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本編
08:子山羊を休ませ、過去を思い出す。
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「もし七歩がお前のところ来たらご飯を作ってあげてね? お腹空いているだろうから」
「……分かりました。」
――ガチャン
もし七歩と対面することがあれば食事を用意するように青年に命令し、青年は屋敷の主の命令を承諾して屋敷の主の部屋から退出した。
「あの侵入者だっていう男も、久保井と対面していたらどう思ってるかな?」
クスクス……
屋敷の主は朧が久保井と対面した時、久保井を見てどんな反応をするのか想像して一人笑っていた。
――外は大雨が降っていて、雷も鳴っていた。
「どこ行ったあの二人……」
そんな中久保井は七歩達を血眼で探していた、しかし二人の姿はどこにもない。
――ガシャン!
「――クソ! あの野良犬……見つけたら新薬の実験体にしてやる!」
二人が逃げたと思われる部屋を探し回ったが、久保井は二人を見つけられなかったことに腹を立てて椅子を蹴る。花瓶が倒れて床に叩きつけられた衝動で割れた。
久保井は二人はこの部屋にいないと睨んで、部屋を後にしたのだった。
――二人はというと……、
「行ったかな……?」
先程の部屋は二人で隠れられそうな場所はなく天井を見上げるとどこかの一階の部屋につながる非常口を見つけ、二人はすぐさま化粧棚を利用して暗い中、一階の客室に繋がるベランダに移動した。
天井の非常口を見つけられていたら終わっていたが、部屋が暗かったせいか久保井はそれを見つけられなかったらしくその暗さが偶然二人を助けたのだった。
「ここならこの非常口を悟られない限りしばらくは安全だろう……、念のためベランダも鍵を掛けておくからドアの鍵も掛けとけ」
「……うん」
七歩は久保井がまだ一階を探索していないことを祈りながら廊下につながるドアの鍵を掛ける。
そして保険としてそこにあった少し重いチェストを扉の前に置き、廊下側から開けにくくする。
「くっそ、びちゃびちゃじゃねえか」
朧は濡れてしまった上の服を脱いで、暖房をつけて暖房の近くで上の服を乾かし始めた。
「――おい、坊ちゃんも服濡れて気持ち悪いだろ? 脱いで乾かせ、風邪をひかれたら困る」
「あっ、……はい。」
朧に雨で濡れてしまった上の服を脱いで乾かすように促され七歩は慌てて上の服を脱いで、暖房の近くで服を乾かす。
「細いな……お前、ちゃんと食ってるのか?」
朧は華奢で細身な七歩の身体を見て、ちゃんと食事を摂っているか聞いた。
「食べてもこれなんですよ、悪かったですね……」
「そりゃ失礼……」
七歩は朧の言い方にむっととして毎日三食食べてもこの体系だと話すと、逆に怒らせてしまったかと思い朧は言い方が悪かったと一応謝る。
――ふらっ
「――あっ」
「おっと……」
七歩はふらついて、その場で膝が付きそうになったのを朧は慌てて受け止める。
「やっぱ疲れてるんじゃねえか……ベッドあるし、少し寝ろ。」
朧は七歩をお姫様抱っこの状態で担ぎ上げ、ベッドに向かう。
「――えっ!? ちょっと……!」
七歩は顔を赤くして降ろしてもらうよう言うが……、
「ふらふらな状態で行かれる方がもっと迷惑だっつの……。遠慮しないで休め、俺もちょっと休む」
そう言って朧はかけ布団を払い、七歩をベッドに寝かせ同じベッドに上がり込んでくる。
「――えぇっ!? 一緒のベッドで……?」
「一緒にくっついていた方が体温まりやすくて効率良いだろうが。」
七歩は驚いて思わず声を上げてしまった、そう言って朧はかけ布団を七歩と自分に覆い被せると七歩の元に近寄ってくる。七歩は恥ずかしくなって距離を置こうとすると……、
「一回俺の裸を見てるだろうが、こっち来ねえと怒るぞ」
軽い応急手当てをした時に七歩が一度朧の裸を見ていることを朧は指摘し、肌をくっつける距離に来なければ怒ると言うと……、
「……」
七歩は恐る恐る朧の方に寄ってくる。
「よーし、いい子だ……」
朧はそう言って七歩を自分の胸の方に近づける……。
「あったかい……」
先程肌寒い思いをしていたはずなのに、朧の温もりに触れて七歩はそう呟く。
「――だろ?」
朧はこうして肌をくっつけ合わせた方が暖かいと言った自分の言った通りだろうと、したり顔をする七歩は体が温まってきてその暖かさにうとうとし始める。
「小夜人にマジで似てやがるな、こいつ……」
眠りについた七歩の寝顔を見て、自分のかつての大切な人だった“小夜人”に似ていると呟く。
そして目を閉じて昔の記憶を思い出していた……。
・・・
――今から十七年前。
朧はわずか八歳で母を失った後、母の愛人でもあった狼月会(ろうげつかい)の会長である父に引き取られた……。
「会長……月世さんの息子さんっス」
ヤクザ達が集うこの狼月会の最高幹部の一人と思わしき男が自分を迎えに来て、狼月会の屋敷にいた狼月会会長である朧の父親に朧を連れてきたことを報告する。
「……おう、ご苦労だった」
幼なかった朧は父と言えど極道の人間だ、父の姿が恐ろしく思えた。
狼月会、朧が住んでいる場所を拠点にヤクザ達を仕切っている朧が住む地域のヤクザ達の頂点である。仮にも色んな組を仕切る首領なのだ、そんな父が怖くないはずがなかった……。
「朧ぉ、今からお前は俺の元で暮らすことになる……。手取り足取りこの組の事教えてやっから正式に俺の息子になったからにはそれなりの覚悟を決めろ」
そう父は朧の頭を撫でて、これから跡を継ぐことになる朧にそう言った。
朧の母はΩで、番としてαだった実父と関係を持っていた……。
だが父は“極道の人間”……この二人の関係を母方の祖父母は許さず、引き放すためにβだった義父と結婚させた。
――だが、番である朧の実父と無理矢理引き放された朧の母はその影響で精神を正常に保っていられず精神病を患った。
引きはがされた時はもう朧の母は朧を身ごもっており、無理矢理堕胎させる真似をすれば精神にますます負担がかかり早死にさせることになると医者が極道を毛嫌いする祖父母に忠告したため、朧はこの世に生まれることとなった。
血のつながらないβの義父は祖父母と同じく極道を毛嫌いする人間で、もちろん朧のことを嫌っていた為、母が死んだ後も朧を引き取りたがらなかった。
もちろん朧の祖父母も朧を毛嫌い、朧は実父である狼月会の跡取りとして引き取られることとなったのだった。
内心不安だった、これから自分はヤクザの子として生きることとなるのだ……。
自分への世間の風当たりは強くなるだろう、学校関係者だけでなく近所でも……そう考えると朧は実父とともに暮らすことを素直に喜べないでいた。
――それに問題はそれだけじゃない……。
「あらアンタ、“この子”かい?」
「あぁ、……そうだ」
すると、自分の考えを察していたように義理の母が自分の前に姿を現した。
義理の母となる人は父の番である女の息子なのだから、いい印象は持っていないだろうと思った。
義理の母と上手くやって行けるか、いけなかったら、気に入られなかったらぎすぎすした関係を過ごしていかなければならないのだろうと、子供といえど朧でもそれは感じていたため不安要素はたくさんあった。
「姐さん……」
朧を狼月会本部に連れてきた狼月会の幹部の男は、心配そうに義理の母を呼ぶ。
ただ何を言われるか、義理の母となる人をじっと見ることしかできなかった。
「お前さん鋭い目をしてるね……、だがアタシに言わせれば主人に比べりゃまだ仔犬だね」
朧の眼を見て義理の母は実父と同じ眼を持っているが、まだ子供と言うこともあって迫力に欠けると評した。
「たくさん嫌な目にあったって感じだね、でもその目付き……嫌いじゃないよ」
(え……!?)
義理の母に当たる女は朧の目付きを見て、決して嫌いな目ではないと評してくれたため朧は少し戸惑う。
「いいかい、アンタはこれからアタシの息子でもある……。何でもいいな! アンタが両親に甘えられなかった分アタシがちゃんと面倒を見て甘やかしてやる! 子供の内は遠慮せずに甘えな、特にアタシの前ではね……!」
――義理の母は自分を嫌わないでいてくれるのだろうか……、仮にも父の番だった女性の子であるのに?
そんな自分に歩み寄ってくれた義理の母に戸惑いを隠せずにいるものの、朧の眼から自然と涙が零れ落ちる……。
「朧……妻は、陽美子はな。お前の事は前の家でどんな扱いされていたか知ったうえで息子として受け入れてくれるって、言ってくれているんだ。だから……、陽美子の前では素直になんな」
そして実父である狼月会会長は、自分たちの前では子供らしくしていいと促したのだった。
「それに、俺のせいでお前のお母さん……月世にもお前にも迷惑かけてしまった。謝っても許してもらえるとは思ってねえ。だが……、家族らしいことはさせてくれねえか?」
「――!?」
実父が謝ってきたことにも驚きを隠せないでいたが、先程恐ろしいと思っていた実父が義母の自分を身内として受け入れてくれるという言葉の効力かさっきと違って恐ろしく見えなくなった……。
自分のせいで母・月世を死に追いやってしまったことや朧につらい思いをさせてしまったことを詫び、そのお詫びとして家族らしいことをさせて欲しいと実父は願い出た。
コクコク……
朧は返事の代わりに必死に頷いた――。
「朧……もうアンタはアタシ達の家族だよ!」
義理の母は自分を受け入れてくれた、義母の懐の深さには一層感謝せざる負えなかった。
精神病を患ったこともあって母に甘えることは許されなかった、祖父母と義父はもちろん甘えることも許してくれなかったし、自分を嫌っていた人間にそんなこと出来もしなかった。朧はそんな凍えきった環境で育って来た。
極道だとかはもうどうでもよくて温かく迎えてくれる義母と実父の優しさに触れて初めて人の温かさを知った朧は、極道の身内として生きていく覚悟を今度こそ決めることが出来たのだ。
――そして、朧は転校生として公立の小学校に通学した。
案の定というのか、教師たちの眼は担任も含め腫物扱いするような目だった。
にこやかに接しているけど、“極道の息子”だからとへつらっているのは子供の朧でも分かった。
教師たちの態度はきっとこの態度は表面だけで、裏では自分には心労になるから学校に来てほしくないって思っていると朧でも分かった。
クラスメイトも親に言われたのか、自分に距離を置いているのは丸わかりだった……。
休みの時間は本を読みふけってクラスメイトと遊べない時間を紛らわしていた。
――そんな時だった、“彼”に出会ったのは……。
「狼谷朧君だっけ? ……下の朧って朧月の朧でしょ? お父さんから聞いた。すごいね……名前だけで月に吠える狼って感じ」
一人のクラスメイトの少年が朧に声を掛けてきたのだった。
――ざわっ!
教室にいたクラスメイトが極道の息子である自分に声を掛けた少年の行動を見て、もちろんざわついた。
「あのさ……俺の家の事、知らないわけじゃないんでしょ?」
何で極道の息子である自分に声を掛けてきたのかわからず、少年に声を掛けた意図を朧は聞く。
「? なんで……? ぼく、普通に君に興味あるし」
少年はきょとんとして朧に逆に聞いてくる。
「ちょっ、ちょっと……、止めさせた方がいいんじゃないの?」
「でもどうやって……?」
ひそひそ……
クラスの女子が放っておいていいのかと男子に耳打ちをする。
「(ほら、お前変な目で見られてるぞ……?)」
朧は少年に周りの反応を見ながら変な目で見られたくないなら自分に話しかけるなと、小声で忠告する。
――しかし、少年は……
「気にしてないよ? 狼谷君は狼谷君じゃん。」
あっけらかんとして周りの眼は気にしないと朧に伝える。
「何なんだ? お前……」
周りの状況を読めていない天然なのか、何か裏があって話しかけているのか朧は怪しんで少年が何者なのか聞く。
「ぼく……? ぼくは高月小夜人。図書委員してるんだ」
そして小夜人は自分の名前を朧の前で名乗り出る。
――これが、小夜人との出会いだったのだ。
「……分かりました。」
――ガチャン
もし七歩と対面することがあれば食事を用意するように青年に命令し、青年は屋敷の主の命令を承諾して屋敷の主の部屋から退出した。
「あの侵入者だっていう男も、久保井と対面していたらどう思ってるかな?」
クスクス……
屋敷の主は朧が久保井と対面した時、久保井を見てどんな反応をするのか想像して一人笑っていた。
――外は大雨が降っていて、雷も鳴っていた。
「どこ行ったあの二人……」
そんな中久保井は七歩達を血眼で探していた、しかし二人の姿はどこにもない。
――ガシャン!
「――クソ! あの野良犬……見つけたら新薬の実験体にしてやる!」
二人が逃げたと思われる部屋を探し回ったが、久保井は二人を見つけられなかったことに腹を立てて椅子を蹴る。花瓶が倒れて床に叩きつけられた衝動で割れた。
久保井は二人はこの部屋にいないと睨んで、部屋を後にしたのだった。
――二人はというと……、
「行ったかな……?」
先程の部屋は二人で隠れられそうな場所はなく天井を見上げるとどこかの一階の部屋につながる非常口を見つけ、二人はすぐさま化粧棚を利用して暗い中、一階の客室に繋がるベランダに移動した。
天井の非常口を見つけられていたら終わっていたが、部屋が暗かったせいか久保井はそれを見つけられなかったらしくその暗さが偶然二人を助けたのだった。
「ここならこの非常口を悟られない限りしばらくは安全だろう……、念のためベランダも鍵を掛けておくからドアの鍵も掛けとけ」
「……うん」
七歩は久保井がまだ一階を探索していないことを祈りながら廊下につながるドアの鍵を掛ける。
そして保険としてそこにあった少し重いチェストを扉の前に置き、廊下側から開けにくくする。
「くっそ、びちゃびちゃじゃねえか」
朧は濡れてしまった上の服を脱いで、暖房をつけて暖房の近くで上の服を乾かし始めた。
「――おい、坊ちゃんも服濡れて気持ち悪いだろ? 脱いで乾かせ、風邪をひかれたら困る」
「あっ、……はい。」
朧に雨で濡れてしまった上の服を脱いで乾かすように促され七歩は慌てて上の服を脱いで、暖房の近くで服を乾かす。
「細いな……お前、ちゃんと食ってるのか?」
朧は華奢で細身な七歩の身体を見て、ちゃんと食事を摂っているか聞いた。
「食べてもこれなんですよ、悪かったですね……」
「そりゃ失礼……」
七歩は朧の言い方にむっととして毎日三食食べてもこの体系だと話すと、逆に怒らせてしまったかと思い朧は言い方が悪かったと一応謝る。
――ふらっ
「――あっ」
「おっと……」
七歩はふらついて、その場で膝が付きそうになったのを朧は慌てて受け止める。
「やっぱ疲れてるんじゃねえか……ベッドあるし、少し寝ろ。」
朧は七歩をお姫様抱っこの状態で担ぎ上げ、ベッドに向かう。
「――えっ!? ちょっと……!」
七歩は顔を赤くして降ろしてもらうよう言うが……、
「ふらふらな状態で行かれる方がもっと迷惑だっつの……。遠慮しないで休め、俺もちょっと休む」
そう言って朧はかけ布団を払い、七歩をベッドに寝かせ同じベッドに上がり込んでくる。
「――えぇっ!? 一緒のベッドで……?」
「一緒にくっついていた方が体温まりやすくて効率良いだろうが。」
七歩は驚いて思わず声を上げてしまった、そう言って朧はかけ布団を七歩と自分に覆い被せると七歩の元に近寄ってくる。七歩は恥ずかしくなって距離を置こうとすると……、
「一回俺の裸を見てるだろうが、こっち来ねえと怒るぞ」
軽い応急手当てをした時に七歩が一度朧の裸を見ていることを朧は指摘し、肌をくっつける距離に来なければ怒ると言うと……、
「……」
七歩は恐る恐る朧の方に寄ってくる。
「よーし、いい子だ……」
朧はそう言って七歩を自分の胸の方に近づける……。
「あったかい……」
先程肌寒い思いをしていたはずなのに、朧の温もりに触れて七歩はそう呟く。
「――だろ?」
朧はこうして肌をくっつけ合わせた方が暖かいと言った自分の言った通りだろうと、したり顔をする七歩は体が温まってきてその暖かさにうとうとし始める。
「小夜人にマジで似てやがるな、こいつ……」
眠りについた七歩の寝顔を見て、自分のかつての大切な人だった“小夜人”に似ていると呟く。
そして目を閉じて昔の記憶を思い出していた……。
・・・
――今から十七年前。
朧はわずか八歳で母を失った後、母の愛人でもあった狼月会(ろうげつかい)の会長である父に引き取られた……。
「会長……月世さんの息子さんっス」
ヤクザ達が集うこの狼月会の最高幹部の一人と思わしき男が自分を迎えに来て、狼月会の屋敷にいた狼月会会長である朧の父親に朧を連れてきたことを報告する。
「……おう、ご苦労だった」
幼なかった朧は父と言えど極道の人間だ、父の姿が恐ろしく思えた。
狼月会、朧が住んでいる場所を拠点にヤクザ達を仕切っている朧が住む地域のヤクザ達の頂点である。仮にも色んな組を仕切る首領なのだ、そんな父が怖くないはずがなかった……。
「朧ぉ、今からお前は俺の元で暮らすことになる……。手取り足取りこの組の事教えてやっから正式に俺の息子になったからにはそれなりの覚悟を決めろ」
そう父は朧の頭を撫でて、これから跡を継ぐことになる朧にそう言った。
朧の母はΩで、番としてαだった実父と関係を持っていた……。
だが父は“極道の人間”……この二人の関係を母方の祖父母は許さず、引き放すためにβだった義父と結婚させた。
――だが、番である朧の実父と無理矢理引き放された朧の母はその影響で精神を正常に保っていられず精神病を患った。
引きはがされた時はもう朧の母は朧を身ごもっており、無理矢理堕胎させる真似をすれば精神にますます負担がかかり早死にさせることになると医者が極道を毛嫌いする祖父母に忠告したため、朧はこの世に生まれることとなった。
血のつながらないβの義父は祖父母と同じく極道を毛嫌いする人間で、もちろん朧のことを嫌っていた為、母が死んだ後も朧を引き取りたがらなかった。
もちろん朧の祖父母も朧を毛嫌い、朧は実父である狼月会の跡取りとして引き取られることとなったのだった。
内心不安だった、これから自分はヤクザの子として生きることとなるのだ……。
自分への世間の風当たりは強くなるだろう、学校関係者だけでなく近所でも……そう考えると朧は実父とともに暮らすことを素直に喜べないでいた。
――それに問題はそれだけじゃない……。
「あらアンタ、“この子”かい?」
「あぁ、……そうだ」
すると、自分の考えを察していたように義理の母が自分の前に姿を現した。
義理の母となる人は父の番である女の息子なのだから、いい印象は持っていないだろうと思った。
義理の母と上手くやって行けるか、いけなかったら、気に入られなかったらぎすぎすした関係を過ごしていかなければならないのだろうと、子供といえど朧でもそれは感じていたため不安要素はたくさんあった。
「姐さん……」
朧を狼月会本部に連れてきた狼月会の幹部の男は、心配そうに義理の母を呼ぶ。
ただ何を言われるか、義理の母となる人をじっと見ることしかできなかった。
「お前さん鋭い目をしてるね……、だがアタシに言わせれば主人に比べりゃまだ仔犬だね」
朧の眼を見て義理の母は実父と同じ眼を持っているが、まだ子供と言うこともあって迫力に欠けると評した。
「たくさん嫌な目にあったって感じだね、でもその目付き……嫌いじゃないよ」
(え……!?)
義理の母に当たる女は朧の目付きを見て、決して嫌いな目ではないと評してくれたため朧は少し戸惑う。
「いいかい、アンタはこれからアタシの息子でもある……。何でもいいな! アンタが両親に甘えられなかった分アタシがちゃんと面倒を見て甘やかしてやる! 子供の内は遠慮せずに甘えな、特にアタシの前ではね……!」
――義理の母は自分を嫌わないでいてくれるのだろうか……、仮にも父の番だった女性の子であるのに?
そんな自分に歩み寄ってくれた義理の母に戸惑いを隠せずにいるものの、朧の眼から自然と涙が零れ落ちる……。
「朧……妻は、陽美子はな。お前の事は前の家でどんな扱いされていたか知ったうえで息子として受け入れてくれるって、言ってくれているんだ。だから……、陽美子の前では素直になんな」
そして実父である狼月会会長は、自分たちの前では子供らしくしていいと促したのだった。
「それに、俺のせいでお前のお母さん……月世にもお前にも迷惑かけてしまった。謝っても許してもらえるとは思ってねえ。だが……、家族らしいことはさせてくれねえか?」
「――!?」
実父が謝ってきたことにも驚きを隠せないでいたが、先程恐ろしいと思っていた実父が義母の自分を身内として受け入れてくれるという言葉の効力かさっきと違って恐ろしく見えなくなった……。
自分のせいで母・月世を死に追いやってしまったことや朧につらい思いをさせてしまったことを詫び、そのお詫びとして家族らしいことをさせて欲しいと実父は願い出た。
コクコク……
朧は返事の代わりに必死に頷いた――。
「朧……もうアンタはアタシ達の家族だよ!」
義理の母は自分を受け入れてくれた、義母の懐の深さには一層感謝せざる負えなかった。
精神病を患ったこともあって母に甘えることは許されなかった、祖父母と義父はもちろん甘えることも許してくれなかったし、自分を嫌っていた人間にそんなこと出来もしなかった。朧はそんな凍えきった環境で育って来た。
極道だとかはもうどうでもよくて温かく迎えてくれる義母と実父の優しさに触れて初めて人の温かさを知った朧は、極道の身内として生きていく覚悟を今度こそ決めることが出来たのだ。
――そして、朧は転校生として公立の小学校に通学した。
案の定というのか、教師たちの眼は担任も含め腫物扱いするような目だった。
にこやかに接しているけど、“極道の息子”だからとへつらっているのは子供の朧でも分かった。
教師たちの態度はきっとこの態度は表面だけで、裏では自分には心労になるから学校に来てほしくないって思っていると朧でも分かった。
クラスメイトも親に言われたのか、自分に距離を置いているのは丸わかりだった……。
休みの時間は本を読みふけってクラスメイトと遊べない時間を紛らわしていた。
――そんな時だった、“彼”に出会ったのは……。
「狼谷朧君だっけ? ……下の朧って朧月の朧でしょ? お父さんから聞いた。すごいね……名前だけで月に吠える狼って感じ」
一人のクラスメイトの少年が朧に声を掛けてきたのだった。
――ざわっ!
教室にいたクラスメイトが極道の息子である自分に声を掛けた少年の行動を見て、もちろんざわついた。
「あのさ……俺の家の事、知らないわけじゃないんでしょ?」
何で極道の息子である自分に声を掛けてきたのかわからず、少年に声を掛けた意図を朧は聞く。
「? なんで……? ぼく、普通に君に興味あるし」
少年はきょとんとして朧に逆に聞いてくる。
「ちょっ、ちょっと……、止めさせた方がいいんじゃないの?」
「でもどうやって……?」
ひそひそ……
クラスの女子が放っておいていいのかと男子に耳打ちをする。
「(ほら、お前変な目で見られてるぞ……?)」
朧は少年に周りの反応を見ながら変な目で見られたくないなら自分に話しかけるなと、小声で忠告する。
――しかし、少年は……
「気にしてないよ? 狼谷君は狼谷君じゃん。」
あっけらかんとして周りの眼は気にしないと朧に伝える。
「何なんだ? お前……」
周りの状況を読めていない天然なのか、何か裏があって話しかけているのか朧は怪しんで少年が何者なのか聞く。
「ぼく……? ぼくは高月小夜人。図書委員してるんだ」
そして小夜人は自分の名前を朧の前で名乗り出る。
――これが、小夜人との出会いだったのだ。
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