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本編
第六話:迷いと恋心
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「その、砕波さんが嫌じゃなきゃもっと……仲良くなりたいなって思うんだ」
「……」
その言葉に砕波は戸惑いを隠せなかった、琉璃はこんな自分と仲良くなりたいと思っていてくれているなんて想像していなかった。
「おーい、二人とも! コーラ用意したからこっち来て飲みな」
ダグラスが浜辺にいた二人にそう大声で呼んだ、二人は用意してくれたコーラを貰いにダグラスのいる海の家に向かった。
「うん、美味い」
「暑い時のコーラって、なんでこんなに美味しいんだろうね。」
コーラを堪能する砕波に琉璃も暑い日のコーラは格別だと堪能する。
泳ぎたかったが、足はまだ完全に傷口が塞がったわけではないので眺めるだけの我慢だった。脚の調子はフリッグが手当てしてくれたせいか、昨日よりは大分ましだった。
「そういや、ダグラス……つったっけ? オッサンここで普段何やってるんだ?」
「あぁ、ツアーで来た客の先導係のダイバーとかな。あとはサーフボードの手入れを代わりにやっているのさ。」
ダグラスは普段はどんな仕事をやっているのか聞くと、ダグラスはサーフボード管理及び手入れやダイビングをしに来たツアー客の先導ダイバーを務めてやりくりしていると答えた。
「先月は今年一番の稼ぎ時だったなぁ、今は熱くてもちまちまとしかツアー客も来ないしな」
「成程、それでフリッグや俺を見つけるのが早かったわけね。」
先月は忙しかったがシーズンを終えたせいか、他の国から来たツアー客はもうあまり来ないとぼやく。
この海の家を拠点として働いていれば、自分たちを見つけ出すのも早いのも納得した。
「まぁ……竜巻が来たら休み営業日関係なく店を仕舞っちまうんだけどよ」
年中無休と言う訳でもない上に大時化が来たらさすがに営業できないので、仮住まいしているアパートで嵐が去るのを待つしかないのだとダグラスは笑う。
「大変そうだな……」
「ーーまあ、好きじゃなきゃ続けてないさ」
おまけに琉璃やフリッグの面倒まで見ているのでダグラスの苦労は計り知れないだろうと砕波は思った。
「そういや、琉璃とダグラスはどうやって知り合ったんだ?」
「俺とこの子の父親は大学の先輩後輩にあたってな……。先輩が、この子が6歳の時にこの子に会わせてくれたんだ」
琉璃とダグラスは一体どういう関係でどういう経緯で仲良くなったのか砕波は聞くと、ダグラスは大学の先輩後輩にということもあって琉璃の父親と仲が良く、琉璃の父親は自分の息子である琉璃を紹介してくれたのだと話す。
「だからユリと再会した時は驚いたぜ……、先輩がユリを残して死んじまったって。その上、事故のせいでユリは目が見えなくなっちまったって聞いたからよ」
琉璃の父が交通事故で死んだと聞かされ、琉璃が事故の後遺症で目が見えなくなってしまった経緯を聞いた時には驚きを隠せなかったとダグラスは話した。
「一緒に水族館行ったときはすごくはしゃいだんだぜ? この子……」
「……」
鮫が好きなら水族館が好きな琉璃は水族館に連れて行ったときに同行した時は、ものすごく嬉しそうにはしゃいでいた琉璃だったが、今は両親がいなくなっただけではなく目が見えなくなってしまったことでその水族館が楽しめなくなったのは、ダグラスにとってものすごく可哀そうに思えてくるのだろう。
「だから俺が出来ることなら、してやりたくてなぁ……」
「そう、か……」
気の毒そうにダグラスは琉璃を見つめる。
目の見えない琉璃の世話を焼く理由を話す様子から
ダグラスも相当琉璃を可愛がっていると思えた。
砕波はその言葉にそう返答することしかできない。
「ーーねぇ、琉璃。ちょっと砕波と話をしたいんだけど……貸してくれない?」
「? 別にいいけど……」
フリッグは突然、琉璃に砕波とちょっとした話をしたいので砕波を貸してほしいと言う。
