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弱い男の嫉妬と自己嫌悪
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緒川支部長は苛立たしげにスマホを助手席に放り投げ、車を発進させた。
(俺は会いたいよ。ホントは毎日だって会いたいし、少しでも長く一緒にいたいんだ)
愛美が何も答えなかった事は寂しかった。
だけどそれ以上に、愛美を責めるような卑屈な言い方をしてしまった自分に苛立った。
(会いたいなら素直にそう言えばいいのに、なんで俺はあんな言い方をしたんだろう……)
本当は、『遅くなるけど行っていいか』と言うつもりだった。
遅くなってもいいから会いたいと愛美が言ったら、今夜は愛美を一晩中抱きしめていたいと思っていた。
だけど愛美は『仕事だから仕方ない』と、あっさりと言った。
自分が思うほど、愛美は会いたいとは思っていないのかも知れない。
いつもなら『明日会おうね』の一言で済んだはずなのに、昨日の出来事が不安に拍車をかけて、会いたい気持ちと裏腹に、愛美を突き放すような言い方をしてしまった。
嫉妬なんかしてカッコ悪いとは思うけれど、健太郎の存在がそうさせている事は、自分でもイヤというほどわかっている。
(幼馴染みがなんだよ……。昔はどうだったとしても、愛美は今、俺の事を好きだって言ってくれてるのに……)
契約手続きを済ませた後で引き留められ、奥さんの作った夕飯をご馳走になりながら、しばらく話し込んだ。
お客さんの家を出る頃には、時刻は10時になろうとしていた。
支部には寄らずこれからまっすぐ帰ったとしても、家に着く頃には11時をまわる頃だろう。
運転席に座ってエンジンを掛け、スーツの内ポケットからスマホを取り出した時、通知ランプが点滅している事に気付いた。
画面の上部にはトークアプリのアイコンが表示されている。
(…… もしかして愛美から?)
緒川支部長は慌ててトーク画面を開いた。
【お疲れ様です。
急に友達と会うことになりました。
今夜は友達の家に泊まります】
メッセージを読み終えると、緒川支部長は慌てて電話帳画面を開き、愛美の電話番号を表示した。
いつもより鼓動が速い。
(友達って誰……?あいつ……?)
ひとつ大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて、愛美に電話を掛けた。
いつもより長く続いた呼び出し音が途切れると、愛美の優しい声が耳に流れ込んだ。
『政弘さん、お疲れ様です』
「愛美……」
どこにいるのかとか、誰といるのかとか、聞きたい事はいろいろあるのに、なぜか胸の奥がしめつけられるようで言葉にならない。
ほんの少し、二人の間に沈黙が流れた。
『明日は休めそうですか?』
沈黙を破ったのは愛美だった。
「うん……」
『今、久しぶりに友達と集まってて……この後友達の家に泊まるので、帰るのは明日の夕方になりそうなんです』
「そうか……」
『政弘さん、最近ずっと忙しくて疲れてるでしょう?明日はゆっくり休んで下さい』
「うん……そうするよ」
(誰の所に泊まるのとか……愛美を疑ってるみたいで聞けないな……)
『それじゃ…おやすみなさい』
「あ……愛美!」
緒川支部長は、言い様の無い不安を拭い去ることができず、電話を切ろうとした愛美の声を思わず遮った。
『ハイ、なんですか?』
「明日の夕方、行ってもいい?」
『それじゃあ、早めに帰るようにします。明日は夕飯一緒に食べましょうね』
断られなくて良かったと心底ホッとして、緒川支部長の口元がほんの少しゆるんだ。
「うん……夕方に行くよ」
『帰る時間、またメールします』
「……うん」
もう少し愛美の声を聞いていたいけれど、仕方なくおやすみと言おうとした時。
電話越しに、ガラッと勢いよく引き戸を開ける音がした。
『おーい、早く来ないと愛美の分みんなで食っちまうぞー』
それは紛れもなく健太郎の声だった。
『ちょっと……!まだ電話中だからあっち行っててよ!邪魔しないで!!』
通話口を手で塞いだのか、愛美が健太郎をたしなめる声がくぐもった音で聞こえた。
その声がなんだかやけに楽しそうで、緒川支部長は拳をギュッと握りしめた。
「なんだそれ……」
緒川支部長は小さく呟いて電話を切り、スマホを鞄に放り込んで、苛立たしげに車を発進させた。
愛美は健太郎の名前は出さず『友達に会う』と言った。
ただの幼馴染みと会うのは、隠さなければいけないような後ろめたい事なのか。
(なんだよ……。俺とは遅くなったら会えなくても、あいつとはこんな時間まで一緒にいるんじゃん……)
