オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

櫻井音衣

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月曜日は波乱の予感

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月曜日の朝。
いつも通り出勤した愛美は、支部のオフィスに足を踏み入れ、チラリと支部長席を見た。

   (良かった、ちゃんと来てる……)

「おはようございます」

愛美が挨拶をしても、緒川支部長はいつものように顔も上げず「おはよう」と返した。
相変わらず職場では素っ気ないなと思いながら、愛美は内勤席に着いてパソコンに社員コードを入力する。

昨日も『政弘さん』とは会えなかった。
由香と武の新居を出た後、駅まで歩く道のりで『政弘さん』に電話を掛けた。
夕方に会う約束をしていたので帰宅時間を伝えようとしたけれど、何度電話をしても『政弘さん』は電話に出なかった。
用件を伝えるためメッセージを送ってしばらく経ってから、【調子が悪いから今日は会うのやめておく】と短い返信があった。
愛美が体調を心配して【これから行きましょうか?】ともう一度送信しても、その返信は【もう寝るからいい】と、いつになく素っ気ないものだった。
『政弘さん』の事が心配ではあったけれど、体調が悪くてメッセージを送るのもしんどかったのかも知れないと思いながら自宅に帰り、冷蔵庫にあった物で簡単に夕飯を済ませた。
今朝は体調が回復したのか、緒川支部長がいつも通り出社している事に安堵した。
ちょっと疲れていたのかも知れない。

   (毎日遅くまで仕事して大変なんだもんね。あまり無理させないようにしないと)



今日から支部に3人の新人が入ってくる。
通常の場合、この仕事をしないかと誘った職員が〈親〉となって新人に仕事を教えたりサポートしたりするのだが、今回支部に来る新人のうちの一人は、〈親〉がこの支部にいない。
〈親〉の所属支部は自宅から遠く通勤に不便な事と、隣の第一支部は現在多くの新人を育成していて、他支部からの新人にまで手が回らないという理由で、この第二支部に配属される事になったそうだ。
ベテランの営業職員も多少は面倒を見るだろうが、付きっきりという訳にもいかない。
主に緒川支部長、峰岸主管、高瀬FPがその新人の割り振られた担当地区や職域、顧客宅などへ同行してサポートするらしい。
それに加え緒川支部長は、支部での研修はもちろん、営業部での新人研修も担当している。
その上今月は営業部の慰安旅行があったり、年度末で社内全体が何かと慌ただしい。
帰りが更に遅くなる日が続くだろう。
おそらく土曜日は毎週、下手をすると日曜まで出勤する事になるかも知れない。
愛美は緒川支部長が過労で倒れたりはしないかと心配になる。
緒川支部長が倒れると、第二支部の職員みんなが非常に困る。
もちろん『政弘さん』に会いたい気持ちはあるけれど、無理をして体を壊さないように、休める時にはしっかり体を休めて欲しい。
この状況では、誕生日を一緒に過ごす事など期待しない方が良さそうだ。



愛美は休憩スペースのポットを持って給湯室に向かった。
ポットをすすぎ、新しい水を入れながらふと考える。

   (そういえば……政弘さんの誕生日は増産月の真っ只中で忙しくて、ちゃんとしたお祝いはできなかったな……)

プレゼントは何がいいかと尋ねると、「愛美に洋服を選んでもらいたい」と『政弘さん』が言ったので、一緒に買い物に行く事にした。
だけどなかなか時間が取れなくて、結局まだプレゼントは渡せていない。
愛美が一人で洋服を選んで買ってきても、サイズが合わなかったり、デザインがあまり気に入らなくては困る。

   (洋服はやっぱり一緒に買いに行かなきゃダメだな……)

それがいつになるかはわからないけれど、二人きりでゆっくり過ごせる日が早く来ればいいなと愛美は思った。


水を入れたポットを持って支部に戻ると、緒川支部長が休憩スペースの奥の自販機に小銭を入れていた。
緒川支部長は自販機で缶コーヒーを買うと、布巾でテーブルを拭いている愛美の横を、目も合わせず通り過ぎて支部長席に戻る。
愛美には、その横顔がどことなく疲れて見えた。

   (たまには政弘さんと二人でゆっくり出掛けたりしたいけど、疲れてるみたいだし……今は無理を言ったらダメだよね)

緒川支部長なんか大嫌いだと思っていたのに、付き合い始めると、それも『政弘さん』の一部なのだと思うようになり、前ほど嫌いではなくなった気がする。
職場ではもちろん上司と部下という関係でしかない。
愛美は元々、恋愛とか出会いを職場に求めてはいないし、仕事は仕事、プライベートはプライベートできっちり分別をつけたいタイプだ。
だから今の関係がちょうどいい。
職場ではどんなに無茶な仕事を押し付けられて腹が立っても、仕事を離れると彼が誰よりも優しい事は知っているのだから。


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