何を考えているか分からないが、琉璃は取りあえず砕波を貸してもいいと言った。
フリッグについてくると、海の家の裏に連れこまれた。
「ーーなんだよ?」
フリッグが何を聞きたいのか砕波は問いかける。
「アンタ、悪癖はある?」
「……」
「知らない訳じゃないんでしょ? サメの人魚の特殊な悪癖」
「あぁ、ないわけじゃないさ」
鮫の人魚の悪癖……鮫の人魚だけが持つ特殊な持病で血の臭いを嗅ぐと、自我を保てなくなりたちまち嗜虐的な性格になって見境なく人を傷つけてしまう。
その悪癖を抑制する薬は、クエシス達魔女の子孫の手により開発されている為あるが、まだ治すまでに至らず抑制剤を手放せない者がいると言う。
突然、鮫の人魚が持つ特殊な持病でもある“鮫の人魚の悪癖”について問われた。
面倒だがこればかりは隠し事は通用しないと思い、自分も詠寿程酷くはないがその持病はあると答えた。
持病を自覚したのは父親が瓶を投げた後、その破片で父は頬を切った。
頬で切った父の血を嗅いだとき、一瞬自分の自我が保てなくなり自分は父親を椅子で殴りつけていたことがあったのだった。
父親は悪癖が出た自分に殴りつけられたトラウマか、罵倒はしてきても自分には寄りつかなくなった。
それに怯えた砕波の使用人たちは、自分に寄りつかなくなった。リゼットと言う仲の良い使用人がいたが、父親や周りの目線を気にしてリヴェラのように声をかけてくれなかった。
『リヴェラ、リヴェラ~っ』
『大丈夫ですよ、王子……悪癖を治すこときっとできるはずだから。クエシスもそう言ってたでしょ?』
『~~っ』
幼い頃、悪癖に怯えてリヴェラに泣きつく詠寿の姿を見ると余計誰も気にかけてくれない自分がみじめだった。
だからリヴェラのような気にかけてくれる使用人が周りにいる詠寿が羨ましかったし、自分より恵まれてる詠寿が嫌いだった。
ーーそしてフリッグは……、
「アンタは、正直琉璃の事どう思っている?」
「……」
そう問いかけて来た。おそらく琉璃に好意があるかないかの問いかけだと言うのは分かる。
しかし、正直に答えられない返答に困る内容の質問だった。
「正直、琉璃はアンタの事好きみたいだけど今のままだと僕はあんまり賛成できない」
フリッグは琉璃が砕波に気があることは察しており、しかし個人的な見解では悪癖を治していないから
今のままでは琉璃と砕波の交際は賛成できないと意見する。
「悪癖治さないままだと琉璃を傷つける可能性がある、琉璃を傷つけないとは言い切れないってあんたも分かってるんじゃない?」
「……」
悪癖を治さない今のままだと交際が出来たとしてもいずれ琉璃を傷つける可能性があると睨んでいるとフリッグは話す。
側から見れば厳しいがフリッグの意見はある意味正論である為、反論できずにそっぽを向く。
「でもそんなアンタに朗報だよ」
「――?」
しかしその特殊な悪癖を持っている鮫の人魚の一人である砕波に有る朗報が先程届いたとフリッグは話す。
「最近ではついにクエシスが悪癖の完治に成功したんだって。……でも、悪癖を治すにしても一回人魚界に戻らなくちゃいけない」
「――!」
クエシスが漸く悪癖を完全に治す薬の開発に成功したは良いが、治そうとしても一度人魚界に戻らないと治療は出来ないとフリッグは伝える。
「……」
「南の人魚界のところで更正目的で滞在しているアンタは、一度戻ったら簡単に人間界に出入りできなくなるかもよ?」
ただでさえ更正目的で南の人魚界にいる砕波が、もし人間界で問題を起こしてその責任を問われたら南の人魚界の王や大臣たちはますます砕波に目を光らせると思うとフリッグは懸念する。
「怪我を治すまでよく考えておいてね? 別に意地悪したいわけじゃない、琉璃を傷つけてほしくないから言ってるだけ。」
怪我を治したらすぐ人魚界に戻るか、穏便に過ごすことを徹底するか考えろと警告を促し、瑠璃の為にもよく考えてほしいとフリッグはそう言い残すと、先に海の家の室内に戻った。
南の人魚界は東の人魚界とは違って、身元がバレたら自分たちの住処に連れて行くと言う掟はないが、今はそれがないことが何故か憎らしく思えた。
――バン!
