7 / 20
絶対眠ってはいけない少林寺拳法部
しおりを挟む
「九段と闘ってみたいなああッ!!!」
ある日、少林寺拳法"九段"の先生が来校して、講話をしていただく機会がありました。ちなみに九段は最高段位です。少林寺拳法は八級から一級、初段以上になると黒帯になります。
その先生は七十五歳ながら現役で、少林寺拳法の教えを広めるために、全国の学校や道場を周って講話をしているそうです。少林寺拳法界で五本の指に入ると言われている高名な先生らしいです。
チュピくんは、そんな七十五歳の後期高齢者にも、その牙を容赦なく剥き出していたのでした。まっつんはちょっと引いていました。
「練習が早く終わるからラッキーだな!」
講話のおかげで練習時間が短くなるので僕とまっつんはご機嫌です。どんな話が聞けるのか楽しみな気持ちもありました。
チュピくんは「ウォーミングアップにはちょうどいいか!」と言っていました。僕は「まさか、九段の先生に挑むんじゃなかろうか?」と少し心配です。
「練習時間が短い分、徹底的にいくぞ!」
鬼嶋部長の一言は、僕とまっつんにとって絶望を与えました。その日は、ランニング・ダッシュ・筋トレの組み合わせを何セットも繰り返しました。一時間の練習でしたが、普段以上に身体が重く感じます。
練習後は、クタクタなままで制服へ着替えて講話の教室へ移動します。
「寝たらヤバイからコーヒー飲もうぜ!」
まっつんの提案で、コーヒーを飲んで眠気対策をすることにしました。部長から事前に、「わざわざ来ていただく先生へ失礼は許されない!講話中は集中して聞くように!」と念押されていました。
つまり、寝たらシメられるということです。
「俺はブラックでいく!」
僕とまっつんが微糖の缶コーヒーを買っていると、チュピくんはブラックコーヒーを選びました。彼は甘党だったので、苦くて飲みにくそうでした。僕たちの前で、恰好をつけたかったのでしょうか。
コーヒーを飲んだ後、教室で待機していると九段の先生が到着しました。先生の頭はスキンヘッドで、立派な白いひげを携えていたので、仙人のようでした。チュピくんに「君は背が高くていいねぇ」と笑顔で話しかけてくれる気さくな一面もありました。
それに対してチュピくんは、獲物を品定めするかのように、先生を頭から足の先まで観察していました。僕は「隙があれば攻撃するんじゃないか?」とドキドキしていました。
「それでは、お座りください」
先生の指示で着席しました。教室の席は学年順で前から並びます。一年生はもちろん最前列です。後ろから先輩に見張られています。僕は真ん中の席で、チュピくんとまっつんに挟まれて座りました。
「少林寺拳法は、1947年に香川県で生まれました」
講話は少林寺拳法の成り立ちから始まりました。姿勢を正してノートへメモをとります。講話中は椅子に背中をつけることを強く注意されていました。
先生は、優しい落ち着いた声で丁寧に話してくれます。しかし、練習で疲労した肉体には、その声が心地の良い子守唄になってしまうのでした。エアコンの効いた教室で、僕は開始十分で睡魔に襲われていました。
「寝たらダメだ!寝たらダメだ!」
頭の中で、『新世紀エヴァンゲリオンのシンジ君』のように、何度も繰り返します。寝たら先輩にシメられるという恐怖心が、かろうじて睡魔と闘っています。「チュピくんのように、ブラックコーヒーを選ぶべきだった…」と思いました。そんな自分の砂糖のように甘い考えを後悔します。
他の二人の様子が気になりました。まずは、右隣のまっつんをちらりと見ました。ペンを手に刺して寝ないように奮闘しています。彼も同じように睡魔と闘っていることに勇気をもらいます。
次に、左隣のチュピくんにゆっくりと視線を向けました。すると、椅子に寄りかかって口を開けて寝ていました。
「僕は何も見ていない・・・」
僕は思わず目をそらし、視線を正面に戻しました。僕はまっつんを真似して、ペンを手に刺して痛みで起きるように気力を振り絞りました。
講話は黙々と進んでいきます。
「修行を通して、社会に役立つ人づくりを目指し、勇気、慈悲心、正義感を育むのです」
