上 下
41 / 45
後日談

後日談①

しおりを挟む
――デビューから数か月後、とあるスタジオ内にて……。

「はぁーい、OK! ばっちりです! お疲れ様でした。」

「――お疲れ様でした!」

スタジオ内でスタッフ一同が一礼の言葉を掛けて解散となった、砕波たちはデビューした後初の映像つきPVが見られるミュージックビデオの撮影をしてたった今完成させたのだ。

スタッフルームの待合室にあるシャワー室で一風呂浴びた後、人化薬を飲み終えてスマートフォンを片手に身体を拭いていた。

「疲れたぁ~~」
「腹減った……」
「ハンバーガー食いたい……」

「おいおい、これくらいで疲れてたら後が持たないって……。あと、体系維持でジャンクフード控えろって言われたでしょうが」

レモンとヨシュアが疲れてぼやきながらソファに寝そべっている様子をヘディは見て呆れてハンバーガーを食べたいと我儘を呟くレモンに体系維持のために事務所の社長から控えるよう言われていたことを指摘した。

「みんなお疲れ様、ちゃんとケアしなさいよ。」
「といってもオレっち達、だけどね」

「――そっちじゃない!」

マネージャーが疲弊しきっているメンバーに労いと厳しい言葉を掛けると、レモンが肌のケアと身体と声のケアをかけたボケをかますとマネージャーがツッコミを入れるのはデビュー後仕事が入るようになってからのお約束だった。

ソファでだらけていたレモンとヨシュアはヘディにマネージャーが家まで送ってくれるから起きないで寝てるとワサビ擦って顔に塗りたくると言われ、嫌々起き上がっていた。

 デビューして数ヶ月、砕波の歌声のスキルとヘディ達の楽器演奏のスキル徐々に上がっていたが他にもヘディの世話焼きリーダーっぷりにも磨きがかかっている気がすると砕波は頭の端で思っていた。

「サイハ、なぁ~にしてんの?」
「――うおっ!?」

後ろからレモンが肩を組むように抱きついてきて、スマートフォンの会話内容を覗いて来る。

「おやおや、また?」
「うるせえって……」

会話の内容で会話の相手が琉璃だと分かった様でレモンは砕波をからかってくるが、砕波は鬱陶しそうに肩を組んでくる腕を払う。

「ラブラブだよなぁ~~、パパラッチも騒ぐから破局や離婚率高い芸能界でサイハみたいなの貴重だと思うよ。」
「あんな子貴重なんだから逃げられない様にしろよ? 浮気するなよ? 
「――ちょっ、それどこで聞いた!?」

「「ノゼルさんからの情報~~♪」」

レモンの砕波いじりにヨシュアも乗っかってきて、グレて悪行を重ねていた頃、男女問わず色んな子と遊んだことを知られていたことに砕波は戸惑い、誰が情報提供したのか聞くと二人はそろってノゼルからの情報だと話した。

「遊び人が変わるもんだよねぇ~~」
「まぁユリちゃん心広い子だからねぇ~~、まともにならなきゃって思わずにはいられなかったんじゃない?」

(今度会った時しめてやる……)

「お前ら……その辺にしてやれ」

 ヨシュアとレモンは琉璃と砕波の良好な関係をいじって楽しんでいるとヘディが二人に呆れて静止の声をかけ、二人にからかわれている端で砕波は勝手に二人にいらない情報を漏らしたノゼルに次に会ったらこのことについて詰問することを決める。一方、琉璃はと言うと……、

「さてと……」

丁度アルバイト先の店で、ゴミ捨てをしていたところだった。
琉璃は重たい生ごみを投げ終わって一息ついた後、バイト先である店に戻って行った。

「ありがとうございました~、またお越しくださいませ」

琉璃の働いているバイト先のカフェで二人組のお客が会計を終えて出て行った。
ふと時間を見てみると出勤時間の終わりが迫っていた時に店長が「もうあがっていいよ」と琉璃にひと声かけてくれた為、琉璃は制服を脱ぐためロッカーに向かった。

「あっ、メール……。」

 ロッカーのチェックをしていた時に、自分のスマートフォンを見て琉璃は砕波からメールが届いていたことに気付く。砕波はデビューした後仕事も徐々に増えてきたがメールは欠かさなかったし、仲は良好のまま続いていた。

 ノゼル曰く昔は相当な遊び人だったみたいだが今現在、琉璃以外の相手に手を出すなんて真似はしてはいない。

それに、もし琉璃を裏切るような真似をしたら毒殺してやるとフリッグに念を押されているせいかもしれないが砕波は浮気はしないし、同棲はしているが今のところパパラッチに嗅ぎ付けられるようなことも砕波がニュースで取り上げられるほどの誤解を招くようなことはされていない。

――琉璃は今、まさに順風満帆の幸せであった。

琉璃は同棲しているアパートに向かっている途中……、

「ゆーりー、今日はなんだかお楽しみ?」

「――わぁ! って……シエル!?」

いきなり声を掛けられ驚いていると、シエルが琉璃の前に顔を出したのだった。

「バイト先近いって知ったからさ、ちょっと顔出してみようと思ったら琉璃がいたから声かけてみたんだ」
「なんだそうだったんだ……」

 伯父夫婦の家は琉璃のアルバイト先から逆方向の為ここにシエルが来ている理由がわからなかったが、シエルがそう説明してくれたおかげで納得が行った。

「ゆりー、その顔今日はお楽しみかなと思ったらやっぱりぃ?」
「あっ、ちょっと……!」

スマートフォンの画面に映し出されたメール内容を読まれたことに慌てふためくが、大体の内容を把握されたため遅かった。

「サイハとおデート? 良いねぇ、ついて来てもいい?」
「もう、冗談はやめてってば……」
「あはは、ごめんごめん」

シエルが琉璃をからかってくるため、二人は歩道を歩いている中じゃれ合う。
眼が見えなかった頃はシエルは気を使ってかあまりこういう風にじゃれてこなかったので視力が戻った今、事故が起きる前の昔に戻った様だった。

「でもその様子ならよかったよ……、サイハのやつ芸能界にデビューしたばっかりだからさ。
アンタのことおろそかにしないかちょっと心配だったからさ」
「シエル……」

シエルは安堵の言葉を述べたのち心配事を漏らしてくれた、シエルなりに自分を心配してくれていたのだと思って琉璃は嬉しく思った。

「――まぁ、その様子ならフリッグさんが少し大人しくなると思うから伝えておくよ。
アンタの旦那は浮気をしたり琉璃に冷たくしてませんよ~ってね。」
「あっ、ありがとう……」

 実はフリッグが砕波に厳しいのはシエルも把握済みだった、フリッグの口出しがうるさくならない為に琉璃がちゃんと上手くやっていることを報告するとシエルが言うと、琉璃はフリッグの小姑ぶりに苦笑いを浮かべていた。

「まぁ、世間的にリスキーな橋を渡る仕事だと思うけどさ……頑張ってって伝えといてよ」
「シエル……ありがとう。」

芸能界は妙な誤解を招く行動を下手にすればすぐにマスコミが騒ぐ世界だ、琉璃もとばっちり受けないとは限らない世界ではある。しかし砕波は好きでこの道に進んだのでシエルも止めることはしないが心配してくれてはいるのだ。琉璃はその言葉でシエルがちゃんと砕波と拗れることなく仲良くやっているか心配して個人的な行動をしたことに気付いて、感謝の意を述べたのだった。

同棲しているアパートがある分かれ道でシエルと別れた後、琉璃はアパートへと帰宅する。

「ただいま~」

玄関を開けて一言言うと返事は帰ってこない、先程のメールには終わったと言っていたのでもう帰宅していると思っていたがまだ帰ってきていないようだった。

玄関にある靴箱の上には約束の証である“イタチザメ”のモデルフィギュアが飾ってある。
ちゃんと尾ひれの部分も接合している状態で飾ってあるフィギュアを見て、色々なことがあったと思いに耽った。この眼がちゃんと見えた状態でまたフィギュアに触れるのも、琉璃にとって夢のようだった。

――でも、まだ解決できていないこともある……。

「ミコト……」

今だミコトの居場所が掴めない、ミコトの両親も音信不通で連絡も一切取れず更正施設を出た後も家には寄らなかったと言う話だし、ミコトが今どんな状況なのかもわからない。
ミコトには話をしたいことがたくさんあるのに会うことが未だできないのがもどかしく思う。

「ゆり……」
「――!」

すると声を掛けられ、驚いて体が思わず跳ね上がってしまった。

「さっ、砕波さん……!?」
「わりぃ……、声をかけたんだが考え事してたみたいで声かけてみた」

考え事をしていて砕波が帰ってきていることすら気づいていなかった、どうやら自分が帰ってきてから間もなく砕波も帰ってきていたようだった。砕波は後ろ手で部屋のドアの鍵を掛けながらマスクとサングラスと帽子を外した。

「大丈夫……? マスコミや記者に目をつけられていない?」
「まぁ、保険として容姿が分かりにくいようにサングラスかけてマスクして帰ってきたから……」

パパラッチに跡をつけてこられていないか心配して聞くと、一応期待の新人バンドとして一目置かれているあの砕波と分からないような変装はしていたと明かす。

「それより、帰ってきたんだから挨拶が欲しいんだが?」

琉璃に後ろから抱きついてキスをさせてほしいと強請って来る。

「ふふ……お帰りなさい、お疲れ様」

琉璃は労いの言葉を掛けると砕波は自分の方に向かせると琉璃にキスを施してきた。

「――ん……」
「お前も、バイト大変だったんだろ? お疲れ様」

学業と両立させつつ、カフェのバイトを終えてきた琉璃に今度は砕波が労いの言葉を掛けてきた。

「そういや今日ね……ノゼルさんみたいに何でも知ってるお客さんに会ったんだ。」

リビングに向かいつつ、琉璃は何気ない日常の出来事を砕波に話す。

「あぁ、そういや聞いてくれよ……あの二人ノゼルからいらん情報貰ってきやがってた」
「あの二人……?」
「ヨシュアとレモンだよ」

ノゼルの名前を出されたことで二人に先程から買われたことを思い出し、少し怒りながら砕波は二人にからかわれた内容を話す。

「……たく、ノゼルもいらんことばかりあいつらに提供しやがって。ていうか何時の間にあいつら仲良くなったんだよ」

「あはは、仕方ないよ。過去は受け入れなきゃ……」

 琉璃も、ノゼルから砕波がぐれて詠寿とも険悪なまま悪行三昧していた頃はクレミオだけでなく色んな子と遊んでいたことは聞いていたのでこれはずっと弄られるネタにされるのも仕方のないことだと苦笑いしながら告げる。

「……」
「どうしたの?」

じっとこちらを見ている砕波を不審に思った琉璃は、なにか悪い事でもあったのかと不審に思い心配になって声をかけた。

「いいや、お前……って思ってさ」
「……?」

砕波は琉璃がこんな話になっても嫉妬をしないことが不思議だと呟く。

「だってよ、むかつかねえの? 俺が……」

砕波はちょっと疑問に思っていたことをぶつけてみた、琉璃はクレミオ相手にも今まで遊び相手として付き合ってきた他の相手にも焼きもちを焼かないのが不思議に思って聞いてみた。

「だってほら……、普通なら自分以外の奴と遊んでいたなんて気に入らねーって思うのが普通なのかなって思ってたからよ」

砕波は普通なら嫉妬をするのではないかと思うところで嫉妬の念を醸し出さない琉璃が不思議だっただけで、別に悪気があったわけではないと弁解する。

「――しないわけ、ないじゃない」
「……?」

琉璃の表情が曇っていたことに砕波は気付いた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

シロワニの花嫁

水野あめんぼ
BL
水族館でバイトをする大学生・葉月明澄(はづき あすみ)は同じ大学の先輩で同じバイト先の仲間である鮫淵詠寿(さめぶち えいじゅ)に密かな憧れを持っていた。しかし詠寿の正体はなんと“人魚”で人魚たちの住む世界“人魚界”の王子だった……。詠寿の秘密を知ってしまった明澄は強制的に連れてこられ、人魚界の掟で詠寿の花嫁にさせられてしまう……。現状をなかなか受け入れられない明澄、しかも明澄には過去のトラウマがあって……。 種族や住む世界観の違いという壁に悩む人魚の王子×トラウマ持ち大学生の物語……。  ※この作品はムーンライトノベルズに乗せている作品をアルファポリス版として掲載した作品です。 遅くなるかもしれませんがこちらのバージョンに合わせて乗せていくつもりなので。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ここは蠱毒の壺の中

ミミミミミミミ ミ
BL
目が覚めたら、山。 今流行りの異世界転移?よくわからないまま『先生』に運ばれ、合宿所での居候生活が始まった。

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...