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本編
17:足取りを進めると、柳の下で幽霊と出会う
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七歩は服の袖で必死に涙を拭う。
「ごめんね……こんなこと、聞かせるつもりなかったのに」
七歩は自分の生い立ちを聞いても不快にさせるだけだと思って謝った。
「ーーいいや。それで……あのマッドサイエンティストの言葉を気にしたのは何でだよ?」
別に不快になっていないと朧は答え、何故久保井が言った七歩の家はここだという言葉を気にしたのか聞いてみる。
「もしかしたら、お父さんの事と関わってないかなって思ったりしたんだ。お父さんの番の人がもしかしたら僕を……」
「取り戻しに来たとでも思っているのか?」
「……もしかしてそうなのかなって思っているだけで、確証まではいかない」
七歩は、自分がこの屋敷に連れてこられたのは父の番だった男が自分を父の代わりにしようとしているのではないかと憶測しているからだと答えた。しかし、ここに父・詩音が働いていたという証拠もないのであくまで自分の憶測でしかないと七歩は答える。
(だとしたら、なんで幸生サンを殺すんだ……?)
黒幕が父・詩音の番の相手だとしたら、捨てた相手の子である七歩を奪うだけならまだしも何故幸生を殺すまでするのか謎だった。
(もし幸生サンが殺されるのだとしたら、いきなりあらわれて幸生サンに「七歩を返せ」とせがんでもいたのか……?)
朧は頭を悩まし、いろいろ考察するが……、
(いいや、これは後回しだ……取りあえず出る方法探さねえと)
考察していたらきりがないと見切りをつけ、次をどうするか考えて行動を再開した。
――展示室と呼ばれる部屋に七歩達はたどり着いた。
展示室には隣の部屋に続いているようだった、展示室の隣の部屋は鍵が掛かっておりそちらからは入れそうにもなかった。
そしていつもながら……、
「まーた、謎解きかよ」
展示室の隣に続く部屋の扉には掛札が掛けられており、そこにはこう書かれていた。
〈終焉を扉の前で言え、さすればここの扉は開かれん〉
掛け札の内容を見て朧は「痛い言い回し」と揶揄していた。部屋の扉の鍵はドアノブの下に文字入力式の仕掛けが施してあり、カタカナで入力できるようになっている。合計で5文字だった。
「どこかヒントないかな……?」
展示室の中に何かヒントらしきものはないか七歩は展示室の中を見渡す。
展示室の中には額縁で収められた油絵の具で描かれたと思われる絵が掛けられている、画風はいわゆるロマン主義と呼ばれる絵ばかりが掛けられていた。
「絵の中にヒントとかあったり……?」
そう思った七歩は順を追って絵の内容を見ていく。
最初に見た絵の内容は、『バルドルの予知夢』というタイトルで目覚めが悪そうな美少年が大勢の人物たちに何か訴えているような描写だった。そして次に見たのは『バルドルの死』という目を瞑っている男性が、先程の絵の内容と同じ美少年を木の枝のような物で射抜き、殺してしまったという内容の絵だった。
「おいおい、急展開だな……」
朧も七歩の後ろで絵の内容を見ていて、2枚目の絵で絵の中の美少年が殺された内容に感想を呟いた。
そして3枚目の絵は『ロキの捕縛』というタイトルの絵で、見た目は美丈夫だが性格の悪そうな雰囲気を醸し出す男が腕を後ろ手に縛られ、美丈夫の後ろには人が複数人いて美丈夫は二人の男に地面に伏せられている。美丈夫は怒りで顔を歪ませているひげを生やした男を下卑た笑みを浮かべながらにやつくという内容だった。
「さしずめ、あの美少年殺したやつか……」
「真ん中の捕えられている人、反省してない感丸出しだね」
