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どんな男もおとす自信のある女
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何やら妙なことに巻き込まれてしまった。
最近、自分が帰る頃になると決まって円も同じタイミングで退社していたのは、そういう理由があったからなのかと納得はした。
けれど、何度駅まで一緒に歩いても、逸樹はやはり円が苦手だ。
円は自分の魅力をじゅうぶんにわかっていて、男を勘違いさせるようなことをわざと言っているのだろう。
ストーカーまがいの男がいても心当たりがまったくないなんて、これまでにかなりの人数の男を泣かせてきたに違いない。
背が高くて頼り甲斐がありそうだと言われた時には、まさか家まで送って行けと言われるのではとヒヤッとした。
方向も全然違うのに、家まで送って行くなんて冗談じゃない。
そんなに不安なら、タクシーでも使えばいいだけのことだ。
それにきっと円なら、毎日駅まで迎えに行ってやると言う男くらいいくらでもいるだろう。
自分が心配するほどのことでもなさそうだ。
それより早く家に帰って、愛する紫恵の顔がみたい。
愛する紫恵と、かわいい希望と一緒に過ごす時間は、逸樹にとって一日の疲れを癒やしてくれる至福の時。
今日は遅くなったから、夕飯は一人で済ませることになるかも知れないと思うと残念だ。
家に帰ると、逸樹は飛び付いてきた希望を抱き上げ頭を撫でた。
「おかえりなさい。しばらくは待ってたんだけど、先に食べちゃった。ごめんね」
「いや、それは仕方ないよ。ごめんな、連絡できなくて」
思っていた通り夕飯は済んだ後だった。
逸樹はがっかりしながらテーブルの前に座る。
テーブルには逸樹の分の夕飯のおかずがラップを掛けられ並んでいた。
「今日はハンバーグかぁ。うまそうだ」
「いっくん、ののもお手伝いしたよ」
「何したの?」
「お麩ちっちゃくして入れたの」
「へぇ、すごいな」
紫恵はハンバーグのつなぎにパン粉は使わず、麩を小さく砕いて入れる。
母親の心咲がなかなか教えてやれないことを、紫恵が希望に教えている。
希望が大きくなって料理をするような年頃になったら、きっと食べ慣れた紫恵の料理の味によく似た料理を作るのだろう。
そう思うと、希望の手料理を食べさせてもらえる日が来るのが楽しみだと逸樹は思う。
紫恵が御飯と味噌汁を運んで来た時、部屋にチャイムの音が鳴り響いた。
「あっ、ママだ!」
希望は嬉しそうに玄関へと駆けていく。
その後ろ姿を見ると、逸樹はなんとなく寂しい気がした。
いつも仕事で忙しくてあまり一緒にいられなくても、幼い希望にとっては母親の心咲が一番なのは当たり前なのかも知れない。
いつか希望が逸樹と紫恵の手を必要としなくなった時、きっと心に穴が空いたような気持ちになるのだろう。
日に日にしっかりしていく希望を見ていると、もう少しゆっくり大きくなってくれたらいいのにと思ってしまう。
本当の意味で紫恵と夫婦二人きりになるのは、まだまだ先のことであって欲しいと逸樹は思った。
翌日の朝、逸樹はスーツの袖口に小さなシミがついていることに気付いた。
昼食を食べた時に、ソースか何かがついてしまったのかも知れない。
「しーちゃん、このスーツ、クリーニングに出しといてくれる?袖口汚しちゃったみたいなんだ」
「うん、そこに置いといて」
逸樹はクローゼットから別のスーツを取り出して、出勤のために身支度を整える。
逸樹が玄関で靴を履くと、紫恵が鞄を差し出した。
「今日はお姉ちゃん早く帰れそうだって。いっくんが帰ってくる頃には、ののちゃんもういないかも」
「そうか……。じゃあしーちゃんが寂しくないように、できるだけ早く帰ってくるよ。二人でのんびりしよ」
「うん、待ってる」
逸樹と紫恵はいつものように、行ってきますと行ってらっしゃいのキスをした。
