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もしも夫が浮気をしたら
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逸樹が仕事に出掛けたあと、紫恵は朝食の後片付けや洗濯、部屋の掃除を済ませて、手芸教室に行くために家を出た。
その途中で、逸樹からクリーニングに出すよう頼まれたスーツを持って出るのを忘れてしまったことを思い出した。
家までスーツを取りに戻っていては手芸教室の始まる時間に間に合わなくなる。
あとで希望を迎えに行くついでにクリーニングに出そうと思いながら、紫恵はそのまま手芸教室に向かった。
「やっぱり浮気だったわ」
生徒の真理子さんが赤いバラを刺繍しながら呟いた。
他の生徒たちは刺繍する手を一瞬止めて、驚いた顔をしている。
「こそこそメールしてるのもそうだけど……帰りはいつも遅いし、やたら休日出勤とか出張が増えて怪しいと思ってはいたけどね」
「何か証拠つかんだの?」
「スーツのポケットから、見たこともないラブホテルの会員カードが出てきた。あと、出張で金沢に行ってたはずの日に、家から車で30分の場所で二人で食事したレシートが2枚」
「出張に行くふりして女の所に泊まってたってこと?」
「でしょうね。仕事が押して新幹線の時間ギリギリになったから、お土産買う時間がなかったんだーなんて言ってさ、実際は行ってないんだから買えるわけないっての」
真理子さんは呆れたようにそう言った。
ずいぶん生々しい話だ。
夫が別の女性とラブホテルに行ったり、出張だと嘘をついてその相手と一緒にいたなんて、妻としてはとても許せることじゃない。
「それで、どうするの?離婚?」
「離婚なんてしたってね……。うち、来年は次男が高校受験で、再来年は長男が大学受験なの。次男はサッカーの強い私学の高校に行きたいんだって」
「経済的にそれは大変ねぇ」
「でしょ?働くって言ったって私ももういい歳だから、そう簡単に仕事見つからないだろうし……離婚しても苦しくなるだけで、なんの得にもならないし。親のせいで子供に負担はかけたくないからね」
「じゃあ夫の浮気は見て見ぬふり?」
「腹は立つけど、素直に謝って相手と別れるなら今回だけは許してやろうかと思ってる」
紫恵は真理子さんたちの話を聞きながら、もし逸樹が浮気したら自分はどうするだろうと考える。
自分たちの間には子供はいない。
結婚生活を続けるにしても『子供のために』という選択肢は最初からない。
一度でも他の誰かを好きになって体の関係を持った人を、それまでと変わらず夫として愛せるだろうか?
また浮気されるんじゃないかと不安になったり夫の行動をいちいち疑ったりしてしまうのではないか?
もし浮気じゃなくて本気だったら、その相手と結婚して子供が欲しいから別れてくれと言われるかも知れない。
逸樹が浮気をしているわけでもないのに、そんな不安がふと頭をよぎる。
「この歳になってさ……若い子と恋したいって気持ちはわからなくもないわよ。でもそれじゃアンタの子を産んで育てて一緒に歳を重ねてきた私はなんなの?って話よね」
真理子さんは少し寂しそうにそう言った。
「とりあえず……ただの遊びにしたって、子供たちのためにもこれ以上は見過ごせないわ。ちゃんと話してみる」
『子供たちのためにも』と真理子さんは言ったけれど、もし真理子さんに子供がいなければ、どんな選択をするのだろうと紫恵は思った。
その途中で、逸樹からクリーニングに出すよう頼まれたスーツを持って出るのを忘れてしまったことを思い出した。
家までスーツを取りに戻っていては手芸教室の始まる時間に間に合わなくなる。
あとで希望を迎えに行くついでにクリーニングに出そうと思いながら、紫恵はそのまま手芸教室に向かった。
「やっぱり浮気だったわ」
生徒の真理子さんが赤いバラを刺繍しながら呟いた。
他の生徒たちは刺繍する手を一瞬止めて、驚いた顔をしている。
「こそこそメールしてるのもそうだけど……帰りはいつも遅いし、やたら休日出勤とか出張が増えて怪しいと思ってはいたけどね」
「何か証拠つかんだの?」
「スーツのポケットから、見たこともないラブホテルの会員カードが出てきた。あと、出張で金沢に行ってたはずの日に、家から車で30分の場所で二人で食事したレシートが2枚」
「出張に行くふりして女の所に泊まってたってこと?」
「でしょうね。仕事が押して新幹線の時間ギリギリになったから、お土産買う時間がなかったんだーなんて言ってさ、実際は行ってないんだから買えるわけないっての」
真理子さんは呆れたようにそう言った。
ずいぶん生々しい話だ。
夫が別の女性とラブホテルに行ったり、出張だと嘘をついてその相手と一緒にいたなんて、妻としてはとても許せることじゃない。
「それで、どうするの?離婚?」
「離婚なんてしたってね……。うち、来年は次男が高校受験で、再来年は長男が大学受験なの。次男はサッカーの強い私学の高校に行きたいんだって」
「経済的にそれは大変ねぇ」
「でしょ?働くって言ったって私ももういい歳だから、そう簡単に仕事見つからないだろうし……離婚しても苦しくなるだけで、なんの得にもならないし。親のせいで子供に負担はかけたくないからね」
「じゃあ夫の浮気は見て見ぬふり?」
「腹は立つけど、素直に謝って相手と別れるなら今回だけは許してやろうかと思ってる」
紫恵は真理子さんたちの話を聞きながら、もし逸樹が浮気したら自分はどうするだろうと考える。
自分たちの間には子供はいない。
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一度でも他の誰かを好きになって体の関係を持った人を、それまでと変わらず夫として愛せるだろうか?
また浮気されるんじゃないかと不安になったり夫の行動をいちいち疑ったりしてしまうのではないか?
もし浮気じゃなくて本気だったら、その相手と結婚して子供が欲しいから別れてくれと言われるかも知れない。
逸樹が浮気をしているわけでもないのに、そんな不安がふと頭をよぎる。
「この歳になってさ……若い子と恋したいって気持ちはわからなくもないわよ。でもそれじゃアンタの子を産んで育てて一緒に歳を重ねてきた私はなんなの?って話よね」
真理子さんは少し寂しそうにそう言った。
「とりあえず……ただの遊びにしたって、子供たちのためにもこれ以上は見過ごせないわ。ちゃんと話してみる」
『子供たちのためにも』と真理子さんは言ったけれど、もし真理子さんに子供がいなければ、どんな選択をするのだろうと紫恵は思った。
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