3 / 57
無糖カフェオレと甘いイチゴ
3
しおりを挟む
『政弘さん』と愛美が付き合い始めて4か月。
過去のつらい恋愛のトラウマで俺様男が大嫌いな愛美にとって、緒川支部長が嫌いな上司である事は変わらない。
会社では相変わらず俺様で無愛想な緒川支部長だが、仕事を終えてスーツを脱ぎ、シャワーを浴びてきっちりと整えた髪を下ろし、コンタクトレンズを外して眼鏡を掛け普段の姿になると、愛美の大好きな優しい『政弘さん』になる。
支部に所属しているたくさんの営業職員の上に立つ支部長という仕事柄、帰りが遅くなったり休日も出勤したりと多忙ではあるが、仕事の後や休みの日を一緒に過ごす時の『政弘さん』は穏やかに笑い、これでもかと言うほど甘くて優しい。
愛美はいつも、大好きな『政弘さん』の腕の中で大事にされている幸せを噛みしめている。
「今日は何作ったの?」
「中華丼です。すぐ用意しますね」
『政弘さん』はダイニングセットの椅子に座ると、キッチンに立つ愛美の背中を愛しそうに眺めた。
愛美が二つのどんぶりによそった中華丼とお茶をトレイに乗せて振り返ると、ニコニコしながらこちらを眺めている『政弘さん』と目が合う。
「ん?どうかしました?」
「いや……。ずっと忙しかったからなかなか会えなかったし、愛美の作った夕飯ご馳走になるのも久しぶりだなーって」
緒川支部長とは会社で毎日顔を合わせるけれど、たしかに“政弘さん”と会うのは久しぶりだ。
「ホントですね。じゃあ、たくさん食べてください」
中華丼をテーブルに置くと、『政弘さん』は目を輝かせてスプーンを手に取った。
「食べていい?」
「どうぞ」
「いただきます!!」
『政弘さん』は嬉しそうに中華丼をスプーンですくって口に運んだ。
「美味い!」
「良かった。おかわりありますよ」
自分の手料理を美味しそうに食べてくれる『政弘さん』を見るたび、こんなところは子供みたいでかわいいと愛美は思う。
(この顔を見てるだけで幸せな気分になっちゃう……)
食後のデザートに、洗って器に盛り付けたイチゴをテーブルの上に置くと、『政弘さん』がフォークで刺したイチゴを愛美の口元に運んだ。
「自分で食べられますよ?」
「いいから口開けて。ハイ、あーん」
愛美が少し照れ臭そうに口を開くと、『政弘さん』は愛美の口の中にそっとイチゴを入れて微笑んだ。
「美味しい?」
愛美は口をモグモグさせながらうなずき、口の中のイチゴを飲み込んだ。
「すっごく甘いです!」
「良かった。これ全部愛美が食べていいんだよ?」
「えっ、全部は多すぎます!せっかくだから政弘さんも一緒に食べましょう」
「じゃあ……」
『政弘さん』は少し身を乗り出して、口を開けた。
「え?」
「俺にも」
愛美がイチゴを食べさせてあげると、『政弘さん』は嬉しそうに笑う。
(政弘さん、時々甘えん坊になるな……。そういうところもかわいいんだけど……)
二人でイチゴを食べ、紅茶を飲みながら話していると、話題は自然と仕事の事になった。
「それにしても……今日の夕方の契約書類はすごい数でしたね」
「ああ……ごめんね、ギリギリなってあんな数……。大変だっただろ?」
「まぁ……あれが私の仕事ですからね。あんなにたくさんどうしたんですか?」
「俺のお客さんがエステサロン経営しててね。前からスタッフに保険の話をさせて欲しいって頼んでたんだ」
エステサロンと聞いて、道理で契約者が女の人ばかりだったはずだと愛美は納得した。
「先週別の用があって連絡したら、今日なら店は閉めて店内で研修とかするから来ていいよって。その時に保険のタイプとか付加する特約を選んでもらったり説明したり……。で、今日まとめて手続きしてきた」
「既契約者からの紹介とは言え、職域開拓しちゃうなんてすごいですね。担当はやっぱり……」
「オーナーの希望でもあるし、当分は俺が担当するけど、いずれは支部の誰かに任せるつもり。俺が契約もらっても個人の成績にはならないから」
女性ばかりの職場に、若くてイケメンでおまけに独身の緒川支部長が訪問するとなると、きっとそのエステサロンの女性スタッフたちは色めき立つのだろう。
(しかもエステサロン……。きっときれいな人ばっかりなんだろうな……。支部長は嫌いだけど、中身は政弘さんだと思うとなんか複雑……)