「2枚目の奴はこいつに利用されたってだけか」
あの絵の内容からして捕えられている男があの美少年を殺した黒幕なのだろう、どういう経緯で絵の中にいた美少年を殺そうと思ったのかまでは分からないものの、真ん中にいる美丈夫は表情からして反省していないということだけは七歩達にも伝わった。
そして4枚目の絵は『罰を受けるロキ』とタイトルが書かれてあり、あの美丈夫が岩に縛り付けられて上から垂れる液体が当たって苦しんでいる顔をしている。そしてその隣には慌ててその液体を受け取る皿を持ってくる恋人らしき女性の姿があった。
「どういう罰なんだよ、これ……」
あの美丈夫がなにかしらの拷問を受けていると言うのは分かるが、硫酸でもなさそうなのに何故液体が当たって苦しそうにするのか朧には分からなかった。
最後である5枚目の絵は『終焉の時』と書かれたタイトルの絵だった、額縁も今までのより一番大きく内容は燃え盛る城と右側に大地の中に大蛇と闘う大きいハンマーを持った男、左側に先程美丈夫を睨み付けていたひげを生やした男が大きい狼に食べられそうになっている。そして真ん中にあの絵の中の美少年を殺した美丈夫が苦しそうに血を流している腹を押さえ、また美丈夫と闘っていたと思われる好青年が同じく傷だらけで剣を支えにして立っている描写だった……。
「この絵、一番力入ってる気がするね……」
「だな……」
一番大きい額縁の絵の内容の気合の入れように七歩も朧も驚嘆する。
「んで、この絵でなにがわかるんだか……」
ヒントなのかもわからず、他にヒントはないか朧は探し出す、すると壺などが展示されているガラスケースの上に何冊か本が置かれていた。
「『誰にでも分かる北欧神話』……」
目に入ったのはそう書かれたタイトルの本だった、
その本は何度も読まれた形跡があった……。
「もしかしてこいつの中に……」
そう思った朧は、その本をぱらぱらとめくって重要そうな点を見つけ出そうとする。
「ーーあっ、“バルドル”って多分あの最初に殺された男の子だよね?」
七歩が横から本を覗き見て、“バルドル”の文字を見つけそう呟いた。
「! まさか……」
七歩の言葉で朧はこの本に関係あるかもしれないとみて項目を探し始める。本のかなり後ろの項目に、〈北欧神話の用語〉と書かれた文字を発見した。
用語がまとめてある項目を開くと、バルドルの項目を見つけてその内容を見てみる。
〈バルドル…美しい少年の姿をした男性神。賢明であり、そして優しい神であった為さまざまな神々から溺愛された。 自分が死ぬ悪夢を見たため、それを心配した母・フリッグは世界中のあらゆるものに『バルドルを傷つけない』ことを誓わせ、息子をいかなる武器でも傷つけられない不死の存在にしたが、彼の存在を疎ましく思っていた邪神・ロキに唆された盲目のバルドルの弟ヘズに唯一の弱点であるヤドリギの矢で射抜かれて殺された。彼の死により、世界はラグナロクに行きつくことになる〉
バルドルの項目には、そう説明が記されていた。
「最初の二枚の絵の内容って、もしかしてこれ……?」
七歩は1枚目と2枚目の絵に描かれていたあの美少年が死ぬまでの話があの絵で表現されているのかと、疑問を口にする。
「だとしたら……次に注目するべき言葉はこれだな」
朧はバルドルの説明の最後に描かれていた“ラグナロク”の項目を探す。
ラグナロクの項目を見つけ、内容を読んでみる。
〈ラグナロク…古ノルド語で、「神々の運命」の意を指す、北欧神話における世界の終末の日のことである。巨人族と神々の最終戦争であり、オーディン、トール、フレイらの神々が裏切りの神・ロキが率いる大狼フェンリル、ヨルムンガルドや巨人族、怪物らと死力を尽くして闘い、最後には天地は炎上し滅びる。〉
ラグナロクの説明にはそう書かれていたのだった……。
