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完全降伏宣言
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「それ誤解だから!!彼女に同行したついでに、お客さんの店に挨拶に行っただけ!指輪の事だって、いつか愛美と同じ指輪をしたいなって思って見てただけだから!!」
「……え?」
(今、どさくさに紛れて、何かさらっとすごい事を言われた気が……)
愛美は一瞬耳を疑い、3度瞬きをした。
「たしかに……愛美にヤキモチ妬いて慌てて欲しくて、わざと彼女と親しげにしてたけど……彼女とはなんでもないんだ。俺が好きなのは愛美だけだよ」
「……なんですか、それ?」
(ヤキモチ妬いて慌てて欲しいって何?)
予想していなかった『政弘さん』の言葉に、愛美は怪訝な顔をした。
「愛美、あいつには言いたい事言うのに、俺に対してはずっと敬語だし、呼び方もずっと『さん』付けだし……」
「……そこ、重要ですか?」
言いたい事がいまいちよくわからなくて、愛美が思わず尋ねると、『政弘さん』は真顔でうなずいた。
「それに全然わがまま言わないし、甘えてくれないし、愛美の方から会いたいって言ってくれないから、俺が上司だから遠慮してるのかなとか、ホントに俺の事好きなのかなって不安になって……」
『政弘さん』はボソボソと歯切れの悪い口調で、少し恥ずかしそうにそう言った。
少し気まずそうに話す『政弘さん』が、少し可愛く見えて、愛美はもう少し意地悪してやろうと、わざと表情を崩さずに話を聞き、淡々と話す。
「それは……健太郎に対するヤキモチですか?」
「うん……。みっともないけど、愛美はあいつなんかよりずっと俺の事好きなんだって、思いたかった。だけど愛美がなんにも言ってくれないから、意地になってた。俺がバカみたいな意地張ってるうちに……愛美に愛想つかされた……」
愛美だって、『政弘さん』が佐藤さんと仲良さそうにしているところを見ると、慌てもしたし不安にもなった。
でもどう考えても、激しくヤキモチを妬いて慌てていたのは『政弘さん』の方だ。
「……バカですね」
少し不器用だけど、一生懸命想ってくれる『政弘さん』があまりに可愛くて、たまらなく愛しくて、そんな言葉が愛美の口から思わずこぼれた。
「どうしようもないバカだって、俺自身が一番わかってる。失いかけて初めて、愛美がいてくれるだけで幸せだって気付くなんて……」
「遅すぎますよ。やっと気付いたんですか?」
『政弘さん』は迷子の仔犬のように目を潤ませて、愛美の目をじっと見つめた。
「……もう……遅すぎるの?」
「私自身全然知らなかったけど、私、妊娠してるんですか?それで健太郎と結婚するって事でいいんですね?」
「ダメ!!良くないよ!!全然良くない!!」
『政弘さん』は愛美の肩を掴んで、必死で首を横に振る。
その様子がまたおかしくて、愛美は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
「じゃあ、やめときます」
「うん、そうして。……って……えっと……あれ?妊娠してる事を愛美自身が知らないって……?子どもができた責任を取るって、プロポーズされたんだよね?」
そろそろ本当の事をきちんと話してあげないとかわいそうだ。
愛美はようやく、でたらめな噂の真相を明かす事にした。
「捻挫させた責任は取るって、病院に連れて行かれただけですよ。私、いつの間に妊娠したんですか……」
「妊娠、してないの……?」
『政弘さん』はポカンとしている。
その表情がおかしくて、愛美は笑いを堪えた。
「捻挫で妊娠するわけないでしょう。ハッキリ言っておきますけど、私と健太郎の間に、政弘さんが疑ってるような事は一切ありませんからね」
「疑ってごめん……。でも、プロポーズは……?」
「プロポーズされたのはホントですけど、キッパリ断りました。健太郎に恋愛感情は持てないし、これからも幼馴染みとして大事にしたいので」
「そうなんだ……」
『政弘さん』は心底ホッとしたのか、目を閉じて大きく息をついた。
愛美は手を伸ばして、向かいに座っている『政弘さん』の頬にそっと触れた。
「それに……私には、ずっと大切にしたい大好きな人が……政弘さんが、いますから」
『政弘さん』の目元に残る涙の跡を指先でそっと拭って、愛美は笑う。
「気付くのが遅すぎますよ。私はずっと、政弘さんがいてくれるだけで幸せだって、思ってます」
『政弘さん』は愛美の手を大きな手で包むように握って、愛美の目をまっすぐに見つめた。
愛美には、その目がまた少し潤んでいるように見えた。
「つまらない嫉妬なんかしてみっともないし、愛美がいなくなったらって思うとつらくて苦しくて泣いちゃうなんて、情けなくてカッコ悪いけど……俺はどうしようもないくらい、愛美が好きです。愛美を好きだって気持ちも、幸せにしたいって気持ちも、誰にも負けないから……ずっと俺のそばにいて下さい」
ようやく『政弘さん』の本心が聞けたことが嬉しくて、それが自分と同じ気持ちであったことがさらに嬉しくて、愛美は穏やかに笑ってうなずいた。
「私も政弘さんが大好きです。不安にならないように、ちゃんとそばにいて下さい」
「うん……そうする。誰にも愛美をさらわれないように、俺がずっとそばにいて守るから」
「約束ですよ」
「うん、約束する」
愛美の頬を両手で包んで、『政弘さん』はゆっくりと顔を近付けた。
「愛美、好きだよ」
「私も政弘さんが好きです」
二人は少し照れくさそうに微笑みあって、優しく唇を重ねた。
「……え?」
(今、どさくさに紛れて、何かさらっとすごい事を言われた気が……)
愛美は一瞬耳を疑い、3度瞬きをした。
「たしかに……愛美にヤキモチ妬いて慌てて欲しくて、わざと彼女と親しげにしてたけど……彼女とはなんでもないんだ。俺が好きなのは愛美だけだよ」
「……なんですか、それ?」
(ヤキモチ妬いて慌てて欲しいって何?)
