ぼくの青春はチュピくん伝説

ながざっぷ

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大志を抱け!はばたけ青春!

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「夏休みが行方不明だぞ!?」


 七月に期末テストを終えると学校は夏季休暇に入りました。「ようやく休めるんだ!」と期待していましたが、少林寺拳法部に休みはありません。むしろ授業がないので、午前と午後の二部練習でさらにハードになりました。


「夏休みは走り込み増やすぞ!」


 死刑宣告のような部長のお言葉でした。夏休みは体力をつけるために、走り込みや筋トレの時間が増えるそうです。入部当初に比べれば、三人とも体力がついてきました。特にチュピくんは著しく成長していました。無遅刻・無欠席で休まず練習に打ち込んで強くなっています。それでも、先輩たちはまだまだ高い壁でした。


「足の裏が焼けるッ」


 炎天下を裸足で走るのは肉体的にも精神的にも追い込まれます。日差しで熱くなったコンクリートは熱々の鉄板のようです。「いっそ、熱中症になって保健室で休めないだろうか?」と走りながら現実逃避していました。
 一方、まっつんは吐いてしまい、「俺は先に逝くぜ」と言って早退しました。心配する気持ちと羨む気持ちが混ざり合いながら、彼の背中を見送りました。


「熱いから脱いでいいぞ!」


 先輩のイジリで、よく上半身裸で走らされました。同級生の女子に見られると、笑われてしまい恥ずかしかったです。
 鬼塚コンビは、後輩の背中を叩いて手形をつける『もみじ』という遊びが大好きでした。応用で、二つのもみじで作る『天使の羽』というものもありました。その日の一年生はおそろいの天使の羽をつけて走ります。天国よりも地獄へ向かっている気分です。


「写真を撮らせてもらえませんか?」


 苦手な走り込みをいやいや満喫していると、休憩時間にカメラを持った人が現れました。撮影許可証を首からぶらさげた大手学習塾の方で、全国で配布するパンフレット用の写真を撮っているそうです。
 上半身裸で走っている僕たちが面白くて声をかけたそうです。


「お前ら行ってこい!」


 部長公認でチュピくんが撮影に行くことになりました。また、彼の大きさを引き立てるためという理由で僕も選ばれました。僕は練習が休めてラッキーだと喜びました。
 二人で撮影場所まで少し歩きます。


「これは…いい画が撮れそうだ…」


 カメラマンはチュピくんという被写体に何か感じている様子でした。脱いでいた道着も持っていきましたが、「そのままでお願いします!」と言われて上半身裸のまま撮影が始まりました。


「まずは構えをお願いします!」


 少林寺拳法の構えから撮影は始まりました。二人で向き合っている写真や、蹴りをしている写真など、少林寺拳法らしい写真を撮っていきます。


「いいよ!キレてるよ!芸術だよ!」


 カメラマンはオーバーな表現で盛り上げてきます。カメラマンに乗せられるように、チュピくんのテンションはドンドン上がっていきました。
 僕は、彼のテンションに比例して恥ずかしさが増していきます。


「次は、こんなポーズでどうですか??」


 ついには自分からポーズを提案するようになりました。ボディビルの『サイドチェスト』を誇らしげに決めました。少林寺拳法と何一つ関係のないポーズです。


「チュピくん、もうやめてくれ!」


 僕は心の中で叫びました。しかし、止まることなく様々な恥ずかしいポーズで撮影は続きました。
 最後に彼は、両腕を大きく広げて片足を上げる『荒ぶる鷹のポーズ』を披露しました。躍動感があふれていました。


「パンフレットに載るかもなんで!よろしくです!」


 五十枚以上撮った頃、撮影は終わりました。カメラマンとチュピくんは終始楽しそうでした。僕は「やっと解放されたよ…」という気持ちでした。
 そのまま残りの練習に合流して、その日は終わりました。


「学習塾のパンフレットに載っていたぞ!」


 ニ週間くらい経つと、顧問の先生に呼ばれました。パンフレットのサンプルが届き、チュピくんと僕が載っているそうです。練習漬けの日々で、撮影のことなどすっかり忘れていました。
 顧問の先生に渡されたパンフレットに目を向けると、僕たちの写真は一番大きく採用されていました。


「大志を抱け!はばたけ青春!」


クラーク博士もビックリのキャッチフレーズに合わせて写真が使われています。写真には、上半身裸で荒ぶる鷹のポーズを決めるチュピくんと隣に小さく僕が写っていました。
 チュピくんは指先までピンと伸びていて、躍動感を感じる写真でした。僕は隣で、目をつぶってヘンテコなポーズをしています。


「やれやれ、全国デビューですか…」


 チュピくんはニヤニヤしながら何度もパンフレットを見て、五枚ほど持って帰っていました。僕は恥ずかしくて、穴があったら入りたい気持ちでした。パンフレットが出回るとクラスの女子に笑われ、今まで以上に先輩からイジられるようになったのでした。
 これがチュピくん(僕も)の全国デビューになりました。
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