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本編
29:悪魔の追手に鵤は覚悟を決め、悪魔を道連れにする
しおりを挟む「あのね、さっき……」
「? ……どうした」
七歩が話を振って来た、その顔は曇っていた。
「幸生おじさんは……流伽兄さんが」
「知ってる……斑鳩が全部話した」
「――!?」
この屋敷で起こった悲劇や流伽が七歩に惚れたばかりにもともと潜んでいた精神異常が覚醒したことも、そして幸生を殺した張本人は斑鳩が使っていた銃を使用した流伽だということを斑鳩自身がすべて白状してくれたことを朧は話した。
「あぁ……お前の親父さんが、先代にレイプされて無理矢理番にされた時に斑鳩は先代に騙されてその片棒を担いじまったこともだ……斑鳩はお前の親父さんを不幸にしたことを酷く後悔してた。」
「…………」
斑鳩は心の奥底では、詩音を“不幸”へと落してしまったことを酷く後悔していたことも七歩に話した。七歩は先代が詩音をレイプした時に斑鳩がその片棒を担いでしまったことまでは知らされてなかった為、最初は驚いていたが斑鳩の後悔を知って何も言えなくなった。
「斑鳩が言うには、幸生サンは、誰よりも真っ直ぐな人だったって思ったって……幸生サンの勇姿は、αにも勝るのではないかって思ったって言ってたぞ」
斑鳩が幸生と対面し、流伽の本性を看破していた際の幸生の姿も話してくれたと朧は話した。
「あいつは……お前を見て勝手に一目惚れしてお前を番にしようとした。血のつながった兄弟とかもうどうでもよくてお前を手に置きたかったんだろうな。先代とそっくりじゃねえか」
過去を聞いて、お気に入りは相手を傷つけようが手元に置いておきたいという流伽の自己中心的な思考は、先代の血筋そのものだと評していた。
「幸生おじさんは僕の居所を掴んだ兄さんを、拒絶したから殺された……」
「幸生サンは……マジ筋の通った人だったんだな。約束の為にお前を守ろうと必死だった。“番”になれない立場である自分が犯した過ちの罪滅ぼしだったとしても……せめて好きな人の子であるお前を守ろうと必死だった。αにも負けない“強い男”だよ。」
斑鳩の証言で幸生の最期を知った朧は、幸生は詩音との約束を守ろうと七歩を守った男の中の“男”だと心の中で評していた。
七歩は幸生の最期を知って……、
「一言でも……“お父さん”って呼んであげればよかった」
最期まで“父”と呼んであげなかったことに後悔していた。
その様子を見ていた朧は……、
「だが、幸生さんは“実の子”のようにお前を大事に思っていたはずだ。じゃなきゃ大事にお前を育てようなんて思わなかったろうさ……」
七歩に労りの言葉として、幸生の人生は七歩がいることで詩音を失った悲しみも救われたと思うと告げた。
その言葉を聞いて七歩は……、
「そうだ、朧さん……」
「あっ……?」
「必ず、僕を見つけ出して『番にしてくれるよう頼む』って言ったよね?」
朧が言った言葉を思い出し、朧に確認する。朧が「そうだが、どうした?」答えると……、
「必ず、探して……待ってるから」
七歩は朧が必ず来て自分を“番”として迎えに来てくれることを待っていると告げた。
その言葉に朧は微笑み……、
「あぁ……“約束”だ。」
そう答えた。その言葉に七歩も笑みを浮かべ、外につながる大きい扉を開けようとした時だった……。
――ダァン!
「――えっ!?」
銃声が玄関ホールに響き、七歩は目を見開く。
七歩はその場に膝をついて倒れ込んだ……。
「――七歩!!」
七歩が倒れ込んだ場所には血が広がり、カーペットが汚れる。
――くすくすくすっ
「――!」
玄関ホールで嗤い声が響き渡る、七歩を撃ったのは……
「ねぇ、もう少しで出られると思ったのに撃たれた感想はどう? 七歩……」
「――てめえっ!!」
流伽だった、流伽は手すりや壁を利用して二人を追っかけていたのだった。
「追っかけてこないと思った? 僕を誰だと思ってるの、この屋敷の構造を誰よりも知り尽くしてる
白屋家当主だよ? 近道を知らない訳ないでしょ?」
流伽は隠し通路を利用しつつ、二人を追っかけてきたと明かした。
「番になんてさせない! 七歩、僕以外を選ぶと言うのならそれは“死ぬ”を選ぶも同然だよね!?」
「てめぇ――!」
流伽は手すりを利用しながら階段を下りて、二人との距離を縮める。
――ガフッ!