「――分かってんだよ、畜生……!」
このままだと琉璃を傷つけることになるし、面倒事になるのは目に見えている。しかし、このまま滞在していたい自分がここにいることにまだ混乱を隠せないでいる。
「畜生、琉璃に会ってからずっとおかしい! どうしちまったんだ?」
琉璃に出会ってから、自分は何かがおかしいことに砕波は動揺を隠しきれないでいた。
――そして夕方、琉璃は砕波とともに家に帰ることにした。そして今日は琉璃の伯父と従兄弟がいるのだった。
「リタさん、ただいま。」
「ーーあら、ユリさん。サイハさんもお帰りなさい」
ダグラスの車で送ってもらっていた琉璃が車から降りたのを見て、リタは出迎える。
「……伯父さん達は?」
「今日は帰ってきていますよ? それにシエルさんも」
従兄弟のシエルも伯父夫婦も先に帰ってきているとリタは報告する。
「ただいま、おじさん。」
「お帰り、琉璃。海に行って来たのかい?」
「ーーうん。」
ダグラスが後ろにいると言うことはまた海に行って来たのか伯父が聞いて来たので琉璃は正直に答えた。
砕波は訳があって家に戻りにくいためせめて怪我が治るまでいさせてくれないか琉璃は説明と同時に伯父に頼み込んだ。
「ーーだっ、大丈夫かい? もしかして借金取りに追われているのかい!?」
「――えっ!?」
変な想像で砕波の実家が悲惨だと思っているのか、琉璃の伯父はそう聞いて来た。下手に違うと言ったらまた理由を聞かれそうなのでそういうことにしようと、砕波は敢えて黙った。
「ほとぼりが冷めるまで家にいていいからね? 何でも言いなさい?」
「えっ、あ……」
親切にしてくれるのはありがたいが、変な思い込みが暴走していて正直砕波は面倒くさいと心の隅で思っていた。
「どうやらいてもいいみたいだな。じゃあな? ユリ、砕波。」
「ーーまたね。」
琉璃の伯父が砕波がこの家にいてもいいと許可をくれたことに安堵したダグラスは自分たちは帰ると伝えると、琉璃は別れの挨拶をした。
「おかえりー、あれユリ? その人誰?」
「あっ、シエルただいま。」
そうこうしているうちに従兄弟のシエルが階段から降りてきて砕波を見つけて、砕波は何者なのか聞いて来た。
琉璃はシエルにも訳を話して砕波を今夜も泊まらせることを話す。
シエルも砕波に興味を示したようで夕食中砕波はかなりの質問攻めにあった。
夕食の後、砕波はまた琉璃の部屋に迎え入れられた。
「さっきはごめんね? シエルが随分質問攻めしてきて……」
「? あぁ……別に」
琉璃は年はいくつだの何だの聞いて来たシエルの代わりに謝って来た。砕波はシエルが質問攻めしてきたことに別に気にしてはいないと答える。
「伯父さん、ちょっと思い込みが暴走するところあるけど……。でも、良い人でしょ?」
「――えっ!? あぁ……」
琉璃は叔父が快く砕波を家に泊めてくれたことに安堵していたようで、笑顔を浮かべながらそう砕波に聞いてくる。
――ドクン
(あっ、またこの笑顔だ……)
その笑顔にまた胸が高鳴る。
琉璃が欲しい、琉璃と離れたくない、琉璃をだれにも渡したくない……。
そんな感情に煽られている自分は変だと砕波は思う。
しかし同時に自覚した、自分は琉璃に惹かれ始めているのだとーー。
何で人魚界に帰りたくないのか本当の理由を今、自覚した気がした。
「……」
その言葉に砕波は戸惑いを隠せなかった、琉璃はこんな自分と仲良くなりたいと思っていてくれているなんて想像していなかった。
「おーい、二人とも! コーラ用意したからこっち来て飲みな」
ダグラスが浜辺にいた二人にそう大声で呼んだ、二人は用意してくれたコーラを貰いにダグラスのいる海の家に向かった。
「うん、美味い」
