41 / 60
同窓会の夜に
4
しおりを挟む
家に着くと二人はしばらくリビングで抱きしめ合った。
ただ抱きしめ合っているだけで、お互いの体温や体に響いてくる鼓動に安心する。
紫恵は逸樹の胸に顔をうずめて『他に何もなくても、いっくんがいてくれるだけで幸せ』と涙を流した。
逸樹は紫恵の髪を優しく撫でながら『しーちゃんがいるから俺は生きていけるんだよ』と言った。
他の誰でもなく、逸樹は紫恵を、紫恵は逸樹を深く愛し、必要としている。
特別なことのない平穏な日常は、二人に幸せを与えてくれる。
これ以上の幸せがどこにあるだろう?
つらいことも悲しいことも一緒に乗り越えてきた温かい手を離したくないと、紫恵は改めて思った。
それから二人で入浴を済ませベッドに入った。
逸樹は紫恵を腕枕して、紫恵が気になっていたこれまでのことを順を追って話した。
残業が終わった後、会社帰りに相談に乗って欲しいと円に言われ仕方なくカフェに入ったことや、その相談の内容。
希望を公園へ連れていった時に偶然香織と出会い、一緒にりぃの散歩をしたことや、香織から聞いた遠距離恋愛中の彼氏の話。
そして大阪へ出張している時に、先輩たちにいかがわしい店に連れ込まれそうになったこと。
店先で客引きをしていた若い女性に、腕に抱きつかれたこと。
必死で断って一足先に宿泊先のホテルへ戻ったこと。
そんな先輩たちがいると話すと、この先また紫恵を不安にさせてしまうのではないかと思い言い出せなかったこと。
事の真相を知った紫恵は、少しばつの悪そうな顔をしていた。
「若くてかわいい女の子がすごいサービスしてくれるって……。いっくんはその店に入りたいとは思わなかったの?」
紫恵がためらいがちに尋ねると、逸樹は紫恵を抱きしめた。
「俺がそんなことしたいのはしーちゃんだけ。他の子には触れたくもないし触れられたくもない」
キッパリと言い切る逸樹に、紫恵は嬉しそうに笑ってキスをした。
「そういういっくんだから好き」
「俺もしーちゃんが好き」
逸樹は満足そうに笑って、紫恵を強く抱きしめた。
「しーちゃんは?さっきのあいつ、誰?」
逸樹に尋ねられ、紫恵は同窓会が終わる間際に起こった出来事を話した。
松山が結婚した理由、妻と子供への愛情が感じられない松山のひどい言葉、そして今でもナナより紫恵が好きだから付き合おうと言われたこと。
酔って思うように力が入らず、どこかへ連れて行かれそうになっても逃げ出せなかったこと。
紫恵の話を聞きながら、逸樹は顔をひきつらせている。
「お互いに結婚してるから割りきった関係で、だって。私が結婚生活に飽きて刺激を欲しがってる頃だなんて言うの。ひどいでしょ?」
「あいつは許せん……。俺の大事なしーちゃんに勝手に触りやがって……」
「抱きしめられてすごくイヤだった。お酒のせいとかじゃなくて、気持ち悪くて吐きそうだった」
紫恵がげんなりした顔でそう言うと、逸樹は勝ち誇った顔をした。
「当たり前だよ。しーちゃんに触っていいのは俺だけだもんな」
「うん、いっくんじゃなきゃイヤだよ」
「俺もしーちゃんじゃなきゃイヤだ」
手を握り見つめ合って優しいキスをした。
ほんの少し照れくさくて、二人して思わず笑ってしまった。
「私はいっくんが好きだから結婚したし、いっくんに触れられるのも幸せだけど……結婚してもそうでない人もいるんだね」
紫恵の意味深な言葉に、逸樹は首をかしげた。
「結婚してもそうでないって、どういうこと?」
「うん……。同窓会の前に、特に仲良しだった4人でランチに行ったんだけど、その時にね……」
ただ抱きしめ合っているだけで、お互いの体温や体に響いてくる鼓動に安心する。
紫恵は逸樹の胸に顔をうずめて『他に何もなくても、いっくんがいてくれるだけで幸せ』と涙を流した。
逸樹は紫恵の髪を優しく撫でながら『しーちゃんがいるから俺は生きていけるんだよ』と言った。
他の誰でもなく、逸樹は紫恵を、紫恵は逸樹を深く愛し、必要としている。
特別なことのない平穏な日常は、二人に幸せを与えてくれる。
これ以上の幸せがどこにあるだろう?