「――七歩!」
七歩が血反吐を吐いて、朧は慌てて七歩を呼びかける。
「おぼ、ろさん……ごめんね。約束……、守れそうもないかも」
「――ふざけんな、何のためにここまで来たんだ!!」
七歩は撃たれた箇所を抑え、息切れしながら朧に詫びる。朧は涙を流しながらそんなことを言うなと訴える。
「俺はこんなの認めねぇぞ!? 七歩! 頼む……俺を、また誰も守れない“腑抜け”にしないでくれ、七歩……!」
小夜人のことと重なった朧は、七歩に小夜人の時のような後悔と失態をまた味あわせないでほしいと訴える。
「ふふふっ、ねえ……どんな気持ち!? 目の前の者を守れないのってどんな気持ち!?」
挑発するように聞いて来る流伽に朧は「黙れよ!!」と声を荒げる。
「兄さん、僕は……普通に兄弟と知らず赤の他人として会っていても、貴方を選ばなかった。貴方は、可哀そう……本当の愛を知らない。いいや、知ろうとしなかった愚かな人だった」
「――!」
流伽を「愛を知らぬ憐れな愚者」だと評し、もし街中で会っていたとしても絶対に流伽を選ばなかったと七歩は言い切る。
「――僕ね、目では見えない、たくさんのものを貰ったよ? 大事なことも、教えてくれた。幸生おじさんと父さんからは“愛”を……そして、朧さん、に出会ってそれが、分かったの」
息切れしながら七歩は幸生と詩音が自分に欠かさず与えてくれたものがあったと、それを確信できるようになったのはすべて“朧”に会ったおかげだと言う。
「おぼろ、さん……小夜人さんのこと、話してくれた、よね? 僕は、小夜人さんは、朧さんを、恨んでいないと思う。」
「何を、言って……」
七歩は、朧が過去の事を話してくれた時に思ったことを話し始めた。
自身の見解では小夜人は決して朧を恨んでいないと思うと、朧本人に告げる。
「きっと、小夜人さんはΩ性である、弱い自分をいつも守ってくれた、朧さんにいつも救われていた。Ωが差別される世の中で、朧さんの存在は、きっと“救い”だったんだよ」
「……」
「僕も、朧さんが居なきゃずっと、絶望したままだった。この屋敷を脱出しようという手口を、見つけ出そうとしなかったと、思う。」
被差別対象であるΩの一人だった小夜人にとって朧の存在は大きかったに違いない、そんな小夜人が朧を恨むはずないと……朧が居なければ自分はきっと屋敷から出ることを諦めたままだったと七歩は息切れしながら朧に伝える。
「だから朧さん、自分は誰も守れない……腑抜けだなんて思わないで? ……朧さんはもう大切なものだと思うものを十分守った。小夜人さんも、僕も……貴方に守ってもらえてうれしかった。」
「おい、止めろよ……七歩!」
朧は涙を流しながら首を横に振って訴える。
「貴方のような、守ってくれる存在がいた。それだけで十分……だから」
七歩はそう伝えると目を閉じた、朧は「やめろよ」と声を掛けるが反応がない。
「七歩……あくまで狼谷朧を選ぶと言うんだね!?」
悔しそうに下唇を噛みながら流伽は、朧に銃口を向け始める。
「―だったら、そこにいる野良犬もお前の元に送ってやるよ。」
――ドォン!
流伽は朧の腕の中にいる七歩にそう訴え、朧の足を撃った。
「つくづく救いようのねえ野郎だ……お前は!」
七歩を撃った流伽に朧は足を撃たれた痛みを抑えながら言い返す、精神異常と診断されている流伽に何を言っても通用しないことは分かっていたが言い返さなければやりきれなかった。
「――だったら殺すかい? 仮にも血を分けた七歩の兄弟である僕を!」
流伽は、仮にも七歩の兄である自分を朧は殺せるのか挑発して来る。
しかし朧も負けなかった……、
「てめえを兄弟なんて七歩は少しも思っちゃいねえよ、てめえみたいな“悪魔”、兄弟なんかじゃねえ!!」
七歩の代弁をするかの如く、流伽にそう言い放った。
「でもお前らはここでその“悪魔”に、殺されるんだよ……?」
――ジャキ!!
そう言い放ち、流伽がまた朧達に銃口を向け始める。
銃は先程逃げる途中のトラップ地獄のせいで使い切ってしまった。
朧はここまでかと思い、七歩を庇うように目をぎゅっと瞑った瞬間――、
――ドォン!!
撃たれる前に銃声が玄関ホールに響き渡った、そして流伽が血反吐を吐きながら階段から落ちて行った。
「お許しください……流伽様。」
「――斑鳩!?」
流伽を撃ったのは斑鳩だった、もう片方には拳銃、そしてもう片方には灯油タンクを持っていた。
――はっ!
灯油タンクの存在のおかげで玄関まで走る途中で嗅いだ臭いの正体が分かった、朧はそれを確かめるために斑鳩の方を見ると……
「そうです、止めないでくださいね? 流伽様を止めるためにはこれしかなかったのですから。」
斑鳩は覚悟を決めた眼だった、そして何をしようとしているのかも悟った。
斑鳩は流伽の元まで降りてくる。
「それに、まだ七歩様は生きています。警察と救急車を呼びました。今逃げればまだ間に合いますよ」
「がっは……いか、るが! よくも……裏切った、ね?」
七歩はまだ生きていると、今玄関から屋敷を飛び出せばまだ七歩は助かると朧に告げる。
――パチン
「流伽様……もう止めましょうよ、これでもう終わりにしましょう? 今まで命を奪った者たちへの償いを死んで詫びましょう? 大丈夫、私も一緒ですから寂しくありませんよ」
――ゴォオ!
自分も手を血で汚し過ぎたから、一緒に死んで運命を共にすると睨みつける流伽にそう告げた。
そう告げ終わり、ライターを取り出すと火をつけたまま投げつけるとあらかじめ撒いておいた灯油に燃え移り、あっという間に屋敷が火の海になる。
しかし玄関に続くカーペット方面に灯油は撒いてなかったらしい、その証拠に一番玄関に近い二人の前はまだ火に囲まれていない。
そして、斑鳩は涙を流しながら感慨深そうに火の海になっている屋敷の周りを見渡す。
「今思えば、私の人生は自分の罪に生かされていただけだったような気がします。」
斑鳩は自分の人生を振り返り始めた、皮肉なことに自分の人生は、自分が犯した罪で生かされていただけにすぎなかった気がしたと斑鳩は言う。
そして朧達に一礼すると……、
「今までの非礼をお詫び申し上げます、七歩様。そして、朧様。」
今までの行いを七歩達に詫びたのだった。
「勝手なことを言う様で申し訳ありません、七歩様……生きてください。私はこの屋敷とともに運命を共にします。朧様、私が幸せだったひと時は……見習い時代に、詩音さんに可愛がってもらえたあの日々だったと、七歩様にお伝えください」
朧に使用人の見習い時代に詩音に可愛がってもらえて、優しくされてうれしかったと七歩に伝えてほしいとお願いした。
「私は七歩様を狂った歯車のストッパーにするスケープゴートにしようとしていたのかもしれません、でもそれは間違いだと、……朧さん、貴方は気付かせてくれたんですよ」
「…………」
「貴方に心から、お礼申し上げます。こんなこと私に言う資格はないかもしれません。でも……願わくば、七歩様を支えてあげてください。貴方様は七歩様の大切な、“運命の番”なのですから……」
今思えば無意識に七歩を生贄にしようとしていた愚かな思考を抱いていたのかもしれないと、それを朧に一喝してくれたことで過ちだと気付き、燃え盛る屋敷とともに運命を共にする覚悟が出来るきっかけを作ってくれたことはうれしかったと斑鳩は伝える。
そして斑鳩は七歩をよろしく頼むと朧に伝える、斑鳩の覚悟を見届けた朧はそれに頷いた。
そして朧は七歩を抱きかかえ、玄関から屋敷を出て行った。
斑鳩は穏やかな笑顔で「ありがとうございます」と去っていく朧に言った。
「――斑鳩、全部お前のせいだ。お前のせいで全部狂った」
「そうですね、否定しません。」
そう言って斑鳩は流伽の眉間に銃口を当てて、「すぐに追います」と言い放ち銃を撃ち放った。そして自分の蟀谷に銃口を当てて……
--ダァン!!
