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第三章・前 (題名未定)
3-2.白い大地
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喉が苦しい。
息ができない。
腹から逆流しようとするものを、固まった血が堰き止めている。
四肢が切断されたような痛み。
パズルのピースを剥がしていくように、身体が崩れていく。
これで……2回目か……殺されるのは。
前回はそうだ、あのクソ勇者に刺されて。
今度は……お兄ちゃん?
カリンの兄に毒を盛られた、のか?
あいつに殺されたのか?俺は……死ぬのか?
さらに深くへと意識が沈む。
カリンを助けたいと願うが、その思いも虚しく散る。
暗い海の浅瀬にあった俺の意識は、深みへと消えていった。
ーーー
白い砂浜
打ち寄せる波
渚に倒れる俺
白波は幾度となく押し寄せて、俺を攫おうとする。
心地のいい陽光とそよ風が、俺の意識を呼び起こした。
体を起こす。錆びついたような関節を無理矢理に動かす。
左脚が麻痺しているようだ。体勢が崩れて膝を突いてしまう。
砂浜のの反対側には鬱蒼とした森が広がっている。
引きずりながらも、迷わずに森の中に入った。
誘導されるでも、誘惑されるでもない。
ただなんとなく、感じる。
この先に、何かがあると。それを探さなければ……
倒木から手頃な枝を折り、杖の代わりにする。
道なき道に足を取られながら進むと、細い獣道を見つけた。
よく使われているのだろうか。いくつもの足跡がある。
進む向きはみな同じで、森の深みの方へと続く。
何か手がかりがあるかもしれない。俺はその獣道を進むことにした。
歩き続けると、何匹かのツノの生えたウサギを見つけた。
捕まえて食べようと思ったが、なぜか魔法陣が起動しない。
攻撃手段を失ってあたふたしているうちに、目の前の獲物は逃げてしまった。
何かおかしいとは思いつつ、歩みを進める。
重たい空気。
爽やかな砂浜の風はいつの間にかなくなって、生温かい風が気持ち悪い。
不気味な鳴き声。
低い鳴き声が聞こえたかと思うと、すぐに高い声がこだまする。
何かが横切る気配。こちらを睨む視線。
恐ろしい雰囲気に怖くなり、足の動きが鈍くなる。
真上に昇っていた太陽はいつの間にか沈もうとしていて、空が夜の色に変わる。
もう時期真っ暗になり、何も見えなくなるだろう。そうなる前に早く安全な場所を見つけなければ。
やがて太陽が沈み、暗闇が森を覆った。
俺はまだ獣道を辿っている。この道を逸れて深い森を進む度胸は、俺になかった。
暗がりの中、手探りで進んでいく。
こちらを観察する気配は無くなるどころか増え続けている。
いつ襲われてもおかしくない状況に、俺の神経はすり減っていた。
今の左足は体重を掛けることすらできないほど役に立たない。
ずっと頼ってきた右足も、今にも千切れそうなほどに痛む。
さらには眩暈がして、頭も痛くなってきた。
全ての関節が軋んで壊れていく。大半の筋肉は断裂しているだろう。
それでも進み続ける。この先に何かがあると信じて。
即席の杖も折れて、右足も麻痺し始めた頃。
突然、目の前が開けた。
ぼやけて狭くなった視界を、その広い暗闇に向ける。
力を込めて目を凝らすと、そこに何かがあった。
あれは……小屋か……?
小屋があるのか?
暗闇と苦痛の中に、唯一の希望を見つけた瞬間だった。
見つけたと同時に、体が軽くなるのを感じる。今までのことが嘘のように足が速い。
全ての筋肉を使って走り小屋に転がり込むと、そのまま深い眠りについた。
ーーー
「……おい……おい……」
声が聞こえる……誰だ?
「おい!ここで何をしておるんじゃ!」
声が渋い……男か?
「おい!早く起きんかい!」
ものすごい勢いで腹を蹴られ、悶絶する。
「い……いきなりなんだよ……」
「それはこっちのセリフじゃわい!わしの家で何しとるか!この小僧が!」
腹を抱えながら声のする方を見ると、そこには白髪の老人が、ツノの生えたウサギを片手に立っていた。
「……あなたは?」
俺がそう聞くと同時に、老人が涙を流す。
「お……お前……もしかして、人間か?」
何を言っているのだと驚くが、老人は段差に足を取られながらも駆け寄って来た。
そして、俺に向かって叫ぶ。
「お前!どうやってここに来たんじゃ!」
「え……いや……気がついたら砂浜にいたんですよ」
この状況を理解できず、老人に聞く。
「あの……ここって、どこなんですか?」
興奮している老人の目が、別人のように曇る。
そして、どこか悲しげに言った。
ここは……精霊の国じゃよ………
息ができない。
腹から逆流しようとするものを、固まった血が堰き止めている。
四肢が切断されたような痛み。
パズルのピースを剥がしていくように、身体が崩れていく。
これで……2回目か……殺されるのは。
前回はそうだ、あのクソ勇者に刺されて。
今度は……お兄ちゃん?
カリンの兄に毒を盛られた、のか?
あいつに殺されたのか?俺は……死ぬのか?
さらに深くへと意識が沈む。
カリンを助けたいと願うが、その思いも虚しく散る。
暗い海の浅瀬にあった俺の意識は、深みへと消えていった。
ーーー
白い砂浜
打ち寄せる波
渚に倒れる俺
白波は幾度となく押し寄せて、俺を攫おうとする。
心地のいい陽光とそよ風が、俺の意識を呼び起こした。
体を起こす。錆びついたような関節を無理矢理に動かす。
左脚が麻痺しているようだ。体勢が崩れて膝を突いてしまう。
砂浜のの反対側には鬱蒼とした森が広がっている。
引きずりながらも、迷わずに森の中に入った。
誘導されるでも、誘惑されるでもない。
ただなんとなく、感じる。
この先に、何かがあると。それを探さなければ……
倒木から手頃な枝を折り、杖の代わりにする。
道なき道に足を取られながら進むと、細い獣道を見つけた。
よく使われているのだろうか。いくつもの足跡がある。
進む向きはみな同じで、森の深みの方へと続く。
何か手がかりがあるかもしれない。俺はその獣道を進むことにした。
歩き続けると、何匹かのツノの生えたウサギを見つけた。
捕まえて食べようと思ったが、なぜか魔法陣が起動しない。
攻撃手段を失ってあたふたしているうちに、目の前の獲物は逃げてしまった。
何かおかしいとは思いつつ、歩みを進める。
重たい空気。
爽やかな砂浜の風はいつの間にかなくなって、生温かい風が気持ち悪い。
不気味な鳴き声。
低い鳴き声が聞こえたかと思うと、すぐに高い声がこだまする。
何かが横切る気配。こちらを睨む視線。
恐ろしい雰囲気に怖くなり、足の動きが鈍くなる。
真上に昇っていた太陽はいつの間にか沈もうとしていて、空が夜の色に変わる。
もう時期真っ暗になり、何も見えなくなるだろう。そうなる前に早く安全な場所を見つけなければ。
やがて太陽が沈み、暗闇が森を覆った。
俺はまだ獣道を辿っている。この道を逸れて深い森を進む度胸は、俺になかった。
暗がりの中、手探りで進んでいく。
こちらを観察する気配は無くなるどころか増え続けている。
いつ襲われてもおかしくない状況に、俺の神経はすり減っていた。
今の左足は体重を掛けることすらできないほど役に立たない。
ずっと頼ってきた右足も、今にも千切れそうなほどに痛む。
さらには眩暈がして、頭も痛くなってきた。
全ての関節が軋んで壊れていく。大半の筋肉は断裂しているだろう。
それでも進み続ける。この先に何かがあると信じて。
即席の杖も折れて、右足も麻痺し始めた頃。
突然、目の前が開けた。
ぼやけて狭くなった視界を、その広い暗闇に向ける。
力を込めて目を凝らすと、そこに何かがあった。
あれは……小屋か……?
小屋があるのか?
暗闇と苦痛の中に、唯一の希望を見つけた瞬間だった。
見つけたと同時に、体が軽くなるのを感じる。今までのことが嘘のように足が速い。
全ての筋肉を使って走り小屋に転がり込むと、そのまま深い眠りについた。
ーーー
「……おい……おい……」
声が聞こえる……誰だ?
「おい!ここで何をしておるんじゃ!」
声が渋い……男か?
「おい!早く起きんかい!」
ものすごい勢いで腹を蹴られ、悶絶する。
「い……いきなりなんだよ……」
「それはこっちのセリフじゃわい!わしの家で何しとるか!この小僧が!」
腹を抱えながら声のする方を見ると、そこには白髪の老人が、ツノの生えたウサギを片手に立っていた。
「……あなたは?」
俺がそう聞くと同時に、老人が涙を流す。
「お……お前……もしかして、人間か?」
何を言っているのだと驚くが、老人は段差に足を取られながらも駆け寄って来た。
そして、俺に向かって叫ぶ。
「お前!どうやってここに来たんじゃ!」
「え……いや……気がついたら砂浜にいたんですよ」
この状況を理解できず、老人に聞く。
「あの……ここって、どこなんですか?」
興奮している老人の目が、別人のように曇る。
そして、どこか悲しげに言った。
ここは……精霊の国じゃよ………
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