「ということは、あのパネルにラグナロクって回せばいいんだな」
答えが分かり、朧は扉の前に立つとラグナロクと入力したのだった。
――カチッ
鍵の開く音が展示室の中に響いた。
「ーーやった!」
「よし……、ここに何かあればいいがな」
二人は鍵が開いたことに喜んでいた。
そして次の部屋に向かうとそこは動物の剥製が置かれていた。少しぎょっとした七歩達だったが……、
「……まぁ、あの部屋よりはましだな」
久保井が使っていたと思われるあの動物の遺体だらけの死臭が充満する部屋よりは数倍まともだと朧はぼやく。
「ここ何もなさそうだよ……?」
はく製が置いてあるだけで何も特徴も手掛かりもないのではと七歩が言うと、朧は念のために棚を漁る。
「いいや、少しだけいいモノ見つけた」
朧は見つけたものを見ると、にやりと含み笑いをするとそれを取り出す。
棚の中に散弾銃の弾などが収まっていて、その中に自分が使う拳銃にも使えそうなリボルバー用の弾も残っていたのだった。
「拝借しようか、弾もそこまでなかったしな」
朧は銃弾が納めてある箱を一つ拝借することに決めた。
「そらよ、お前も護身用にこれポケットに忍ばせとけ」
「ーーわっ!」
朧は銃弾が納めてあった棚の中で見つけた折り畳み式のサバイバルナイフを七歩に投げるように渡した、七歩は慌ててそれを受け取る。
「それがありゃ仮に発情期が来ちまっても牽制位はできるだろ……?」
朧は七歩にサバイバルナイフを渡した理由は、仮にフェロモンにあてられた奴に襲われても振り回すか刺そうとするかぐらいはできると思ったからだと話した。
七歩はそうかと思い、渡されたサバイバルナイフをポケットにしまい込んだ。
そして内側から鍵を開け、はく製室から出た時だった。
「――七歩様。」
「「――!?」」
突然声を掛けられ、二人は驚いて体を跳ねらせた。
声がした方向をみると、執事のような身なりをした端麗な男が目の前にいた。
「なっ、……何だこいつ?」
朧は怪しそうな目で執事姿の男を見ていた。
「あっ! 貴方は……」
七歩はどこかで声を掛けてきた男を見たことがあると思って思い出すと、男は図書室と思わしきあの部屋で声を掛け、発狂した男だというのが分かった。
「食事の用意が出来ました、七歩様……招かれざるお客人。どうぞ」
執事の風貌をした男は、にっこりと笑いながら食事をするよう二人に促す。
「えっと、あの……」
七歩はどう対応していいのかわからず、戸惑っていると……。
「お食事の用意が出来ました……」
――ごくっ
執事は七歩に顔を近づけ、もう一度そう言った。
その言葉には異様な威圧感がある気がしてならなかった……。
「(しゃあねえ、行こう……)」
これ以上断ったら逆上するかもしれないと睨んだ朧は、取りあえず様子を見ながら言うことを聞くことにしようと七歩の耳元で言った。
「こちらです、ご案内します……。」
執事の風貌をした男は食卓のある部屋に七歩達を案内し始めた。
食卓のある部屋まで歩いていた時だった……。
「? …――!?」
朧は七歩とともに案内されている間、執事の男の白手袋からちらちら見える左手首に複数のリストカットの痕跡が残っていることに気付いた。よく見ると黒い執事服の裾から新しい傷を作ったため巻いたと思われる包帯も見えた。
この執事はリストカット癖があるようで、リストカットの痕跡を見ると異様に優しい態度になにかしらの裏があるような気がしてならなくなった。
「どうしました……?」
「! ――いいや、なんでもねぇよ。」
「……そうですか」
執事の男は朧の態度に気付いたのか、後ろを振り向き何があったのか聞いてきた。朧は悟られない様何もないと答えた、執事は朧の答えを聞くと気にも留めず踵を返し、案内を続ける。
(……こいつ、何考えてやがんだ?)
