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夫婦二人きり
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翌日の夜、逸樹が帰宅すると、珍しく希望の姿はなかった。
「今日はののちゃんいないの?」
「うん、今日はお姉ちゃんが珍しく早く仕事終われたから。7時前に迎えに来たよ」
「そうなんだ」
ネクタイをゆるめながらダイニングを横切ろうとすると、テーブルの上に一枚のハガキが置かれていることに逸樹は気付いた。
「ん?何これ?」
逸樹がハガキを手に取り眺めていると、キッチンでスープを温めながら紫恵が振り返る。
「高校2年の時の同窓会があるんだって」
「へーぇ……同窓会かぁ……」
逸樹は高校時代の紫恵を知らない。
逸樹が社会人になって2年が過ぎた頃、近所のコンビニでアルバイトをしていた紫恵と出会った。
紫恵は短大を出た後に勤めていた会社が突然倒産して、なかなか再就職先が見つからず、フリーター生活を余儀なくされた。
紫恵に一目惚れした逸樹が会社帰りに毎日そのコンビニに通い、何度も顔を合わせているうちに世間話くらいはできるようになった。
そうなるともっと相手のことを知りたいとか、コンビニ以外の場所でも会いたい、付き合いたいと思うようになり、半年後に思いきって告白したのは逸樹の方だったけれど、お互いに一目惚れだったということは、付き合ってしばらく経った頃に知った。
それから半年後に逸樹が紫恵にプロポーズして、付き合って1年ちょっとで二人は結婚した。
逸樹が26歳、紫恵が23歳の時だった。
若くして結婚を決めたのは、お互いに少しでも長くそばにいたいと思ったから。
それは嘘ではないけれど実際は建前みたいなものだ。
紫恵本人には自覚はないようだが、癒し系で小動物のように愛らしくて、気付かないうちに男を勘違いさせてしまう紫恵を、逸樹は他の誰にも渡したくなかった。
紫恵もまた、背が高くてカッコ良くて優しい逸樹が女の子にモテることを知っていたから、逸樹にプロポーズされた時には、これでやっと安心できると思い、まったく迷わなかった。
自分の知らない高校時代の紫恵を好きだった男や、付き合っていた元カレがいてもおかしくないと逸樹は思う。
そんな場所に紫恵を一人で送り出すのは、逸樹にとって穏やかではない。
「もしかしたらそのクラスに元カレなんかがいたりして……」
「ん?ああ……うん、いるねぇ」
紫恵を信じていないわけではないが、懐かしさで勘違いなどしないかと逸樹は不安になる。
「いるんだ……」
「うん……。あ、でもその人、早くに結婚して子どもが3人もいるんだって。いいパパらしいよ」
「ふーん……。いいパパねぇ……」
いいパパをしている男だって、妻以外の女に惚れないとは言い切れない。
ましてや若かりし頃に青春時代を共にした元カノだったら尚更だ。
逸樹はキッチンに立つ紫恵を後ろから抱きしめて、その髪に頬をすり寄せた。
「なんかものすごく心配になってきた……」
「大丈夫だよ。その人の奥さんも同じクラスだったから。高校出て同じ大学に通ってる時に付き合いだして、すぐに子どもができて結婚したんだって」
今時できちゃった婚なんて珍しくもないが、そんな若い時に責任を取るような形で結婚した男に限って、同窓会なんかで元カノに会ったりすると羽目を外しやすいように逸樹は思う。
「余計に心配だ……」
逸樹は更に強く紫恵を抱きしめた。
「大丈夫、昨日も言ったでしょ?私はいっくんしか考えられないって」
「ホントに?」
「ホント。いっくんよりカッコいい人なんて、私にはいないよ?」
「じゃあ……俺を安心させてよ」
いつになく甘えた様子の逸樹に、紫恵は笑ってキスをした。
「わかった、でも御飯が先ね」
夕飯は昨日のカレーを使ったドリアと、冷蔵庫にあった野菜で作ったスープ。
なんてことのない気取らない日常が、二人には心地よい。
今更背伸びをして大人ぶる必要もなければ、無理をしてうわべを飾ることもない。
ありのままの自分でいいのだ。
夕飯を終える頃、逸樹が言った。
「しーちゃん、御飯が済んだら、久しぶりに一緒にお風呂入ろ」
「いいけど……。今日のいっくんは甘えたさんだね」
「いいの、しーちゃんは俺だけのしーちゃんだから」
紫恵は嬉しそうに笑ってうなずいた。
逸樹がどんなに甘えても、紫恵はイヤな顔ひとつせず、穏やかに笑ってそれを受け止めてくれる。