緒川支部長は嫉妬の一言では片付けられないような、どうにもならない感情が胸に渦巻いて、大声でめちゃくちゃに叫びたくなる衝動を堪えながら、自宅への道のりを急いだ。
(俺は会いたいよ。ホントは毎日だって会いたいし、少しでも長く一緒にいたいんだ)
愛美が何も答えなかった事は寂しかった。
だけどそれ以上に、愛美を責めるような卑屈な言い方をしてしまった自分に苛立った。
(会いたいなら素直にそう言えばいいのに、なんで俺はあんな言い方をしたんだろう……)
本当は、『遅くなるけど行っていいか』と言うつもりだった。
遅くなってもいいから会いたいと愛美が言ったら、今夜は愛美を一晩中抱きしめていたいと思っていた。
だけど愛美は『仕事だから仕方ない』と、あっさりと言った。
自分が思うほど、愛美は会いたいとは思っていないのかも知れない。
いつもなら『明日会おうね』の一言で済んだはずなのに、昨日の出来事が不安に拍車をかけて、会いたい気持ちと裏腹に、愛美を突き放すような言い方をしてしまった。
嫉妬なんかしてカッコ悪いとは思うけれど、健太郎の存在がそうさせている事は、自分でもイヤというほどわかっている。
(幼馴染みがなんだよ……。昔はどうだったとしても、愛美は今、俺の事を好きだって言ってくれてるのに……)
契約手続きを済ませた後で引き留められ、奥さんの作った夕飯をご馳走になりながら、しばらく話し込んだ。
お客さんの家を出る頃には、時刻は10時になろうとしていた。
支部には寄らずこれからまっすぐ帰ったとしても、家に着く頃には11時をまわる頃だろう。
運転席に座ってエンジンを掛け、スーツの内ポケットからスマホを取り出した時、通知ランプが点滅している事に気付いた。
画面の上部にはトークアプリのアイコンが表示されている。
(…… もしかして愛美から?)
緒川支部長は慌ててトーク画面を開いた。
【お疲れ様です。
急に友達と会うことになりました。
今夜は友達の家に泊まります】
メッセージを読み終えると、緒川支部長は慌てて電話帳画面を開き、愛美の電話番号を表示した。
いつもより鼓動が速い。
(友達って誰……?あいつ……?)
ひとつ大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて、愛美に電話を掛けた。
いつもより長く続いた呼び出し音が途切れると、愛美の優しい声が耳に流れ込んだ。
『政弘さん、お疲れ様です』
「愛美……」
どこにいるのかとか、誰といるのかとか、聞きたい事はいろいろあるのに、なぜか胸の奥がしめつけられるようで言葉にならない。
ほんの少し、二人の間に沈黙が流れた。
『明日は休めそうですか?』
沈黙を破ったのは愛美だった。
「うん……」
『今、久しぶりに友達と集まってて……この後友達の家に泊まるので、帰るのは明日の夕方になりそうなんです』
「そうか……」
『政弘さん、最近ずっと忙しくて疲れてるでしょう?明日はゆっくり休んで下さい』
「うん……そうするよ」
(誰の所に泊まるのとか……愛美を疑ってるみたいで聞けないな……)
『それじゃ…おやすみなさい』
「あ……愛美!」
緒川支部長は、言い様の無い不安を拭い去ることができず、電話を切ろうとした愛美の声を思わず遮った。
『ハイ、なんですか?』
「明日の夕方、行ってもいい?」
『それじゃあ、早めに帰るようにします。明日は夕飯一緒に食べましょうね』
断られなくて良かったと心底ホッとして、緒川支部長の口元がほんの少しゆるんだ。
「うん……夕方に行くよ」
『帰る時間、またメールします』
「……うん」
もう少し愛美の声を聞いていたいけれど、仕方なくおやすみと言おうとした時。
電話越しに、ガラッと勢いよく引き戸を開ける音がした。
『おーい、早く来ないと愛美の分みんなで食っちまうぞー』
それは紛れもなく健太郎の声だった。
『ちょっと……!まだ電話中だからあっち行っててよ!邪魔しないで!!』
通話口を手で塞いだのか、愛美が健太郎をたしなめる声がくぐもった音で聞こえた。
その声がなんだかやけに楽しそうで、緒川支部長は拳をギュッと握りしめた。
「なんだそれ……」
緒川支部長は小さく呟いて電話を切り、スマホを鞄に放り込んで、苛立たしげに車を発進させた。
愛美は健太郎の名前は出さず『友達に会う』と言った。
ただの幼馴染みと会うのは、隠さなければいけないような後ろめたい事なのか。
(なんだよ……。俺とは遅くなったら会えなくても、あいつとはこんな時間まで一緒にいるんじゃん……)
緒川支部長は嫉妬の一言では片付けられないような、どうにもならない感情が胸に渦巻いて、大声でめちゃくちゃに叫びたくなる衝動を堪えながら、自宅への道のりを急いだ。
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