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完全降伏宣言

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しばらくの間、ベッドにもたれて愛美の肩を抱き寄せ髪を撫でていた『政弘さん』は、ふと壁時計を見上げた。

   (もうすぐ12時か……。今日はこのまま一緒にいたいな……。ん……?今日は……?)

「ああっ!!」

『政弘さん』が突然大声をあげるので、愛美は驚いてビクッと肩をふるわせた。

「どうしたんですか?急に大きな声……」
「今日!!愛美の誕生日だったのに!!」

そうじゃないかとは思っていたけど、やっぱり忘れていたんだなと、愛美は苦笑いを浮かべた。

「なんだ……。そんな事ですか……」
「そんな事じゃないよ!!俺、愛美に何もしてあげてない!!プレゼントも用意してない!!」

『政弘さん』は慌てふためいて、意味もなくジャケットやワイシャツの胸ポケットの辺りを探っている。
しかし当然、何かそれらしいものが出てくるはずもなく、『政弘さん』は絶望的な顔をしている。

「政弘さん、落ち着いて下さい。私、プレゼントとか要りませんから」
「いや、そういう問題じゃ……」

愛美はおかしそうに笑って、『政弘さん』の手をギュッと握った。

「私は、政弘さんがこうして隣にいてくれるだけでいいんです。幸せですよ」

穏やかに微笑みながら幸せそうにそう言った愛美を、『政弘さん』は愛しそうに抱きしめ、優しく髪を撫でた。

「愛美は欲がないんだな……。もっと欲を出してもいいんだよ?」
「欲張りですよ?多分、政弘さんが思ってるよりずっと。それじゃあ……今日はもう少しだけ、このまま一緒にいて下さい」

愛美が珍しく素直に、もう少し一緒にいてと言ったので、『政弘さん』は嬉しそうに笑って愛美の手の甲に口付けた。

「姫の仰せのままに」
「姫って……」

『政弘さん』は、慣れないお姫様扱いに照れて恥ずかしそうにしている愛美の耳元に口を近付けた。

「少しだけでいいの?」
「えっ?」

   (それどういう……)

愛美がその言葉の意味を尋ねるより早く、『政弘さん』は愛美の頬にチュッと口付けた。

「愛美、誕生日おめでとう。今夜はこのまま、朝まで一緒にいてもいいですか?」

『政弘さん』がそんなふうに言った事は一度もなかったので少し驚いたけれど、一緒にいたいと思ってくれているのは同じなのだと思うと嬉しくて、愛美は素直にうなずいた。

「明日もあさっても、一緒にいていい?」
「もちろんです!私も一緒にいたい!!」

嬉しさのあまり愛美は『政弘さん』に飛び付いた。

「でも……仕事はいいんですか?」
「俺だって人間だよ?休みの日は好きな子と一日中一緒にいたいし、喜ぶ顔が見たいもん。明日は誰からも出勤するって聞いてないし、俺が行く必要ないと思う。たまにはいいよ」

付き合い始めてからずっと、週末を二人でゆっくり過ごせた事はなかった。
二人とも仕事なのだから仕方ないと思って割り切って来たけれど、正直に言うと、もっと二人で過ごせる時間が欲しいと言うのが本音だ。
せっかく2日間一緒にいられるのなら、いつもはなかなか行けない場所に愛美を連れて行ったり、思いきり楽しませたり喜ばせたりしてみたいと『政弘さん』は思う。

「ね、愛美……。最近ずっと二人でゆっくりできなかったからさ……明日、どこかへ出掛けようか。それとも土日で旅行でもする?」

愛美が何かを考えるそぶりを見せたので、どこへ旅行に行こうか考えているのかなと『政弘さん』が思っていると、愛美は小さく首を横に振った。

「旅行も行きたいけど……やっぱりそれは、また今度でいいです」
「……えっ、そうなの?」
「二人でゆっくり過ごせたらそれだけで。……あっ、そうだ。せっかくだから、明日は買い物に行きたいです」

てっきり旅行に行きたいと言うと思ったのに、愛美がそう言うならと『政弘さん』はうなずいた。

   (ああそうか……。欲がないんじゃなくて、これが愛美の望みなんだ。なんで俺には甘えたりわがまま言ったりしないんだって思ってたけど、そうじゃないんだな。きっとこれが愛美なんだ……)

多くは望まない愛美だけれど、一緒にいたいと思ってくれている事だけはたしかだ。
愛美は自覚がないのかも知れないが、他の女の子のようにわかりやすく甘える事が苦手なのなら、自分が思いっきり甘やかせばいいのかも、と『政弘さん』は考える。

「姫の仰せのままに。二人で買い物行ったり御飯食べたり、ゴロゴロしたり……愛美のしたい事して、思いっきりのんびりしよう」


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