「暑い時のコーラって、なんでこんなに美味しいんだろうね。」
コーラを堪能する砕波に琉璃も暑い日のコーラは格別だと堪能する。
泳ぎたかったが、足はまだ完全に傷口が塞がったわけではないので眺めるだけの我慢だった。脚の調子はフリッグが手当てしてくれたせいか、昨日よりは大分ましだった。
「そういや、ダグラス……つったっけ? オッサンここで普段何やってるんだ?」
「あぁ、ツアーで来た客の先導係のダイバーとかな。あとはサーフボードの手入れを代わりにやっているのさ。」
ダグラスは普段はどんな仕事をやっているのか聞くと、ダグラスはサーフボード管理及び手入れやダイビングをしに来たツアー客の先導ダイバーを務めてやりくりしていると答えた。
「先月は今年一番の稼ぎ時だったなぁ、今は熱くてもちまちまとしかツアー客も来ないしな」
「成程、それでフリッグや俺を見つけるのが早かったわけね。」
先月は忙しかったがシーズンを終えたせいか、他の国から来たツアー客はもうあまり来ないとぼやく。
この海の家を拠点として働いていれば、自分たちを見つけ出すのも早いのも納得した。
「まぁ……竜巻が来たら休み営業日関係なく店を仕舞っちまうんだけどよ」
年中無休と言う訳でもない上に大時化が来たらさすがに営業できないので、仮住まいしているアパートで嵐が去るのを待つしかないのだとダグラスは笑う。
「大変そうだな……」
「ーーまあ、好きじゃなきゃ続けてないさ」
おまけに琉璃やフリッグの面倒まで見ているのでダグラスの苦労は計り知れないだろうと砕波は思った。
「そういや、琉璃とダグラスはどうやって知り合ったんだ?」
「俺とこの子の父親は大学の先輩後輩にあたってな……。先輩が、この子が6歳の時にこの子に会わせてくれたんだ」
琉璃とダグラスは一体どういう関係でどういう経緯で仲良くなったのか砕波は聞くと、ダグラスは大学の先輩後輩にということもあって琉璃の父親と仲が良く、琉璃の父親は自分の息子である琉璃を紹介してくれたのだと話す。
「だからユリと再会した時は驚いたぜ……、先輩がユリを残して死んじまったって。その上、事故のせいでユリは目が見えなくなっちまったって聞いたからよ」
琉璃の父が交通事故で死んだと聞かされ、琉璃が事故の後遺症で目が見えなくなってしまった経緯を聞いた時には驚きを隠せなかったとダグラスは話した。
「一緒に水族館行ったときはすごくはしゃいだんだぜ? この子……」
「……」
鮫が好きなら水族館が好きな琉璃は水族館に連れて行ったときに同行した時は、ものすごく嬉しそうにはしゃいでいた琉璃だったが、今は両親がいなくなっただけではなく目が見えなくなってしまったことでその水族館が楽しめなくなったのは、ダグラスにとってものすごく可哀そうに思えてくるのだろう。
「だから俺が出来ることなら、してやりたくてなぁ……」
「そう、か……」
気の毒そうにダグラスは琉璃を見つめる。
目の見えない琉璃の世話を焼く理由を話す様子から
ダグラスも相当琉璃を可愛がっていると思えた。
砕波はその言葉にそう返答することしかできない。
「ーーねぇ、琉璃。ちょっと砕波と話をしたいんだけど……貸してくれない?」
「? 別にいいけど……」
フリッグは突然、琉璃に砕波とちょっとした話をしたいので砕波を貸してほしいと言う。
何を考えているか分からないが、琉璃は取りあえず砕波を貸してもいいと言った。
フリッグについてくると、海の家の裏に連れこまれた。
「ーーなんだよ?」
フリッグが何を聞きたいのか砕波は問いかける。
「アンタ、悪癖はある?」
「……」
「知らない訳じゃないんでしょ? サメの人魚の特殊な悪癖」
「あぁ、ないわけじゃないさ」