予想していなかった『政弘さん』の言葉に、愛美は怪訝な顔をした。
「愛美、あいつには言いたい事言うのに、俺に対してはずっと敬語だし、呼び方もずっと『さん』付けだし……」
「……そこ、重要ですか?」
言いたい事がいまいちよくわからなくて、愛美が思わず尋ねると、『政弘さん』は真顔でうなずいた。
「それに全然わがまま言わないし、甘えてくれないし、愛美の方から会いたいって言ってくれないから、俺が上司だから遠慮してるのかなとか、ホントに俺の事好きなのかなって不安になって……」
『政弘さん』はボソボソと歯切れの悪い口調で、少し恥ずかしそうにそう言った。
少し気まずそうに話す『政弘さん』が、少し可愛く見えて、愛美はもう少し意地悪してやろうと、わざと表情を崩さずに話を聞き、淡々と話す。
「それは……健太郎に対するヤキモチですか?」
「うん……。みっともないけど、愛美はあいつなんかよりずっと俺の事好きなんだって、思いたかった。だけど愛美がなんにも言ってくれないから、意地になってた。俺がバカみたいな意地張ってるうちに……愛美に愛想つかされた……」
愛美だって、『政弘さん』が佐藤さんと仲良さそうにしているところを見ると、慌てもしたし不安にもなった。
でもどう考えても、激しくヤキモチを妬いて慌てていたのは『政弘さん』の方だ。
「……バカですね」
少し不器用だけど、一生懸命想ってくれる『政弘さん』があまりに可愛くて、たまらなく愛しくて、そんな言葉が愛美の口から思わずこぼれた。
「どうしようもないバカだって、俺自身が一番わかってる。失いかけて初めて、愛美がいてくれるだけで幸せだって気付くなんて……」
「遅すぎますよ。やっと気付いたんですか?」
『政弘さん』は迷子の仔犬のように目を潤ませて、愛美の目をじっと見つめた。
「……もう……遅すぎるの?」
「私自身全然知らなかったけど、私、妊娠してるんですか?それで健太郎と結婚するって事でいいんですね?」
「ダメ!!良くないよ!!全然良くない!!」
『政弘さん』は愛美の肩を掴んで、必死で首を横に振る。
その様子がまたおかしくて、愛美は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
「じゃあ、やめときます」
「うん、そうして。……って……えっと……あれ?妊娠してる事を愛美自身が知らないって……?子どもができた責任を取るって、プロポーズされたんだよね?」
そろそろ本当の事をきちんと話してあげないとかわいそうだ。
愛美はようやく、でたらめな噂の真相を明かす事にした。
「捻挫させた責任は取るって、病院に連れて行かれただけですよ。私、いつの間に妊娠したんですか……」
「妊娠、してないの……?」
『政弘さん』はポカンとしている。
その表情がおかしくて、愛美は笑いを堪えた。
「捻挫で妊娠するわけないでしょう。ハッキリ言っておきますけど、私と健太郎の間に、政弘さんが疑ってるような事は一切ありませんからね」
「疑ってごめん……。でも、プロポーズは……?」
「プロポーズされたのはホントですけど、キッパリ断りました。健太郎に恋愛感情は持てないし、これからも幼馴染みとして大事にしたいので」
「そうなんだ……」
『政弘さん』は心底ホッとしたのか、目を閉じて大きく息をついた。
愛美は手を伸ばして、向かいに座っている『政弘さん』の頬にそっと触れた。
「それに……私には、ずっと大切にしたい大好きな人が……政弘さんが、いますから」
『政弘さん』の目元に残る涙の跡を指先でそっと拭って、愛美は笑う。
「気付くのが遅すぎますよ。私はずっと、政弘さんがいてくれるだけで幸せだって、思ってます」
『政弘さん』は愛美の手を大きな手で包むように握って、愛美の目をまっすぐに見つめた。
愛美には、その目がまた少し潤んでいるように見えた。
「つまらない嫉妬なんかしてみっともないし、愛美がいなくなったらって思うとつらくて苦しくて泣いちゃうなんて、情けなくてカッコ悪いけど……俺はどうしようもないくらい、愛美が好きです。愛美を好きだって気持ちも、幸せにしたいって気持ちも、誰にも負けないから……ずっと俺のそばにいて下さい」
ようやく『政弘さん』の本心が聞けたことが嬉しくて、それが自分と同じ気持ちであったことがさらに嬉しくて、愛美は穏やかに笑ってうなずいた。
「私も政弘さんが大好きです。不安にならないように、ちゃんとそばにいて下さい」
「うん……そうする。誰にも愛美をさらわれないように、俺がずっとそばにいて守るから」
「約束ですよ」
「うん、約束する」
愛美の頬を両手で包んで、『政弘さん』はゆっくりと顔を近付けた。
「愛美、好きだよ」
「私も政弘さんが好きです」
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