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月曜日は波乱の予感
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「ちょっ……!!何するんですか!!」
「病院連れてくんだよ!」
「降ろして下さいよ!人を米みたいに……!」
「言う事聞かない菅谷が悪いんだろ!」
激しく言い合う二人の様子を、オバサマたちは楽しそうに笑って眺めている。
「今日のはまた一段と激しいわねぇ」
「激しさで言ったら今までで一番でしょ」
「やっぱり支部長と菅谷さんはこうでないとつまらないわね」
「久しぶりじゃない?第二支部名物、支部長対内勤さん」
二人の激しいバトルを初めて見る新人たちは、驚いてポカンとしている。
「降ろして下さい!スカートがっ……!!」
愛美がそう言うと、緒川支部長は慌ててずり上がりそうになるスカートの裾を押さえるようにして担ぎ直した。
「お姫様だっこの方が良かったか?」
「両方いやです!!とにかく降ろして下さい!」
「問答無用。このまま行くぞ」
緒川支部長が愛美を担いだまま支部を出ようとした時、支部の電話が鳴った。
「あっ、電話出ないと!降ろして下さい!」
愛美が緒川支部長の背中をボカボカ殴る。
緒川支部長は小さく舌打ちをして、愛美をそっと椅子の上に降ろした。
愛美がホッとしながら電話に出ると、相手は佐藤さんの担当地区の既契約者だった。
「佐藤さん、渡辺様からお電話です」
佐藤さんに受話器を渡すと、愛美は何事もなかったかのようにパソコンに向かう。
緒川支部長は愛美の横顔を見ながらため息をついた。
(本気で心配してるのに……。愛美はやっぱり、俺には素直になれないんだな……)
佐藤さんは保留ボタンを押して、緒川支部長の方を見た。
「渡辺さんのご主人、この後お時間あるそうです。3時半までならご自宅にいらっしゃるという事なんですけど……」
「……わかった。すぐ伺うと伝えて」
「ハイ」
佐藤さんが電話を切ると、緒川支部長はまた椅子ごと愛美の体を自分の方に向けた。
「戻ったら病院に連れていくからな」
「仕事終わったら自分で行きますからご心配なく」
「ああもう……!」
どんなに心配しても、愛美は言う事を聞こうとしない。
緒川支部長は険しい顔をして支部長席へ戻り、出掛ける準備を済ませて佐藤さんと一緒に支部を出た。
車に乗り込み少しすると、運転する緒川支部長の隣で佐藤さんがクスクス笑いだした。
「なんだ?急に笑って……」
「いえ……。菅谷さんってかわいいですね」
急に愛美の事を話題にされて、緒川支部長は動揺を必死で隠そうとした。
「そうか?でも見ただろ?菅谷は俺の事が嫌いなんだ。だからいつも反抗的な態度を取る」
「そうかな?ただ素直になれないだけじゃないですか?……お互いに」
愛美との事は何も話していないのに、二人の仲も自分の気持ちも見透かされたようで、緒川支部長は動揺を隠せない。
ウインカーを出そうとして、思わずワイパーを動かしてしまった。
「あっ……」
佐藤さんはまたクスクス笑う。
「ひろくんは私と付き合ってる時も、思ってる事、言葉にしてくれなかったもんね」
緒川支部長はバツの悪そうな顔をしてワイパーを止め、ウインカーを出した。
「何言ってるんだ……」
(そう……だった、かな……?)
大学生の頃、アルバイトで塾の講師をしていた事がある。
2年生の時、塾の生徒だった高2の佐藤さんに告白されて、半年ほど付き合っていた。
それまで女の子と付き合った事もなく、初めてできた彼女と過ごす事にドキドキしていたのをおぼろげに覚えている。
好きだったかと言われると、おそらく好きだったとは思う。
だけど今になってみると、初めて自分の事を好きだと言ってくれた彼女を、自分も好きだと勘違いしていたような気もする。
もしかすると、初めての経験に浮き足立っていただけなのかも知れない。
一緒にいる時は彼女の体温や柔らかさ、声や息遣いにまでドキドキするのに、離れている時は割と冷静で、切なくて胸が痛むとか、彼女の事を考えるだけで幸せだと思う事もなかった。
(あれは……恋……じゃ、なかったのかな……?)
「病院連れてくんだよ!」
「降ろして下さいよ!人を米みたいに……!」
「言う事聞かない菅谷が悪いんだろ!」
激しく言い合う二人の様子を、オバサマたちは楽しそうに笑って眺めている。
「今日のはまた一段と激しいわねぇ」
「激しさで言ったら今までで一番でしょ」
「やっぱり支部長と菅谷さんはこうでないとつまらないわね」
「久しぶりじゃない?第二支部名物、支部長対内勤さん」
二人の激しいバトルを初めて見る新人たちは、驚いてポカンとしている。
「降ろして下さい!スカートがっ……!!」
愛美がそう言うと、緒川支部長は慌ててずり上がりそうになるスカートの裾を押さえるようにして担ぎ直した。
「お姫様だっこの方が良かったか?」
「両方いやです!!とにかく降ろして下さい!」
「問答無用。このまま行くぞ」
緒川支部長が愛美を担いだまま支部を出ようとした時、支部の電話が鳴った。
「あっ、電話出ないと!降ろして下さい!」
愛美が緒川支部長の背中をボカボカ殴る。
緒川支部長は小さく舌打ちをして、愛美をそっと椅子の上に降ろした。
愛美がホッとしながら電話に出ると、相手は佐藤さんの担当地区の既契約者だった。
「佐藤さん、渡辺様からお電話です」
佐藤さんに受話器を渡すと、愛美は何事もなかったかのようにパソコンに向かう。
緒川支部長は愛美の横顔を見ながらため息をついた。
(本気で心配してるのに……。愛美はやっぱり、俺には素直になれないんだな……)
佐藤さんは保留ボタンを押して、緒川支部長の方を見た。
「渡辺さんのご主人、この後お時間あるそうです。3時半までならご自宅にいらっしゃるという事なんですけど……」
「……わかった。すぐ伺うと伝えて」
「ハイ」
佐藤さんが電話を切ると、緒川支部長はまた椅子ごと愛美の体を自分の方に向けた。
「戻ったら病院に連れていくからな」
「仕事終わったら自分で行きますからご心配なく」
「ああもう……!」
どんなに心配しても、愛美は言う事を聞こうとしない。
緒川支部長は険しい顔をして支部長席へ戻り、出掛ける準備を済ませて佐藤さんと一緒に支部を出た。
車に乗り込み少しすると、運転する緒川支部長の隣で佐藤さんがクスクス笑いだした。
「なんだ?急に笑って……」
「いえ……。菅谷さんってかわいいですね」
急に愛美の事を話題にされて、緒川支部長は動揺を必死で隠そうとした。
「そうか?でも見ただろ?菅谷は俺の事が嫌いなんだ。だからいつも反抗的な態度を取る」
「そうかな?ただ素直になれないだけじゃないですか?……お互いに」
愛美との事は何も話していないのに、二人の仲も自分の気持ちも見透かされたようで、緒川支部長は動揺を隠せない。
ウインカーを出そうとして、思わずワイパーを動かしてしまった。
「あっ……」
佐藤さんはまたクスクス笑う。
「ひろくんは私と付き合ってる時も、思ってる事、言葉にしてくれなかったもんね」
緒川支部長はバツの悪そうな顔をしてワイパーを止め、ウインカーを出した。
「何言ってるんだ……」
(そう……だった、かな……?)
大学生の頃、アルバイトで塾の講師をしていた事がある。
2年生の時、塾の生徒だった高2の佐藤さんに告白されて、半年ほど付き合っていた。
それまで女の子と付き合った事もなく、初めてできた彼女と過ごす事にドキドキしていたのをおぼろげに覚えている。
好きだったかと言われると、おそらく好きだったとは思う。
だけど今になってみると、初めて自分の事を好きだと言ってくれた彼女を、自分も好きだと勘違いしていたような気もする。
もしかすると、初めての経験に浮き足立っていただけなのかも知れない。
一緒にいる時は彼女の体温や柔らかさ、声や息遣いにまでドキドキするのに、離れている時は割と冷静で、切なくて胸が痛むとか、彼女の事を考えるだけで幸せだと思う事もなかった。
(あれは……恋……じゃ、なかったのかな……?)
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