サイコ・α(アルファ)

水野あめんぼ

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本編

12:狼は罠を掻い潜り、子山羊は毒蛇の狂気に怯え…

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――しかし、めぼしいものは一つも見当たらず思わず苛立ちが募る。

「くっそ……! あのマジキチ医者、ふざけやがって! カチコミかけるだけじゃ済まさねえぞ!」

そして起爆装置を発動させて七歩を拉致した久保井に対して、殴りつけるだけじゃ済まさせないと決めながら朧は脱出方法を探る。

ビーッ! ビーッ!

《爆発まであと3分……》

爆発のカウントダウンのアナウンスが部屋に響く。

「くっそ、冗談じゃねえぞ! こんなところでくたばれるかよ!!」

(冷静になれ、冷静になれ……! 焦っちゃ脱出出来ねえ!!)

そう暗示をかけるが生か死かの境目に自分は置かれている為になかなか冷静になれない。

(そもそも俺、何で……あんな奴に構ってるんだよ。馬鹿みてえ……)

そもそも七歩に関わらなければ、こんな目に遭わなかったのではと不意にそんな考えが過ってしまう……映画でよく主人公が爆発する密閉空間に閉じ込められた時にかなり焦る表情になるが、今ならその気持ちがわかるな等考えてしまったりするのは自分が置かれている状況のせいなのか……朧はそう思ってしまう。

――その時、

『朧……』

「――!」

また幻聴の再来、そして今度は幻覚でも見ているのか小夜人が悲しい目で自分を見ている姿が見えた。

――ダン!

