じようにオフィス用の制服を着て、ほんの少しぎこちなくSS部に向かって廊下を歩いていた。

(あー……気が重い……。今日は一日中会議漬けだ……)

薫がエレベーターの前で小さくため息をついた時、誰かが薫の肩を叩いた。
振り返ると、満面の笑みを浮かべた志信がそこにいた。

「おはよう、卯月さん」
「あ……笠松くん……。おはよう」

志信は憂鬱そうな薫の顔を見て笑う。

「なんだ、朝から元気がないんだな」
「気が重いんだよ。今日は一日中、この制服着て本社に居なきゃいけないし……会議漬けだからね」
「制服嫌い?」
「似合わないから。つなぎの方がいい」

薫がまたため息をつくと、志信は笑って薫の背中をポンポンと叩いた。

「元気出してよ。制服も似合ってるよ?」
「またまた…。お世辞はいいよ」
「いや、マジで。足とかキレイだし……」
「それセクハラ。変なとこ見んな」
「そうかなぁ……。本音なんだけどな」

厳しい薫の指摘に志信は苦笑いした。

「まぁ、元気出しなよ。昼は好きな物食べていいからさ。って言っても、社食だけど」
「そうだったね。社食なんて久し振り」

他の社員たちに混じってエレベーターに乗り込むと、薫は少し笑って志信を見た。

「じゃあ今日は……一番高いの食べる」
「遠慮なくどうぞ、姫」
「だから、姫はやめてよ……」

照れくさそうにうつむく薫を、志信はジッと見つめていた。

(そんなかわいい顔するんだ……)

「……何?」
「いや、なんでもない」

エレベーターがSS部のあるフロアに到着すると、志信は笑って軽く左手を上げた。

「じゃあ、また後で」
「うん」

薫がエレベーターを降りてドアが閉まると、同じ販売事業部の先輩の石田が驚いたように志信に話し掛けた。

「笠松……おまえもしかして、卯月さんと付き合ってんのか?」
「いや、同期なんです。金曜のSS部との飲み会で仲良くなって」
「へぇ……。でもあの子と付き合おうと思ったら大変そうだよな。仕事出来すぎだし、なんか気が強そうだし」
「そうですかね?意外と話しやすいですよ」

(かわいいとこもあるし……)

志信はつい先ほど見た薫の照れた顔を思い出して、少し笑みを浮かべながらエレベーターを降りた。


午前中の販売促進会議の間中、志信は会議の内容に耳と意識を傾けながらも、密かに薫の横顔を見つめていた。
真剣に考えている顔も、時おりメモを取る時のうつむいた横顔も、現場にいた時や飲み会の時には見られなかった顔だ。

(何て言うか……すげーキレイなんだけど……)


男女とも若くて元気な高卒の新入社員が多い会社の中で、女性社員では数少ない大卒の薫は、入社当初から同期の中でも目立つ存在だった。
薫のアルバイト時代の長いキャリアと本社上層部からの高評価は、同期の新入社員の間でも噂になっていた。
入社式の時には新入社員代表で挨拶をしたり、新入社員研修のSSでの作業実習では、先輩社員よりも見事に作業や接客をこなしていた。
他の同期たちがSSでの作業実習をしている中、薫は特例で実習を免除されて本社SSに配属された。
志信はそんな薫に驚き、他の同期と同様に、近寄りがたい存在だと思っていた。

しかし繁忙期の高速道路のSAのヘルプで一緒に作業をしたり、薫がカウンセラーになってからはSSで面談をしたりと、何度か接しているうちに、だんだん最初の近寄りがたい印象が薄れてきた。
手が空くと計量器周りの掃除道具の整頓をしたり、食事休憩の時には一緒に食事をしている人たちにもお茶を淹れるなど、さりげない気遣いも出来る人なんだと気付いた。
そして、接客中に見せる笑顔や面談中に見せる穏やかな表情を見るうちに、なんとなく薫の事が気になり始めた。

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