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本編
14:子山羊は狼に過去を語り始める…。
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「腕、大丈夫……?」
七歩は、先程刺されてしまっていた朧の腕は大丈夫か聞いた。
「利き腕じゃねえから銃はまだ撃てるさ、だが念のため手当はしておくさ」
朧は七歩の質問にそう答え、七歩が囚われていた部屋に向かった。
――七歩が久保井に囚われていた部屋にて……、
「――あった、多分これ!」
棚を漁るとあるケースを見つけ、それにはΩ専用と書かれており中身には発情期の特効薬と思われる薬が入っている容器と注射器具が入っていた。
「!? でかした……!」
七歩がΩ専用の特効薬を見つけ出したことに朧は褒めた。
「後は、カチコミしてでもその厄介な首輪を普通の首輪に取り換えて脱出するだけだ」
「……うん」
残された道は首輪を外す方法を見つけるかせめて首輪に電気が走る仕組みを解くかした後、脱出を図るだけだと朧が言うと七歩は同意する。
「早くここを出て上に行こうぜ、屋敷のご主人もそっちにいるだろうからな。」
そう言いながら朧は、棚を漁って見つけた包帯と止血剤を取り出した。
「あっ、あの……」
「――何だよ?」
突然七歩が話しかけてきた、そして……
「手当て、僕が巻いていい?」
手当ては自分がやりたいと言いだしたのだった。
「どうした? 急に……」
「自分でやるよりほかの人にやってもらった方がいいんじゃないかなって思って……、それに朧さんの怪我、僕が手当てしてあげたいの……嫌だった?」
「……別に。」
手当てはやってもらった方がいい気がすると思ったのと、元はと言えば朧は自分を助けるためにメスで刺されたのだからその責任として手当をしたいと七歩は思って告げた。
嫌だったか聞くと朧は真っ先に否定し……、
「じゃあ、よろしく。」
七歩に自分の手当てを頼んだのだった。
「痛かったら、ごめんなさい」
そう言いながら七歩は手当を開始したのだった。
手当ての間しばらく沈黙が続いていたが……、
「……あのね、朧さん。」
「……どうした?」
七歩が沈黙を破り、朧に聞いてくる。
「朧さんは、ここから出たら僕の番に……なるんだよね?」
「……まぁ、そう言う約束だしな」
この屋敷から出られたら朧は番に自分を選ぶよう最初に要求したので、念のため確認して聞くと朧はそうだと答える。
「あのね……、あの高校生のこと。やっぱり話そうと思う」
「? ……そりゃ、どうしてだ?」
何故あの新聞に載っていた高校生の事を話す気になったのか朧は聞く。
「……将来の番になる人にずっと秘密にしておくのは、ちょっとアレかなと思っただけ」
「そうかよ。」
「それと、少し思い出したんだ。大切な人の事……朧さんに知って欲しい。」
七歩は話そうと思った理由を言った、そして話し始めた。
大切な人の事を、そしてあの高校生たちにされたことを……。
・
・
・
――約9年前……、
「ひっく、ひっく……」
当時6歳だった七歩がすすり泣きながら家に帰って来た。
「――七歩、どうしたんだい!?」
家にいた一人の男がひゃっくりをあげながらすすり泣く七歩の様子を心配して駆けつけてくる。
「Ωくさいってイジメられた……」
「またあの近所の悪ガキどもか……!」
泣いていた理由を七歩が言うと男は外を睨み、怒りに募った顔をしていた。