先生は『開祖の話』や『本当の強さ』など、少林寺拳法の教えの数々を丁寧に説明してくれました。話を聞けば聞くほど、青少年の育成を目指す少林寺拳法という武道の素晴らしさを再確認でき、「眠くないときに聞きたかった」と思いました。
「チュピくん大丈夫かな?」
なんだかんだ彼のことが気になってしまいます。やっぱり深い眠りについていました。「何とかして起こさなければ!彼を救えるのは僕だけだ!」と謎の使命感が生まれました。
先生が黒板に何かを書き始めたタイミングを見計らい、肘をペンで軽くつつきました。
「起きて!起きて!」
心の中で叫びながらペンでつつきますが、反応がありません。このまま寝ていたら、先輩にシメられるのは確定です。助けられるのは今しかありません。
そこで、心を鬼にしてペン先を容赦なく突き刺しました。
「いたぁ~い」
チュピくんは寝ぼけているのか、オネェ口調で呟き、そのまま寝てしまいました。オネェ口調にも驚きましたが、この状況でこれだけ深く眠れる大胆さには度肝を抜かれました。
もう、事の成り行きを運命に任せるしかありませんでした。
「私からの話は、以上となります」
結局、チュピくんは最後まで起きませんでした。講話の終了に合わせて、後ろの席の先輩たちが拍手をします。それに合わせて僕たち後輩も拍手をしました。
チュピくんは拍手の音で目を覚ますと、慌てて立ち上がり、大きく胸を張って頷きながら拍手していました。それを見て、「こういう人が大物になるんだろうなぁ」と呆れるを通り越して尊敬の感情を抱いていました。
「先生の話を聞いてたか?内容を言ってみろ!」
講話の終了で解散する流れでしたが、チュピくんは部長に問い詰められていました。
「はい!講話が五臓六腑に染み渡りました!でも、ニ年ぐらいしたら先生に勝てると思います!」
チュピくんは、とんでもない回答をしていました。本気なのか、まだ寝ぼけているのか、どちらにせよ、アブノーマルです。
「お前は残れ!」
その後、彼がどうなったのかはご想像にお任せいたします。
ある日、少林寺拳法"九段"の先生が来校して、講話をしていただく機会がありました。ちなみに九段は最高段位です。少林寺拳法は八級から一級、初段以上になると黒帯になります。
その先生は七十五歳ながら現役で、少林寺拳法の教えを広めるために、全国の学校や道場を周って講話をしているそうです。少林寺拳法界で五本の指に入ると言われている高名な先生らしいです。
チュピくんは、そんな七十五歳の後期高齢者にも、その牙を容赦なく剥き出していたのでした。まっつんはちょっと引いていました。
「練習が早く終わるからラッキーだな!」
講話のおかげで練習時間が短くなるので僕とまっつんはご機嫌です。どんな話が聞けるのか楽しみな気持ちもありました。
チュピくんは「ウォーミングアップにはちょうどいいか!」と言っていました。僕は「まさか、九段の先生に挑むんじゃなかろうか?」と少し心配です。
「練習時間が短い分、徹底的にいくぞ!」
鬼嶋部長の一言は、僕とまっつんにとって絶望を与えました。その日は、ランニング・ダッシュ・筋トレの組み合わせを何セットも繰り返しました。一時間の練習でしたが、普段以上に身体が重く感じます。
練習後は、クタクタなままで制服へ着替えて講話の教室へ移動します。
「寝たらヤバイからコーヒー飲もうぜ!」
まっつんの提案で、コーヒーを飲んで眠気対策をすることにしました。部長から事前に、「わざわざ来ていただく先生へ失礼は許されない!講話中は集中して聞くように!」と念押されていました。
つまり、寝たらシメられるということです。
「俺はブラックでいく!」
僕とまっつんが微糖の缶コーヒーを買っていると、チュピくんはブラックコーヒーを選びました。彼は甘党だったので、苦くて飲みにくそうでした。僕たちの前で、恰好をつけたかったのでしょうか。
コーヒーを飲んだ後、教室で待機していると九段の先生が到着しました。先生の頭はスキンヘッドで、立派な白いひげを携えていたので、仙人のようでした。チュピくんに「君は背が高くていいねぇ」と笑顔で話しかけてくれる気さくな一面もありました。
それに対してチュピくんは、獲物を品定めするかのように、先生を頭から足の先まで観察していました。僕は「隙があれば攻撃するんじゃないか?」とドキドキしていました。
「それでは、お座りください」
先生の指示で着席しました。教室の席は学年順で前から並びます。一年生はもちろん最前列です。後ろから先輩に見張られています。僕は真ん中の席で、チュピくんとまっつんに挟まれて座りました。
「少林寺拳法は、1947年に香川県で生まれました」
講話は少林寺拳法の成り立ちから始まりました。姿勢を正してノートへメモをとります。講話中は椅子に背中をつけることを強く注意されていました。
先生は、優しい落ち着いた声で丁寧に話してくれます。しかし、練習で疲労した肉体には、その声が心地の良い子守唄になってしまうのでした。エアコンの効いた教室で、僕は開始十分で睡魔に襲われていました。
「寝たらダメだ!寝たらダメだ!」
頭の中で、『新世紀エヴァンゲリオンのシンジ君』のように、何度も繰り返します。寝たら先輩にシメられるという恐怖心が、かろうじて睡魔と闘っています。「チュピくんのように、ブラックコーヒーを選ぶべきだった…」と思いました。そんな自分の砂糖のように甘い考えを後悔します。
他の二人の様子が気になりました。まずは、右隣のまっつんをちらりと見ました。ペンを手に刺して寝ないように奮闘しています。彼も同じように睡魔と闘っていることに勇気をもらいます。
次に、左隣のチュピくんにゆっくりと視線を向けました。すると、椅子に寄りかかって口を開けて寝ていました。
「僕は何も見ていない・・・」
僕は思わず目をそらし、視線を正面に戻しました。僕はまっつんを真似して、ペンを手に刺して痛みで起きるように気力を振り絞りました。
講話は黙々と進んでいきます。
「修行を通して、社会に役立つ人づくりを目指し、勇気、慈悲心、正義感を育むのです」
先生は『開祖の話』や『本当の強さ』など、少林寺拳法の教えの数々を丁寧に説明してくれました。話を聞けば聞くほど、青少年の育成を目指す少林寺拳法という武道の素晴らしさを再確認でき、「眠くないときに聞きたかった」と思いました。
「チュピくん大丈夫かな?」
なんだかんだ彼のことが気になってしまいます。やっぱり深い眠りについていました。「何とかして起こさなければ!彼を救えるのは僕だけだ!」と謎の使命感が生まれました。
先生が黒板に何かを書き始めたタイミングを見計らい、肘をペンで軽くつつきました。
「起きて!起きて!」
心の中で叫びながらペンでつつきますが、反応がありません。このまま寝ていたら、先輩にシメられるのは確定です。助けられるのは今しかありません。
そこで、心を鬼にしてペン先を容赦なく突き刺しました。
「いたぁ~い」
チュピくんは寝ぼけているのか、オネェ口調で呟き、そのまま寝てしまいました。オネェ口調にも驚きましたが、この状況でこれだけ深く眠れる大胆さには度肝を抜かれました。
もう、事の成り行きを運命に任せるしかありませんでした。
「私からの話は、以上となります」
結局、チュピくんは最後まで起きませんでした。講話の終了に合わせて、後ろの席の先輩たちが拍手をします。それに合わせて僕たち後輩も拍手をしました。
チュピくんは拍手の音で目を覚ますと、慌てて立ち上がり、大きく胸を張って頷きながら拍手していました。それを見て、「こういう人が大物になるんだろうなぁ」と呆れるを通り越して尊敬の感情を抱いていました。
「先生の話を聞いてたか?内容を言ってみろ!」
講話の終了で解散する流れでしたが、チュピくんは部長に問い詰められていました。
「はい!講話が五臓六腑に染み渡りました!でも、ニ年ぐらいしたら先生に勝てると思います!」
チュピくんは、とんでもない回答をしていました。本気なのか、まだ寝ぼけているのか、どちらにせよ、アブノーマルです。
「お前は残れ!」
その後、彼がどうなったのかはご想像にお任せいたします。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる