オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
51 / 57
ちょうどいい距離感

しおりを挟む
二人っきりで甘い週末を過ごした翌日、いつも通りの月曜の朝。
朝礼を終えて少し経った頃、支部に健太郎がやって来た。
健太郎はいつものように愛美にお弁当を渡しながら「ものは相談なんだけど」と言って、愛美の隣にしゃがみこんだ。

「ここの支部限定で、弁当の配達始めようかと思って」
「この支部限定?なんで?」

愛美はパソコンで支社からの新商品に関する業務連絡を確認しながら尋ねる。

「先週、うちの店で歓迎会やった時にさ、ランチに来てくれって言ったんだけど、それがなかなかねって言うから、なんでか理由を聞いてみたんだよ」
「で、その理由はなんだったの?」
「隣の支部のオバチャンたちが陣取って、おしゃべりしながら長居してるじゃん?それが居心地悪いんだってさ。それでなかなか席が空かない時もあるし、席が空くの待てないって」
「あー……それはわかるかも」

少しおしゃべりが好きで堅実な主婦の集まりのような第二支部の職員は、派手で噂好きでおしゃべりな第一支部の職員がどうも苦手らしい。

「それに愛美はいつも俺の弁当で羨ましいって言ってたから、だったらやってみようかと思って。朝のうちに注文した人の分だけお昼前に届けるって、どうだろう?」
「いいんじゃない?自分でお弁当作ってくる人もいるけど、毎日買いに行く人もいるから。とりあえず、支部長に話してみたら?」
「そうだな。OKだったら、ここの人たちの好きなものとか、苦手なものとかもリサーチしたいしな。ちょっと聞いてみるか」

健太郎は立ち上がって、支部長席に向かった。

緒川支部長は、営業部に提出するために、今年度の支部の業績をまとめていた。
先ほどから、健太郎が愛美の隣で何やら話し込んでいる。
愛美と健太郎の間には何もないとわかっていても、やはり気になって落ち着かない。

   (何話してるんだろう?まさかあいつ、また愛美を口説いてるんじゃ……)

マウスを握る手に、必要以上に力がこもる。

   (落ち着け……。愛美はあいつより俺を選んでくれたんだ。なんでもない、気にするな……)

平常心を保とうと必死で自分に言い聞かせていると、健太郎が立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。

   (なんだ?やる気か?俺はおまえなんかに愛美を渡さないぞ!!)

なんともない顔をしながら、心の中でファイティングポーズを取った時、健太郎は支部長席の前に立ち、ニコニコ笑った。

「緒川さん、おはようございます」
「おはようございます。先日はお世話になりました」

社会人としての礼儀は大事だと、一応、先週の歓迎会のお礼を言ってみたりする。

「こちらこそありがとうございました。ところで、ひとつ相談があるんですが、少しだけお時間よろしいですか?」

いつになく礼儀正しい健太郎に、緒川支部長は妙な寒気を覚えた。

「少しなら……。で、相談って?」

健太郎は愛美に話した内容と同じ事を緒川支部長に話した。
そういう事ならと緒川支部長からの許可が下りると、健太郎は頭を下げて帰っていった。
緒川支部長は肩透かしを食らった気分で、大きく息をついて再びパソコンに向かった。


その日の午後、3時過ぎ。
健太郎はチラシの束を持って、再び支部にやって来た。
チラシの内容は第二支部限定のお弁当の事だ。
健太郎は休憩スペースでお茶を飲んでいたオバサマたちをつかまえて、どんな料理が好きか、苦手な食べ物はあるかと尋ねている。
愛美は契約のデータ入力を済ませ、コーヒーを淹れるために休憩スペースへ向かった。

「アレルギーとか、どうしても食べられない物が入っている時は、個人的におかずを差し替えてもらえたら助かるわね」
「なるほど、検討してみます」
「私は揚げ物ばっかりじゃなくて、野菜も魚も食べたいわ」
「そうですよね」

愛美はコーヒーを淹れながら、熱心にリサーチをしている健太郎に少し感心していた。

「早速明日、試作を作ってみます。明日は特別に半額でお届けしちゃおうかな」
「太っ腹ね!オーナー素敵!!」
「いやー、それほどでも……。でも、もっと言ってください」

健太郎はどうやら、オバサマたちの心をつかむのがうまいらしい。
オバサマたちは健太郎とお弁当の話に夢中になっている。

   (商売上手で何より……)

愛美がコーヒーの入ったカップを持って席に戻ろうとすると、宮本さんが隣の席に愛美を座らせ、健太郎の脇腹を肘でつついた。

「ところで……ねぇ、隠さないでそろそろ教えてよ」
「……?なんの事です?」

思い当たる節が見当たらず、健太郎はキョトンとしている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...