しかし朧は執事の男の複数のリストカットの痕跡を見つけてしまったため、蒼白の表情を浮かばずにはいられなかった……。
「ごめんね……こんなこと、聞かせるつもりなかったのに」
七歩は自分の生い立ちを聞いても不快にさせるだけだと思って謝った。
「ーーいいや。それで……あのマッドサイエンティストの言葉を気にしたのは何でだよ?」
別に不快になっていないと朧は答え、何故久保井が言った七歩の家はここだという言葉を気にしたのか聞いてみる。
「もしかしたら、お父さんの事と関わってないかなって思ったりしたんだ。お父さんの番の人がもしかしたら僕を……」
「取り戻しに来たとでも思っているのか?」
「……もしかしてそうなのかなって思っているだけで、確証まではいかない」
七歩は、自分がこの屋敷に連れてこられたのは父の番だった男が自分を父の代わりにしようとしているのではないかと憶測しているからだと答えた。しかし、ここに父・詩音が働いていたという証拠もないのであくまで自分の憶測でしかないと七歩は答える。
(だとしたら、なんで幸生サンを殺すんだ……?)
黒幕が父・詩音の番の相手だとしたら、捨てた相手の子である七歩を奪うだけならまだしも何故幸生を殺すまでするのか謎だった。
(もし幸生サンが殺されるのだとしたら、いきなりあらわれて幸生サンに「七歩を返せ」とせがんでもいたのか……?)
朧は頭を悩まし、いろいろ考察するが……、
(いいや、これは後回しだ……取りあえず出る方法探さねえと)
考察していたらきりがないと見切りをつけ、次をどうするか考えて行動を再開した。
――展示室と呼ばれる部屋に七歩達はたどり着いた。
展示室には隣の部屋に続いているようだった、展示室の隣の部屋は鍵が掛かっておりそちらからは入れそうにもなかった。
そしていつもながら……、
「まーた、謎解きかよ」
展示室の隣に続く部屋の扉には掛札が掛けられており、そこにはこう書かれていた。
〈終焉を扉の前で言え、さすればここの扉は開かれん〉
掛け札の内容を見て朧は「痛い言い回し」と揶揄していた。部屋の扉の鍵はドアノブの下に文字入力式の仕掛けが施してあり、カタカナで入力できるようになっている。合計で5文字だった。
「どこかヒントないかな……?」
展示室の中に何かヒントらしきものはないか七歩は展示室の中を見渡す。
展示室の中には額縁で収められた油絵の具で描かれたと思われる絵が掛けられている、画風はいわゆるロマン主義と呼ばれる絵ばかりが掛けられていた。
「絵の中にヒントとかあったり……?」
そう思った七歩は順を追って絵の内容を見ていく。
最初に見た絵の内容は、『バルドルの予知夢』というタイトルで目覚めが悪そうな美少年が大勢の人物たちに何か訴えているような描写だった。そして次に見たのは『バルドルの死』という目を瞑っている男性が、先程の絵の内容と同じ美少年を木の枝のような物で射抜き、殺してしまったという内容の絵だった。
「おいおい、急展開だな……」
朧も七歩の後ろで絵の内容を見ていて、2枚目の絵で絵の中の美少年が殺された内容に感想を呟いた。
そして3枚目の絵は『ロキの捕縛』というタイトルの絵で、見た目は美丈夫だが性格の悪そうな雰囲気を醸し出す男が腕を後ろ手に縛られ、美丈夫の後ろには人が複数人いて美丈夫は二人の男に地面に伏せられている。美丈夫は怒りで顔を歪ませているひげを生やした男を下卑た笑みを浮かべながらにやつくという内容だった。
「さしずめ、あの美少年殺したやつか……」
「真ん中の捕えられている人、反省してない感丸出しだね」
「2枚目の奴はこいつに利用されたってだけか」