七歩は幼い頃、Ωであることから一部の無知なβの子達から苛められることが多かったのだった。
「幸生おじさん、ぼく、そんなにめいわくかけてるの?」
自分がΩだからみんなに苛められるのかと、Ωの発情期時期に発するフェロモンのせいでみんなに迷惑かけるのかと七歩は育ての親でもある山羊内幸生にすすり泣きながら聞いた。
「そんなんじゃない、そう言う人間はΩに歩み寄ろうとも理解しようともしない馬鹿だからだ……七歩が悪いんじゃない」
そうじゃない、皆Ωに対して理解が足りないだけだと七歩が近所のβの子供に苛められた時、幸生はそう言って庇って慰めてくれた。
「お父さんもΩだからこんなつらい目にあったの……?」
父もこんなつらい経験をしていたのかと七歩は幸生に聞いてくる。
「!? …――っ」
幸生はその言葉を聞いて目を見開いた後、何かを思い出したようにつらそうな顔をした。
それを聞くたび幸生は七歩を強く抱きしめて……、
「七歩、大丈夫……。おじさんが、いるからな」
悲しみに震えた声で七歩にそう言い聞かせていた。
七歩の生みの親である父はΩだった、でも七歩が4歳の時にある出来事を理由に精神病を患い、そのまま衰弱死してしまった。七歩の面倒を見られなくなったので父の幼馴染でβだった幸生が七歩の面倒を代わりに見ることになった。
本来なら七歩の父の両親や親戚が七歩の面倒を見るのだが、七歩の父親の両親である祖父母は祖父はすでに他界しており、祖母は存命していたが七歩の面倒を見れるほど健康状態は良くなく、親戚は七歩を引き取りたがらなかった為、そういう形となり七歩にとって幸生は唯一心許せる大人であり保護者だった。
「お父さんに、会いたいなぁ……。」
元気なころの実父の写真が目に映って、七歩はそう呟いた。
「……今度、会いに行くかい?」
「! ――うん!」
幸生は七歩に実父である詩音の墓参りに日が空いている時に行くか聞くと七歩は嬉しそうに答えた。
寝静まる時間帯に七歩がトイレ行きたさに起き上がると、明かりがついているのが見えた。
ドアの隙間から覗くと何かぶつぶつ言いながら幸生が七歩の実父・詩音の写真を眺めている。
何か思いつめたような顔だった……。
そしてどういう意味か分からないが、この一言だけ頭に残っていた。
「……まだ言えない、言えるわけない。詩音があの屋敷で酷い目に遭ったなんて」
この時の七歩にはまだ知る由もなかった、それが実父・詩音の死に深くかかわっていたなんてことは――。
七歩は、元々顔立ちは実父に似て良く、年を重ねるにつれ、七歩自身は気付いていないものの……他の者を魅了するほどの雰囲気を纏うようになった。
それが七歩にとって悲劇を生むことになるとは思わなかった。
まず最初の事件は、七歩が小学5年生の時だった……。
担任に手伝いを要求され、資料室まで行った時だった。
「藤崎先生? ……いるの?」
担任の藤崎の姿が見えずに七歩が藤崎の名を呼んで探し始める。
――バタン!
その途端資料室の扉が閉まった、振り返ると藤崎が好色な目で自分を見ていた。
「――やっ!」
七歩が恐怖で距離を取ろうとすると藤崎は七歩を捕え……、
「前から気になっていたんだ、かわいいなって」
そう言いながら七歩を押し倒し、ガムテープを取り出して七歩を拘束した。
「やっ、嫌――! 止めて、先生!」
藤崎は七歩の声も聞かず七歩を触り始めた。
七歩は嫌悪と恐怖で叫んで止めて貰うよう言ったが、藤崎は止めてくれない。
「! ――何してるんですか!?」
――ドンドン!
