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弱い男の嫉妬と自己嫌悪
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「俺は愛美が好きだったから別れたくはなかったけど……気まずくなって幼馴染みでもいられなくなるのはもっといやだったんで、そうしようって。これまで通り幼馴染みでいるのが一番いいよなって言いました」
「ふーん……。今は?まだ菅谷の事、好きか?」
「高校卒業して俺は専門学校に進んで、愛美は大学生になって……。あきらめたつもりだったんですけどね」
健太郎の言葉に、緒川支部長の眉がピクリと動いた。
「……つもり?」
「久しぶりに会ったら、随分綺麗になっててビックリしましたよ。でも中身は昔のままで……。やっぱり愛美の事が好きだって思いました」
健太郎は挑発的な目で緒川支部長をまっすぐに見た。
「また会えたのも、すぐ近くに店を出す事になったのも何かの縁だし、本気で愛美を口説くつもりです。もし付き合ってる男がいても負けません。今度こそちゃんと俺のものにします」
その鋭い視線に耐えかねた緒川支部長は、思わず目をそらした。
(こいつ……俺に言ってる……?)
緒川支部長はその視線の意味に気付かないふりで、グラスの日本酒を一気に飲み干し席を立った。
「ちょっと飲みすぎたな……。ご馳走さま、うまかった。そろそろ帰るよ」
「また来て下さいね」
店を出て駅に向かって歩きながら、緒川支部長は奥歯をギュッと噛み締めた。
つい今しがた宣戦布告をしておきながら、しれっとした顔で笑っている健太郎に、言い様のない恐怖を感じた。
(あんな事を言われても何も言い返せないなんて……。俺ホント情けない……)
愛美を想う気持ちなら誰にも負けないはずなのに、愛美は誰にも渡さないと言えなかった。
愛美は昔からそばにいた健太郎にはすべてをさらけ出せても、自分に対してはわがままのひとつも言ってくれない事が、もう既に負けているのかも知れないと思わせた。
(もしも付き合ってるのがあいつなら、文句もわがままも言えるのか……?素直に甘えたりもできるのか……?)
だけど自分自身もまた、愛美に嫌われるのが怖くて、隠している部分がたくさんある。
本当は毎日でも会いたいし、朝も夜もずっと一緒にいたい。
愛美に近付く男がいれば狂いそうなほど嫉妬もするし、誰にも触れさせないように閉じ込めてしまいたいと思うほどの独占欲もある。
だけどつまらない嫉妬心を剥き出しにして束縛なんかしたら、愛美は愛想をつかして離れていくかも知れない。
今は、愛美に嫌われる事が何よりも怖い。
長い片想いの末にやっと手に入れた愛美を、何があっても失いたくない。
こんな情けない自分を知っても、愛美は他の誰よりも愛してくれるだろうか?
激しい嫉妬と自分への嫌悪感に苛まれながら自宅に帰りついた緒川支部長は、倒れ込むようにしてソファーに身を投げ出した。
(愛美に会いたい……。あいつのとこになんか行くんじゃなかった……)
今からでも酔った勢いに任せて、タクシーを拾って愛美の家に行こうか。
どうしても会いたかったと言えば、愛美は笑って抱きしめてくれるだろうか?
(愛美……こんなカッコ悪い俺でも、好きだって……愛してるって……言ってくれる?)
スマホを取り出して愛美の電話番号を画面に写し出し、思いきって電話を掛けた。
呼び出し音をひとつ聞くたびに、醜い感情で熱くなっていた頭が冷えていく。
『もしもし……?』
呼び出し音が途切れ愛美の声を耳にした途端、緒川支部長は取り繕うようにしていつもの『政弘さん』を演じた。
「愛美……今帰ってきたよ」
『お疲れ様です。飲みすぎてませんか?』
「少し、飲みすぎたかも……」
『大丈夫ですか?』
少し心配そうな声で愛美が尋ねた。
緒川支部長は、弱い自分を愛美にさらけ出したい衝動を必死で抑える。
(全然大丈夫なんかじゃないんだ。ホントは今すぐ愛美に会いたい……)
喉元まで出かけた言葉を飲み込んで、いつものように振る舞った。
「うん……大丈夫。明日も出勤しないといけないから、早めに寝るよ。明日仕事が早く終わったら行っていい?」
『明日、待ってます。今日はゆっくり休んで下さいね』
「うん……今日は会えなくてごめんね」
営業部長に誘われたと嘘をついた後ろめたさなのか、会いに行けなかった事への申し訳なさからなのか、気がつけば自然と謝っていた。
『仕方ないですよ。上司とのお付き合いも大事ですもんね』
「うん……。じゃあ、おやすみ」
『おやすみなさい』
電話を切った後、緒川支部長は意味もなくしばらくの間スマホを眺めていた。
(寂しかったとか、会いたかったのにとか、言ってくれないんだな……)
おもむろに立ち上がり、握りしめていたスマホをソファーに投げつけた。
苛立たしげにネクタイを外して、グシャグシャに髪をかき乱す。
(仕方ないってなんだよ……。いつも会いたいって思ってるの、俺だけ……?)