あの絵の内容からして捕えられている男があの美少年を殺した黒幕なのだろう、どういう経緯で絵の中にいた美少年を殺そうと思ったのかまでは分からないものの、真ん中にいる美丈夫は表情からして反省していないということだけは七歩達にも伝わった。
そして4枚目の絵は『罰を受けるロキ』とタイトルが書かれてあり、あの美丈夫が岩に縛り付けられて上から垂れる液体が当たって苦しんでいる顔をしている。そしてその隣には慌ててその液体を受け取る皿を持ってくる恋人らしき女性の姿があった。
「どういう罰なんだよ、これ……」
あの美丈夫がなにかしらの拷問を受けていると言うのは分かるが、硫酸でもなさそうなのに何故液体が当たって苦しそうにするのか朧には分からなかった。
最後である5枚目の絵は『終焉の時』と書かれたタイトルの絵だった、額縁も今までのより一番大きく内容は燃え盛る城と右側に大地の中に大蛇と闘う大きいハンマーを持った男、左側に先程美丈夫を睨み付けていたひげを生やした男が大きい狼に食べられそうになっている。そして真ん中にあの絵の中の美少年を殺した美丈夫が苦しそうに血を流している腹を押さえ、また美丈夫と闘っていたと思われる好青年が同じく傷だらけで剣を支えにして立っている描写だった……。
「この絵、一番力入ってる気がするね……」
「だな……」
一番大きい額縁の絵の内容の気合の入れように七歩も朧も驚嘆する。
「んで、この絵でなにがわかるんだか……」
ヒントなのかもわからず、他にヒントはないか朧は探し出す、すると壺などが展示されているガラスケースの上に何冊か本が置かれていた。
「『誰にでも分かる北欧神話』……」
目に入ったのはそう書かれたタイトルの本だった、
その本は何度も読まれた形跡があった……。
「もしかしてこいつの中に……」
そう思った朧は、その本をぱらぱらとめくって重要そうな点を見つけ出そうとする。
「ーーあっ、“バルドル”って多分あの最初に殺された男の子だよね?」
七歩が横から本を覗き見て、“バルドル”の文字を見つけそう呟いた。
「! まさか……」
七歩の言葉で朧はこの本に関係あるかもしれないとみて項目を探し始める。本のかなり後ろの項目に、〈北欧神話の用語〉と書かれた文字を発見した。
用語がまとめてある項目を開くと、バルドルの項目を見つけてその内容を見てみる。
〈バルドル…美しい少年の姿をした男性神。賢明であり、そして優しい神であった為さまざまな神々から溺愛された。 自分が死ぬ悪夢を見たため、それを心配した母・フリッグは世界中のあらゆるものに『バルドルを傷つけない』ことを誓わせ、息子をいかなる武器でも傷つけられない不死の存在にしたが、彼の存在を疎ましく思っていた邪神・ロキに唆された盲目のバルドルの弟ヘズに唯一の弱点であるヤドリギの矢で射抜かれて殺された。彼の死により、世界はラグナロクに行きつくことになる〉
バルドルの項目には、そう説明が記されていた。
「最初の二枚の絵の内容って、もしかしてこれ……?」
七歩は1枚目と2枚目の絵に描かれていたあの美少年が死ぬまでの話があの絵で表現されているのかと、疑問を口にする。
「だとしたら……次に注目するべき言葉はこれだな」
朧はバルドルの説明の最後に描かれていた“ラグナロク”の項目を探す。
ラグナロクの項目を見つけ、内容を読んでみる。
〈ラグナロク…古ノルド語で、「神々の運命」の意を指す、北欧神話における世界の終末の日のことである。巨人族と神々の最終戦争であり、オーディン、トール、フレイらの神々が裏切りの神・ロキが率いる大狼フェンリル、ヨルムンガルドや巨人族、怪物らと死力を尽くして闘い、最後には天地は炎上し滅びる。〉
ラグナロクの説明にはそう書かれていたのだった……。
「ということは、あのパネルにラグナロクって回せばいいんだな」
答えが分かり、朧は扉の前に立つとラグナロクと入力したのだった。