たまたま通りかかって七歩の声が聞こえた女教師が、声を上げて鍵を掛けた資料室の扉を叩いた。
「――ちっ」
そのおかげで最後までやられなかったのは幸いだった。
幸生に言うと幸生は、七歩の住んでいるところと同じ土地にある他の小学校に藤崎から遠ざけるために転校させてくれた。
藤崎が自分を追っかけてくるんじゃないかと怯えると、幸生は「大丈夫」「守ってあげるから」と七歩を励ましてくれた。
その後は藤崎の影が心配だったが転校すると諦めたのか、無事小学校を卒業できたのは良かった。
そして中学校に上がると、七歩の行く中学校はΩの首輪装着が義務付けられている為つけなければいけなかった。
「首輪、苦しくないかい?」
「――うん、だいぶ慣れたかも」
中学校に入学してから幾月か経って中学校生活にも慣れてきた頃、心配そうに幸生はΩ専用の首輪を付けた七歩に聞く。
七歩は幸生の心配の声にそう返事を返した。
「……さて、学校まで送るよ。」
幸生は七歩を七歩の通う中学校まで送ると言って車の鍵を出す。
「……」
そして七歩は登校中の車の中、ある質問をぶつけてみようと考えていた……。
「――あのさ、おじさん」
「……ん?」
そしてぶつけたかった質問を七歩はぶつけてみることにした。
「おじさんは……父さんの事、好きだった?」
「――!」
幸生は父である詩音に対して特別な思いを寄せて自分をここまで育ててくれたのだろう、大きくなってからそう考えるようになった為、七歩はそう聞いてみた。
「……うん。」
幸生は包み隠さず、正直に父・詩音の事が好きだったことを話した。
「おじさん、自分がαだったらお父さんを番にしたかった?」
「うん……、βじゃなかったら番に選んでほしいって言っていたかもね。」
保健の授業で習った番の成立について番の成立はΩとαに限られるため、βとは番にはなれないと知り、もしかしたら幸生も父である詩音とβでなければ番になりたかったのではと考えるようになり、七歩はこの質問を切り出したのだった。
七歩の父である詩音の事が好きで、もし自分がαだったらおそらく自分を番に選んでほしいと言っていたと幸生は正直に答えた。
「幸生おじさんは、……お父さんのために良かれと思って身を引いたの?」
自分の思いをぶつけなかったのは、βではαと違ってΩを幸せにできないと睨んだからかと七歩は聞いた。
「うん、今思えば馬鹿で臆病だって思った。でも……当時の俺は諦めきっていてそんなこと疑いもしなかった」
詩音に思いを告げず、他のαに幸せにしてもらった方が詩音が幸せになれると信じていたことに何の疑いも感じなかったと幸生は言った。
「でも、詩音がああなって、詩音と再会した時……何で傍にいてやらなかったんだろうって、たくさん後悔した」
そして詩音が七歩を抱えて憔悴しきった顔して自分の前に現れた時は、たくさん後悔したと幸生は告げた。
「……お父さんがそうなった理由、おじさんは知ってるの?」
七歩は、父が精神病に陥るほど傷心した状態で地元に帰って来た理由を知っているのか聞いた。
「……うん、教えてあげたいけど、七歩にはショックが強すぎると思うからまだ話せない。」
「……!」
父がそうなってしまった理由を幸生は知ってると答えるが、今の七歩には耐えられないかもしれないと思う程ショックの大きい事実だからまだ話せないと言う。
「でも時期が来たら必ず話す。本当は知らない方がいいとは思うけど、七歩にとっては詩音の秘密を知らないままなのは酷だからな……。」
そして七歩に詩音に何があったのか知るのはもう少し時間が欲しいと幸生は願い出た。
「分かったよ、おじさん。」
後ろめたいものが大きすぎてなかなか話せないのだろう、七歩はそれを分かって幸生のお願いを承諾したのだった。