「ふーん……。今は?まだ菅谷の事、好きか?」
「高校卒業して俺は専門学校に進んで、愛美は大学生になって……。あきらめたつもりだったんですけどね」
健太郎の言葉に、緒川支部長の眉がピクリと動いた。
「……つもり?」
「久しぶりに会ったら、随分綺麗になっててビックリしましたよ。でも中身は昔のままで……。やっぱり愛美の事が好きだって思いました」
健太郎は挑発的な目で緒川支部長をまっすぐに見た。
「また会えたのも、すぐ近くに店を出す事になったのも何かの縁だし、本気で愛美を口説くつもりです。もし付き合ってる男がいても負けません。今度こそちゃんと俺のものにします」
その鋭い視線に耐えかねた緒川支部長は、思わず目をそらした。
(こいつ……俺に言ってる……?)
緒川支部長はその視線の意味に気付かないふりで、グラスの日本酒を一気に飲み干し席を立った。
「ちょっと飲みすぎたな……。ご馳走さま、うまかった。そろそろ帰るよ」
「また来て下さいね」
店を出て駅に向かって歩きながら、緒川支部長は奥歯をギュッと噛み締めた。
つい今しがた宣戦布告をしておきながら、しれっとした顔で笑っている健太郎に、言い様のない恐怖を感じた。
(あんな事を言われても何も言い返せないなんて……。俺ホント情けない……)
愛美を想う気持ちなら誰にも負けないはずなのに、愛美は誰にも渡さないと言えなかった。
愛美は昔からそばにいた健太郎にはすべてをさらけ出せても、自分に対してはわがままのひとつも言ってくれない事が、もう既に負けているのかも知れないと思わせた。
(もしも付き合ってるのがあいつなら、文句もわがままも言えるのか……?素直に甘えたりもできるのか……?)
だけど自分自身もまた、愛美に嫌われるのが怖くて、隠している部分がたくさんある。
本当は毎日でも会いたいし、朝も夜もずっと一緒にいたい。
愛美に近付く男がいれば狂いそうなほど嫉妬もするし、誰にも触れさせないように閉じ込めてしまいたいと思うほどの独占欲もある。
だけどつまらない嫉妬心を剥き出しにして束縛なんかしたら、愛美は愛想をつかして離れていくかも知れない。
今は、愛美に嫌われる事が何よりも怖い。
長い片想いの末にやっと手に入れた愛美を、何があっても失いたくない。
こんな情けない自分を知っても、愛美は他の誰よりも愛してくれるだろうか?
激しい嫉妬と自分への嫌悪感に苛まれながら自宅に帰りついた緒川支部長は、倒れ込むようにしてソファーに身を投げ出した。
(愛美に会いたい……。あいつのとこになんか行くんじゃなかった……)
今からでも酔った勢いに任せて、タクシーを拾って愛美の家に行こうか。
どうしても会いたかったと言えば、愛美は笑って抱きしめてくれるだろうか?
(愛美……こんなカッコ悪い俺でも、好きだって……愛してるって……言ってくれる?)
スマホを取り出して愛美の電話番号を画面に写し出し、思いきって電話を掛けた。
呼び出し音をひとつ聞くたびに、醜い感情で熱くなっていた頭が冷えていく。
『もしもし……?』
呼び出し音が途切れ愛美の声を耳にした途端、緒川支部長は取り繕うようにしていつもの『政弘さん』を演じた。
「愛美……今帰ってきたよ」
『お疲れ様です。飲みすぎてませんか?』
「少し、飲みすぎたかも……」
『大丈夫ですか?』
少し心配そうな声で愛美が尋ねた。
緒川支部長は、弱い自分を愛美にさらけ出したい衝動を必死で抑える。
(全然大丈夫なんかじゃないんだ。ホントは今すぐ愛美に会いたい……)
喉元まで出かけた言葉を飲み込んで、いつものように振る舞った。
「うん……大丈夫。明日も出勤しないといけないから、早めに寝るよ。明日仕事が早く終わったら行っていい?」
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「うん……今日は会えなくてごめんね」
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『仕方ないですよ。上司とのお付き合いも大事ですもんね』
「うん……。じゃあ、おやすみ」
『おやすみなさい』
電話を切った後、緒川支部長は意味もなくしばらくの間スマホを眺めていた。
(寂しかったとか、会いたかったのにとか、言ってくれないんだな……)
おもむろに立ち上がり、握りしめていたスマホをソファーに投げつけた。
苛立たしげにネクタイを外して、グシャグシャに髪をかき乱す。
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