鮫の人魚の悪癖……鮫の人魚だけが持つ特殊な持病で血の臭いを嗅ぐと、自我を保てなくなりたちまち嗜虐的な性格になって見境なく人を傷つけてしまう。
その悪癖を抑制する薬は、クエシス達魔女の子孫の手により開発されている為あるが、まだ治すまでに至らず抑制剤を手放せない者がいると言う。
突然、鮫の人魚が持つ特殊な持病でもある“鮫の人魚の悪癖”について問われた。
面倒だがこればかりは隠し事は通用しないと思い、自分も詠寿程酷くはないがその持病はあると答えた。
持病を自覚したのは父親が瓶を投げた後、その破片で父は頬を切った。
頬で切った父の血を嗅いだとき、一瞬自分の自我が保てなくなり自分は父親を椅子で殴りつけていたことがあったのだった。
父親は悪癖が出た自分に殴りつけられたトラウマか、罵倒はしてきても自分には寄りつかなくなった。
それに怯えた砕波の使用人たちは、自分に寄りつかなくなった。リゼットと言う仲の良い使用人がいたが、父親や周りの目線を気にしてリヴェラのように声をかけてくれなかった。
『リヴェラ、リヴェラ~っ』
『大丈夫ですよ、王子……悪癖を治すこときっとできるはずだから。クエシスもそう言ってたでしょ?』
『~~っ』
幼い頃、悪癖に怯えてリヴェラに泣きつく詠寿の姿を見ると余計誰も気にかけてくれない自分がみじめだった。
だからリヴェラのような気にかけてくれる使用人が周りにいる詠寿が羨ましかったし、自分より恵まれてる詠寿が嫌いだった。
ーーそしてフリッグは……、
「アンタは、正直琉璃の事どう思っている?」
「……」
そう問いかけて来た。おそらく琉璃に好意があるかないかの問いかけだと言うのは分かる。
しかし、正直に答えられない返答に困る内容の質問だった。
「正直、琉璃はアンタの事好きみたいだけど今のままだと僕はあんまり賛成できない」
フリッグは琉璃が砕波に気があることは察しており、しかし個人的な見解では悪癖を治していないから
今のままでは琉璃と砕波の交際は賛成できないと意見する。
「悪癖治さないままだと琉璃を傷つける可能性がある、琉璃を傷つけないとは言い切れないってあんたも分かってるんじゃない?」
「……」
悪癖を治さない今のままだと交際が出来たとしてもいずれ琉璃を傷つける可能性があると睨んでいるとフリッグは話す。
側から見れば厳しいがフリッグの意見はある意味正論である為、反論できずにそっぽを向く。
「でもそんなアンタに朗報だよ」
「――?」
しかしその特殊な悪癖を持っている鮫の人魚の一人である砕波に有る朗報が先程届いたとフリッグは話す。
「最近ではついにクエシスが悪癖の完治に成功したんだって。……でも、悪癖を治すにしても一回人魚界に戻らなくちゃいけない」
「――!」
クエシスが漸く悪癖を完全に治す薬の開発に成功したは良いが、治そうとしても一度人魚界に戻らないと治療は出来ないとフリッグは伝える。
「……」
「南の人魚界のところで更正目的で滞在しているアンタは、一度戻ったら簡単に人間界に出入りできなくなるかもよ?」
ただでさえ更正目的で南の人魚界にいる砕波が、もし人間界で問題を起こしてその責任を問われたら南の人魚界の王や大臣たちはますます砕波に目を光らせると思うとフリッグは懸念する。
「怪我を治すまでよく考えておいてね? 別に意地悪したいわけじゃない、琉璃を傷つけてほしくないから言ってるだけ。」
怪我を治したらすぐ人魚界に戻るか、穏便に過ごすことを徹底するか考えろと警告を促し、瑠璃の為にもよく考えてほしいとフリッグはそう言い残すと、先に海の家の室内に戻った。
南の人魚界は東の人魚界とは違って、身元がバレたら自分たちの住処に連れて行くと言う掟はないが、今はそれがないことが何故か憎らしく思えた。
――バン!
