君に恋していいですか?

櫻井音衣

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同期の仲間としてなら

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少しふてくされたようにタバコに火をつける薫を見て、志信は嬉しそうに笑いながらインターホンでハイボールを注文した。

「笠松さん、卯月さんととっても仲良しなんですねぇ」

インターホンのすぐそばに座っていた梨花が、志信に笑いかけた。

「いやー、そうでもないからもっと仲良くなりたくて頑張ってんの。えーと、SS部の……」
「長野 梨花です。SS部で卯月さんの隣の席なんです」
「そうそう、長野さんだ。よく月初めに販売事業部にSS販売月報届けに来るよね」
「ハイ。ところで……笠松さんは卯月さん狙いなんですよね?落とせそうですか?」

柔らかな口調や可愛らしい見た目によらず、やけにハッキリと物を言う子だ。
志信は梨花のストレートな言葉に少し驚きながら、苦笑いを浮かべる。

「うーん……手強いよね。さっき、社内恋愛なんて有り得ないってハッキリ断られちゃったとこだから。とりあえずは同期の仲間として仲良くしようって言ったけど」
「えぇーっ、それはもったいない……。笠松さん、卯月さん攻略情報がありますけど……梨花、月曜の昼食は社食のBランチのコーヒー付きがいいなぁ」
「ちゃっかりしてるな……。まぁいいや。で?」

志信が買収に乗ると、梨花は小さく手招きをして志信の耳元に少し顔を近付けた。

「あのね……卯月さん、すごく優しいんです。ちょっとわがまま言っても、いつも笑って聞いてくれるんですよ。それに、約束は絶対守ってくれるの」

梨花のような可愛い後輩ならともかく、同期で三十路手前の男がわがままを言ったら、気味悪がられるだけじゃないだろうか。

「それは相手によるんじゃないかなぁ……」
「来週月曜の午前中、販促会議がありますよね」
「うん。オレもその会議に出るんだ」
「ですよね。午前中が販促会議、午後はSS部でカウンセラーミーティングがあって、珍しく卯月さんが本社に一日中いるんです。社食ランチにでも誘ったらどうですか?」

あれだけガードの固い薫が、そんなに簡単に誘いに応じてくれるとは到底思えない。
ランチの誘いを断られるだけでなく、避けられるような事にでもなりはしないかと思い、志信は自信なさげにため息をついた。

「断られるんじゃないかなぁ……」
「そんなことないですって。ちょっと強引なくらいがちょうどいいと思います。でもいきなり好きだとか、付き合おうなんて言っちゃダメですよ。卯月さん、恋愛には消極的みたいなんで」
「うん……そうみたいだね」

まさについ先ほど、そう言って失敗してしまったところだ。
それをもっと早く知っていれば、あんなヘマはしなかったのに。
つい調子に乗ってしまった自分が恨めしい。

「絶対に約束を守らなきゃいけない状況を作ったら、おそらくその約束は守ってくれると思います。例えば……卯月さんすごく負けず嫌いみたいだから、罰ゲームとか」
「なるほどね。それいい、やってみよ。ありがとね」


志信が席に戻ると、薫はタバコを吸いながらチラリと横目で志信を見た。

「長野さんと知り合い?」
「気になる?」
「別に。長々と話し込んでたから、仲いいのかなと思っただけ」

もしかしたら少しは気にしてくれたのかと淡い期待をしたものの、志信は相変わらず素っ気ない薫の言葉に、そんなわけないかと思いながら苦笑いした。

「仲良しと言うほどでもないけどね。月曜の会議の事でちょっと」
「あぁ……そうだった……。月曜は一日中本社で会議漬けだ……」

薫は一日中似合わない制服を着て本社に居なければならない事を思い出し、ゲンナリした顔をしている。

「卯月さんは本社に居るのが苦手なんだね」
「うん。あまり好きじゃないね」

志信は店員が運んできたハイボールを受け取ると、薫に手渡してニコリと笑った。

「姫、どうぞ」
「やめてよ……姫なんてガラじゃない」
「じゃあ……お嬢様?」
「それも違うし」

少しうつむいた薫の頬が、心なしか先ほどより赤い事に志信は気付いた。
薫はどうやら照れているようだ。
照れ隠しなのか、薫がハイボールをグイッと飲んで大きく息をつく。

「あっ、次、卯月さんの番だよ」

薫は志信からマイクを受け取ると、ALISONの歌を歌い始めた。
男性ロックバンドの歌を、事も無げに見事に歌い上げる薫の歌声に、志信だけでなく他の社員たちも惚れ惚れしている。

「さっすが卯月さん、カッコイイ……」

梨花がうっとりと呟く。

「カッコ良過ぎるでしょ……」

志信も小さく呟いた。



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