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第三章・前 (題名未定)

3-1.明け方の空

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 朝の陽光が彼の瞼を照らす。
 ベッドを降りて窓の外を見る裸の男はシルエット・ルイス。
 未だ興奮冷めやらぬ様子のこの男は同じベッドで寝ている、こちらも裸の女をいやらしい目で見た。


 ーーー
 夜のカリン、凄かったな。
 本能のままに動くものだから、こちらも腰の動きを止めることが出来なかった。
 何故そんな状況になったのか思い出そうとするが、記憶が曖昧だ。
 特大のジョッキを飲み干して酒場から抜け出す。その後、近くの噴水の前まで走った。その後……このホテルに来たのか?
 下半身をシーツで隠したカリンが、大きく寝返りを打つ。
 柔らかい体に布が擦れる音。
 胸の大事なところを隠そうとしないあたり、本当に寝ているのだと、少しだけ肩を落とす。
 昨夜の彼女は疲れを知らずに動いていた。それは毎日の訓練のおかげだろう。
 カリンの引き締まった体は大変いじわるで、何度も腰が砕けた。
 その感覚を思い出すだけで身震いをしてしまう。


 コンコン。
 扉が叩かれる音。
 まだ早朝だ。こんな時間に、この部屋に一体誰が何をしに来たのだろうか。
 二日酔い気味の頭でゆっくり考えて、警戒することにした。その間にも、扉は2回ほど叩かれる。
 隣の部屋に迷惑にならないが、扉の向こうに聞こえるような声で言う。
「どちら様ですか?」
 扉の奥の気配が、一瞬硬直した。しかしその後、カチャンという音とともに、男の声がする。
「このホテル、デンテのほとりの支配人でございます。ご朝食をお持ち致しました。」
 落ち着いた声の支配人に、若干安心する。いや、朝食?頼んだ覚えはない……
 俺は時間をおいて、再度持ってくるようお願いした。
 しかし、支配人は言う。
「昨夜は大いにお楽しみになられたようで。あれだけ動いたのですから、是非ともエネルギーの補給を。」
 なんて無神経な人だと腹が立つ。しかしそれと同時に、行為の声が漏れていたことの恥じらいからか、顔が熱くなる。
「さぁ、是非に」
 更に脅迫まがいの言い方をされて狼狽える。仕方がなく、俺が折れることにした。
「外に置いておいて下さい」と一言告げると、カタンと置く音とともに、気配が遠ざかる。
 流石に裸のまま外に出るのは良くないと思い、バスタオルで隠してから扉の向こうの朝食を取った。

 バケットにパンが詰められ、バターが付いている。簡単なスープが2つに温かい紅茶。あの支配人とやら、意外と気が効くじゃないか。
 カリンを起こそうかと思ったが、あまりに気持ちよく寝ているようなのでやめた。
 温かいスープの匂いが鼻を刺激して、腹の虫が鳴る。
 カリンには申し訳ないとは思いつつ、パンに手を伸ばした。

 あ、そういえば……
 俺は昨日歯を磨いた記憶がない。口の臭いも相当なものだ。
 このままパンをかじっては忍びないと思い、紅茶を口に含む。華やかな花の香りとともに、甘い風味が口いっぱいに広がった。
 なんでいい朝なんだろう。
 俺は再びパンに手を伸ばして、一口かじった。


 このパン、なんか辛いな……
 パンを噛んでいると、舌がジリジリ痛むのを感じた。
 何かがおかしいと思い、食べかけのパンを見て背筋が凍る。かじったパンの断面が、大量の血で覆われている。
 何が起きているか理解できないうちに、俺は椅子から転げ落ちた。体勢が崩れて受け身を取れず、頭から落下する。
 なんとか立とうとするが、手足が痙攣して言うことを聞かない。口からは大量の血が溢れ出し、部屋は一瞬で戦慄と化する。

 何か異変を感じたのか、カリンが起きた。
「ルイス?……ルイスどこ?」
 俺を探す気配を感じる。
 この状況を伝えたいが、血が詰まって声を出すことが出来ない。
 流れる血で目も見えなくなり、カリンの場所すら分からなくなった。
 しかし幸いにも、耳はまだ聞こえている。


 ガチャン
 扉が開く音。
「お客様、どうされましたか?」
 さっきの支配人の声が真っ直ぐ俺に近づいた。
 同時に、カリンも俺の状態に気がついたようだ。
「うそ……どうしたの!なんでこんな血が出てるの!」

 一瞬の間の後、空気が変わる。


「カリン……初めては俺との約束だろッ!」
 悲鳴とともに、カリンがベッドに倒される。

 やめろ。
 声が出ない。

 争う音が聞こえる。カリンが抵抗しているんだ。
 反撃をしようと、魔法陣を起動する。しかし、目が見えない状態では何の意味もない。

 無惨にも、組み合って襲う声と、抵抗する声が激しく聞こえる。
 カリンが悲鳴をあげ、遂には金切り声をあげた。
 俺の体はそこで起きている気配をとらえている。

 倒れたまま何も出来ない俺は、一縷の望みをかけて願う。
 "精霊様、お願いします。助けて下さい"

 突如、左手に何かが入ってきた。俺の頭はその何かを一瞬で理解する。
 最後の力を振り絞り、無音の声をあげながら抜刀した。


 徐々に薄れる意識。
 体の力が抜けて、すぐそこに死を感じる。
 生きようとする気力すら砕け散り、無に近づいていく。
 意識が尽きるさいご、遠くでカリンの叫び声が聞こえた。


 お兄ちゃんやめてッ
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