銃を撃ち放ったのだった。
「? ……どうした」
七歩が話を振って来た、その顔は曇っていた。
「幸生おじさんは……流伽兄さんが」
「知ってる……斑鳩が全部話した」
「――!?」
この屋敷で起こった悲劇や流伽が七歩に惚れたばかりにもともと潜んでいた精神異常が覚醒したことも、そして幸生を殺した張本人は斑鳩が使っていた銃を使用した流伽だということを斑鳩自身がすべて白状してくれたことを朧は話した。
「あぁ……お前の親父さんが、先代にレイプされて無理矢理番にされた時に斑鳩は先代に騙されてその片棒を担いじまったこともだ……斑鳩はお前の親父さんを不幸にしたことを酷く後悔してた。」
「…………」
斑鳩は心の奥底では、詩音を“不幸”へと落してしまったことを酷く後悔していたことも七歩に話した。七歩は先代が詩音をレイプした時に斑鳩がその片棒を担いでしまったことまでは知らされてなかった為、最初は驚いていたが斑鳩の後悔を知って何も言えなくなった。
「斑鳩が言うには、幸生サンは、誰よりも真っ直ぐな人だったって思ったって……幸生サンの勇姿は、αにも勝るのではないかって思ったって言ってたぞ」
斑鳩が幸生と対面し、流伽の本性を看破していた際の幸生の姿も話してくれたと朧は話した。
「あいつは……お前を見て勝手に一目惚れしてお前を番にしようとした。血のつながった兄弟とかもうどうでもよくてお前を手に置きたかったんだろうな。先代とそっくりじゃねえか」
過去を聞いて、お気に入りは相手を傷つけようが手元に置いておきたいという流伽の自己中心的な思考は、先代の血筋そのものだと評していた。
「幸生おじさんは僕の居所を掴んだ兄さんを、拒絶したから殺された……」
「幸生サンは……マジ筋の通った人だったんだな。約束の為にお前を守ろうと必死だった。“番”になれない立場である自分が犯した過ちの罪滅ぼしだったとしても……せめて好きな人の子であるお前を守ろうと必死だった。αにも負けない“強い男”だよ。」
斑鳩の証言で幸生の最期を知った朧は、幸生は詩音との約束を守ろうと七歩を守った男の中の“男”だと心の中で評していた。
七歩は幸生の最期を知って……、
「一言でも……“お父さん”って呼んであげればよかった」
最期まで“父”と呼んであげなかったことに後悔していた。
その様子を見ていた朧は……、
「だが、幸生さんは“実の子”のようにお前を大事に思っていたはずだ。じゃなきゃ大事にお前を育てようなんて思わなかったろうさ……」
七歩に労りの言葉として、幸生の人生は七歩がいることで詩音を失った悲しみも救われたと思うと告げた。
その言葉を聞いて七歩は……、
「そうだ、朧さん……」
「あっ……?」
「必ず、僕を見つけ出して『番にしてくれるよう頼む』って言ったよね?」
朧が言った言葉を思い出し、朧に確認する。朧が「そうだが、どうした?」答えると……、
「必ず、探して……待ってるから」
七歩は朧が必ず来て自分を“番”として迎えに来てくれることを待っていると告げた。
その言葉に朧は微笑み……、
「あぁ……“約束”だ。」
そう答えた。その言葉に七歩も笑みを浮かべ、外につながる大きい扉を開けようとした時だった……。
――ダァン!
「――えっ!?」
銃声が玄関ホールに響き、七歩は目を見開く。
七歩はその場に膝をついて倒れ込んだ……。
「――七歩!!」
七歩が倒れ込んだ場所には血が広がり、カーペットが汚れる。
――くすくすくすっ
「――!」
玄関ホールで嗤い声が響き渡る、七歩を撃ったのは……
「ねぇ、もう少しで出られると思ったのに撃たれた感想はどう? 七歩……」
「――てめえっ!!」
流伽だった、流伽は手すりや壁を利用して二人を追っかけていたのだった。
「追っかけてこないと思った? 僕を誰だと思ってるの、この屋敷の構造を誰よりも知り尽くしてる
白屋家当主だよ? 近道を知らない訳ないでしょ?」
流伽は隠し通路を利用しつつ、二人を追っかけてきたと明かした。
「番になんてさせない! 七歩、僕以外を選ぶと言うのならそれは“死ぬ”を選ぶも同然だよね!?」
「てめぇ――!」
流伽は手すりを利用しながら階段を下りて、二人との距離を縮める。
――ガフッ!
