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オムライス 1
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いつしか季節は冬になり、また一年を終えようとしていた。
冬休みに入ると、いつものようにいとこの志岐と玲司が遊びに来た。
父は大晦日まで仕事が詰まって帰りが遅くなる予定で、正月も二日ほどしか休めないそうだ。
家政婦も年末年始は主婦業が忙しいらしく、うちの大掃除をきっちり済ませた土田さんも休暇を取っている。
代理の家政婦を頼まなかったので、洗濯は新しく買い替えたばかりの洗濯乾燥機に頼り、食事は外食やデリバリーばかりになる。
その日の夜もピザか寿司か散々悩んだ末に、ピザのデリバリーを頼んだ。
「美味しいけど……もうデリバリーのピザも飽きたね」
6つ歳下で当時小6の玲司が冷めたピザを皿の上に投げ出して呟いた。
「確かにな。弁当でも買いに行く?」
3つ歳下で当時中3の志岐は成長期だからかかなりの大食いで、ピザでは到底物足りないらしい。
「わがまま言うなよ。だったら何食えば満足するんだ」
「僕、オムライス食べたい」
玲司がすがるような目をして俺を見る。
俺はどうも玲司のこの目に弱い。
「じゃあファミレスでも行くか?」
「でももうこんな時間だよ」
時計を見ると、時刻はすでに9時を過ぎている。
二人に付き合ってゲームに夢中になっていたせいで、夕食の時間がすっかり遅くなってしまったのだ。
「そうだなぁ……。玲司、今日はピザで我慢しろ。オムライスはまた明日な」
「……うん」
玲司がしょんぼりしてうなずくと、リモコンでテレビのチャンネルを変えていた志岐が俺の肩を叩いた。
「ほら見て潤くん、ちょうどこれからオムライス作るって」
テレビでは超初心者向けの料理番組が流れていて、若い女性タレントがベテラン女優に教わりながら、四苦八苦してオムライスを作っていた。
その若い女性タレントの髪型や背格好がなんとなく英梨さんと似ていて、そういえば英梨さんが初めて俺に作ってくれた料理はオムライスだったことを思い出した。
英梨さんは今、どこでどうしているんだろう。
結婚して初めての大晦日は年越しそばなんか作って、結婚相手と二人で過ごすんだろうか。
きっともう俺のことなんか忘れて、幸せに暮らしているんだろうな。
英梨さんとはもう二度とお互いの名前を呼んで抱きしめ合うことも、好きだと言ってキスをすることも、会って言葉を交わすことすらもない。
終わってしまえば、幻のようなひと夏の恋だった。
正確には恋と呼べるかどうかもわからない、青くて苦い経験だ。
いつかこの記憶が薄れて胸の痛みが消えるまでは、俺が本気で人を好きになることなんてないだろうし、相手からの好意も素直に信じることはできないだろうと思った。
冬休みに入ると、いつものようにいとこの志岐と玲司が遊びに来た。
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その日の夜もピザか寿司か散々悩んだ末に、ピザのデリバリーを頼んだ。
「美味しいけど……もうデリバリーのピザも飽きたね」
6つ歳下で当時小6の玲司が冷めたピザを皿の上に投げ出して呟いた。
「確かにな。弁当でも買いに行く?」
3つ歳下で当時中3の志岐は成長期だからかかなりの大食いで、ピザでは到底物足りないらしい。
「わがまま言うなよ。だったら何食えば満足するんだ」
「僕、オムライス食べたい」
玲司がすがるような目をして俺を見る。
俺はどうも玲司のこの目に弱い。
「じゃあファミレスでも行くか?」
「でももうこんな時間だよ」
時計を見ると、時刻はすでに9時を過ぎている。
二人に付き合ってゲームに夢中になっていたせいで、夕食の時間がすっかり遅くなってしまったのだ。
「そうだなぁ……。玲司、今日はピザで我慢しろ。オムライスはまた明日な」
「……うん」
玲司がしょんぼりしてうなずくと、リモコンでテレビのチャンネルを変えていた志岐が俺の肩を叩いた。
「ほら見て潤くん、ちょうどこれからオムライス作るって」
テレビでは超初心者向けの料理番組が流れていて、若い女性タレントがベテラン女優に教わりながら、四苦八苦してオムライスを作っていた。
その若い女性タレントの髪型や背格好がなんとなく英梨さんと似ていて、そういえば英梨さんが初めて俺に作ってくれた料理はオムライスだったことを思い出した。
英梨さんは今、どこでどうしているんだろう。
結婚して初めての大晦日は年越しそばなんか作って、結婚相手と二人で過ごすんだろうか。
きっともう俺のことなんか忘れて、幸せに暮らしているんだろうな。
英梨さんとはもう二度とお互いの名前を呼んで抱きしめ合うことも、好きだと言ってキスをすることも、会って言葉を交わすことすらもない。
終わってしまえば、幻のようなひと夏の恋だった。
正確には恋と呼べるかどうかもわからない、青くて苦い経験だ。
いつかこの記憶が薄れて胸の痛みが消えるまでは、俺が本気で人を好きになることなんてないだろうし、相手からの好意も素直に信じることはできないだろうと思った。
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