――カチッ
鍵の開く音が展示室の中に響いた。
「ーーやった!」
「よし……、ここに何かあればいいがな」
二人は鍵が開いたことに喜んでいた。
そして次の部屋に向かうとそこは動物の剥製が置かれていた。少しぎょっとした七歩達だったが……、
「……まぁ、あの部屋よりはましだな」
久保井が使っていたと思われるあの動物の遺体だらけの死臭が充満する部屋よりは数倍まともだと朧はぼやく。
「ここ何もなさそうだよ……?」
はく製が置いてあるだけで何も特徴も手掛かりもないのではと七歩が言うと、朧は念のために棚を漁る。
「いいや、少しだけいいモノ見つけた」
朧は見つけたものを見ると、にやりと含み笑いをするとそれを取り出す。
棚の中に散弾銃の弾などが収まっていて、その中に自分が使う拳銃にも使えそうなリボルバー用の弾も残っていたのだった。
「拝借しようか、弾もそこまでなかったしな」
朧は銃弾が納めてある箱を一つ拝借することに決めた。
「そらよ、お前も護身用にこれポケットに忍ばせとけ」
「ーーわっ!」
朧は銃弾が納めてあった棚の中で見つけた折り畳み式のサバイバルナイフを七歩に投げるように渡した、七歩は慌ててそれを受け取る。
「それがありゃ仮に発情期が来ちまっても牽制位はできるだろ……?」
朧は七歩にサバイバルナイフを渡した理由は、仮にフェロモンにあてられた奴に襲われても振り回すか刺そうとするかぐらいはできると思ったからだと話した。
七歩はそうかと思い、渡されたサバイバルナイフをポケットにしまい込んだ。
そして内側から鍵を開け、はく製室から出た時だった。
「――七歩様。」
「「――!?」」
突然声を掛けられ、二人は驚いて体を跳ねらせた。
声がした方向をみると、執事のような身なりをした端麗な男が目の前にいた。
「なっ、……何だこいつ?」
朧は怪しそうな目で執事姿の男を見ていた。
「あっ! 貴方は……」
七歩はどこかで声を掛けてきた男を見たことがあると思って思い出すと、男は図書室と思わしきあの部屋で声を掛け、発狂した男だというのが分かった。
「食事の用意が出来ました、七歩様……招かれざるお客人。どうぞ」
執事の風貌をした男は、にっこりと笑いながら食事をするよう二人に促す。
「えっと、あの……」
七歩はどう対応していいのかわからず、戸惑っていると……。
「お食事の用意が出来ました……」
――ごくっ
執事は七歩に顔を近づけ、もう一度そう言った。
その言葉には異様な威圧感がある気がしてならなかった……。
「(しゃあねえ、行こう……)」
これ以上断ったら逆上するかもしれないと睨んだ朧は、取りあえず様子を見ながら言うことを聞くことにしようと七歩の耳元で言った。
「こちらです、ご案内します……。」
執事の風貌をした男は食卓のある部屋に七歩達を案内し始めた。
食卓のある部屋まで歩いていた時だった……。
「? …――!?」
朧は七歩とともに案内されている間、執事の男の白手袋からちらちら見える左手首に複数のリストカットの痕跡が残っていることに気付いた。よく見ると黒い執事服の裾から新しい傷を作ったため巻いたと思われる包帯も見えた。
この執事はリストカット癖があるようで、リストカットの痕跡を見ると異様に優しい態度になにかしらの裏があるような気がしてならなくなった。
「どうしました……?」
「! ――いいや、なんでもねぇよ。」
「……そうですか」
執事の男は朧の態度に気付いたのか、後ろを振り向き何があったのか聞いてきた。朧は悟られない様何もないと答えた、執事は朧の答えを聞くと気にも留めず踵を返し、案内を続ける。
(……こいつ、何考えてやがんだ?)
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