つらいことも悲しいことも一緒に乗り越えてきた温かい手を離したくないと、紫恵は改めて思った。
それから二人で入浴を済ませベッドに入った。
逸樹は紫恵を腕枕して、紫恵が気になっていたこれまでのことを順を追って話した。
残業が終わった後、会社帰りに相談に乗って欲しいと円に言われ仕方なくカフェに入ったことや、その相談の内容。
希望を公園へ連れていった時に偶然香織と出会い、一緒にりぃの散歩をしたことや、香織から聞いた遠距離恋愛中の彼氏の話。
そして大阪へ出張している時に、先輩たちにいかがわしい店に連れ込まれそうになったこと。
店先で客引きをしていた若い女性に、腕に抱きつかれたこと。
必死で断って一足先に宿泊先のホテルへ戻ったこと。
そんな先輩たちがいると話すと、この先また紫恵を不安にさせてしまうのではないかと思い言い出せなかったこと。
事の真相を知った紫恵は、少しばつの悪そうな顔をしていた。
「若くてかわいい女の子がすごいサービスしてくれるって……。いっくんはその店に入りたいとは思わなかったの?」
紫恵がためらいがちに尋ねると、逸樹は紫恵を抱きしめた。
「俺がそんなことしたいのはしーちゃんだけ。他の子には触れたくもないし触れられたくもない」
キッパリと言い切る逸樹に、紫恵は嬉しそうに笑ってキスをした。
「そういういっくんだから好き」
「俺もしーちゃんが好き」
逸樹は満足そうに笑って、紫恵を強く抱きしめた。
「しーちゃんは?さっきのあいつ、誰?」
逸樹に尋ねられ、紫恵は同窓会が終わる間際に起こった出来事を話した。
松山が結婚した理由、妻と子供への愛情が感じられない松山のひどい言葉、そして今でもナナより紫恵が好きだから付き合おうと言われたこと。
酔って思うように力が入らず、どこかへ連れて行かれそうになっても逃げ出せなかったこと。
紫恵の話を聞きながら、逸樹は顔をひきつらせている。
「お互いに結婚してるから割りきった関係で、だって。私が結婚生活に飽きて刺激を欲しがってる頃だなんて言うの。ひどいでしょ?」
「あいつは許せん……。俺の大事なしーちゃんに勝手に触りやがって……」
「抱きしめられてすごくイヤだった。お酒のせいとかじゃなくて、気持ち悪くて吐きそうだった」
紫恵がげんなりした顔でそう言うと、逸樹は勝ち誇った顔をした。
「当たり前だよ。しーちゃんに触っていいのは俺だけだもんな」
「うん、いっくんじゃなきゃイヤだよ」
「俺もしーちゃんじゃなきゃイヤだ」
手を握り見つめ合って優しいキスをした。
ほんの少し照れくさくて、二人して思わず笑ってしまった。
「私はいっくんが好きだから結婚したし、いっくんに触れられるのも幸せだけど……結婚してもそうでない人もいるんだね」
紫恵の意味深な言葉に、逸樹は首をかしげた。
「結婚してもそうでないって、どういうこと?」
「うん……。同窓会の前に、特に仲良しだった4人でランチに行ったんだけど、その時にね……」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる