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幼馴染みは料理のできる男
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愛美が否定しようとすればするほど、オバサマたちはニヤニヤと楽しそうにしている。
「ホントになんでもないですから!」
(ああもうしつこい!!仕事しろ、仕事!!)
「お似合いだって。俺らマジで付き合っちゃう?」
健太郎の能天気な一言が、愛美のイライラに拍車を掛けた。
「そういえば、大人になったら結婚しようって約束しなかったっけ?」
(このバカ!!いつの話だ!!)
ついに我慢の限界に達した愛美は、健太郎の腕を強く掴んで廊下に引っ張り出した。
「いてーよ、愛美!!」
「調子に乗るな、健太郎!!仕事の邪魔だ、宣伝してさっさと出てけ!」
「なんだよー……そんなに怒る事ないじゃん」
「健太郎が余計な事言うからだよ」
愛美は掴んでいた健太郎の腕を離し、ひとつ大きく深呼吸をして支部のオフィスに戻った。
オバサマたちはニヤニヤしながら愛美を見ている。
(やりにくいなぁ、もう……。健太郎が変な事言うから……)
愛美がなんともないふうを装って内勤席に着くと、緒川支部長が立ち上がった。
「赤木さん、そんなにのんびりしてて間に合うのか?」
さっきまで愛美を冷やかしていた赤木さんが時計を見て、慌てた様子でバッグにノートパソコンと書類を詰め込んだ。
「大変、もうこんな時間!急いで出ます!!」
「川本さん、今月の見込み客リストがまだ出てない。増産月が終わったからって気を抜いちゃダメだろ。今日中に出して」
「ハイッ、すみません」
赤木さんと一緒になって面白がっていた川本さんが、慌てて席に着きパソコンに向かった。
緒川支部長は小さくため息をついて、内勤席に近付いてくる。
仕事中に騒いでいた事を咎められるのかと愛美がヒヤヒヤしていると、緒川支部長は黙って書類を差し出した。
「菅谷、これ頼む」
「ハイ……急ぎですか?」
「いや、今日中でいい」
緒川支部長は書類を手渡すと、目も合わせずに支部長席に戻っていく。
いつもとなんとなく違う緒川支部長の態度に、愛美は首をかしげた。
お昼時。
愛美は支部の休憩スペースで、営業職員のオバサマたちと一緒に、近所の弁当屋で買ってきた唐揚げ弁当を食べていた。
増産月が終わったばかりのせいか、今日はのんびりしている職員が多い。
宮本さんと竹山さんが手作りのお弁当を食べながら、休憩スペースのテーブルの上に置いてあった『居酒屋 やまねこ』のチラシを眺めている。
「ランチもやるのね。オープンしたらみんなで行かない?」
「たまには外でランチもいいわねぇ。菅谷さんも行きましょうよ」
「いえ、お昼時は職員さんもほとんど出られてますし、私はそんなに長く支部を留守にする訳にはいかないので……」
「そう……残念だわぁ」
「菅谷さんのお友達のお店なんでしょ?」
「そうなんです。私はランチには一緒に行けないけど、皆さんはぜひ行ってやって下さい」
愛美がそう言うと、宮本さんと竹山さんは愛美を見て笑った。
「大人になっても仲良くできる幼馴染みがいるっていいわね」
「仲良くって言っても……会ったのは成人式の日以来ですよ。その前も高校の卒業式以来会ってなかったし……」
「そうなの?ホントに付き合っちゃおうかなんて言ってたけど、付き合うの?」
「まさかっ、付き合いませんよ!!」
愛美が慌てて否定すると、宮本さんが楽しそうに身を乗り出した。
「あらー、どうして?料理上手なイケメンなのにもったいないわよ?」
「いい旦那さんになりそうなのにねぇ」
「旦那さんって……」
(ああもう……。主婦はこの手の話、ホントに好きだな……。ときめきに飢えてるのか?)
宮本さんはお弁当の卵焼きを箸で摘まみながら、愛美の唐揚げ弁当を見た。
「菅谷さん、お昼はいつもあのお弁当屋で?」
「たまに角のパン屋でパンを買う事もありますけど、お弁当買ってくる事が多いですね」
「お昼代だけでも馬鹿にならないでしょ?」
「でも毎朝作るのが面倒で」
「子供のお弁当ならかわいくしたりもしなきゃいけないけど、自分用のお弁当なんてなんでもいいのよ」
竹山さんも炒め物を口に運びながらうなずく。
「そうそう。前の晩におかずを多めに作っておいて詰めたりね」
「そんなものですか?」
「そんなものよ」
確かに自分でお弁当を作れば昼食代を浮かす事ができるなと思いながら、愛美は唐揚げを口に運んだ。
「ホントになんでもないですから!」
(ああもうしつこい!!仕事しろ、仕事!!)
「お似合いだって。俺らマジで付き合っちゃう?」
健太郎の能天気な一言が、愛美のイライラに拍車を掛けた。
「そういえば、大人になったら結婚しようって約束しなかったっけ?」
(このバカ!!いつの話だ!!)
ついに我慢の限界に達した愛美は、健太郎の腕を強く掴んで廊下に引っ張り出した。
「いてーよ、愛美!!」
「調子に乗るな、健太郎!!仕事の邪魔だ、宣伝してさっさと出てけ!」
「なんだよー……そんなに怒る事ないじゃん」
「健太郎が余計な事言うからだよ」
愛美は掴んでいた健太郎の腕を離し、ひとつ大きく深呼吸をして支部のオフィスに戻った。
オバサマたちはニヤニヤしながら愛美を見ている。
(やりにくいなぁ、もう……。健太郎が変な事言うから……)
愛美がなんともないふうを装って内勤席に着くと、緒川支部長が立ち上がった。
「赤木さん、そんなにのんびりしてて間に合うのか?」
さっきまで愛美を冷やかしていた赤木さんが時計を見て、慌てた様子でバッグにノートパソコンと書類を詰め込んだ。
「大変、もうこんな時間!急いで出ます!!」
「川本さん、今月の見込み客リストがまだ出てない。増産月が終わったからって気を抜いちゃダメだろ。今日中に出して」
「ハイッ、すみません」
赤木さんと一緒になって面白がっていた川本さんが、慌てて席に着きパソコンに向かった。
緒川支部長は小さくため息をついて、内勤席に近付いてくる。
仕事中に騒いでいた事を咎められるのかと愛美がヒヤヒヤしていると、緒川支部長は黙って書類を差し出した。
「菅谷、これ頼む」
「ハイ……急ぎですか?」
「いや、今日中でいい」
緒川支部長は書類を手渡すと、目も合わせずに支部長席に戻っていく。
いつもとなんとなく違う緒川支部長の態度に、愛美は首をかしげた。
お昼時。
愛美は支部の休憩スペースで、営業職員のオバサマたちと一緒に、近所の弁当屋で買ってきた唐揚げ弁当を食べていた。
増産月が終わったばかりのせいか、今日はのんびりしている職員が多い。
宮本さんと竹山さんが手作りのお弁当を食べながら、休憩スペースのテーブルの上に置いてあった『居酒屋 やまねこ』のチラシを眺めている。
「ランチもやるのね。オープンしたらみんなで行かない?」
「たまには外でランチもいいわねぇ。菅谷さんも行きましょうよ」
「いえ、お昼時は職員さんもほとんど出られてますし、私はそんなに長く支部を留守にする訳にはいかないので……」
「そう……残念だわぁ」
「菅谷さんのお友達のお店なんでしょ?」
「そうなんです。私はランチには一緒に行けないけど、皆さんはぜひ行ってやって下さい」
愛美がそう言うと、宮本さんと竹山さんは愛美を見て笑った。
「大人になっても仲良くできる幼馴染みがいるっていいわね」
「仲良くって言っても……会ったのは成人式の日以来ですよ。その前も高校の卒業式以来会ってなかったし……」
「そうなの?ホントに付き合っちゃおうかなんて言ってたけど、付き合うの?」
「まさかっ、付き合いませんよ!!」
愛美が慌てて否定すると、宮本さんが楽しそうに身を乗り出した。
「あらー、どうして?料理上手なイケメンなのにもったいないわよ?」
「いい旦那さんになりそうなのにねぇ」
「旦那さんって……」
(ああもう……。主婦はこの手の話、ホントに好きだな……。ときめきに飢えてるのか?)
宮本さんはお弁当の卵焼きを箸で摘まみながら、愛美の唐揚げ弁当を見た。
「菅谷さん、お昼はいつもあのお弁当屋で?」
「たまに角のパン屋でパンを買う事もありますけど、お弁当買ってくる事が多いですね」
「お昼代だけでも馬鹿にならないでしょ?」
「でも毎朝作るのが面倒で」
「子供のお弁当ならかわいくしたりもしなきゃいけないけど、自分用のお弁当なんてなんでもいいのよ」
竹山さんも炒め物を口に運びながらうなずく。
「そうそう。前の晩におかずを多めに作っておいて詰めたりね」
「そんなものですか?」
「そんなものよ」
確かに自分でお弁当を作れば昼食代を浮かす事ができるなと思いながら、愛美は唐揚げを口に運んだ。
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