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初めてのバレンタイン

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思い返してみれば。
先に好意を抱いてくれたのも、
伝えてくれたのも、志樹くんのほうで。
受け身な私はうなずいて、
たどたどしく『よろしくお願いします』と
言ったきり。
初めての恋人に萎縮して恥じらうばかり。

『無理しないで。沙藍さんのペースで』
そう言って笑ってくれる志樹くんに
せめてバレンタインくらいは…!

と、意気込みだけは立派でした。

必死に探し歩いて選び抜いたチョコレートを
アピールもできず、渡すだけで精一杯だった。
口下手すぎる自分にがっかりしてしまう。

「沙藍さん」
「っ、はい!」
うつむきがちな顔を上げれば
志樹くんは「おいしいよ」と
チョコレートをひと粒、私の口元へ運んでくれた。
パクリ、とひと口。
うん、味見したからよく知っている。
私が一番気に入った、ほのかに甘いトリュフ。
口をモゴモゴさせている様をじっと見つめられると
少し恥ずかしい。そっと目を逸らせば、
「好きです。ちゃんと伝えたことなかったよね」
と、志樹くん。
待って、それは今日私が言いたかったことで。

ますます彼の顔を見れなくなった。
いつか言える日はくるのかしら。
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