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無糖カフェオレと甘いイチゴ
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増産月の今月も無事に支部の契約額の目標を達成した職員たちに緒川支部長が労いの言葉を掛け、夕礼は手短に終わった。
そして締め切り日恒例の支部長からの差し入れとコーヒーで、ささやかな打ち上げが開かれた。
今日の差し入れはシュークリームとエクレア。
営業職員のオバサマたちは美味しそうに食べているが、甘い物の苦手な愛美はその甘い香りにゲンナリしながら、バッグを手に立ち上がった。
「それでは私はこれで失礼します」
「あら?菅谷さんは食べないの?」
シュークリームを手に、世話焼きで有名な営業職員の金井さんが愛美に声を掛けた。
「いえ、私は……」
「じゃあ持って帰って……と思ったけど、菅谷さんの分がないわ!ねえ、誰か余分に取ってないー?菅谷さんの分が足りないのよー」
金井さんがみんなに声を掛けて回るのを、愛美は慌てて止めた。
「金井さん、ホントに私はいいですから。ゆっくり召し上がって下さい」
「そう?でも菅谷さん頑張ってくれたのに気の毒ねぇ……」
金井さんが再び椅子に座ると、緒川支部長が愛美の横に来て、スッと何かを差し出した。
「お疲れ」
「どうも……」
受け取るとそれは、無糖のカフェオレ。
普段は支部のインスタントコーヒーを飲んでいるが、支部にある自販機の中の飲み物で唯一、愛美がたまに買う物がそれだった。
(見てないようで見てるんだ)
「温かいうちに飲んでけ」
「はぁ……。いただきます……」
緒川支部長が支部長席に戻ると、愛美は休憩スペースの空いている席に座ってタブを空けた。
「もしかして……菅谷さん、甘い物は苦手なんですか?」
隣に座っていた高瀬FPが小声で尋ねた。
「ハイ……じつは」
「だからかぁ……。支部長からおつかい頼まれた時にね、数が足りないって言ったら、それで合ってるって言われたんですよ。その時はおかしいなぁと思ったんですけど……そういう事なんですね」
愛美は高瀬FPの言葉を聞きながら、少し照れくさそうにカフェオレを飲んだ。
(私が甘い物好きじゃないの知ってるから、最初から数に入ってないわけね)
愛美が自宅に戻り、夕飯の支度を終えた頃、玄関のチャイムが鳴った。
ドアモニターで背の高いその人の姿を確認した愛美は、満面の笑みで玄関のドアを開けた。
「政弘さん!」
『政弘さん』も愛美の笑顔を見て嬉しそうに笑い、玄関のドアを後ろ手に閉めて愛美の額にキスをした。
「ハイ、これ」
『政弘さん』が差し出した袋の中を覗くと、粒が大きく高そうなイチゴが入っていて、甘くみずみずしい香りが辺りに漂う。
「わぁ、美味しそうなイチゴ……」
「支部ではあげられなかったけど、愛美には甘いお菓子より果物の方がいいかなって。今月もお疲れ様」
甘いお菓子は苦手だが果物は大好きな愛美のために、『政弘さん』自らわざわざお店に足を運んでくれたのだと思うと素直に嬉しい。
(政弘さん、ホントに優しい……)
「ありがとうございます。後で一緒に食べましょうね」
玄関で靴を脱ぎながら、『政弘さん』は鼻をクンクンさせた。
「美味しそうな匂いがしてる」
「夕飯まだですよね?一緒に食べましょう」
「うん!」
『政弘さん』が嬉しそうにうなずくと、愛美はクスクス笑った。
(やっぱり犬みたいでかわいい……。鼻クンクンさせて嬉しそうに耳立てて尻尾振ってる……)
そして締め切り日恒例の支部長からの差し入れとコーヒーで、ささやかな打ち上げが開かれた。
今日の差し入れはシュークリームとエクレア。
営業職員のオバサマたちは美味しそうに食べているが、甘い物の苦手な愛美はその甘い香りにゲンナリしながら、バッグを手に立ち上がった。
「それでは私はこれで失礼します」
「あら?菅谷さんは食べないの?」
シュークリームを手に、世話焼きで有名な営業職員の金井さんが愛美に声を掛けた。
「いえ、私は……」
「じゃあ持って帰って……と思ったけど、菅谷さんの分がないわ!ねえ、誰か余分に取ってないー?菅谷さんの分が足りないのよー」
金井さんがみんなに声を掛けて回るのを、愛美は慌てて止めた。
「金井さん、ホントに私はいいですから。ゆっくり召し上がって下さい」
「そう?でも菅谷さん頑張ってくれたのに気の毒ねぇ……」
金井さんが再び椅子に座ると、緒川支部長が愛美の横に来て、スッと何かを差し出した。
「お疲れ」
「どうも……」
受け取るとそれは、無糖のカフェオレ。
普段は支部のインスタントコーヒーを飲んでいるが、支部にある自販機の中の飲み物で唯一、愛美がたまに買う物がそれだった。
(見てないようで見てるんだ)
「温かいうちに飲んでけ」
「はぁ……。いただきます……」
緒川支部長が支部長席に戻ると、愛美は休憩スペースの空いている席に座ってタブを空けた。
「もしかして……菅谷さん、甘い物は苦手なんですか?」
隣に座っていた高瀬FPが小声で尋ねた。
「ハイ……じつは」
「だからかぁ……。支部長からおつかい頼まれた時にね、数が足りないって言ったら、それで合ってるって言われたんですよ。その時はおかしいなぁと思ったんですけど……そういう事なんですね」
愛美は高瀬FPの言葉を聞きながら、少し照れくさそうにカフェオレを飲んだ。
(私が甘い物好きじゃないの知ってるから、最初から数に入ってないわけね)
愛美が自宅に戻り、夕飯の支度を終えた頃、玄関のチャイムが鳴った。
ドアモニターで背の高いその人の姿を確認した愛美は、満面の笑みで玄関のドアを開けた。
「政弘さん!」
『政弘さん』も愛美の笑顔を見て嬉しそうに笑い、玄関のドアを後ろ手に閉めて愛美の額にキスをした。
「ハイ、これ」
『政弘さん』が差し出した袋の中を覗くと、粒が大きく高そうなイチゴが入っていて、甘くみずみずしい香りが辺りに漂う。
「わぁ、美味しそうなイチゴ……」
「支部ではあげられなかったけど、愛美には甘いお菓子より果物の方がいいかなって。今月もお疲れ様」
甘いお菓子は苦手だが果物は大好きな愛美のために、『政弘さん』自らわざわざお店に足を運んでくれたのだと思うと素直に嬉しい。
(政弘さん、ホントに優しい……)
「ありがとうございます。後で一緒に食べましょうね」
玄関で靴を脱ぎながら、『政弘さん』は鼻をクンクンさせた。
「美味しそうな匂いがしてる」
「夕飯まだですよね?一緒に食べましょう」
「うん!」
『政弘さん』が嬉しそうにうなずくと、愛美はクスクス笑った。
(やっぱり犬みたいでかわいい……。鼻クンクンさせて嬉しそうに耳立てて尻尾振ってる……)
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