奇跡の世代の「汚点」と呼ばれた男、魔法の才能がありません。

二章 （ポーディングの街編）

8.領主様の嘆き

「領主様、こちらが今回の件の第一発見者でございます。名はルイス。我が商会の専属冒険者として活動をしております」

「分かった。では今回の件、ルイスの口から聞こう」
　50歳半ばほどの領主が俺を見て言う。

「はい。今回、私は商会長よりゴブリンの笛50個の調達を司令されました。そこで私は街に最も近いゴブリンの巣に侵入し、笛を収集しておりました。しかし、笛の数が異常に多いのです。これはゴブリン・ロードが出現した時の現象と似ています」

「なるほど。今回の現象、スタンピードと判断しなかったのはなぜだ？」

「スタンピードの可能性も十分あり得ます。しかし、それにしては群れの統率が取れすぎているのです」

「なるほど。スタンピードの前兆としてゴブリンの混乱が挙げられる。今回、それが見られなかったということか？」

「その通りです」

「スタンピードの前兆ではなく、ゴブリン・ロードの出現の方が可能性として高いことは分かった。」

　領主様は納得した様子だった。しかし、少し考え込んだ後、更に続ける。
「なぜゴブリン・キングでも、ボブ・ゴブリンでもなく、ゴブリン・ロードなんだ？どれもゴブリンの群れを指揮、統制する能力はあるだろう」

　言われて初めて気がついた。なぜ、俺はゴブリン・ロードが出現したと思ったのだろう。
　ゴブリンの群れを指揮、統制するのはゴブリン・ロードだけではない。その能力を有している、という意味では、オークやワイバーンなどもそれに該当する。
　あの横穴で感じた違和感。笛が異常に多いこと。ユニット化され、統率の取れたあの動き。
　一瞬、魔術大学で読んだ本の、ある一文を思い出した。

　"ゴブリン・ロードは支配領域を巡って人類と争う.それは彼らの意思ではなく、本能によるものだ."

　いや、まさかそんなことは……
「ルイス？どうしたんだ？」
　商会長と領主様が心配そうにこちらを見ている。
　俺は恥をかくことを覚悟で言う。

「ゴブリン・ロードは群れを成して、支配領域を拡大しようとする習性があります。その習性はゴブリン・ロードにのみ見られる習性です。また、支配領域の拡大のためならば、人類とも争う。もし、それが今、あの巣で起きているならば……」

「もしや……」

「そうです。ゴブリン・ロードはこの街との戦争準備をしている可能性があります」

「戦争だと？……そんなことがあり得るのか？何か納得のいく説明はあるのか？」

「戦略の伝達や、各ユニットの通信手段としての笛。それらの笛をおよそ10体で構成されたゴブリン部隊が運用する。こう考えれば、全ての事柄を説明をすることができます」

「……しかし、戦争と言ったって、我々との戦力差は明白だろう？何故そんな無謀なことを……」

「魔物は人間と違い、理性で物を語りません。全てが彼らの本能によるものなのです。例え無謀な策でも、群れが全滅しようとも、彼らはやろうとするのです。それが『本能で生きる者』の宿命なのです」

　領主様は頭を抱え込んだ。
「分からん……なぜだ。なぜ、そんなことができるのだ……」

　例えこの街が攻撃をされる状況であっても、領主様はその命の尊さを嘆いていた。