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はじめてのカツアゲ

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「俺たちも偉くなったよな!」


 黄金世代が卒業して、僕たちは中学3年生になりました。中高一貫のため高校受験はなく、淡々と同じような日々を繰り返していました。坊主だった髪はすっかり元通りになり、新しく後輩も増えました。
 縦社会なので、学年が上がると雑用などを一切やらなくなりました。「先輩おはようございます!」や「先輩飲み物です!」などと、後輩から神様(先輩)として扱われます。実際の中身は変わっていないのに、強くて偉い人になった気分でした。
 黄金世代のプレッシャーがなくなった影響は想像以上に大きく、僕とまっつんは調子に乗り始めていました。


「五十円ゲーセン行こうぜ!」


 ある日、高校生の先輩が修学旅行で不在のため練習が休みでした。休みを利用して学校帰りにゲームセンターへ行くことにしました。学校から歩いていける範囲に、五十円で格闘ゲームが遊べるお店がありました。治安が悪いエリアなので、今までは極力近づかないようにしていました。
 しかし、僕とまっつんは「俺たちは強いから、なんも怖くないだろ!」と強気でした。制服を腰パンにしたり、シャツを第二ボタンまで開けていました。僕たちは、それがカッコいいことだと思っていました。
 そんな中、チュピくんは周りに一切流されることなく、第一ボタンまできちんと閉めてネクタイもしていました。


「ストⅡやろうぜ!」


 まっつんは格闘ゲーム全般が得意でした。『鉄拳』というゲームでは十連コンボを楽々決めます。特に『ストリートファイターⅡ』は、小学生の頃から家にあるアーケード用のスティックでやりこんだそうです。


「俺はマリオカートやってくるわ!」


 チュピくんはマリオカートが大好きでした。専用のカードを二つ作ってやりこんでいました。時間を忘れてのめり込み、一度部活に遅刻しかけたほどでした。


「こいつ弱いのにしつこいな!」


 僕は、まっつんの隣でストリートファイターⅡを見ていました。プレイ中に向かいのゲーム機から対戦に乱入することができます。まっつんは、三回連続で同じ相手に挑まれていました。"ダルシム"というインド人のキャラクターを使って、挑戦者を簡単に返り討ちにしています。
 テンションが上がっていて、三回目に勝った際は「おととい来やがれ!」と相手に聞こえるように言いました。



「ふざけんなよッ!!」


 向かいのゲーム機から、どなり声がしました。ビックリしていると、ガタイの良い高校生の二人組がこっちへ向かってきます。茶髪でピアスをして制服を着崩している姿は、いかにもヤンキーという感じでした。僕たちは突然のことに驚き、目線を合わせないように下を向きました。


「表出ろやッ!!」


 そういうと一人が僕の胸倉を掴みました。なぜかプレイしていたまっつんではなく、隣の僕が攻撃されました。まさかリアルストリートファイターが始まるとは夢にも思っていませんでした。
 そのまま店の外へ連れていかれました。僕もまっつんも顔の血の気が引いていました。


「で、お前らいくら持ってんの?」


 店を出てすぐ横の狭い路地に連れていかれると、人生初のカツアゲをされました。今まで何度も頭の中で「ケンカになったら突きや蹴りでやっつけよう!」と妄想していました。
 ですが、実際に自分が脅されたときには、頭が真っ白になってしまい怯えることしかできません。まっつんも同様で、どうしたらいいのかわからない様子です。


「どうしよう…どうしよう…」


 心の中で焦りが募ります。とにかく、この場を穏便に済ませたいという気持ちで心臓がバクバクしています。僕は半泣きになりながら、言われるがままに、ポケットの財布へ手を付けようと動きました。


「お前何見てんだよッ!!」


 ヤンキーは、僕たちの後ろを見ています。振り返ると、マリオカートを終えたチュピくんが来てくれていました。ヤンキーの身長を高く感じていましたが、チュピくんはさらに高いです。それでも、ガタイの良い高校生二人が相手では分が悪く感じました。
 チュピくんは言葉を一言も発せず、目の前の相手を見据えています。



「はあああああああああああ!!!!」


 チュピくんは合掌礼をすると、路上で単独演武を始めました。制服で革靴を履いたまま、突きや蹴りを披露します。鬼のような形相で『天地拳の第五系』を演武する姿には、鬼気迫るものがありました。大きくキレのある動きと気合いが相まって、とんでもない迫力でした。
 叫び声が響き、通行人が集まってきました。


「…面倒くせぇ!あんまシャシャンなよ!」


 チュピくんの迫力に圧倒されたのか、ヤンキーは捨てセリフを吐いてから去っていきました。
 僕はホッとした瞬間に、自然と涙がこぼれ落ちました。


「ありがとう…」


 チュピくんに泣きながら抱きつきました。まっつんも一緒に抱きつきました。頷いた彼の大きな身体は、微かに震えていました。怖かったのか、武者震いなのかはわかりません。震えるような場面で、僕たちのために立ち向かってくれました。
 僕は、何もできなかった自分が情けない気持ちでいっぱいでした。ですが、それ以上にチュピくんへの尊敬と感謝の気持ちが溢れました。もっと練習して、こんなカッコいい男になりたいと思いました。
 彼はきっと素晴らしい警察官になると確信したのでした。
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