愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
16 / 25

愛して欲しい 1

しおりを挟む
ぼんやりベッドに横たわっていると、ドアをノックする音がした。
寝ているふりをしようかとも思ったけど、それこそ子どもっぽいと思うし、英梨さんにあまり心配はかけたくない。
俺が返事をすると英梨さんはそっとドアを開けた。

「潤くん、お昼まだでしょ?食事の用意できてるから下りて来られる?」
「うん……そっか、そういえば昼飯もまだだったな……」

起き上がってもなかなか動く気にはなれず、ベッドに座ったままでため息をついた。

「……大丈夫?」

英梨さんはそばに来て心配そうに俺の顔を見つめる。

「さっきは見苦しいところ見せちゃってごめん。確かに腹は立ったけど、別にそれで落ち込んでるわけじゃないから大丈夫だよ。それより今日の模試は思ってたより難しかったから、ちょっと疲れたかな」

俺はまた作り笑いを浮かべて、わざとらしく伸びをした。
英梨さんはまるで自分のことのように、ひどく悲しそうな顔をしている。

「無理しなくていいの。誰だってあんなこと言われたらショック受けるよ」
「俺、誰と付き合っても続かないんだ。相手から好きだって言われて付き合ってもすぐにフラれる。吉野の言う通り、ホントつまんない男だから」

俺が笑いながらそう言うと、英梨さんは華奢な腕を俺の背中に回して俺を抱きしめ、その胸に俺の顔を埋めさせた。
予想外の英梨さんの行動に驚きはしたものの、今まで経験したことのない人肌のぬくもりとか、女性の胸の柔らかさとか、ほのかな柑橘系の香りと微かに英梨さんの汗の入り交じった匂いがあまりにも心地よくて、俺はこのままずっとこうしていたいと思ってしまう。

「そんなことないよ、潤くんはすごく優しいし真面目だし、全然つまらなくなんかない。私はそのままの潤くんが好きだよ」

英梨さんはきっと情けない俺を精一杯慰めてくれているんだろう。
そんなことはわかっているのに、英梨さんがそのままの俺を好きだと言ってくれたことが嬉しかった。

「ありがとう。嘘でも同情でも嬉しいよ」

俺がそう言うと英梨さんは首を大きく横に振って、俺を抱きしめる腕に力を込めた。

「……嘘でも同情でもないよ。私は本当に潤くんが好きなの……」

俺のことなんか子ども扱いしているんだろうなと思っていたから、俺はその言葉に耳を疑い、顔を上げて英梨さんの目をじっと見つめた。

「俺のことが好き……?ホントに……?」
「うん……好きだよ」

英梨さんが少し恥ずかしそうにそう言って、俺の目を見つめ返した。
俺たちはどちらからともなく引き寄せられるように唇を重ね、抱きしめ合って何度もキスをした。
キスなんて初めてだったけど、誰に教えられたわけでもないのに、英梨さんの唇を舌でこじ開けあたたかく湿った舌を絡めとる。
英梨さんの唇や舌の柔らかさ、抱きしめた体のあたたかさを感じるごとに、それだけでは足りないような、もっと深く繋がりたいようなもどかしい気持ちになった。 
そしていつの間にか俺は英梨さんをベッドの上に押し倒し、英梨さんの着ていたTシャツをたくし上げて素肌に触れていた。
これまでは好きでもない相手に手を出すなんてあり得ないと頑なに思っていたはずなのに、そのときの俺は不思議なことに、英梨さんの気持ちだけでなく体も繋ぎ止めたいと思っていた。
俺の手や唇が柔らかい場所に触れると、英梨さんは切なそうに甘い声をあげる。
そして俺の名前を呼んで、何度も好きだと言ってくれた。
もっともっと好きだと言って俺を求めて欲しくて、俺は無我夢中で英梨さんの肌に舌を這わせ、体の奥の柔らかいところを指でさぐる。
そして俺は鞄の中から取り出した太一の置き土産を使って、英梨さんと体を繋げた。
初めてのセックスが気持ち良かったかどうかなんて覚えていない。
英梨さんが俺のすべてを求め、受け入れてくれたことが、ただひたすら嬉しかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以
恋愛
 美空《みそら》は親友の奈都《なつ》に頼み込まれて渋々参加した合コンで、恋人の慶太朗《けいたろう》が若い女の子たちと合コンしている場に出くわす。 「結婚願望ある子もない子も、まずはお付き合いからお願いしまっす!」  ハイテンションで『若くて可愛いお嫁さんが欲しい』と息巻く慶太朗。  美空はハイスペックな合コン相手に微笑む。 「結婚願望はありませんが、恋人にするなら女を若さや可愛らしさで測るような度量の小さくない男がいいです」  別れたくないと言う慶太朗。  愛想が尽きたと言う美空。  愛されて、望まれて始まった関係だったのに――。  裏切りの夜に出会った成悟は、慶太朗とはまるで違う穏やかな好意で包んでくれる。  でも、胸が苦しくなるほどの熱はない。 「お前、本気で男を愛したこと、あるか?」  かつて心を許した上司・壱榴《いちる》の言葉に気持ちが揺らぐ。  あなたがそれを言うのーー!?

貴方と2度目の結婚

鳴宮鶉子
恋愛
貴方と2度目の結婚

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

-桜蝶の総長様-

かしあ
恋愛
桜蝶-オウチョウ- 総長 早乙女 乃愛(さおとめのあ) × 鬼龍-キリュウ- 総長 洲崎 律斗(すざきりつと) ある日の出来事から光を嫌いになった乃愛。 そんな乃愛と出会ったのは全国No.2の暴走族、鬼龍だった………。 彼等は乃愛を闇から救い出せるのか?

秘密の二足の草鞋

鳴宮鶉子
恋愛
秘密の二足の草鞋

処理中です...