「ほら、……そろそろ学校に着くよ。」
学校が見えてきたことに幸生は七歩に降りる合図を送る、七歩はカバンを持って車が止まるのを待つ。
校門前に着いたのを見越して車は止まり、七歩もそれを見越して車から降りたのだった。
「じゃあ、お仕事がんばってね」
「あぁ、お前も……」
七歩は自分を学校まで来るまで送ってくれた幸生に労いの言葉を掛けた。
同じく幸生も労いの言葉で返事を返した後、車を発進させた。
「――?」
幸生を見送ると、学校の向かい側の歩道でいかにもガラの悪そうな高校生がたむろしているのを見かけた。
七歩は、先程刺されてしまっていた朧の腕は大丈夫か聞いた。
「利き腕じゃねえから銃はまだ撃てるさ、だが念のため手当はしておくさ」
朧は七歩の質問にそう答え、七歩が囚われていた部屋に向かった。
――七歩が久保井に囚われていた部屋にて……、
「――あった、多分これ!」
棚を漁るとあるケースを見つけ、それにはΩ専用と書かれており中身には発情期の特効薬と思われる薬が入っている容器と注射器具が入っていた。
「!? でかした……!」
七歩がΩ専用の特効薬を見つけ出したことに朧は褒めた。
「後は、カチコミしてでもその厄介な首輪を普通の首輪に取り換えて脱出するだけだ」
「……うん」
残された道は首輪を外す方法を見つけるかせめて首輪に電気が走る仕組みを解くかした後、脱出を図るだけだと朧が言うと七歩は同意する。
「早くここを出て上に行こうぜ、屋敷のご主人もそっちにいるだろうからな。」
そう言いながら朧は、棚を漁って見つけた包帯と止血剤を取り出した。
「あっ、あの……」
「――何だよ?」
突然七歩が話しかけてきた、そして……
「手当て、僕が巻いていい?」
手当ては自分がやりたいと言いだしたのだった。
「どうした? 急に……」
「自分でやるよりほかの人にやってもらった方がいいんじゃないかなって思って……、それに朧さんの怪我、僕が手当てしてあげたいの……嫌だった?」
「……別に。」
手当てはやってもらった方がいい気がすると思ったのと、元はと言えば朧は自分を助けるためにメスで刺されたのだからその責任として手当をしたいと七歩は思って告げた。
嫌だったか聞くと朧は真っ先に否定し……、
「じゃあ、よろしく。」
七歩に自分の手当てを頼んだのだった。
「痛かったら、ごめんなさい」
そう言いながら七歩は手当を開始したのだった。
手当ての間しばらく沈黙が続いていたが……、
「……あのね、朧さん。」
「……どうした?」
七歩が沈黙を破り、朧に聞いてくる。
「朧さんは、ここから出たら僕の番に……なるんだよね?」
「……まぁ、そう言う約束だしな」
この屋敷から出られたら朧は番に自分を選ぶよう最初に要求したので、念のため確認して聞くと朧はそうだと答える。
「あのね……、あの高校生のこと。やっぱり話そうと思う」
「? ……そりゃ、どうしてだ?」
何故あの新聞に載っていた高校生の事を話す気になったのか朧は聞く。
「……将来の番になる人にずっと秘密にしておくのは、ちょっとアレかなと思っただけ」
「そうかよ。」
「それと、少し思い出したんだ。大切な人の事……朧さんに知って欲しい。」
七歩は話そうと思った理由を言った、そして話し始めた。
大切な人の事を、そしてあの高校生たちにされたことを……。
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――約9年前……、
「ひっく、ひっく……」
当時6歳だった七歩がすすり泣きながら家に帰って来た。
「――七歩、どうしたんだい!?」
家にいた一人の男がひゃっくりをあげながらすすり泣く七歩の様子を心配して駆けつけてくる。
「Ωくさいってイジメられた……」
「またあの近所の悪ガキどもか……!」
泣いていた理由を七歩が言うと男は外を睨み、怒りに募った顔をしていた。
七歩は幼い頃、Ωであることから一部の無知なβの子達から苛められることが多かったのだった。
「幸生おじさん、ぼく、そんなにめいわくかけてるの?」
自分がΩだからみんなに苛められるのかと、Ωの発情期時期に発するフェロモンのせいでみんなに迷惑かけるのかと七歩は育ての親でもある山羊内幸生にすすり泣きながら聞いた。
「そんなんじゃない、そう言う人間はΩに歩み寄ろうとも理解しようともしない馬鹿だからだ……七歩が悪いんじゃない」
そうじゃない、皆Ωに対して理解が足りないだけだと七歩が近所のβの子供に苛められた時、幸生はそう言って庇って慰めてくれた。
「お父さんもΩだからこんなつらい目にあったの……?」
父もこんなつらい経験をしていたのかと七歩は幸生に聞いてくる。
「!? …――っ」
幸生はその言葉を聞いて目を見開いた後、何かを思い出したようにつらそうな顔をした。
それを聞くたび幸生は七歩を強く抱きしめて……、
「七歩、大丈夫……。おじさんが、いるからな」
悲しみに震えた声で七歩にそう言い聞かせていた。
七歩の生みの親である父はΩだった、でも七歩が4歳の時にある出来事を理由に精神病を患い、そのまま衰弱死してしまった。七歩の面倒を見られなくなったので父の幼馴染でβだった幸生が七歩の面倒を代わりに見ることになった。
本来なら七歩の父の両親や親戚が七歩の面倒を見るのだが、七歩の父親の両親である祖父母は祖父はすでに他界しており、祖母は存命していたが七歩の面倒を見れるほど健康状態は良くなく、親戚は七歩を引き取りたがらなかった為、そういう形となり七歩にとって幸生は唯一心許せる大人であり保護者だった。
「お父さんに、会いたいなぁ……。」
元気なころの実父の写真が目に映って、七歩はそう呟いた。
「……今度、会いに行くかい?」
「! ――うん!」
幸生は七歩に実父である詩音の墓参りに日が空いている時に行くか聞くと七歩は嬉しそうに答えた。
寝静まる時間帯に七歩がトイレ行きたさに起き上がると、明かりがついているのが見えた。
ドアの隙間から覗くと何かぶつぶつ言いながら幸生が七歩の実父・詩音の写真を眺めている。
何か思いつめたような顔だった……。
そしてどういう意味か分からないが、この一言だけ頭に残っていた。
「……まだ言えない、言えるわけない。詩音があの屋敷で酷い目に遭ったなんて」
この時の七歩にはまだ知る由もなかった、それが実父・詩音の死に深くかかわっていたなんてことは――。
七歩は、元々顔立ちは実父に似て良く、年を重ねるにつれ、七歩自身は気付いていないものの……他の者を魅了するほどの雰囲気を纏うようになった。
それが七歩にとって悲劇を生むことになるとは思わなかった。
まず最初の事件は、七歩が小学5年生の時だった……。
担任に手伝いを要求され、資料室まで行った時だった。
「藤崎先生? ……いるの?」
担任の藤崎の姿が見えずに七歩が藤崎の名を呼んで探し始める。
――バタン!
その途端資料室の扉が閉まった、振り返ると藤崎が好色な目で自分を見ていた。
「――やっ!」
七歩が恐怖で距離を取ろうとすると藤崎は七歩を捕え……、
「前から気になっていたんだ、かわいいなって」
そう言いながら七歩を押し倒し、ガムテープを取り出して七歩を拘束した。
「やっ、嫌――! 止めて、先生!」
藤崎は七歩の声も聞かず七歩を触り始めた。
七歩は嫌悪と恐怖で叫んで止めて貰うよう言ったが、藤崎は止めてくれない。
「! ――何してるんですか!?」
――ドンドン!
