上 下
8 / 57
幼馴染みは料理のできる男

しおりを挟む
「それより、幼馴染みの彼に毎日お弁当作ってもらえば?」
「結婚したらお昼だけじゃなくて朝も晩も作ってくれるんじゃない?」

結局そこかと、愛美は大きなため息をついた。

「何言ってるんですか……。ホントにそういうんじゃないです」

   (さっさと食べ終わって自分の席に戻った方が良さそう……)

愛美が宮本さんと竹山さんに散々ひやかされながら急いでお弁当を食べていると、緒川支部長が休憩スペースに近付いてきた。
緒川支部長はポケットから小銭を出しながら、チラリと宮本さんと竹山さんを見た。

「二人とも、今日はまだ一件も訪問してないのにいつまで飯食ってんの。食べるよりしゃべる方で口が忙しそうに見えるけど?」
「すみませーん。これ食べ終わったらすぐ職域に行きまーす」
「私も地区をまわりまーす」
「さっさとしないと日が暮れるよ」

自販機で缶コーヒーを買うと、緒川支部長は支部長席に戻って行った。

「支部長は料理なんてしなさそうね」

残りのおかずを口に運びながら宮本さんが呟くと、竹山さんもふりかけのかかった御飯を口に入れてうなずいた。

「亭主関白になりそう。奥さんが具合悪くても『飯はまだか!』とか言ってね」

宮本さんは食べ終わったお弁当箱をナフキンで包みながら、支部長の方をチラッと見た。

「夫にするならやっぱり、料理上手な優しい人がいいわね、菅谷さん」
「ええっ……」

   (だから私に振るなってば!)

さっきまで小声で話していた宮本さんに突然大きな声で話しかけられた愛美は、からになった弁当容器を思わず落としそうになった。

「そりゃまあ……できないよりは、できるに越した事はないですけど……」
「ねーっ、そうよね!今時、男の人だって料理くらいはできないとね!共働きなら尚更よ!」
「外に出て働いてるのは同じなのに、主婦は家に帰れば家事も育児もしなきゃいけないのよ。せめて具合が悪い時くらいは食事の用意して欲しいでしょ?」
「そう……ですね……?」

   (そんなのよくわかんないよ、私まだ独身だし……)

「菅谷さんも結婚相手はちゃんと選んだ方がいいわよー!」
「間違っても、一人じゃなんにもできない人は選んじゃダメだからね!」
「はぁ……。覚えておきます……」

独身の自分にはまだよくわからないけれど、これが世の中の仕事を持つ主婦の本音なのかも知れないと思いながら、愛美はコーヒーを淹れて内勤席に戻った。


コーヒーを飲んで一息ついた後、愛美はいくつかの封書と支部の財布を持って席を立った。
緒川支部長が顔を上げる。

「菅谷、出掛けるのか?」
「郵便局に行ってきます。何かついでがあれば……」
「いや……俺も昼飯買いに行こうと思ったんだけど……。高瀬、まだもう少し支部に居るか?」

緒川支部長に声を掛けられ、お茶を飲んでいた高瀬FPがニコリと笑った。

「ハイ。留守番してますから、どうぞ行ってきて下さい」

お弁当くらい頼めばいいのにと、愛美が首をかしげた時。

「失礼しまーす」

大きな声に振り返ると、支部の入り口に健太郎が立っていた。

   (げっ、健太郎!!一体なんの用だ?!)

「あ、愛美!もう飯食った?」
「食べたけど……」
「そっかぁ、一足遅かったな」
「何が?」

愛美が尋ねると、健太郎は手に持っていたビニール袋を差し出した。

「これ、ランチの試作。愛美に味見してもらおうかと思って持って来たんだけど……。さすがにもう食えないよなぁ」
「うん、無理。お腹いっぱい」
「どうしようか……。誰か昼飯まだの人、いないかな」
「あ、それなら支部長が……」

愛美は振り返って緒川支部長を見上げた。

「支部長、あれもらったらどうですか?」
「え……俺が?」

健太郎はニコニコしながら近付いてきて、緒川支部長にランチの試作品の入ったビニール袋を差し出した。

「良かったらどうぞ!」
「えっと……いくらかな?」
「試作品なんでお金はいいです。その代わりと言ったらなんですけど、感想聞かせてもらえたら助かります」
「わかった。それじゃあ遠慮なくいただきます」

健太郎から試作品を受け取り、出掛ける必要がなくなった緒川支部長は、それを持って休憩スペースに向かった。

「じゃあ、私は郵便局に行ってきます」

愛美が支部を出ようとすると、健太郎がその後に続く。

「愛美、俺も店に戻るからそこまで一緒に行こう。それじゃあ失礼します」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オフィスにラブは落ちてねぇ!!

櫻井音衣
恋愛
会社は賃金を得るために 労働する場所であって、 異性との出会いや恋愛を求めて 来る場所ではない。 そこにあるのは 仕事としがらみと 面倒な人間関係だけだ。 『オフィスにはラブなんて落ちていない』 それが持論。 過去のつらい恋愛経験で心が荒み、 顔で笑っていつも心で毒を吐く ある保険会社の支部に勤める内勤事務員 菅谷 愛美 26歳 独身。 好みのタイプは 真面目で優しくて性格の穏やかな 草食系眼鏡男子。 とにかく俺様タイプの男は大嫌い!! この上なく大嫌いな 無駄にデカくて胡散臭い イケメンエリート俺様上司から、 彼女になれと一方的に言われ……。 あの男だけは、絶対にイヤだ!!

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

秘密の恋

美希みなみ
恋愛
番外編更新はじめました(*ノωノ) 笠井瑞穂 25歳 東洋不動産 社長秘書 高倉由幸 31歳 東洋不動産 代表取締役社長 一途に由幸に思いをよせる、どこにでもいそうなOL瑞穂。 瑞穂は諦めるための最後の賭けに出た。 思いが届かなくても一度だけ…。 これで、あなたを諦めるから……。 短編ショートストーリーです。 番外編で由幸のお話を追加予定です。

処理中です...