外では見せない素顔をさらけ出せる相手がいることは幸せだと逸樹は思った。
「今日はののちゃんいないの?」
「うん、今日はお姉ちゃんが珍しく早く仕事終われたから。7時前に迎えに来たよ」
「そうなんだ」
ネクタイをゆるめながらダイニングを横切ろうとすると、テーブルの上に一枚のハガキが置かれていることに逸樹は気付いた。
「ん?何これ?」
逸樹がハガキを手に取り眺めていると、キッチンでスープを温めながら紫恵が振り返る。
「高校2年の時の同窓会があるんだって」
「へーぇ……同窓会かぁ……」
逸樹は高校時代の紫恵を知らない。
逸樹が社会人になって2年が過ぎた頃、近所のコンビニでアルバイトをしていた紫恵と出会った。
紫恵は短大を出た後に勤めていた会社が突然倒産して、なかなか再就職先が見つからず、フリーター生活を余儀なくされた。
紫恵に一目惚れした逸樹が会社帰りに毎日そのコンビニに通い、何度も顔を合わせているうちに世間話くらいはできるようになった。
そうなるともっと相手のことを知りたいとか、コンビニ以外の場所でも会いたい、付き合いたいと思うようになり、半年後に思いきって告白したのは逸樹の方だったけれど、お互いに一目惚れだったということは、付き合ってしばらく経った頃に知った。
それから半年後に逸樹が紫恵にプロポーズして、付き合って1年ちょっとで二人は結婚した。
逸樹が26歳、紫恵が23歳の時だった。
若くして結婚を決めたのは、お互いに少しでも長くそばにいたいと思ったから。
それは嘘ではないけれど実際は建前みたいなものだ。
紫恵本人には自覚はないようだが、癒し系で小動物のように愛らしくて、気付かないうちに男を勘違いさせてしまう紫恵を、逸樹は他の誰にも渡したくなかった。
紫恵もまた、背が高くてカッコ良くて優しい逸樹が女の子にモテることを知っていたから、逸樹にプロポーズされた時には、これでやっと安心できると思い、まったく迷わなかった。
自分の知らない高校時代の紫恵を好きだった男や、付き合っていた元カレがいてもおかしくないと逸樹は思う。
そんな場所に紫恵を一人で送り出すのは、逸樹にとって穏やかではない。
「もしかしたらそのクラスに元カレなんかがいたりして……」
「ん?ああ……うん、いるねぇ」
紫恵を信じていないわけではないが、懐かしさで勘違いなどしないかと逸樹は不安になる。
「いるんだ……」
「うん……。あ、でもその人、早くに結婚して子どもが3人もいるんだって。いいパパらしいよ」
「ふーん……。いいパパねぇ……」
いいパパをしている男だって、妻以外の女に惚れないとは言い切れない。
ましてや若かりし頃に青春時代を共にした元カノだったら尚更だ。
逸樹はキッチンに立つ紫恵を後ろから抱きしめて、その髪に頬をすり寄せた。
「なんかものすごく心配になってきた……」
「大丈夫だよ。その人の奥さんも同じクラスだったから。高校出て同じ大学に通ってる時に付き合いだして、すぐに子どもができて結婚したんだって」
今時できちゃった婚なんて珍しくもないが、そんな若い時に責任を取るような形で結婚した男に限って、同窓会なんかで元カノに会ったりすると羽目を外しやすいように逸樹は思う。
「余計に心配だ……」
逸樹は更に強く紫恵を抱きしめた。
「大丈夫、昨日も言ったでしょ?私はいっくんしか考えられないって」
「ホントに?」
「ホント。いっくんよりカッコいい人なんて、私にはいないよ?」
「じゃあ……俺を安心させてよ」
いつになく甘えた様子の逸樹に、紫恵は笑ってキスをした。
「わかった、でも御飯が先ね」
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今更背伸びをして大人ぶる必要もなければ、無理をしてうわべを飾ることもない。
ありのままの自分でいいのだ。
夕飯を終える頃、逸樹が言った。
「しーちゃん、御飯が済んだら、久しぶりに一緒にお風呂入ろ」
「いいけど……。今日のいっくんは甘えたさんだね」
「いいの、しーちゃんは俺だけのしーちゃんだから」
紫恵は嬉しそうに笑ってうなずいた。
逸樹がどんなに甘えても、紫恵はイヤな顔ひとつせず、穏やかに笑ってそれを受け止めてくれる。
外では見せない素顔をさらけ出せる相手がいることは幸せだと逸樹は思った。
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