7 / 49
世界の様子
出発《1》
しおりを挟む「それ~!しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
妖精族ファームの元気の良い掛け声の後に続く、妖狐の燐華の声。
その二人の可愛らしい掛け声に呼応し、我が家のペット、ジグとレグドラの二匹が動き出し、彼らと繋がれたキャンピングカー風馬車の窓から覗く景色が、緩やかに後ろへと流れ始める。
「ジグ、レグドラ、まだあんまり頑張って走らなくていいからなー。あと、そこの三人は……」
「ファームはもうちょっとここにいるー!」
「燐華もー!」
「ウチは二人を見ております。主様は休んでおくんなまし」
「ハハ、そうか。玲は頼りになるなぁ」
「いっ、いえ……も、勿体ないお言葉で……」
「あー!玲が顔真っ赤にしてるー!かわいー!」
「かわいー!」
「う、うるさいんじゃ!」
キャッキャと騒ぎ出した彼女らに笑ってから俺は、普通の車で言うところの運転席、馬車で言う所の御者席から後ろの居住スペースへと戻り、設置されたソファにボフンと腰掛ける。
「マスター、何かお食べになりますか?」
と、すぐにススス、と隣に寄って来たセイハが、そう問い掛けてくる。
「いや、いいよ。ありがとな」
「では、何かお飲みになりますか?」
「あー……じゃあ、何かもらおうかな?」
「畏まりました。すぐに用意いたします」
俺の言葉に、セイハはすぐに動き出すと、そのまま馬車の二階へと昇って行った。
二階には、ギルド内部へと繋がる扉を設置したので、そちらに向かったのだろう。
「頭領、アンタも大変だな」
いつの間に取り出したのか、ワインセラーに入っていたワインボトルをくい、と口に運んでから、「飲むか?」とそのボトルをこちらに向かって伸ばすネアリア。
俺は、礼を言ってそれを受け取ってから、同じように一口呷り、彼女へと返して苦笑を溢す。
「……まあ、悪い気はしないけどな。それよりネアリア。今のうちに聞いておこうと思うんだが……その……あー、何だ」
「何だよ、はっきり言えよ」
若干口ごもってから俺は、意を決して言葉を放つ。
「……お前達にとって俺は、どんな存在だ?」
「あん?ウチらのボスだが?」
「いや、そうじゃなくて、その……あー、何と言うか、俺や、俺の仲間達は、頻繁にいなくなることがあったと思うんだ。その辺り、お前らはどう思ってんのかって、ちょっと気になってさ」
つまり、俺が聞きたいのは、ゲーム時代における記憶のことだ。
今現在の彼女らは、もう疑う余地がなく一個の人格を持った存在であることはわかっているが……だが、以前は、確かに『NPC』というただのプログラム上の存在であった。
少し、聞くのが怖い部分もあるが……その彼女らが、俺達のことを、俺のことをどのように認識し、そしてどこまでの知識と記憶があるのか。
それが、気になるのだ。
割と核心部分に近い質問だと思うので、少々戦々恐々とした様子で問い掛けた俺だったが――。
「あぁ、『神の使徒』の話か?」
――しかしネアリアは、あっけらかんとした様子でそう言った。
「か、神の使徒?」
突然出て来たゲーム染みた単語に、思わずそう聞き返す。
「頭領達は、本当は上位世界に住んでるんだろ? だから、死んでも死なねぇ。生き返る。こっち――って、ここはもうウチらの世界じゃねぇんだったな。まあ、そう言う訳だからウチらがいたあの世界には、暇潰しに来てんだと思ってたんだが?」
……そういえば、もうあまり覚えていないが、確かゲームのプロローグがそんなものだったような気がする。
「――俺が、お前と出会ったのはどこだったっけか?」
「肥溜めみてぇな、クソどもの巣窟だろ?アンタがウチの元上司をミートパイに生まれ変わらせて、んで、勧誘してくれたんだ」
「……あぁ。そうだったな」
――彼女と出会い、ギルドの配下として勧誘したのは、とある街に巣食っていた『裏ギルド殲滅クエスト』の最中のことだった。
その過程で、俺の攻撃により死に掛けだった裏ギルドの構成員――彼女が配下として勧誘可能なNPCだと知り、俺は何となくで回復させ、その頃はまだギルドを立ち上げていなかったためにゲームのマイホームへと連れて帰ったのだ。
そう、彼女を彼女として造り上げたのは俺だが、しかし、大本の『ネアリア』としての個は、元々存在していたものだった。
……記憶は、俺と初めて出会った時からしっかりとありそうだな。
というか、この様子だと俺と出会っていない頃の記憶も持っていそうだ。
ネアリアがそうだとすると、恐らくは他の配下達も、同程度の記憶を有していることだろう。
……どういうことなのか気になるところだが……まあ、その辺りは俺がこんなところに来てしまった理由と同様に、考えてもわからないことだろう。
ちなみに俺が雇い、創り上げた配下はセイハにネアリア、召喚獣の二匹で、他の配下達は俺以外のギルドメンバーがそれぞれ雇ったり本当に一から創り上げた者達だ。
ペットの二匹はまあ、俺が一応の主人ということになっているが、配下を含めたギルドメンバー全員でパーティを組んで捕獲し、そして飼い始めたので、俺達全員の共有ペットと言えるだろう。