たまたま通りかかって七歩の声が聞こえた女教師が、声を上げて鍵を掛けた資料室の扉を叩いた。
「――ちっ」
そのおかげで最後までやられなかったのは幸いだった。
幸生に言うと幸生は、七歩の住んでいるところと同じ土地にある他の小学校に藤崎から遠ざけるために転校させてくれた。
藤崎が自分を追っかけてくるんじゃないかと怯えると、幸生は「大丈夫」「守ってあげるから」と七歩を励ましてくれた。
その後は藤崎の影が心配だったが転校すると諦めたのか、無事小学校を卒業できたのは良かった。
そして中学校に上がると、七歩の行く中学校はΩの首輪装着が義務付けられている為つけなければいけなかった。
「首輪、苦しくないかい?」
「――うん、だいぶ慣れたかも」
中学校に入学してから幾月か経って中学校生活にも慣れてきた頃、心配そうに幸生はΩ専用の首輪を付けた七歩に聞く。
七歩は幸生の心配の声にそう返事を返した。
「……さて、学校まで送るよ。」
幸生は七歩を七歩の通う中学校まで送ると言って車の鍵を出す。
「……」
そして七歩は登校中の車の中、ある質問をぶつけてみようと考えていた……。
「――あのさ、おじさん」
「……ん?」
そしてぶつけたかった質問を七歩はぶつけてみることにした。
「おじさんは……父さんの事、好きだった?」
「――!」
幸生は父である詩音に対して特別な思いを寄せて自分をここまで育ててくれたのだろう、大きくなってからそう考えるようになった為、七歩はそう聞いてみた。
「……うん。」
幸生は包み隠さず、正直に父・詩音の事が好きだったことを話した。
「おじさん、自分がαだったらお父さんを番にしたかった?」
「うん……、βじゃなかったら番に選んでほしいって言っていたかもね。」
保健の授業で習った番の成立について番の成立はΩとαに限られるため、βとは番にはなれないと知り、もしかしたら幸生も父である詩音とβでなければ番になりたかったのではと考えるようになり、七歩はこの質問を切り出したのだった。
七歩の父である詩音の事が好きで、もし自分がαだったらおそらく自分を番に選んでほしいと言っていたと幸生は正直に答えた。
「幸生おじさんは、……お父さんのために良かれと思って身を引いたの?」
自分の思いをぶつけなかったのは、βではαと違ってΩを幸せにできないと睨んだからかと七歩は聞いた。
「うん、今思えば馬鹿で臆病だって思った。でも……当時の俺は諦めきっていてそんなこと疑いもしなかった」
詩音に思いを告げず、他のαに幸せにしてもらった方が詩音が幸せになれると信じていたことに何の疑いも感じなかったと幸生は言った。
「でも、詩音がああなって、詩音と再会した時……何で傍にいてやらなかったんだろうって、たくさん後悔した」
そして詩音が七歩を抱えて憔悴しきった顔して自分の前に現れた時は、たくさん後悔したと幸生は告げた。
「……お父さんがそうなった理由、おじさんは知ってるの?」
七歩は、父が精神病に陥るほど傷心した状態で地元に帰って来た理由を知っているのか聞いた。
「……うん、教えてあげたいけど、七歩にはショックが強すぎると思うからまだ話せない。」
「……!」
父がそうなってしまった理由を幸生は知ってると答えるが、今の七歩には耐えられないかもしれないと思う程ショックの大きい事実だからまだ話せないと言う。
「でも時期が来たら必ず話す。本当は知らない方がいいとは思うけど、七歩にとっては詩音の秘密を知らないままなのは酷だからな……。」
そして七歩に詩音に何があったのか知るのはもう少し時間が欲しいと幸生は願い出た。
「分かったよ、おじさん。」
後ろめたいものが大きすぎてなかなか話せないのだろう、七歩はそれを分かって幸生のお願いを承諾したのだった。
「ほら、……そろそろ学校に着くよ。」
学校が見えてきたことに幸生は七歩に降りる合図を送る、七歩はカバンを持って車が止まるのを待つ。
校門前に着いたのを見越して車は止まり、七歩もそれを見越して車から降りたのだった。
「じゃあ、お仕事がんばってね」
「あぁ、お前も……」
七歩は自分を学校まで来るまで送ってくれた幸生に労いの言葉を掛けた。
同じく幸生も労いの言葉で返事を返した後、車を発進させた。
「――?」
幸生を見送ると、学校の向かい側の歩道でいかにもガラの悪そうな高校生がたむろしているのを見かけた。
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