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少しずつ積み重ねて
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誰だって、最初からなんでもうまくできるわけじゃない。
実際自分だって就職してしばらくの間は、なかなか契約がもらえなくて苦労していた。
自分を変える努力をして、どうすれば分かりやすく説明できるのか、安心して任せてもらうにはどう接すればいいのかを考えた。
そうして粘り強く続けていくうちに、話を聞いてもらえるようになり、お客さんとの信頼関係もできて、契約してもらえるようになった。
(なるほど……。何事も積み重ねが大事か……)
経験のない事を努力もせず『できない』と言うのは簡単だ。
けれどそのままでは、一生できるわけがない。
だったら、できる他人とできない自分を比べて落ち込んだり妬んだりする前に、少しでも知って理解する努力をしてみようか。
苦手だと思っていた事も、やってみると案外得意になるかも知れない。
(俺も頑張ればそのうち、愛美に御飯作ってあげられるくらい上手になれるかな?)
愛美の部屋に戻って、早速二人でキッチンに立った。
『政弘さん』が包丁を持つのは、中学の調理実習以来だ。
一人暮らしを始める時に調理器具を一式用意はしたが、面倒さが先に立ち、仕事の忙しさを言い訳にして外食に頼りきっていたので、一度も使った事がなかった。
愛美は『政弘さん』に包丁の正しい持ち方や、包丁で切る時の食材の押さえ方を教えながら、どんどん鍋の準備を進めた。
結局『政弘さん』は、椎茸と長ネギをほんの少し切っただけだったけれど、先の事を考えると何もしないよりはずっといいと思った。
鍋の準備を終えた愛美がタオルで手を拭きながら、ニコニコ笑って『政弘さん』を見上げた。
「一緒に料理をするのも楽しいですね。今度は政弘さん用のエプロン買いに行きましょう」
「愛美とおそろいのがいい」
「だったらフリルのいっぱいついた、キュートなエプロンにしましょう」
「……それは愛美だけでいいや」
鍋の中では、グツグツと煮えたたくさんの具材が、美味しそうに湯気をあげている。
「美味しそう!早速いただきましょう」
愛美が煮えた具材を器によそって『政弘さん』に手渡した。
冷えたビールで乾杯して、熱々の具をふぅふぅと吹き冷ましながら口に運ぶ。
「うまい!」
「鍋物っていいですよね。材料を切って出汁で煮込んだだけで、立派な料理になるんですよ」
「ちゃんと包丁を使えるようになったら、俺にもできるかな?」
「できますよ。最近は鍋物用のスープも種類が豊富ですからね」
そう言って愛美は『政弘さん』の切った椎茸を口に入れた。
「うん、美味しい」
「愛美は俺が料理できないの知ってて、なんとも思わないの?」
「私は別に気になりませんよ。政弘さんがいつも私の作った料理を、美味しいって言って食べてくれるから、それが嬉しいです」
そう言って愛美は『政弘さん』のグラスにビールを注いだ。
「でも愛美、できないよりはできる方がいいって言わなかった?」
愛美は少し考えて、きっと宮本さんたちの言っていた事を気にしているんだなと気付く。
「言ってませんよ?できないよりは、できるに越したことはないって言ったんです。なんだって、できなくて困る事はあっても、できて困る事はないでしょう?」
「そういう意味か……。俺はてっきり……」
心底ホッとしたのか、『政弘さん』は脱力した様子で大きく息をついた。
「てっきり……なんですか?」
愛美は『政弘さん』の器を手に取って、おかわりをよそった。
「いや、なんにも……」
歯切れの悪い返事をする『政弘さん』に、愛美はおかわりをよそった器を差し出した。
「心配しなくても、私は料理ができるかどうかで結婚相手を選んだりしません」
ハッキリと言い切る愛美に少し驚いて、『政弘さん』は苦笑いしながら器を受け取る。
(お見通しだ……。敵わないな、愛美には……)
「料理ができるかどうかで選んだりはしないけど、さっき初めて一緒にキッチンに立って、一緒に料理ができると楽しいだろうなって思いました」
「愛美がそう言うなら頑張る」
「少しずつでいいですよ。政弘さんに教えるのも楽しいですから」
愛美は笑いながらそう言って、悩みに悩んで買ったネギを口に運んだ。
「美味しい!特産品っていうだけあって、やっぱり普通のネギよりずっと美味しいです!」
愛美があまりに美味しそうに食べるので、『政弘さん』もネギを口に入れた。
「ホントだ。甘みが強いのかな?野菜もいろいろあるんだなあ」
「また一緒に買い物に行きましょうね」
「うん。食料品売り場って意外と楽しいな」
他愛ない会話をしながらビールを飲み、鍋をつついた。
『政弘さん』はビールを飲みながら、気になっていた事を思い出し、いい機会だから聞いてみる事にした。
実際自分だって就職してしばらくの間は、なかなか契約がもらえなくて苦労していた。
自分を変える努力をして、どうすれば分かりやすく説明できるのか、安心して任せてもらうにはどう接すればいいのかを考えた。
そうして粘り強く続けていくうちに、話を聞いてもらえるようになり、お客さんとの信頼関係もできて、契約してもらえるようになった。
(なるほど……。何事も積み重ねが大事か……)
経験のない事を努力もせず『できない』と言うのは簡単だ。
けれどそのままでは、一生できるわけがない。
だったら、できる他人とできない自分を比べて落ち込んだり妬んだりする前に、少しでも知って理解する努力をしてみようか。
苦手だと思っていた事も、やってみると案外得意になるかも知れない。
(俺も頑張ればそのうち、愛美に御飯作ってあげられるくらい上手になれるかな?)