そして、俺の配下として一番最初に雇い、一番長く一緒にいるのが、今ここにいないセイハである。
あの謎に高い忠誠心も、その辺りが理由かもしれない。
「……こんな知らん世界に来ちまって、不安じゃねーか?」
「ハッ、頭領、誰に物を言ってんだ?」
俺の言葉に、ニヤリと笑みを浮かべ、口を開くネアリア。
「アンタがアタシを誘ってくれた時から、アタシの世界は、頭領。アンタのいるところだ。だから別に、どこに行こうが構わねぇな。それに、アンタに付いて行くと、どこだろうと楽しいしな」
――コイツ……口は悪いが、意外と義理堅い性格してやがるんだな。
「何だ、俺は誘われてんのか?」
「頭領ならまあ、相手してやってもいいぞ?」
肩を竦め、冗談めかしてそう言うも、にやにや笑いを表情に浮かべて言葉を返して来るネアリア。
全く……大した女だことだ。
――と、その時。
バギリ、と何かが潰れる音。
二人揃ってその方向へと顔を向けると、レモネードらしい飲み物の入ったグラスを乗せた、木製のお盆の取っ手部分を握り潰し、階段に突っ立っているセイハ。
「……失礼、しました。マスター、お飲み物を、お持ちしました」
「あ、あぁ、サンキュー」
いつもよりさらに感情の窺わせない声で、そう言いながら俺の前にグラスを置くセイハ。
「……あー、セイハ。言っておくが今のは冗談だかんな」
思わず若干引き攣り気味の苦笑いを浮かべ、言葉を放つネアリア。
「いえ、構いません。マスターが魅力的な殿方であるのは自明の理です。貴方がマスターを誘惑することも、至極理解に及ぶことです」
口ではそう言いながらも、固い声色で仮面の無機質な双眸を向けて来るセイハの圧力に押され、「アンタの部下だろ、何とかしろ!」と目線でこちらへ救援を求めて来るネアリアに、俺は苦笑を浮かべる。
俺だって、ちょっとこの子、どうやって向き合って行けばいいのか未だ悩み中なんだがな。
ネアリア程気安い態度を取ってくれると、俺も非常にやりやすいのだが、こう……崇拝染みた忠誠を向けられると、普通の日本人だった俺には、どう対応すればいいのかわからん。
セイハのような美少女が懐いてくれていることに悪い気はしないし、男として仄かな優越を感じられることも確かだが、メイドさんに傅かれた経験なんてある訳がないしな。
……まあ、良い機会か。
少し、この子ともしっかりと話をしよう。
0
お気に入りに追加
1,031
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
サキュバスの眷属になったと思ったら世界統一する事になった。〜おっさんから夜王への転身〜
ちょび
ファンタジー
萌渕 優は高校時代柔道部にも所属し数名の友達とわりと充実した高校生活を送っていた。
しかし気付けば大人になり友達とも疎遠になっていた。
「人生何とかなるだろ」
楽観的に考える優であったが32歳現在もフリーターを続けていた。
そしてある日神の手違いで突然死んでしまった結果別の世界に転生する事に!
…何故かサキュバスの眷属として……。
転生先は魔法や他種族が存在する世界だった。
名を持つものが強者とされるその世界で新たな名を授かる優。
そして任せられた使命は世界の掌握!?
そんな主人公がサキュバス達と世界統一を目指すお話しです。
お気に入りや感想など励みになります!
お気軽によろしくお願いいたします!
第13回ファンタジー小説大賞エントリー作品です!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜
長月京子
恋愛
辺境の小国サイオンの王女スーは、ある日父親から「おまえは明日、帝国に嫁入りをする」と告げられる。
幼い頃から帝国クラウディアとの政略結婚には覚悟を決めていたが、「明日!?」という、あまりにも突然の知らせだった。
ろくな支度もできずに帝国へ旅立ったスーだったが、お相手である帝国の皇太子ルカに一目惚れしてしまう。
絶対におしどり夫婦になって見せると意気込むスーとは裏腹に、皇太子であるルカには何か思惑があるようで……?
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
黒の皇子と七人の嫁
野良ねこ
ファンタジー
世界で唯一、魔法を使うことのできない少年レイシュア・ハーキースは故郷である『フォルテア村を豊かにする』ことを目標に幼馴染のアル、リリィと共に村を出て冒険者の道を進み始めます。
紡がれる運命に導かれ、かつて剣聖と呼ばれた男の元に弟子入りする三人。
五年間の修行を経て人並み以上の力を手にしたまでは順風満帆であったのだが、回り続ける運命の輪はゆっくりと加速して行きます。
人間に紛れて生きる獣人、社会転覆を狙い暗躍する魔族、レイシュアの元に集まる乙女達。
彼に課せられた運命とはいったい……
これは一人の少年が世界を変えゆく物語、彼の心と身体がゆっくりと成長してゆく様を見届けてあげてください。
・転生、転移物でもなければザマァもありません。100万字超えの長編ですが、よろしければお付き合いください。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる