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本編
07:毒蛇の狂気を知った狼は子山羊を連れて逃げ…
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――森田を後にした後、二人は地下の探索を続けていた。
「ここ結構広いね……」
地下室は結構部屋数も多く薄暗い雰囲気を保っていた。
「行くぞ……」
地下室の薄暗い雰囲気に押されて、怖気付く七歩に朧は手を引く。
部屋を手当たり次第探したが客室も兼ねているのかベッドや少しの家具がある暗い部屋位だった。
「こんなホテルがあっても絶対泊まりたくない」
「そうだな……」
部屋一室一室の暗さに七歩が感想を呟くと朧はそれに同調してくれた。
そしてある一室にたどり着くと……、
「? ――うひぃっ?!」
吊るされている首を切られたカラスやらネズミの死骸やら飾ってあった。
「ここ、尋常じゃないくらいヤバいな。」
「うん……」
本当ならこんな部屋に入りたくはないが、特効薬があるかもしれないので我慢してはいるしかなかった。
「うえっ、吐きそう……」
カラスの死骸を避けながら七歩達は部屋に入る、血生臭い匂いや腐臭がこもっていて気持ち悪くなる。
朧は腐敗臭が鼻についてしまい、その場でえずく。
「特効薬……あれば良いな。」
七歩はこんな部屋ばかりの地下室に有るのかは謎だが、朧に迷惑を掛けない為にも早く特効薬を探さなければならなかった。
そして、籠を見つけてそれを覗いてみると……
「――ひぃっ!」
今度はネズミの死骸がたくさん入っていてそれに驚愕した七歩は籠から距離を置く。
「いろいろ嫌だ……この地下室」
ネズミの死骸やら白目をむいて死んでいるカラスの死骸を集めている時点で、この部屋を使っている人間はまともではないことはよく分かる。
「こんなの集めて何する気なんだよ、正直引いたわ」
「本当に……」
部屋を使っているのは間違いなく朧が出逢ったと言う白衣を着た男だろう、こんな動物の死骸を集めて何に使うのかは理解できないが……何かしらの箍が外れている人物だと言うのは部屋を見てよく分かる。
――バサササッ!
がぁー、がぁー!
「――?」
何処からかカラスの声が聞こえ、七歩達はあたりを見渡すと籠に閉じ込められているカラスを見つけた。
「……あっ、この子。出たがっているのかな?」
部屋の現状を見るとここにはネズミだけではなく、たくさんの烏の死骸がある。
この部屋で仲間たちがたくさん殺されているのだ、このカラスの心情を考えると逃げたくて仕方ないのは当然と思い、七歩は天井近くにある空気換気用の窓に逃がそうとする。
「おい、敵と勘違いして突かれたらどうするんだよ……」
朧はカラスを籠から出そうとする怪我をするかもしれないと七歩にストップをかけるが……、
「この子も……、僕も……逃げたい気持ちは一緒だから。」
「――っ」
自分は屋敷の主から逃げたい、このカラスはこの部屋を使う人物から逃げたいという気持ちは同じである。
そう言って七歩は朧のストップを振り切り、朧もその言葉に言い返せなくなり七歩を止めるのを止めた。
そして籠を持ち、椅子の背を利用して空気換気用の窓を開けると、鳥籠の扉を開けてあげた。
「……お逃げ。」
七歩はカラスに早く逃げるように発破を掛ける。
カラスは最初戸惑っていたのか、なかなか籠から出なかったものの少しすると……、
バササ……!
雲行きが怪しい空へと飛んで行った。
カァー!
解放されたのが嬉しそうにカラスは鳴き声を上げて飛び去って行った。
「小夜人みてぇな事言いやがるな……こいつ」
朧はカラスを逃がした七歩を見てそう呟いた。
「行こう、朧さん……この部屋特効薬なさそうだし」
七歩はカラスを逃がしたことに満足そうな顔をすると、籠を置いてこの部屋を出ようと言った。
「……そうだな、次行こうぜ」
朧は腐敗臭と血の臭いにもうんざりしていたこともあって七歩の意見に同意する。
――そして部屋を出ようとした時だった……。
「おーやおや、野良犬と若様の番がこんなところで何をやっているんですかねぇ?」
「「――!?」」
後ろの方から声がして七歩と朧は驚いて声のした方を振り向く。
自分たちに声を掛けたのは朧程ではないが背が高く、白衣を着た男で目元には隈が出来ている薄気味悪い雰囲気をまとった人物だった。
いかにも怪しすぎる容姿に七歩は白衣の男から距離を置こうとする。
「……こいつだよ、俺が最初に会った#ネズミの死体集めてたマジキチ。」
「――!?」
警戒する姿勢を見せながら朧は自分が最初にあった男がこの男だと言うことを七歩に教えた。
森田は確か、久保井と言っていた……。
だとしたら久保井は彼で間違いないのだろう。
七歩はそう思いながらも久保井から距離を置こうと一歩一歩引き下がる。
「申し遅れました。私、“久保井義巳”と申します。七歩様……あんまり屋敷をうろつかれるのは感心しませんねぇ。大人しく若様の元に行ってくださいませんか? ここをうろつかれるのも私的にも不快なもので……」
