38 / 57
完全降伏宣言
4
しおりを挟む
しばらくの間、ベッドにもたれて愛美の肩を抱き寄せ髪を撫でていた『政弘さん』は、ふと壁時計を見上げた。
(もうすぐ12時か……。今日はこのまま一緒にいたいな……。ん……?今日は……?)
「ああっ!!」
『政弘さん』が突然大声をあげるので、愛美は驚いてビクッと肩をふるわせた。
「どうしたんですか?急に大きな声……」
「今日!!愛美の誕生日だったのに!!」
そうじゃないかとは思っていたけど、やっぱり忘れていたんだなと、愛美は苦笑いを浮かべた。
「なんだ……。そんな事ですか……」
「そんな事じゃないよ!!俺、愛美に何もしてあげてない!!プレゼントも用意してない!!」
『政弘さん』は慌てふためいて、意味もなくジャケットやワイシャツの胸ポケットの辺りを探っている。
しかし当然、何かそれらしいものが出てくるはずもなく、『政弘さん』は絶望的な顔をしている。
「政弘さん、落ち着いて下さい。私、プレゼントとか要りませんから」
「いや、そういう問題じゃ……」
愛美はおかしそうに笑って、『政弘さん』の手をギュッと握った。
「私は、政弘さんがこうして隣にいてくれるだけでいいんです。幸せですよ」
穏やかに微笑みながら幸せそうにそう言った愛美を、『政弘さん』は愛しそうに抱きしめ、優しく髪を撫でた。
「愛美は欲がないんだな……。もっと欲を出してもいいんだよ?」
「欲張りですよ?多分、政弘さんが思ってるよりずっと。それじゃあ……今日はもう少しだけ、このまま一緒にいて下さい」
愛美が珍しく素直に、もう少し一緒にいてと言ったので、『政弘さん』は嬉しそうに笑って愛美の手の甲に口付けた。
「姫の仰せのままに」
「姫って……」
『政弘さん』は、慣れないお姫様扱いに照れて恥ずかしそうにしている愛美の耳元に口を近付けた。
「少しだけでいいの?」
「えっ?」
(それどういう……)
愛美がその言葉の意味を尋ねるより早く、『政弘さん』は愛美の頬にチュッと口付けた。
「愛美、誕生日おめでとう。今夜はこのまま、朝まで一緒にいてもいいですか?」
『政弘さん』がそんなふうに言った事は一度もなかったので少し驚いたけれど、一緒にいたいと思ってくれているのは同じなのだと思うと嬉しくて、愛美は素直にうなずいた。
「明日もあさっても、一緒にいていい?」
「もちろんです!私も一緒にいたい!!」
嬉しさのあまり愛美は『政弘さん』に飛び付いた。
「でも……仕事はいいんですか?」
「俺だって人間だよ?休みの日は好きな子と一日中一緒にいたいし、喜ぶ顔が見たいもん。明日は誰からも出勤するって聞いてないし、俺が行く必要ないと思う。たまにはいいよ」
付き合い始めてからずっと、週末を二人でゆっくり過ごせた事はなかった。
二人とも仕事なのだから仕方ないと思って割り切って来たけれど、正直に言うと、もっと二人で過ごせる時間が欲しいと言うのが本音だ。
せっかく2日間一緒にいられるのなら、いつもはなかなか行けない場所に愛美を連れて行ったり、思いきり楽しませたり喜ばせたりしてみたいと『政弘さん』は思う。
「ね、愛美……。最近ずっと二人でゆっくりできなかったからさ……明日、どこかへ出掛けようか。それとも土日で旅行でもする?」
愛美が何かを考えるそぶりを見せたので、どこへ旅行に行こうか考えているのかなと『政弘さん』が思っていると、愛美は小さく首を横に振った。
「旅行も行きたいけど……やっぱりそれは、また今度でいいです」
「……えっ、そうなの?」
「二人でゆっくり過ごせたらそれだけで。……あっ、そうだ。せっかくだから、明日は買い物に行きたいです」
てっきり旅行に行きたいと言うと思ったのに、愛美がそう言うならと『政弘さん』はうなずいた。
(ああそうか……。欲がないんじゃなくて、これが愛美の望みなんだ。なんで俺には甘えたりわがまま言ったりしないんだって思ってたけど、そうじゃないんだな。きっとこれが愛美なんだ……)
多くは望まない愛美だけれど、一緒にいたいと思ってくれている事だけはたしかだ。
愛美は自覚がないのかも知れないが、他の女の子のようにわかりやすく甘える事が苦手なのなら、自分が思いっきり甘やかせばいいのかも、と『政弘さん』は考える。
「姫の仰せのままに。二人で買い物行ったり御飯食べたり、ゴロゴロしたり……愛美のしたい事して、思いっきりのんびりしよう」
(もうすぐ12時か……。今日はこのまま一緒にいたいな……。ん……?今日は……?)
