君に恋していいですか?

櫻井音衣

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同期の仲間としてなら

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薫がそんなことをぼんやり考えながらウイスキーの水割りを飲んでいると、空いていた目の前の席に男性社員が座った。
販売事業部に所属している笠松 志信カサマツ シノブだ。
同じ部署に所属した事はないが、同期という事もあり、社内行事やSSでのカウンセリングで何度も顔を合わせているので覚えている。

「卯月さん、久し振り」
「あ……笠松くん、久し振り」
「お酒、強いんだね」
「そう?普通だと思うんだけど……」

相変わらずニコリともせずにウイスキーの水割りを飲んでいる薫を見て、志信は笑った。

「いやー、やっぱ強いよ。卯月さん、この後はどうするの?二次会、行く?」
「誘われてはいるけどね。居心地悪いから、もう少ししたら帰ろうかなと……」
「なんで?一緒にカラオケ行こうよ。久し振りに卯月さんの歌、聞きたいな」
「そんないいもんじゃないでしょ……」

薫がタバコに火をつけると、志信はいっぱいになった灰皿を空いている灰皿と交換した。

「卯月さんは誰かと連絡先の交換とかしないの?」
「しないねぇ……。私の連絡先なんて、誰も知りたくないでしょう」
「オレは知りたいけど?」

宴の席の隅の方で、一人酒を煽っている姿は、そんなに寂しそうに見えたのだろうか?
それで構ってくれているのだとしたら、余計な気遣いだと薫は思う。

「またまた……気を遣ってくれてるの?」
「いや、そうじゃないよ。本気で知りたいんだけど」
「それは同期の仲間としてだよね?まさかないとは思うけど、私に妙な期待されても困るよ」
「困るのは彼氏がいるから?」
「いないけど……」
「だったら同期の仲間同士、一緒に飯食ったり酒飲んだりして、仕事の疲れを発散させるのもいいでしょ?」

そう言われてみれば、同期から距離を置かれている自分には、仕事の後で飲みに行こうと気軽に誘えるような相手がいない。
何かと面倒なので上司がいる飲み会は苦手だが、相手が同期なら、少しは気楽に楽しめるだろうか。
しかし同期とはいえお互いによく知りもしないのに、二人で飲んで本当に楽しいのかと薫は考える。

「先に断っとくけど、私と一緒にいても楽しい事なんて何もないと思うよ。無愛想だし」
「そんな事ないって。だってオレたち、今普通に会話出来てるじゃん。ハイ、スマホ出して。早速連絡先交換しよう」

笑顔でグイグイ迫って来る志信になんとなく逆らえず、薫は仕方なくスマホを出した。

「もっと若くて可愛い子と連絡先の交換すればいいのに……。あっちに行けば、可愛い子がたくさんいるよ?」
「何それ。オレあの子たちに興味ないもん」

志信はSS部の若い女の子と楽しげに連絡先の交換をしている同僚たちを横目でチラリと見た。

「なんで?」

薫は志信の言葉を不思議に思いながら、スマホの操作をしている。

「だってホラ、いい男捕まえようって、普段の自分を隠してるの見え見え。そんな子と付き合ったって、後でガッカリするだけ」
「……そうかな。女の子はかわいいに越した事ないよ。みんな少しでもかわいくなりたくて努力してる。女の子のそういうところも健気でかわいいって、男の人は思うんじゃないの?」
「どうかなぁ……。少なくともオレは、好きな子なら尚更、そのままでいいって思うよ」

二人で頭を寄せあって連絡先の交換をした。
薫はスマホの画面を確認しながら、小さなため息をつく。

(そのままでいいって言われたから、そのままの自分でいたけど……それでも捨てられたよ、私は。やっぱり私がかわいくなかったからかな……なんて、今更か……)

「ハイ、交換完了ーっ!」

志信がスマホの画面を見ながら嬉しそうにそう言うと、近くにいた同僚たちが驚いた顔をしてこちらを見ている事に薫は気付いた。

「笠松くん。物好きだって思われてる」
「え?!」

志信は上着のポケットからタバコを取り出しながら、同僚たちの方を見た。

「そうでなければ、怖いもの知らず……かな」
「えー?そんな事ないよ。みんな、羨ましがってるんじゃないの?」
「そういう風には見えないけど……」

薫が顔をしかめてそう言うと、志信は笑いながらタバコに火をつけた。

(あ…。これって……)

志信のタバコの香りが、記憶の中の浩樹の香りと重なる。
その香りが薫の鼻腔をくすぐり、体の奥が甘い疼きを求めた。

「ん?どうかした?」
「……なんでもない」

(同じタバコ吸ってる人くらい、いくらでもいるって……。ホント今日はどうかしてる……)

タバコに火をつけると、薫は胸につかえた苦い想いを吹き飛ばすように煙を吐き出した。

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