「――七歩!」
七歩が血反吐を吐いて、朧は慌てて七歩を呼びかける。
「おぼ、ろさん……ごめんね。約束……、守れそうもないかも」
「――ふざけんな、何のためにここまで来たんだ!!」
七歩は撃たれた箇所を抑え、息切れしながら朧に詫びる。朧は涙を流しながらそんなことを言うなと訴える。
「俺はこんなの認めねぇぞ!? 七歩! 頼む……俺を、また誰も守れない“腑抜け”にしないでくれ、七歩……!」
小夜人のことと重なった朧は、七歩に小夜人の時のような後悔と失態をまた味あわせないでほしいと訴える。
「ふふふっ、ねえ……どんな気持ち!? 目の前の者を守れないのってどんな気持ち!?」
挑発するように聞いて来る流伽に朧は「黙れよ!!」と声を荒げる。
「兄さん、僕は……普通に兄弟と知らず赤の他人として会っていても、貴方を選ばなかった。貴方は、可哀そう……本当の愛を知らない。いいや、知ろうとしなかった愚かな人だった」
「――!」
流伽を「愛を知らぬ憐れな愚者」だと評し、もし街中で会っていたとしても絶対に流伽を選ばなかったと七歩は言い切る。
「――僕ね、目では見えない、たくさんのものを貰ったよ? 大事なことも、教えてくれた。幸生おじさんと父さんからは“愛”を……そして、朧さん、に出会ってそれが、分かったの」
息切れしながら七歩は幸生と詩音が自分に欠かさず与えてくれたものがあったと、それを確信できるようになったのはすべて“朧”に会ったおかげだと言う。
「おぼろ、さん……小夜人さんのこと、話してくれた、よね? 僕は、小夜人さんは、朧さんを、恨んでいないと思う。」
「何を、言って……」
七歩は、朧が過去の事を話してくれた時に思ったことを話し始めた。
自身の見解では小夜人は決して朧を恨んでいないと思うと、朧本人に告げる。
「きっと、小夜人さんはΩ性である、弱い自分をいつも守ってくれた、朧さんにいつも救われていた。Ωが差別される世の中で、朧さんの存在は、きっと“救い”だったんだよ」
「……」
「僕も、朧さんが居なきゃずっと、絶望したままだった。この屋敷を脱出しようという手口を、見つけ出そうとしなかったと、思う。」
被差別対象であるΩの一人だった小夜人にとって朧の存在は大きかったに違いない、そんな小夜人が朧を恨むはずないと……朧が居なければ自分はきっと屋敷から出ることを諦めたままだったと七歩は息切れしながら朧に伝える。
「だから朧さん、自分は誰も守れない……腑抜けだなんて思わないで? ……朧さんはもう大切なものだと思うものを十分守った。小夜人さんも、僕も……貴方に守ってもらえてうれしかった。」
「おい、止めろよ……七歩!」
朧は涙を流しながら首を横に振って訴える。
「貴方のような、守ってくれる存在がいた。それだけで十分……だから」
七歩はそう伝えると目を閉じた、朧は「やめろよ」と声を掛けるが反応がない。
「七歩……あくまで狼谷朧を選ぶと言うんだね!?」
悔しそうに下唇を噛みながら流伽は、朧に銃口を向け始める。
「―だったら、そこにいる野良犬もお前の元に送ってやるよ。」
――ドォン!
流伽は朧の腕の中にいる七歩にそう訴え、朧の足を撃った。
「つくづく救いようのねえ野郎だ……お前は!」
七歩を撃った流伽に朧は足を撃たれた痛みを抑えながら言い返す、精神異常と診断されている流伽に何を言っても通用しないことは分かっていたが言い返さなければやりきれなかった。
「――だったら殺すかい? 仮にも血を分けた七歩の兄弟である僕を!」
流伽は、仮にも七歩の兄である自分を朧は殺せるのか挑発して来る。
しかし朧も負けなかった……、
「てめえを兄弟なんて七歩は少しも思っちゃいねえよ、てめえみたいな“悪魔”、兄弟なんかじゃねえ!!」
七歩の代弁をするかの如く、流伽にそう言い放った。
「でもお前らはここでその“悪魔”に、殺されるんだよ……?」
――ジャキ!!