愛美の部屋に戻って、早速二人でキッチンに立った。
『政弘さん』が包丁を持つのは、中学の調理実習以来だ。
一人暮らしを始める時に調理器具を一式用意はしたが、面倒さが先に立ち、仕事の忙しさを言い訳にして外食に頼りきっていたので、一度も使った事がなかった。
愛美は『政弘さん』に包丁の正しい持ち方や、包丁で切る時の食材の押さえ方を教えながら、どんどん鍋の準備を進めた。
結局『政弘さん』は、椎茸と長ネギをほんの少し切っただけだったけれど、先の事を考えると何もしないよりはずっといいと思った。
鍋の準備を終えた愛美がタオルで手を拭きながら、ニコニコ笑って『政弘さん』を見上げた。
「一緒に料理をするのも楽しいですね。今度は政弘さん用のエプロン買いに行きましょう」
「愛美とおそろいのがいい」
「だったらフリルのいっぱいついた、キュートなエプロンにしましょう」
「……それは愛美だけでいいや」
鍋の中では、グツグツと煮えたたくさんの具材が、美味しそうに湯気をあげている。
「美味しそう!早速いただきましょう」
愛美が煮えた具材を器によそって『政弘さん』に手渡した。
冷えたビールで乾杯して、熱々の具をふぅふぅと吹き冷ましながら口に運ぶ。
「うまい!」
「鍋物っていいですよね。材料を切って出汁で煮込んだだけで、立派な料理になるんですよ」
「ちゃんと包丁を使えるようになったら、俺にもできるかな?」
「できますよ。最近は鍋物用のスープも種類が豊富ですからね」
そう言って愛美は『政弘さん』の切った椎茸を口に入れた。
「うん、美味しい」
「愛美は俺が料理できないの知ってて、なんとも思わないの?」
「私は別に気になりませんよ。政弘さんがいつも私の作った料理を、美味しいって言って食べてくれるから、それが嬉しいです」
そう言って愛美は『政弘さん』のグラスにビールを注いだ。
「でも愛美、できないよりはできる方がいいって言わなかった?」
愛美は少し考えて、きっと宮本さんたちの言っていた事を気にしているんだなと気付く。
「言ってませんよ?できないよりは、できるに越したことはないって言ったんです。なんだって、できなくて困る事はあっても、できて困る事はないでしょう?」
「そういう意味か……。俺はてっきり……」
心底ホッとしたのか、『政弘さん』は脱力した様子で大きく息をついた。
「てっきり……なんですか?」
愛美は『政弘さん』の器を手に取って、おかわりをよそった。
「いや、なんにも……」
歯切れの悪い返事をする『政弘さん』に、愛美はおかわりをよそった器を差し出した。
「心配しなくても、私は料理ができるかどうかで結婚相手を選んだりしません」
ハッキリと言い切る愛美に少し驚いて、『政弘さん』は苦笑いしながら器を受け取る。
(お見通しだ……。敵わないな、愛美には……)
「料理ができるかどうかで選んだりはしないけど、さっき初めて一緒にキッチンに立って、一緒に料理ができると楽しいだろうなって思いました」
「愛美がそう言うなら頑張る」
「少しずつでいいですよ。政弘さんに教えるのも楽しいですから」
愛美は笑いながらそう言って、悩みに悩んで買ったネギを口に運んだ。
「美味しい!特産品っていうだけあって、やっぱり普通のネギよりずっと美味しいです!」
愛美があまりに美味しそうに食べるので、『政弘さん』もネギを口に入れた。
「ホントだ。甘みが強いのかな?野菜もいろいろあるんだなあ」
「また一緒に買い物に行きましょうね」
「うん。食料品売り場って意外と楽しいな」
他愛ない会話をしながらビールを飲み、鍋をつついた。
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