オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

櫻井音衣

文字の大きさ
上 下
7 / 57
幼馴染みは料理のできる男

しおりを挟む
愛美が否定しようとすればするほど、オバサマたちはニヤニヤと楽しそうにしている。

「ホントになんでもないですから!」

   (ああもうしつこい!!仕事しろ、仕事!!)

「お似合いだって。俺らマジで付き合っちゃう?」

健太郎の能天気な一言が、愛美のイライラに拍車を掛けた。

「そういえば、大人になったら結婚しようって約束しなかったっけ?」

   (このバカ!!いつの話だ!!)

ついに我慢の限界に達した愛美は、健太郎の腕を強く掴んで廊下に引っ張り出した。

「いてーよ、愛美!!」
「調子に乗るな、健太郎!!仕事の邪魔だ、宣伝してさっさと出てけ!」
「なんだよー……そんなに怒る事ないじゃん」
「健太郎が余計な事言うからだよ」

愛美は掴んでいた健太郎の腕を離し、ひとつ大きく深呼吸をして支部のオフィスに戻った。
オバサマたちはニヤニヤしながら愛美を見ている。

   (やりにくいなぁ、もう……。健太郎が変な事言うから……)

愛美がなんともないふうを装って内勤席に着くと、緒川支部長が立ち上がった。

赤木アカギさん、そんなにのんびりしてて間に合うのか?」

さっきまで愛美を冷やかしていた赤木さんが時計を見て、慌てた様子でバッグにノートパソコンと書類を詰め込んだ。

「大変、もうこんな時間!急いで出ます!!」
川本カワモトさん、今月の見込み客リストがまだ出てない。増産月が終わったからって気を抜いちゃダメだろ。今日中に出して」
「ハイッ、すみません」

赤木さんと一緒になって面白がっていた川本さんが、慌てて席に着きパソコンに向かった。
緒川支部長は小さくため息をついて、内勤席に近付いてくる。
仕事中に騒いでいた事を咎められるのかと愛美がヒヤヒヤしていると、緒川支部長は黙って書類を差し出した。

「菅谷、これ頼む」
「ハイ……急ぎですか?」
「いや、今日中でいい」

緒川支部長は書類を手渡すと、目も合わせずに支部長席に戻っていく。
いつもとなんとなく違う緒川支部長の態度に、愛美は首をかしげた。



お昼時。
愛美は支部の休憩スペースで、営業職員のオバサマたちと一緒に、近所の弁当屋で買ってきた唐揚げ弁当を食べていた。
増産月が終わったばかりのせいか、今日はのんびりしている職員が多い。
宮本ミヤモトさんと竹山タケヤマさんが手作りのお弁当を食べながら、休憩スペースのテーブルの上に置いてあった『居酒屋 やまねこ』のチラシを眺めている。

「ランチもやるのね。オープンしたらみんなで行かない?」
「たまには外でランチもいいわねぇ。菅谷さんも行きましょうよ」
「いえ、お昼時は職員さんもほとんど出られてますし、私はそんなに長く支部を留守にする訳にはいかないので……」
「そう……残念だわぁ」
「菅谷さんのお友達のお店なんでしょ?」
「そうなんです。私はランチには一緒に行けないけど、皆さんはぜひ行ってやって下さい」

愛美がそう言うと、宮本さんと竹山さんは愛美を見て笑った。

「大人になっても仲良くできる幼馴染みがいるっていいわね」
「仲良くって言っても……会ったのは成人式の日以来ですよ。その前も高校の卒業式以来会ってなかったし……」
「そうなの?ホントに付き合っちゃおうかなんて言ってたけど、付き合うの?」
「まさかっ、付き合いませんよ!!」

愛美が慌てて否定すると、宮本さんが楽しそうに身を乗り出した。

「あらー、どうして?料理上手なイケメンなのにもったいないわよ?」
「いい旦那さんになりそうなのにねぇ」
「旦那さんって……」

   (ああもう……。主婦はこの手の話、ホントに好きだな……。ときめきに飢えてるのか?)

宮本さんはお弁当の卵焼きを箸で摘まみながら、愛美の唐揚げ弁当を見た。

「菅谷さん、お昼はいつもあのお弁当屋で?」
「たまに角のパン屋でパンを買う事もありますけど、お弁当買ってくる事が多いですね」
「お昼代だけでも馬鹿にならないでしょ?」
「でも毎朝作るのが面倒で」
「子供のお弁当ならかわいくしたりもしなきゃいけないけど、自分用のお弁当なんてなんでもいいのよ」

竹山さんも炒め物を口に運びながらうなずく。

「そうそう。前の晩におかずを多めに作っておいて詰めたりね」
「そんなものですか?」
「そんなものよ」

確かに自分でお弁当を作れば昼食代を浮かす事ができるなと思いながら、愛美は唐揚げを口に運んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...