「――分かってんだよ、畜生……!」
このままだと琉璃を傷つけることになるし、面倒事になるのは目に見えている。しかし、このまま滞在していたい自分がここにいることにまだ混乱を隠せないでいる。
「畜生、琉璃に会ってからずっとおかしい! どうしちまったんだ?」
琉璃に出会ってから、自分は何かがおかしいことに砕波は動揺を隠しきれないでいた。
――そして夕方、琉璃は砕波とともに家に帰ることにした。そして今日は琉璃の伯父と従兄弟がいるのだった。
「リタさん、ただいま。」
「ーーあら、ユリさん。サイハさんもお帰りなさい」
ダグラスの車で送ってもらっていた琉璃が車から降りたのを見て、リタは出迎える。
「……伯父さん達は?」
「今日は帰ってきていますよ? それにシエルさんも」
従兄弟のシエルも伯父夫婦も先に帰ってきているとリタは報告する。
「ただいま、おじさん。」
「お帰り、琉璃。海に行って来たのかい?」
「ーーうん。」
ダグラスが後ろにいると言うことはまた海に行って来たのか伯父が聞いて来たので琉璃は正直に答えた。
砕波は訳があって家に戻りにくいためせめて怪我が治るまでいさせてくれないか琉璃は説明と同時に伯父に頼み込んだ。
「ーーだっ、大丈夫かい? もしかして借金取りに追われているのかい!?」
「――えっ!?」
変な想像で砕波の実家が悲惨だと思っているのか、琉璃の伯父はそう聞いて来た。下手に違うと言ったらまた理由を聞かれそうなのでそういうことにしようと、砕波は敢えて黙った。
「ほとぼりが冷めるまで家にいていいからね? 何でも言いなさい?」
「えっ、あ……」
親切にしてくれるのはありがたいが、変な思い込みが暴走していて正直砕波は面倒くさいと心の隅で思っていた。
「どうやらいてもいいみたいだな。じゃあな? ユリ、砕波。」
「ーーまたね。」
琉璃の伯父が砕波がこの家にいてもいいと許可をくれたことに安堵したダグラスは自分たちは帰ると伝えると、琉璃は別れの挨拶をした。
「おかえりー、あれユリ? その人誰?」
「あっ、シエルただいま。」
そうこうしているうちに従兄弟のシエルが階段から降りてきて砕波を見つけて、砕波は何者なのか聞いて来た。
琉璃はシエルにも訳を話して砕波を今夜も泊まらせることを話す。
シエルも砕波に興味を示したようで夕食中砕波はかなりの質問攻めにあった。
夕食の後、砕波はまた琉璃の部屋に迎え入れられた。
「さっきはごめんね? シエルが随分質問攻めしてきて……」
「? あぁ……別に」
琉璃は年はいくつだの何だの聞いて来たシエルの代わりに謝って来た。砕波はシエルが質問攻めしてきたことに別に気にしてはいないと答える。
「伯父さん、ちょっと思い込みが暴走するところあるけど……。でも、良い人でしょ?」
「――えっ!? あぁ……」
琉璃は叔父が快く砕波を家に泊めてくれたことに安堵していたようで、笑顔を浮かべながらそう砕波に聞いてくる。
――ドクン
(あっ、またこの笑顔だ……)
その笑顔にまた胸が高鳴る。
琉璃が欲しい、琉璃と離れたくない、琉璃をだれにも渡したくない……。
そんな感情に煽られている自分は変だと砕波は思う。
しかし同時に自覚した、自分は琉璃に惹かれ始めているのだとーー。
何で人魚界に帰りたくないのか本当の理由を今、自覚した気がした。
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