オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

櫻井音衣

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それも悪くない

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急いで来たので少し息が上がっている。
愛美は上がった息を整えながら売り場を歩き、お目当てのルームウェアを探した。
店内は楽しそうに買い物をする客で賑わっている。
たくさんの買い物客の間をすり抜けるようにして店の奥へと進み、ルームウェアのコーナーへたどり着いた。
そのすぐそばに設置されたテレビモニターには、愛美が自宅のテレビで何度も見た、ドラマのように美しいCMが流されていた。
ロックバンド『ALISON』のギタリストのユウと、その妻であるモデルのアリシアが出演していたCMだ。
愛美はモニターに映る仲睦まじい二人を観て、微かに笑みを浮かべた。
まさしく理想の夫婦像だ。
いつか『政弘さん』と、こんな風になれたらいいなと愛美は思う。
そんなことを考えて、少し照れくさそうに頬を掻きながら、愛美は『政弘さん』にちょうど良さそうなサイズのルームウェアを手に取った。
CMに出演していたユウも、かなりの長身だ。
『政弘さん』も背が高いけれど、このブランドなら大丈夫だろう。
散々悩んだ末、何種類かあるメンズデザインの中から、アーガイル柄の紺色の物を選んだ。
これを着た『政弘さん』は、きっと息を飲むほどカッコイイに違いない。

   (やっぱりすごく素敵!絶対に政弘さんに似合う!そうだ、この際だから私のも買っちゃおう!)

自分用にはレディースデザインの中から、『政弘さん』用に選んだ物とは色違いの、淡いピンク色のウェアを選び、急いでレジに向かった。
会計を済ませ、ルームウェアの入ったショップ袋を受け取ると、大急ぎで『政弘さん』の待つストランへと引き返す。
化粧室に行くにしては少し時間が掛かりすぎたかなと気にしながら、早足で歩いた。

   (もしかして、あんまり遅いから心配してるかも?)

どちらにしても、ショップ袋を持って戻れば買い物をしていた事はバレてしまう。
愛美は歩く速度を落とし、バッグからスマホを出して、【ついでに買いたいものがあって寄り道をしたから遅くなったけど、今から急いで戻ります】とメールを送った。
するとすぐに、【急がなくていいからゆっくり戻っておいで】と『政弘さん』からの返信があった。
愛美はメールを確認してスマホをバッグにしまい、喜んでくれるといいなと思いながら、上機嫌でカフェレストランへ向かった。


愛美からのメールを確認した『政弘さん』は、返信をしてからコーヒーをもう一杯注文した。
愛美がなかなか戻って来ないので、具合でも悪いのかとか、誰かに連れていかれたんじゃないかと心配していたけれど、そうではないとわかってホッとした。
買い物なら一緒に行けばいいのに、一人で行ったという事は、自分には知られたくない買い物だったのかも知れない。
運ばれてきた熱いコーヒーを一口飲んで、『政弘さん』は「ああ、そうか」と小さく呟いた。

   (もしかして……愛美が選んでくれた服を、俺が自分で全部買ったから?)

愛美には金銭的な負担を掛けたくなかったし、プレゼントをもらうより何かをしてもらった方が嬉しいと言ったのは本心だが、愛美は不服そうにしていた。
愛美なりに気を遣っていたのかも知れない。

   (俺も気を遣い過ぎ?愛美も俺に対して、たまには甘えて欲しいと思ったりするのかな)

愛美が一人で何を買ったのかはわからないが、もし本当にこっそりプレゼントを買いに行ってくれたのだとしたら、自分のために愛美が何かをしたいと思ってくれたのだから、それはやっぱり素直に嬉しい。

   (愛美が俺のためにしてくれる事なら、なんでも嬉しいな。もし愛美が買ったのが俺へのプレゼントだったら、素直にありがとうって言って受け取ろう)


『政弘さん』がカップをソーサーの上に置いた時、『アナスタシア』のショップ袋を持った愛美が戻ってきた。

「政弘さん、お待たせしました」
「おかえり。いいの買えた?」
「ハイ!」

愛美の満面の笑みを見て、『政弘さん』は嬉しそうに笑った。



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