「ああっ!!」
『政弘さん』が突然大声をあげるので、愛美は驚いてビクッと肩をふるわせた。
「どうしたんですか?急に大きな声……」
「今日!!愛美の誕生日だったのに!!」
そうじゃないかとは思っていたけど、やっぱり忘れていたんだなと、愛美は苦笑いを浮かべた。
「なんだ……。そんな事ですか……」
「そんな事じゃないよ!!俺、愛美に何もしてあげてない!!プレゼントも用意してない!!」
『政弘さん』は慌てふためいて、意味もなくジャケットやワイシャツの胸ポケットの辺りを探っている。
しかし当然、何かそれらしいものが出てくるはずもなく、『政弘さん』は絶望的な顔をしている。
「政弘さん、落ち着いて下さい。私、プレゼントとか要りませんから」
「いや、そういう問題じゃ……」
愛美はおかしそうに笑って、『政弘さん』の手をギュッと握った。
「私は、政弘さんがこうして隣にいてくれるだけでいいんです。幸せですよ」
穏やかに微笑みながら幸せそうにそう言った愛美を、『政弘さん』は愛しそうに抱きしめ、優しく髪を撫でた。
「愛美は欲がないんだな……。もっと欲を出してもいいんだよ?」
「欲張りですよ?多分、政弘さんが思ってるよりずっと。それじゃあ……今日はもう少しだけ、このまま一緒にいて下さい」
愛美が珍しく素直に、もう少し一緒にいてと言ったので、『政弘さん』は嬉しそうに笑って愛美の手の甲に口付けた。
「姫の仰せのままに」
「姫って……」
『政弘さん』は、慣れないお姫様扱いに照れて恥ずかしそうにしている愛美の耳元に口を近付けた。
「少しだけでいいの?」
「えっ?」
(それどういう……)
愛美がその言葉の意味を尋ねるより早く、『政弘さん』は愛美の頬にチュッと口付けた。
「愛美、誕生日おめでとう。今夜はこのまま、朝まで一緒にいてもいいですか?」
『政弘さん』がそんなふうに言った事は一度もなかったので少し驚いたけれど、一緒にいたいと思ってくれているのは同じなのだと思うと嬉しくて、愛美は素直にうなずいた。
「明日もあさっても、一緒にいていい?」
「もちろんです!私も一緒にいたい!!」
嬉しさのあまり愛美は『政弘さん』に飛び付いた。
「でも……仕事はいいんですか?」
「俺だって人間だよ?休みの日は好きな子と一日中一緒にいたいし、喜ぶ顔が見たいもん。明日は誰からも出勤するって聞いてないし、俺が行く必要ないと思う。たまにはいいよ」
付き合い始めてからずっと、週末を二人でゆっくり過ごせた事はなかった。
二人とも仕事なのだから仕方ないと思って割り切って来たけれど、正直に言うと、もっと二人で過ごせる時間が欲しいと言うのが本音だ。
せっかく2日間一緒にいられるのなら、いつもはなかなか行けない場所に愛美を連れて行ったり、思いきり楽しませたり喜ばせたりしてみたいと『政弘さん』は思う。
「ね、愛美……。最近ずっと二人でゆっくりできなかったからさ……明日、どこかへ出掛けようか。それとも土日で旅行でもする?」
愛美が何かを考えるそぶりを見せたので、どこへ旅行に行こうか考えているのかなと『政弘さん』が思っていると、愛美は小さく首を横に振った。
「旅行も行きたいけど……やっぱりそれは、また今度でいいです」
「……えっ、そうなの?」
「二人でゆっくり過ごせたらそれだけで。……あっ、そうだ。せっかくだから、明日は買い物に行きたいです」
てっきり旅行に行きたいと言うと思ったのに、愛美がそう言うならと『政弘さん』はうなずいた。
(ああそうか……。欲がないんじゃなくて、これが愛美の望みなんだ。なんで俺には甘えたりわがまま言ったりしないんだって思ってたけど、そうじゃないんだな。きっとこれが愛美なんだ……)
多くは望まない愛美だけれど、一緒にいたいと思ってくれている事だけはたしかだ。
愛美は自覚がないのかも知れないが、他の女の子のようにわかりやすく甘える事が苦手なのなら、自分が思いっきり甘やかせばいいのかも、と『政弘さん』は考える。
「姫の仰せのままに。二人で買い物行ったり御飯食べたり、ゴロゴロしたり……愛美のしたい事して、思いっきりのんびりしよう」
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~
及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら……
なんと相手は自社の社長!?
末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、
なぜか一夜を共に過ごすことに!
いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
オフィスにラブは落ちてねぇ!!
櫻井音衣
恋愛
会社は賃金を得るために
労働する場所であって、
異性との出会いや恋愛を求めて
来る場所ではない。
そこにあるのは
仕事としがらみと
面倒な人間関係だけだ。
『オフィスにはラブなんて落ちていない』
それが持論。
過去のつらい恋愛経験で心が荒み、
顔で笑っていつも心で毒を吐く
ある保険会社の支部に勤める内勤事務員
菅谷 愛美 26歳 独身。
好みのタイプは
真面目で優しくて性格の穏やかな
草食系眼鏡男子。
とにかく俺様タイプの男は大嫌い!!
この上なく大嫌いな
無駄にデカくて胡散臭い
イケメンエリート俺様上司から、
彼女になれと一方的に言われ……。
あの男だけは、絶対にイヤだ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる