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本編
09:月の精に恋をした狼 *
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「狼谷君、本を読むの好きなんだね……。」
「え……あっ、悪いか?」
ヤクザの子供のイメージに合わないと思った朧は敢えてそう聞いた。
「ううん、別に悪い趣味じゃないと思うよ?」
小夜人は朧の読書という趣味は決して悪いものではないと言う。
「もしよかったら、これ読んで見たらどう?」
そう言って小夜人は本を取り出して朧に渡した。
「“シートン動物記”……?」
小夜人が手渡した本のタイトルは“シートン動物記”という本だった……。
「この中では"狼王ロボ"の話がおすすめかな、取りあえず読んでみてよ」
「えっ、でも……」
「いいからいいから、返すのはいつでもいいからね」
小夜人に勧められて朧は周りの目もあって遠慮するが、小夜人は気にせず貸してくれたのだった……。
「えっと、高月……くん、ありがとう」
朧は小夜人がクラスメイトとして普通に接してくれたことも本を貸してくれたことも含めてお礼を言った。
すると小夜人はくすっと笑うと……、
「“小夜人”でいいよ。」
小夜人は訂正し、下の名前で呼んでいいと朧に言った。
小夜人は他の者とは違うなにかしらの違和感を覚えた……、それに気づいたのは貸してくれた本を返した時だった。
――そして貸してくれた本を数日後、返却した時……。
「本、面白かった……ありがとう。“狼王ロボ”……考えさせられた内容だった。」
小夜人が貸してくれた本を返した時、感想を添えながら朧は本を返す。
「ううん、楽しんでくれたのならそれでいい……そうか、“狼王ロボ”をおすすめした甲斐があったな」
小夜人は朧の感想に嬉しそうだった。
「あのさ……、なんで俺なんかに本を貸してくれたの?」
そして、聞きたかった本題に勇気を出して朧は小夜人に聞いたのだった。
朧にとって小夜人は新鮮だった、極道者の息子だからって色眼鏡で見ない同い年の子は……小夜人が初めてだったのだ。
だから朧はどうしても自分を普通に接してくれる小夜人が不思議でならなかった。
「……ぼくね、Ωなんだよ」
「――えっ!?」
小夜人は何を思ったのか自身はΩであることを話した。
「ぼくね、Ωだからあんまり人にいい目で見られないの……。そのせいでクラスメイト達にもなじめないんだ。」
Ωだからあまりいい目で見られない、クラスの大半を占めているβ達、自分を含め少数ながらもΩよりいるα達と馴染めないのだと小夜人は理由を話した。
「だからかな……? 狼谷君と立場ちょっと似ていたから、放っておけなくて……狼谷君は迷惑、だったろうけど」
αであれどヤクザの子だからという理由でクラスメイトから距離を置かれる朧、Ωだと言う理由でクラスメイトから距離を置かれる自分……立場が似ていたから話しかけたと小夜人は正直に話した。
「迷惑、じゃねえよ全然、その……むしろ嬉しかったよ」
迷惑ではなかったと速攻に否定し、朧は他のクラスメイトと違って色眼鏡で接しなかったことが何よりもうれしかったと本心を正直に話した。
「もし、狼谷君が迷惑じゃなかったら友達になりたいな……」
遠慮深く小夜人は朧に対する心情を朧本人に話した。
それを聞いた朧は……、
「朧……」
「――えっ!?」
「朧って呼んでいい……、お前だってそう言ったろ」
また小夜人が自分を下の名前で呼んでいいと言ったように、朧も下の名前で呼んでいいと小夜人にそう言ったのだった。
「じゃあ……朧」
嬉しそうに小夜人はそう答えた。
――それから、二人は仲良くなった。
クラスメイトはもちろん、教師たちも二人を良い目で見なかったが二人は気にしなかった。
朧はもしΩだと言って小夜人を馬鹿にする連中がいれば睨みを利かせるなど、弱い小夜人を守ろうと決めていたし、もし朧が馬鹿にされれば小夜人が元気付けていた為お互い支え合って出来ている関係だった。
もちろん朧は余程のことがなければ小夜人を馬鹿にするクラスメイト達などに突っかからなかったし、朧自身が売られた喧嘩以外買わない性分でもあった為、大抵のクラスメイトは朧が睨み付けると怯んだので喧嘩沙汰にはそこまでならなかった。朧ばかりが責められる時があれば、父と義母が懸命に抗議してくれたし、そうなった理由もちゃんと聞いてくれたから両親の理解の広さにも朧は感謝していた。
自分の目付きの悪さは気にしてはいたが、ひと睨みで小夜人を守れるのならばこの目も悪くないと小夜人と友人として付き合うようになったら思うようになった。
小夜人の両親はαだったが差別や偏見を持たない優しい人達だった為、朧が小夜人の家に遊びに行くと出入りを普通に許してくれたし、朧の両親たちももちろん小夜人を快く歓迎した。
「なぁ、シートン動物記見ていて思ったんだけどさ……」
「何? 朧……」
小夜人が朧の家に遊びに来た時、朧はシートン動物記の話を小夜人に振った。
「狼王ロボは……半身ブランカを失った時、どう思ったんだろうな」
狼王ロボ……著者・シートンが実際に体験した狼狩りの話で「魔物」と呼ばれ恐れられた古狼、それがロボだ。人間との知恵との戦いで負けロボはあえなく捕まり、ロボは人に媚びることも命乞いすることもなく餓死の道を選んだ。
その中に出てくるブランカはロボの伴侶の雌狼で、ロボの唯一の弱みだと知った人間たちにロボを釣る餌として利用されて殺されたのだ。
「……多分、ブランカをあんな風にされてもう生きるのがどうでもよくなっちゃったのかもね」
気高き狼だったロボだったが、誰よりもブランカを愛していたに違いない……。
そんなブランカの遺体を釣り餌として使われたのだ、ブランカを殺されて自分を誘う餌にされたロボの心情は死に近い絶望に打ちひしがれたのではと小夜人は言った。
「狼が害獣だってのは分かるけどさ、人間ってつくづく残酷だよな……ロボと同じだったら俺も多分……」
それがロボの本当の心情なら、自分も同じ絶望に打ちひしがれるだろうと朧は思った。
「そうだね……」
小夜人は朧の言葉に同調してくれた。
「そういやもうすぐだよな……首輪、付けなきゃいけなくなるの」
「? ……うん。」
朧達が通うことになる中学校だけではなく大抵のΩは中学校から自分がΩであることを証明する書類の提出や首輪の装着と特効薬所持が義務付けられる。
朧達の通うことになる中学校は首輪の装着義務にうるさいため、近々小夜人も首輪を嵌めなければいけなくなるのだった。
「本当は、首輪……主張しているみたいで嫌なんだけどね。仕方ないとは分かっているんだけどさ」
小夜人は首輪を本当は自分がΩだということを主張するみたいで嫌な気分になると正直に話した。
「もしまた小夜人にちょっかい出す奴が中学にもいたら、俺が牽制してやるから安心しろ」
朧は小夜人に友人として中学に入っても小夜人を守ると宣言する。
その言葉を聞いて小夜人はくすくす笑うと……、
「ぼくね、朧のそういうところが好きなんだ……」
「――えっ!?」
小夜人は突然意味深な発言をしたため、朧は少し戸惑う。
「あぁ、変な意味じゃないよ? 朧はさ……心を許した相手は自分の命に懸けても守ってくれるでしょ? だからさ……そういうところ“ロボ”みたいですごくいいなぁって思うんだ」
「――っ!?」
――ドクン!
笑顔を向けて自分に言うその言葉に戸惑いを隠せず、胸の鼓動が高鳴った。
「…………」
――そして漸く朧は自分の中にいつの間にか潜んでいた気持ちを自覚した……。
「小夜人……あのさ」
「――?」
――チュッ
そう言うといつの間にか朧は小夜人にキスをしていた……。
暖かい感触が唇に伝わった……。
「!? あっ、悪い……!」
小夜人の許可なしにいきなりキスをしたことに朧は慌てて詫びる。
「……わっ、忘れてくれ」
そしてこの行為を忘れて欲しいと小夜人に言うと……、
「あのさ……朧」
「――?」
そして小夜人は改めて朧に聞いてくる。
「もし、番選びを迫られる時期が来たら……朧がいいな」
「―――!?」
顔を赤くして小夜人は番を選ばなければいけなくなる時期が来れば、朧がいいと告げた。
「本、当……か?」
「……うん」
「俺、ヤクザの子だし……その」
「関係ないよそんなの……ぼくは朧がいい」
番選びを余儀なくされた時、自分の家柄関係なく自分を番のαとして選ぶと小夜人は言ってくれたのだった。
「小夜人……もう一回キスしていい?」
その言葉がうれしくて、朧はもう一度キスしていいか小夜人に聞いたのだった。
小夜人はゆっくりと頷いた拍子に、また朧は小夜人にキスをした。
――そしてお互い誓ったのだった、番を作ることを許される年齢になったら番になろうと。
しかし、この約束をある不審者のせいで壊されたのだった。
それと同時に小夜人を奪われた……。
――それは二人が中学3年の夏の時だった。
二人は、地元で開催する夏祭りに行く約束をしていたのだった。
「朧、まだ終わりそうにない?」
帰宅する途中、小夜人は朧に声を掛けた。朧は学校行事の手伝いをやらされていたためまだ時間がかかりそうだった。
「悪い、先に行っていてくれないか? これ終わったらすぐ行くからよ」
「……わかった」
まだ終わるには時間がかかりそうだと朧は小夜人に告げ、先に祭の方に行っていてほしいと願い出る。小夜人はそれを承諾し、じゃあねと言って小夜人は先に帰って先に夏祭りに行くことにした。
――これが、朧が見た小夜人の最後の姿だった……。
小夜人は家に帰ると、すぐ祭りに行く準備をして出かけた。
しかし蒸し暑さと人ごみで息苦しさを感じた小夜人は神社の方に一旦休憩して神社で朧と待ち合わせしようと思っていた。
「朧……早く来ないかなぁ」
そう言いながら木陰で涼んでいた時だった。
――ガッ!
「――!?」
いきなり口を押えられ、手首を掴まれ……小夜人は何者かに草が生い茂った場所に引き寄せられる。
そして何者かにいきなり組み敷かれ、助けを呼ぼうとするが……
――バチン!
頬をいきなり叩かれた。
男は欲情で興奮しきった目をしていて、それを見た小夜人は嫌悪と恐怖に怯えた。
「やめっ、助けて――!」
男の方が力は強く、小夜人は振り払えなかった……。
男は遠慮なしに小夜人の服を引きちぎり、下着を脱がし始める。
(嫌、嫌……! 朧とまだなのに! 初めての相手は朧と決めていたのに……!)
必死で抵抗するものの、小夜人は男を振り払えない。
――はぁっ、はぁっ
「Ωなんだね……可愛い、いやらしいにおいがプンプンする。」
――ぞわっ!
「いや! いやだいやだいやだ……!」
男は嫌らしい声で小夜人の下半身に顔を埋め、小夜人の秘部を舐め始める。
小夜人は嫌悪感でたまらなくなり、必死に嫌だと連呼し……
「――助けて、おぼろぉ!」
朧に助けを求めたのだった。
――漸く朧は学校行事の支度が終わり、急いで小夜人の待つ祭りに行った時だった。
しかし祭りの場所が異様な光景に包まれている、警察が行き来しているうえに祭に来た客の一部の表情が曇ったりしている。
「あの、ここで何が……?」
警察が行き来する神社の前で立って様子を見ていた女性に朧が何があったのか聞くために声を掛けると……、
「神社の林でΩの男の子が一人、刺殺されたんですって……」
「――えっ!?」
――朧の中に嫌な予感が過った……。
「え……あっ、悪いか?」
ヤクザの子供のイメージに合わないと思った朧は敢えてそう聞いた。
「ううん、別に悪い趣味じゃないと思うよ?」
小夜人は朧の読書という趣味は決して悪いものではないと言う。
「もしよかったら、これ読んで見たらどう?」
そう言って小夜人は本を取り出して朧に渡した。
「“シートン動物記”……?」
小夜人が手渡した本のタイトルは“シートン動物記”という本だった……。
「この中では"狼王ロボ"の話がおすすめかな、取りあえず読んでみてよ」
「えっ、でも……」
「いいからいいから、返すのはいつでもいいからね」
小夜人に勧められて朧は周りの目もあって遠慮するが、小夜人は気にせず貸してくれたのだった……。
「えっと、高月……くん、ありがとう」
朧は小夜人がクラスメイトとして普通に接してくれたことも本を貸してくれたことも含めてお礼を言った。
すると小夜人はくすっと笑うと……、
「“小夜人”でいいよ。」
小夜人は訂正し、下の名前で呼んでいいと朧に言った。
小夜人は他の者とは違うなにかしらの違和感を覚えた……、それに気づいたのは貸してくれた本を返した時だった。
――そして貸してくれた本を数日後、返却した時……。
「本、面白かった……ありがとう。“狼王ロボ”……考えさせられた内容だった。」
小夜人が貸してくれた本を返した時、感想を添えながら朧は本を返す。
「ううん、楽しんでくれたのならそれでいい……そうか、“狼王ロボ”をおすすめした甲斐があったな」
小夜人は朧の感想に嬉しそうだった。
「あのさ……、なんで俺なんかに本を貸してくれたの?」
そして、聞きたかった本題に勇気を出して朧は小夜人に聞いたのだった。
朧にとって小夜人は新鮮だった、極道者の息子だからって色眼鏡で見ない同い年の子は……小夜人が初めてだったのだ。
だから朧はどうしても自分を普通に接してくれる小夜人が不思議でならなかった。
「……ぼくね、Ωなんだよ」
「――えっ!?」
小夜人は何を思ったのか自身はΩであることを話した。
「ぼくね、Ωだからあんまり人にいい目で見られないの……。そのせいでクラスメイト達にもなじめないんだ。」
Ωだからあまりいい目で見られない、クラスの大半を占めているβ達、自分を含め少数ながらもΩよりいるα達と馴染めないのだと小夜人は理由を話した。
「だからかな……? 狼谷君と立場ちょっと似ていたから、放っておけなくて……狼谷君は迷惑、だったろうけど」
αであれどヤクザの子だからという理由でクラスメイトから距離を置かれる朧、Ωだと言う理由でクラスメイトから距離を置かれる自分……立場が似ていたから話しかけたと小夜人は正直に話した。
「迷惑、じゃねえよ全然、その……むしろ嬉しかったよ」
迷惑ではなかったと速攻に否定し、朧は他のクラスメイトと違って色眼鏡で接しなかったことが何よりもうれしかったと本心を正直に話した。
「もし、狼谷君が迷惑じゃなかったら友達になりたいな……」
遠慮深く小夜人は朧に対する心情を朧本人に話した。
それを聞いた朧は……、
「朧……」
「――えっ!?」
「朧って呼んでいい……、お前だってそう言ったろ」
また小夜人が自分を下の名前で呼んでいいと言ったように、朧も下の名前で呼んでいいと小夜人にそう言ったのだった。
「じゃあ……朧」
嬉しそうに小夜人はそう答えた。
――それから、二人は仲良くなった。
クラスメイトはもちろん、教師たちも二人を良い目で見なかったが二人は気にしなかった。
朧はもしΩだと言って小夜人を馬鹿にする連中がいれば睨みを利かせるなど、弱い小夜人を守ろうと決めていたし、もし朧が馬鹿にされれば小夜人が元気付けていた為お互い支え合って出来ている関係だった。
もちろん朧は余程のことがなければ小夜人を馬鹿にするクラスメイト達などに突っかからなかったし、朧自身が売られた喧嘩以外買わない性分でもあった為、大抵のクラスメイトは朧が睨み付けると怯んだので喧嘩沙汰にはそこまでならなかった。朧ばかりが責められる時があれば、父と義母が懸命に抗議してくれたし、そうなった理由もちゃんと聞いてくれたから両親の理解の広さにも朧は感謝していた。
自分の目付きの悪さは気にしてはいたが、ひと睨みで小夜人を守れるのならばこの目も悪くないと小夜人と友人として付き合うようになったら思うようになった。
小夜人の両親はαだったが差別や偏見を持たない優しい人達だった為、朧が小夜人の家に遊びに行くと出入りを普通に許してくれたし、朧の両親たちももちろん小夜人を快く歓迎した。
「なぁ、シートン動物記見ていて思ったんだけどさ……」
「何? 朧……」
小夜人が朧の家に遊びに来た時、朧はシートン動物記の話を小夜人に振った。
「狼王ロボは……半身ブランカを失った時、どう思ったんだろうな」
狼王ロボ……著者・シートンが実際に体験した狼狩りの話で「魔物」と呼ばれ恐れられた古狼、それがロボだ。人間との知恵との戦いで負けロボはあえなく捕まり、ロボは人に媚びることも命乞いすることもなく餓死の道を選んだ。
その中に出てくるブランカはロボの伴侶の雌狼で、ロボの唯一の弱みだと知った人間たちにロボを釣る餌として利用されて殺されたのだ。
「……多分、ブランカをあんな風にされてもう生きるのがどうでもよくなっちゃったのかもね」
気高き狼だったロボだったが、誰よりもブランカを愛していたに違いない……。
そんなブランカの遺体を釣り餌として使われたのだ、ブランカを殺されて自分を誘う餌にされたロボの心情は死に近い絶望に打ちひしがれたのではと小夜人は言った。
「狼が害獣だってのは分かるけどさ、人間ってつくづく残酷だよな……ロボと同じだったら俺も多分……」
それがロボの本当の心情なら、自分も同じ絶望に打ちひしがれるだろうと朧は思った。
「そうだね……」
小夜人は朧の言葉に同調してくれた。
「そういやもうすぐだよな……首輪、付けなきゃいけなくなるの」
「? ……うん。」
朧達が通うことになる中学校だけではなく大抵のΩは中学校から自分がΩであることを証明する書類の提出や首輪の装着と特効薬所持が義務付けられる。
朧達の通うことになる中学校は首輪の装着義務にうるさいため、近々小夜人も首輪を嵌めなければいけなくなるのだった。
「本当は、首輪……主張しているみたいで嫌なんだけどね。仕方ないとは分かっているんだけどさ」
小夜人は首輪を本当は自分がΩだということを主張するみたいで嫌な気分になると正直に話した。
「もしまた小夜人にちょっかい出す奴が中学にもいたら、俺が牽制してやるから安心しろ」
朧は小夜人に友人として中学に入っても小夜人を守ると宣言する。
その言葉を聞いて小夜人はくすくす笑うと……、
「ぼくね、朧のそういうところが好きなんだ……」
「――えっ!?」
小夜人は突然意味深な発言をしたため、朧は少し戸惑う。
「あぁ、変な意味じゃないよ? 朧はさ……心を許した相手は自分の命に懸けても守ってくれるでしょ? だからさ……そういうところ“ロボ”みたいですごくいいなぁって思うんだ」
「――っ!?」
――ドクン!
笑顔を向けて自分に言うその言葉に戸惑いを隠せず、胸の鼓動が高鳴った。
「…………」
――そして漸く朧は自分の中にいつの間にか潜んでいた気持ちを自覚した……。
「小夜人……あのさ」
「――?」
――チュッ
そう言うといつの間にか朧は小夜人にキスをしていた……。
暖かい感触が唇に伝わった……。
「!? あっ、悪い……!」
小夜人の許可なしにいきなりキスをしたことに朧は慌てて詫びる。
「……わっ、忘れてくれ」
そしてこの行為を忘れて欲しいと小夜人に言うと……、
「あのさ……朧」
「――?」
そして小夜人は改めて朧に聞いてくる。
「もし、番選びを迫られる時期が来たら……朧がいいな」
「―――!?」
顔を赤くして小夜人は番を選ばなければいけなくなる時期が来れば、朧がいいと告げた。
「本、当……か?」
「……うん」
「俺、ヤクザの子だし……その」
「関係ないよそんなの……ぼくは朧がいい」
番選びを余儀なくされた時、自分の家柄関係なく自分を番のαとして選ぶと小夜人は言ってくれたのだった。
「小夜人……もう一回キスしていい?」
その言葉がうれしくて、朧はもう一度キスしていいか小夜人に聞いたのだった。
小夜人はゆっくりと頷いた拍子に、また朧は小夜人にキスをした。
――そしてお互い誓ったのだった、番を作ることを許される年齢になったら番になろうと。
しかし、この約束をある不審者のせいで壊されたのだった。
それと同時に小夜人を奪われた……。
――それは二人が中学3年の夏の時だった。
二人は、地元で開催する夏祭りに行く約束をしていたのだった。
「朧、まだ終わりそうにない?」
帰宅する途中、小夜人は朧に声を掛けた。朧は学校行事の手伝いをやらされていたためまだ時間がかかりそうだった。
「悪い、先に行っていてくれないか? これ終わったらすぐ行くからよ」
「……わかった」
まだ終わるには時間がかかりそうだと朧は小夜人に告げ、先に祭の方に行っていてほしいと願い出る。小夜人はそれを承諾し、じゃあねと言って小夜人は先に帰って先に夏祭りに行くことにした。
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小夜人は家に帰ると、すぐ祭りに行く準備をして出かけた。
しかし蒸し暑さと人ごみで息苦しさを感じた小夜人は神社の方に一旦休憩して神社で朧と待ち合わせしようと思っていた。
「朧……早く来ないかなぁ」
そう言いながら木陰で涼んでいた時だった。
――ガッ!
「――!?」
いきなり口を押えられ、手首を掴まれ……小夜人は何者かに草が生い茂った場所に引き寄せられる。
そして何者かにいきなり組み敷かれ、助けを呼ぼうとするが……
――バチン!
頬をいきなり叩かれた。
男は欲情で興奮しきった目をしていて、それを見た小夜人は嫌悪と恐怖に怯えた。
「やめっ、助けて――!」
男の方が力は強く、小夜人は振り払えなかった……。
男は遠慮なしに小夜人の服を引きちぎり、下着を脱がし始める。
(嫌、嫌……! 朧とまだなのに! 初めての相手は朧と決めていたのに……!)
必死で抵抗するものの、小夜人は男を振り払えない。
――はぁっ、はぁっ
「Ωなんだね……可愛い、いやらしいにおいがプンプンする。」
――ぞわっ!
「いや! いやだいやだいやだ……!」
男は嫌らしい声で小夜人の下半身に顔を埋め、小夜人の秘部を舐め始める。
小夜人は嫌悪感でたまらなくなり、必死に嫌だと連呼し……
「――助けて、おぼろぉ!」
朧に助けを求めたのだった。
――漸く朧は学校行事の支度が終わり、急いで小夜人の待つ祭りに行った時だった。
しかし祭りの場所が異様な光景に包まれている、警察が行き来しているうえに祭に来た客の一部の表情が曇ったりしている。
「あの、ここで何が……?」
警察が行き来する神社の前で立って様子を見ていた女性に朧が何があったのか聞くために声を掛けると……、
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