「くそ! そんな目で見ないでくれよ……小夜人!」 

頑丈なガラス棚を殴りつけ、朧は小夜人の幻につらそうに訴える。

こんな状況でどうすればいいのか、そんな顔されたって困る……小夜人の声が聞こえ、言葉を交わせると言うのならそう訴えたかった。

――ひらっ

「あっ……?」

ガラス棚を叩いた拍子に、説明書のような冊子が落ちた。

「何だこりゃ……?」

朧はその冊子を拾い上げて中身を確認する、そこには……

「……“起爆作動スイッチを誤作動してしまった時の対処法”?」

そう書かれていた。

そして順に急いで読み上げてみると……、

「!? これなら……!」

この部屋の脱出の糸口が今、繋がった気がしたのだった。





「うっ……」

ぼんやりした中、七歩はようやく目を覚ました……。

そして今まで何があったかを思い出そうと必死に記憶を探る。

「! そうだ……いきなり部屋に引きずり込まれてそれで……!」

久保井に連れ込まれて眠らされたのだということを思い出したのだった……。

ジャリ……

「――!?」

よく見ると自分の手足には鎖付きの枷が付いており、逃げられぬようにされていた。

しかも自分の寝かせられている場所は、手術用の診察台とも思えるところだった。

「――うっ!」

しかもこの部屋は人間の身体の一部をホルマリン漬けにしたものや、気味の悪い色をした薬などが置いていた。

しかもよく見ると、自分の拘束されている診察台は血の痕跡がべったりついていた。

この部屋で久保井が何をしているか大体の事に察しがついた時――

「お目覚めかい……七歩様」
「――ひっ!」

久保井が、七歩が目覚めたのを見越すと顔を覗いて来た。

「あはは、ごめんね七歩様……逃げるから拘束させてもらったよ」
「――っ」

ニッコリとほほ笑みながら七歩に久保井は拘束した理由を告げる。

「あれを見てよ……」
「……?」

久保井は自分が視線を向けている方向を見てみるよう七歩に促す。
不審に思って久保井の言う通りに久保井が見ている方を見てみると……、

「――!?」

そこには信じられないものが、目を疑うものが自分の傍に置いてあった。

自分の傍に置いてあったものは……、

「あれ……、あれって……」

つぎはぎだらけの死体だった、しかも指などまで縫い目があったので違う人間の部位をおそらく繋ぎ合わせたもの……。

そして久保井がこんなものを見せて何をしているのか何となく察しがついた……。

「もしかして、この遺体は……」

遺体の頭部を見ると七歩も見たことある人物の顔が頭に浮かびあがった、これはおそらく日記にも書かれていた壁一面に写真を貼り付けるほど久保井が執着していた人物だ……。

目に布の様なものを巻いているが、あの少年の顔だということは分かる。

七歩の隣にある遺体は所謂、“人体パズル”を連想させた。

これから自分の身に何かが起こるかもしれないということに恐ろしく思いつつ、久保井に真相を聞くと……。

「そうだよ……“累”を、僕の運命の番を治しているんだ」
「――っ」

そして自分が愛してやまない累を治しているのだと久保井は七歩に教える。

いいや、正確に言えば久保井は現実逃避して“累”という少年が死んだことに目をそむけているだけなのだ。
そして累の頭部から下を殺害した他の人物の身体の一部を繋ぎ合わせるという凶行にまで走っているのだ。

「彼を生き返らせるんだ……」

そして、自分が“累”を生き返らせると久保井は七歩の前で宣言するがそれに呆れた七歩は……

「まだそんなこと言ってるんですか!?」

まだ死者蘇生という名の借りた殺人行為を正当化する気か聞いた。

「貴方には到底わからないでしょうねえ! 運命の番と思った人に先立たれるのは……!」
「一方的にあなたが思い込んだだけでしょう!?」 

日記に寄れば、それはただの久保井の一方的な執着と思い込みだけで“累”は相当迷惑していたように思えた……、七歩はそれに気づいてほしさも兼ねてそう意見する。

「このパーツを集めるのは大変だったんですよ? 若様は理解がある……ここに来た甲斐があったものだ」
「なっ、何を言っているの……?」

話が通じない上に久保井はこの屋敷の主は自分に理解があると、現状に満足しているようだ。しかし七歩からすれば久保井も屋敷の主も狂っているとしか思えなかった……。

「ねぇ、七歩様……」

「――っ!?」

遂に自分に話を振られ、七歩の顔は緊張で強張る。

そして久保井は七歩に覆いかぶさると目に触れるか触れないかの距離で人差し指を刺した……そして、

「その瞳を頂戴……?」

と笑顔で七歩にお願いしてきたのだった。

「――はっ?」

「貴方の瞳は……、“累”の眼差しに似ている」

なぜそうなるのかわからず眉をひそめると、久保井は七歩の眼が欲しい理由は愛しい累の眼に似ているからと答える。

これは不味いと思った七歩は……、

「でっ、でもそんなこと……僕を狙っている館の主人が許すとでも?」

七歩をモノにしたがっている館の主が仮に捕獲は許しても自分を傷つける真似は許さないだろうと七歩は意見すると久保井は……、

「でも、命にかかわらなければいいとおっしゃっていてね……。目は『OKだ』と答えてたよ?」
「――!?」
「その理由はね、『目が見えなきゃ自分から逃げないでしょう?』だってさ……」

館の主は無傷を優先するどころか逃げられない程度に傷つけるならOKと久保井を含めた使用人たちにそう告げていたと久保井は七歩に明かす。

「――っ」

――ガシャン!

「――放して!」

鎖がなければ、枷がなければ今すぐ遁走できるのに今置かれている現状というものは残酷で七歩には逃げ場はない。

「そんなことしたって人は生き返らない!」

そう言って七歩はいい加減現実を受け入れろと、声を張り上げて意見するものの……、

「大丈夫ですよ、痛くありませんよ? ちゃんと麻酔してあげます。目を取り出したら止血もちゃんとしてあげます。」

そう言って久保井は麻酔薬が入っていると思われる注射を取り出し、七歩の腕を押さえつけるとその注射を打とうとする。

久保井は本気で自分の眼をくり抜くつもりなのだ……。

「やだ、嫌だ嫌だ! 助けて、朧さん!!」

七歩は恐怖で声を張り上げて朧に助けを求める。

「朧……? あぁ、あの野良犬かい? もう丸焦げになっちゃったんじゃないかな? だって貴方を引きずり込んだ際、起爆装置発動してやりましたから」
「――!?」
「それにここ防音仕様ですから叫んでも誰も来やしませんよ?」
「――っ」

久保井は今頃叫んでもおそらく朧は起爆装置で吹き飛ばされている為七歩を助けに来ることは無理だと絶望の言葉を浴びせる、そしてさらに追い打ちをかけるようにこの部屋自体が防音仕様になっていると話す。