今日は定時で帰れるといいなと思いながら、逸樹は駅までの道のりを歩いた。
最近、自分が帰る頃になると決まって円も同じタイミングで退社していたのは、そういう理由があったからなのかと納得はした。
けれど、何度駅まで一緒に歩いても、逸樹はやはり円が苦手だ。
円は自分の魅力をじゅうぶんにわかっていて、男を勘違いさせるようなことをわざと言っているのだろう。
ストーカーまがいの男がいても心当たりがまったくないなんて、これまでにかなりの人数の男を泣かせてきたに違いない。
背が高くて頼り甲斐がありそうだと言われた時には、まさか家まで送って行けと言われるのではとヒヤッとした。
方向も全然違うのに、家まで送って行くなんて冗談じゃない。
そんなに不安なら、タクシーでも使えばいいだけのことだ。
それにきっと円なら、毎日駅まで迎えに行ってやると言う男くらいいくらでもいるだろう。
自分が心配するほどのことでもなさそうだ。
それより早く家に帰って、愛する紫恵の顔がみたい。
愛する紫恵と、かわいい希望と一緒に過ごす時間は、逸樹にとって一日の疲れを癒やしてくれる至福の時。
今日は遅くなったから、夕飯は一人で済ませることになるかも知れないと思うと残念だ。
家に帰ると、逸樹は飛び付いてきた希望を抱き上げ頭を撫でた。
「おかえりなさい。しばらくは待ってたんだけど、先に食べちゃった。ごめんね」
「いや、それは仕方ないよ。ごめんな、連絡できなくて」
思っていた通り夕飯は済んだ後だった。
逸樹はがっかりしながらテーブルの前に座る。
テーブルには逸樹の分の夕飯のおかずがラップを掛けられ並んでいた。
「今日はハンバーグかぁ。うまそうだ」
「いっくん、ののもお手伝いしたよ」
「何したの?」
「お麩ちっちゃくして入れたの」
「へぇ、すごいな」
紫恵はハンバーグのつなぎにパン粉は使わず、麩を小さく砕いて入れる。
母親の心咲がなかなか教えてやれないことを、紫恵が希望に教えている。
希望が大きくなって料理をするような年頃になったら、きっと食べ慣れた紫恵の料理の味によく似た料理を作るのだろう。
そう思うと、希望の手料理を食べさせてもらえる日が来るのが楽しみだと逸樹は思う。
紫恵が御飯と味噌汁を運んで来た時、部屋にチャイムの音が鳴り響いた。
「あっ、ママだ!」
希望は嬉しそうに玄関へと駆けていく。
その後ろ姿を見ると、逸樹はなんとなく寂しい気がした。
いつも仕事で忙しくてあまり一緒にいられなくても、幼い希望にとっては母親の心咲が一番なのは当たり前なのかも知れない。
いつか希望が逸樹と紫恵の手を必要としなくなった時、きっと心に穴が空いたような気持ちになるのだろう。
日に日にしっかりしていく希望を見ていると、もう少しゆっくり大きくなってくれたらいいのにと思ってしまう。
本当の意味で紫恵と夫婦二人きりになるのは、まだまだ先のことであって欲しいと逸樹は思った。
翌日の朝、逸樹はスーツの袖口に小さなシミがついていることに気付いた。
昼食を食べた時に、ソースか何かがついてしまったのかも知れない。
「しーちゃん、このスーツ、クリーニングに出しといてくれる?袖口汚しちゃったみたいなんだ」
「うん、そこに置いといて」
逸樹はクローゼットから別のスーツを取り出して、出勤のために身支度を整える。
逸樹が玄関で靴を履くと、紫恵が鞄を差し出した。
「今日はお姉ちゃん早く帰れそうだって。いっくんが帰ってくる頃には、ののちゃんもういないかも」
「そうか……。じゃあしーちゃんが寂しくないように、できるだけ早く帰ってくるよ。二人でのんびりしよ」
「うん、待ってる」
逸樹と紫恵はいつものように、行ってきますと行ってらっしゃいのキスをした。
今日は定時で帰れるといいなと思いながら、逸樹は駅までの道のりを歩いた。
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