村八分、塩

おこめニスタ

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第6章

ここからが本番!

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「そう、まだあきらめてはいけません。」
「ここからが本番!」
声が、後方から聞こえました。
 振り返らなくてもソルトには、わかりました。大切な、
「シフォン!ミント!」
そして頼りになる、二人の声でした。自然と笑顔になります。
「すみません、遅くなりました。」
シフォンは軽く微笑み返しました。
「大丈夫か?怪我してないか?」
「そんな話は後。まずはオリーブさんを助けないと。」
言いながらミントは手袋をつけなおし、左手にダガーをかまえます。
「動くな。動いたらこの娘の命はないと」
そして、シルヴェーヌのその言葉が終わらないうちに走り出しました。シフォンが呪文をとなえます。

『そこに希望は輝くから…
祈りをつむぎましょう。
あなたは誰にもしばられない。
あなたは自由。
私の手もすりぬけていくのですね。
それがほこらしくて、笑いました。
だから、祈りをつむぎましょう。
願いましょう。あなたのために。』

ミントは、シルヴェーヌの魔法を打ち消す魔法を一瞬だけシフォンにかけてもらいました。そのほんの少しの時間で目的地まで走らなくてはいけません。苦しんでいるオリーブのため、傷だらけのソルトのため、自分の身軽さを信頼してくれたシフォンのため。誰かのために走るのはこんなにも心があつくなるんだなと、ミントは思いました。
ほとんど飛び込むように、ガナッシュの剣を拾いました。これでミントに重力の魔法は利きません。バランスをくずし、手をついて、前転。
シフォンの呪文はおごそかに響きます。まるで、賛美歌のようでした。
ミントの耳に、作戦を説明したシフォンの声が聞こえます。利き手ではない左にかまえたダガーを、迷うことなくシルヴェーヌへと投げつけました。それは、オリーブに投げつけることと同じことでした。
『大丈夫ですよ。』
シルヴェーヌの魔法は上から下へかかる力を増やします。小型ナイフはすべて
 からん。
 からん。
乾いた音を立てて地面に転がりました。
スピードを保ったまま走りこむミントは、目の前のシルヴェーヌが扇を自分へ向けているのを見ました。
『攻撃されないと思っていますから、反射的に身を守ろうとするでしょう。』
そしてそれは、オリーブの首から扇が離れたということです。
「本当、シフォンの言うとおりだ。」
少女は結った髪をなびかせて、笑いました。体を丸めて、足をふみ切り、
『オリーブさんに。』
体当たりをしました。
『彼女は手足をしばられていますから、バランスを取れないはずです。ねらうなら、オリーブさんです。』
オリーブが、体をそばにつけていたシルヴェーヌと共に後ろへと倒れます。
手を伸ばして、ミントの手が人質の腕をつかみます。ぐいと引き寄せて、自分も尻もちをつきながら、しっかりとオリーブを抱きとめました。
「お姫様救出成功!」
「アーフリテ!」
 『あなたをその苦しみから解放します!』
ミントの声と、シフォンの呪文完成の声が、重なりました。
 瞬間、その場にかかっていた重力が消えます。
「勇者さま、とどめを!」
ところが、そう叫ぶシフォンのほうに魔法弾がとんできます。バランスをくずしながらもシルヴェーヌは、シフォンの呪文を止めようと攻撃をしかけたのです。
「シフォン!」
ミントは悲鳴をあげます。足を怪我しているシフォンはよけることが出来ません。杖を抱きしめて、目をつぶりました。

どがっ。

にぶい音がして、
それなのに、痛みはありません。
魔法弾はシフォンには、当たりませんでした。
「勇者さま?」
彼女は、ソルトの腕の中にいました。
「シフォン、大丈夫か?」
勇者はそう言いながら、笑いました。そして、彼女の胸の中にくずれました。
シフォンは見ました。彼の背中に出来た大きなヤケドを。自分はこの人にかばわれたのだと知りました。
くずれた体勢を元に戻し、シルヴェーヌは高らかに笑います。
「ばかな奴じゃ。せっかくわらわを倒せるチャンスだったというのに。」
痛みにうめくソルトを支えながら、シフォンはモンスターをにらみつけます。それしか出来ないこの状況に歯を食いしばりました。
「この扇さえあれば、また重力をかけることができるのだからな。」
シルヴェーヌはついと右手をあげました。
そして、気付いたのです。扇がそこにないことを。
「素敵な扇よね。」
さっきまでオリーブの隣にいたミントが、いつの間にか反対側に移動しています。手にはシルヴェーヌが愛用するそれがありました。
「ありがたく、いただきますっ!」
自分が勝ったと思い、油断していたシルヴェーヌから盗んでいたのでした。
ソルトは心配するシフォンの手を軽く押さえて、立ち上がり、呆然とするシルヴェーヌのもとに走りこみます。
「これで…、おわりだ!」 
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