そして自分の腕からうっすら見える脈を見つけると久保井は改まって注射器を構える。

今度こそ目玉をくり抜かれる……。

「止めてェ――!」

そう思った七歩は恐怖で大声を叫ぶ、無駄だと分かっても大声で叫ぶしかなかった。

(……朧さん)

叫んで助けには来てくれない、先程の言葉で絶望に打ちひしがれて涙を流した。

――朧さんはこの屋敷に捕えられた僕にとって一筋の希望の光だったのに……。

何故迂闊にあの時、部屋につながるドアを触れようとしたのかと後悔が募って行く。

――その時だった。

ダァン!

銃声が七歩達のいる部屋に響いた……。

よく見ると久保井の注射を持っていた方の手が銃弾で貫通して掌から血をだらだらと吹き出し、久保井はその痛みに悶えて注射器を落としていた。

――バァン! パリン!

そしてもう一つ銃声が聞こえると今度は当たりが暗くなった、何者かが自分たちのいた部屋の明かりを銃弾で撃って暗くしたのだった。

カチャカチャカチャ……

「――えっ!」

暗闇の中自分を捕えていた枷が外れ腕を引っ張られ、自分の意志関係なく部屋からの脱出を余儀なくされた。

「――くそっ! どこだ!」

久保井は腕の痛みに悶えながらも銃弾をお見舞いした犯人を暗い部屋の中見つけようとするが、もうその部屋に自分以外にいないことに気付いたのは漸く目が暗闇に慣れてきたところだった。

――はぁっ、はぁっ!

しばらくあの部屋から遁走し、そして久保井から自分を助けてくれたのは……

「! ……朧さん!?」

他でもない、朧だったのだ……。

朧はあの部屋から脱出を何とか図り、自分がいるところを嗅ぎ付けここまでやってきてくれたのだった。

「はぁ……しんどかった」

何とかあの説明書が書かれている冊子をヒントに朧は起爆装置の在り処をまず見つけ、そして仕組みなど冊子を読みながら解明してあの部屋から脱出したのだった。

「ったく、いちいち世話かかせんな……バカ、おかげでこっちはしんどかったんだぞ?」

そう言って七歩に怒る朧はかなり疲弊した雰囲気を醸し出していた、七歩は自分のためにここまで駆けつけてくれた朧を見て……、

「おっぼろ、さん……おぼろさん」

涙をボロボロこぼし始めた……。

「……まさか、あんなくそ野郎になんか言われて俺が助けに来ねえとでも勝手に思ってたんじゃないだろうな?」

そして久保井の言葉に翻弄されて勝手に絶望に打ちひしがれていたのではないかと朧が問い詰めると……、

「えっ、あっ……」

急に涙が引っ込み、そう問い詰められるとそうじゃないと言い切れなくて七歩は目をそらした。

「あー、もう! いちいち面倒臭い坊ちゃんだな、お前は……!」

――ガッ!

「――えっ!?」

朧はカリカリしたように頭を掻き、そして七歩の肩を掴むと……、

「だから……、俺以外の奴の言葉に翻弄されるな……! どんなことがあろうと守ってやる! そういう約束を交わしたんだろうが……この屋敷の連中の言葉に惑わされるな! もちろんこの屋敷の主人にもだ!」

そして朧は七歩に話を振り、自分以外の相手の言葉に惑わされるなと活を入れてくる。

「この屋敷の連中の言葉を信じて勝手に絶望すんじゃねえ! 分かったか……!?」

「――……」

朧のその言葉を聞いて七歩は勇気づけられた気がした、ここまで守ってくれる人間がそばにいることが今の状況で何より幸運なことだと理解した気がした……。

そして何より……初めて朧が下の名前で呼んでくれた気がした。

その言葉に七歩は……、

「……うん!」

朧の言葉に返事を返す。

屋敷の連中が何を言おうともう何も惑わされない、七歩はそう決意したのだった……。

「初めて……名前で呼んでくれた」
「うっせ……!」

七歩がくすくす笑いながらそう言うと朧は顔を赤くしてそう言い返してきた。
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