そう言い放ち、流伽がまた朧達に銃口を向け始める。
銃は先程逃げる途中のトラップ地獄のせいで使い切ってしまった。
朧はここまでかと思い、七歩を庇うように目をぎゅっと瞑った瞬間――、
――ドォン!!
撃たれる前に銃声が玄関ホールに響き渡った、そして流伽が血反吐を吐きながら階段から落ちて行った。
「お許しください……流伽様。」
「――斑鳩!?」
流伽を撃ったのは斑鳩だった、もう片方には拳銃、そしてもう片方には灯油タンクを持っていた。
――はっ!
灯油タンクの存在のおかげで玄関まで走る途中で嗅いだ臭いの正体が分かった、朧はそれを確かめるために斑鳩の方を見ると……
「そうです、止めないでくださいね? 流伽様を止めるためにはこれしかなかったのですから。」
斑鳩は覚悟を決めた眼だった、そして何をしようとしているのかも悟った。
斑鳩は流伽の元まで降りてくる。
「それに、まだ七歩様は生きています。警察と救急車を呼びました。今逃げればまだ間に合いますよ」
「がっは……いか、るが! よくも……裏切った、ね?」
七歩はまだ生きていると、今玄関から屋敷を飛び出せばまだ七歩は助かると朧に告げる。
――パチン
「流伽様……もう止めましょうよ、これでもう終わりにしましょう? 今まで命を奪った者たちへの償いを死んで詫びましょう? 大丈夫、私も一緒ですから寂しくありませんよ」
――ゴォオ!
自分も手を血で汚し過ぎたから、一緒に死んで運命を共にすると睨みつける流伽にそう告げた。
そう告げ終わり、ライターを取り出すと火をつけたまま投げつけるとあらかじめ撒いておいた灯油に燃え移り、あっという間に屋敷が火の海になる。
しかし玄関に続くカーペット方面に灯油は撒いてなかったらしい、その証拠に一番玄関に近い二人の前はまだ火に囲まれていない。
そして、斑鳩は涙を流しながら感慨深そうに火の海になっている屋敷の周りを見渡す。
「今思えば、私の人生は自分の罪に生かされていただけだったような気がします。」
斑鳩は自分の人生を振り返り始めた、皮肉なことに自分の人生は、自分が犯した罪で生かされていただけにすぎなかった気がしたと斑鳩は言う。
そして朧達に一礼すると……、
「今までの非礼をお詫び申し上げます、七歩様。そして、朧様。」
今までの行いを七歩達に詫びたのだった。
「勝手なことを言う様で申し訳ありません、七歩様……生きてください。私はこの屋敷とともに運命を共にします。朧様、私が幸せだったひと時は……見習い時代に、詩音さんに可愛がってもらえたあの日々だったと、七歩様にお伝えください」
朧に使用人の見習い時代に詩音に可愛がってもらえて、優しくされてうれしかったと七歩に伝えてほしいとお願いした。
「私は七歩様を狂った歯車のストッパーにするスケープゴートにしようとしていたのかもしれません、でもそれは間違いだと、……朧さん、貴方は気付かせてくれたんですよ」
「…………」
「貴方に心から、お礼申し上げます。こんなこと私に言う資格はないかもしれません。でも……願わくば、七歩様を支えてあげてください。貴方様は七歩様の大切な、“運命の番”なのですから……」
今思えば無意識に七歩を生贄にしようとしていた愚かな思考を抱いていたのかもしれないと、それを朧に一喝してくれたことで過ちだと気付き、燃え盛る屋敷とともに運命を共にする覚悟が出来るきっかけを作ってくれたことはうれしかったと斑鳩は伝える。
そして斑鳩は七歩をよろしく頼むと朧に伝える、斑鳩の覚悟を見届けた朧はそれに頷いた。
そして朧は七歩を抱きかかえ、玄関から屋敷を出て行った。
斑鳩は穏やかな笑顔で「ありがとうございます」と去っていく朧に言った。
「――斑鳩、全部お前のせいだ。お前のせいで全部狂った」
「そうですね、否定しません。」
そう言って斑鳩は流伽の眉間に銃口を当てて、「すぐに追います」と言い放ち銃を撃ち放った。そして自分の蟀谷に銃口を当てて……
--ダァン!!
銃を撃ち放ったのだった。
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