過去のつらい恋愛のトラウマで俺様男が大嫌いな愛美にとって、緒川支部長が嫌いな上司である事は変わらない。
会社では相変わらず俺様で無愛想な緒川支部長だが、仕事を終えてスーツを脱ぎ、シャワーを浴びてきっちりと整えた髪を下ろし、コンタクトレンズを外して眼鏡を掛け普段の姿になると、愛美の大好きな優しい『政弘さん』になる。
支部に所属しているたくさんの営業職員の上に立つ支部長という仕事柄、帰りが遅くなったり休日も出勤したりと多忙ではあるが、仕事の後や休みの日を一緒に過ごす時の『政弘さん』は穏やかに笑い、これでもかと言うほど甘くて優しい。
愛美はいつも、大好きな『政弘さん』の腕の中で大事にされている幸せを噛みしめている。
「今日は何作ったの?」
「中華丼です。すぐ用意しますね」
『政弘さん』はダイニングセットの椅子に座ると、キッチンに立つ愛美の背中を愛しそうに眺めた。
愛美が二つのどんぶりによそった中華丼とお茶をトレイに乗せて振り返ると、ニコニコしながらこちらを眺めている『政弘さん』と目が合う。
「ん?どうかしました?」
「いや……。ずっと忙しかったからなかなか会えなかったし、愛美の作った夕飯ご馳走になるのも久しぶりだなーって」
緒川支部長とは会社で毎日顔を合わせるけれど、たしかに“政弘さん”と会うのは久しぶりだ。
「ホントですね。じゃあ、たくさん食べてください」
中華丼をテーブルに置くと、『政弘さん』は目を輝かせてスプーンを手に取った。
「食べていい?」
「どうぞ」
「いただきます!!」
『政弘さん』は嬉しそうに中華丼をスプーンですくって口に運んだ。
「美味い!」
「良かった。おかわりありますよ」
自分の手料理を美味しそうに食べてくれる『政弘さん』を見るたび、こんなところは子供みたいでかわいいと愛美は思う。
(この顔を見てるだけで幸せな気分になっちゃう……)
食後のデザートに、洗って器に盛り付けたイチゴをテーブルの上に置くと、『政弘さん』がフォークで刺したイチゴを愛美の口元に運んだ。
「自分で食べられますよ?」
「いいから口開けて。ハイ、あーん」
愛美が少し照れ臭そうに口を開くと、『政弘さん』は愛美の口の中にそっとイチゴを入れて微笑んだ。
「美味しい?」
愛美は口をモグモグさせながらうなずき、口の中のイチゴを飲み込んだ。
「すっごく甘いです!」
「良かった。これ全部愛美が食べていいんだよ?」
「えっ、全部は多すぎます!せっかくだから政弘さんも一緒に食べましょう」
「じゃあ……」
『政弘さん』は少し身を乗り出して、口を開けた。
「え?」
「俺にも」
愛美がイチゴを食べさせてあげると、『政弘さん』は嬉しそうに笑う。
(政弘さん、時々甘えん坊になるな……。そういうところもかわいいんだけど……)
二人でイチゴを食べ、紅茶を飲みながら話していると、話題は自然と仕事の事になった。
「それにしても……今日の夕方の契約書類はすごい数でしたね」
「ああ……ごめんね、ギリギリなってあんな数……。大変だっただろ?」
「まぁ……あれが私の仕事ですからね。あんなにたくさんどうしたんですか?」
「俺のお客さんがエステサロン経営しててね。前からスタッフに保険の話をさせて欲しいって頼んでたんだ」
エステサロンと聞いて、道理で契約者が女の人ばかりだったはずだと愛美は納得した。
「先週別の用があって連絡したら、今日なら店は閉めて店内で研修とかするから来ていいよって。その時に保険のタイプとか付加する特約を選んでもらったり説明したり……。で、今日まとめて手続きしてきた」
「既契約者からの紹介とは言え、職域開拓しちゃうなんてすごいですね。担当はやっぱり……」
「オーナーの希望でもあるし、当分は俺が担当するけど、いずれは支部の誰かに任せるつもり。俺が契約もらっても個人の成績にはならないから」
女性ばかりの職場に、若くてイケメンでおまけに独身の緒川支部長が訪問するとなると、きっとそのエステサロンの女性スタッフたちは色めき立つのだろう。
(しかもエステサロン……。きっときれいな人ばっかりなんだろうな……。支部長は嫌いだけど、中身は政弘さんだと思うとなんか複雑……)
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる