君に恋していいですか?

櫻井音衣

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同期の仲間としてなら

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二次会がお開きになり、薫がそろそろ帰ろうかと思った時、志信が肩を叩いた。

「卯月さん、もう少しだけ付き合って」
「え?まだ飲むの?」
「いや、酒はもうじゅうぶん飲んだから、ゲーセン行かない?」

ゲームセンターに足を運んだ二人は、対戦型リズムゲームの台の前に並んで座った。

「このゲーム、卯月さんがやってたのを前に見た事あるんだ。ね、オレと勝負しない?」
「いいけど……私、結構強いよ」
「知ってるよ。ギャラリー出来るほどの腕前なんだもんね」
「知ってて勝負を挑むとは……自信あるんだ」
「オレもこのゲーム得意だからね。負けたら月曜の昼飯おごるってのでどう?」
「……まぁいいけど」

志信は財布から百円玉を2枚取り出し、二人分のお金を機械に入れた。

「よし、行くぞー!」

ゲームが始まると、難易度の高いリズムを見事にクリアしていく二人の周りに、あっという間にギャラリーが集まった。
ほぼ互角の二人の腕前に、ギャラリーから感嘆の声が漏れ聞こえる。

「やるな!!」
「そっちこそ!!」

その曲がフィニッシュを迎えた時、薫の得点の方がわずかにリードしていた。

「私の勝ち。月曜の昼御飯は笠松くんのおごりね」

得意気にニヤリと笑う薫を見て、志信も笑う。

(長野さんの言ってた通りだ。一切手抜きしないんだもんなぁ……)

「さすが卯月さん……。参りました」

本当は最後の最後に、志信が何度かわざと少しだけタイミングをずらしてボタンを押した事は、薫には秘密だった。

「じゃあ……月曜の昼飯はオレのおごりで。社食でもいいかな?」
「なんでもいいよ」

志信は薫に気付かれないように背中を向けて、小さくガッツポーズをした。

(やったぁ!!月曜は一緒に昼飯食える!!)


ゲームセンターを出ると、志信が薫に尋ねる。

「遅くなったな……。家、この近く?」
「うん。歩いて15分くらいかな」
「けっこう歩くじゃん。送ってくよ、女の子の夜道の一人歩きは危険だから」
「女の子って歳でもないし、一人でも大丈夫だけど……」
「いえいえ、女の子ですよ。さ、行こう。どっち?」
「……ホントに大丈夫なのに……」

薫は女の子扱いされた事が妙に照れくさくて、少し赤くなった頬を隠すように、うつむき加減で歩き始めた。


マンションの前まで志信に送り届けられた薫は、シャワーを浴びながらぼんやりと今日の事を考えていた。

(最初はめんどくさいと思ってたけど、けっこう楽しかったかも……)

久しぶりに顔を合わせた同期の志信と、急激に親しくなった。
同期の中でも浮いた存在だった自分と仲良くしてくれる同期が出来た事は、素直に嬉しかった。

(まぁ……同期として仲良くするくらいは、いいかな)

いくら仲良くなったところで、社内恋愛など有り得ない。
昼間に浩樹に出会った事を思い出すと、薫は小さく唇を噛みしめた。
いつかは終わる恋愛に一喜一憂している自分なんて、今は考えられない。
終わってから、浮かれていた自分をバカみたいだと情けなく思うくらいなら、最初から恋なんてしない方がいい。
世の中の男性のすべてが浩樹のように裏切るとは思っていないけれど、次の恋に踏み出す事ができないまま歳を重ねてしまった。
もう若くはないのだから、もしも次に誰かと恋愛をするならば、将来の事も考えなくてはならない年頃だ。

(こんな女らしさの欠片もないような私を好きだなんて言ってくれる物好きな人、いるとは思えないもんな……)

ふと志信の顔が浮かんだが、薫はそれを振り切るように頭からシャワーを浴びた。

(ないない……絶対ない……。あんなの冗談に決まってるし、社内恋愛なんて二度としないんだから)

志信から突然目を見つめられ手を握られた時や、急に女の子扱いをされた事には、正直少し戸惑った。
だけどせっかく仲良くなれたのだから、志信とはこのままの関係でいたいと思う。

(きっと深い意味なんてない……。同期の仲間となら、恋愛みたいに終わる事はないもんね)

薫はもう何年も忘れていた、ほんの少し甘い心の疼きを気のせいにして、心の奥にしまい込んだ。



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