そして久保井は挨拶をすると、屋敷を……特にこの地下室をうろつくような真似をするなと言った後に七歩に大人しく屋敷の主の元に行くように促す。その言葉にむっとした七歩は久保井を睨み返し……、
「屋敷の主さんが何を思っているのか知らないけど、僕はその人と番になると言った覚えはない! ――ここから出て家に戻るの!」
さっきから自分を屋敷の主の番と言うが、七歩は得体のしれない異常な屋敷の主のモノになるつもりはないのに勝手にそう呼ばれるのは不快に思ったため、久保井に反論する。
久保井は七歩の反論を耳にすると……、
「――ふっ、く……あははははっ」
何を思ったのか久保井は七歩の反論を馬鹿にするように笑い始めた。
久保井の反応に反感と不審を感じた七歩は……、
「何が、可笑しいの……!?」
久保井が何故自分の言い分を笑うのか七歩は怒りながら聞く。そして久保井はぴたりと笑うのを止める。
「七歩様ぁ、何を仰られます? ……貴方の帰るべき家は“ここ”じゃありませんか。」
「――はっ!?」
ますます意味の分からない言葉で返され、七歩は眉をひそめる。
「ショックで記憶が飛んでいるんですねぇ? 可哀そうに……あんなことがあればねぇ。でも、それも若様がじきにその心を埋めてくれるでしょう」
「えっ……? 何を言っているの?」
その言い方だと自分の家に何かがあったみたいな言い方だった。
ズキン……
「うっ……!」
すると突然、頭痛がその言葉に反応するかのように襲ってくる。
「? ……おいっ!」
その様子にいち早く気付いた朧は七歩に声を掛ける。
『七歩……大丈夫、おじさんが守ってあげるからな。』
『お前のお父さんの分まで……ちゃんと』
「ゆきお、……おじさん。」
頭に記憶の断片が蘇り、七歩はある人物の名前を呟きながら頭を抱えそこに蹲る。
そして血まみれに倒れる彼の姿が脳裏にフラッシュバックした……。
「――ひっ!」
「おい、落ち着け! しっかりしやがれ……!」
――はっ!
七歩が取り乱す様子に朧は見ていられず、七歩に大声を出して声を掛ける。
――はぁっ、はぁっ
「……っ」
朧が声を掛けてくれたおかげではっと我に返り、七歩は正常に戻れた気がした。
そして七歩は立ち上がり、久保井の方を睨むように見つめる。
――クスッ
「それに、ここから出られるわけないじゃないですか。その首輪をつけてるんだから……」
そして久保井は七歩の首輪の性能を指摘し、この屋敷から逃げられるわけないと嘲笑う。
「――たくっ、言いたいこと言やがって……マジキチ野郎」
「――はっ?」
朧は呆れた声で久保井を罵倒し、七歩を自分の方に寄せると……
「この子の首輪は外してこの屋敷とおさらばするさ、そう言う約束なんだ……。」
朧は久保井に、必ず手掛かりを見つけて七歩の首輪は外すと反論した。
「――はっ、野良犬の虚勢ですかな?」
「てめえのご主人が何考えてるのか分からねえけどよ、こんなもんつけるくらいマジキチってのは分かるぜ。お前も含めてな……」
久保井は朧の言い分を嘲笑すると朧はそれを遮り、七歩の首輪にこんな仕掛けをする主人が異常だと言うのは嫌でも分かるし、久保井も大概以上だと言い……、
「俺はこの子をてめえのご主人にやるつもりも、てめえのクソみてえな研究の実験台になるつもりもねえ。……この子はもう、俺の番だ。主人に会ったらそう言っとけ。」
そして七歩を屋敷の主にもやらないし、このまま捕まって久保井の実験台になるつもりもない。
朧は言い返して七歩はもう約束がある以上、自分の番だと宣言する。
――ぎりっ
「私の崇高な研究をそのような言い方、これだから野良犬は嫌いなんだよ……!」
――ヒュン!
「――ひゃあっ!?」
朧が実験を気が触れた所業と一蹴した言葉の一言一言に久保井は腹を立てたらしく歯軋りをした後、メスと危険な薬物が入っていると思わしき注射器を七歩達の足元にめがけて投げつける。
慌てて七歩達は避けると、注射器もメスも床に刺さっていた。
「――ちっ、あっぶねぇな!」
――ドン!
朧が注射器とメスを投げつけた久保井にそう言い放つと先程拝借した猟銃でお返しの如く久保井の足元に銃弾をお見舞いするものの、久保井は銃弾を避けてはいた。
「なーにが崇高な実験だよ! 動物の死体好き勝手してる奴のどこが崇高だ。ただのマジキチ以外にねぇだろうが!」
朧は自分の行いを崇高な実験と言う久保井に動物の死体を解剖たり薬品を注入して楽しんでいるだけの人間の身勝手な言い訳と論破する。しかし久保井は……、
「あぁああああ――っ!」
「「――!?」」
何を思ったのか突然奇声を上げ始めた、足に当たった手応えはなかったので朧は眉をひそめて七歩とともに久保井を見つめる。
「んだよ? ……今度はヒステリーか?」
「私は間違っていない、間違っていない、間違っていない……!」
朧は眉をひそめつつ、久保井の様子を見つめる。
久保井は訴えるように連呼しながら自分の髪の毛や顔を掻きむしり始める……。
――バリン!
そして久保井は飾ってあった壺を床に投げつけて叩き割る。
「お前らに私の実験の崇高さが分かってたまるか!」
そして今までで一番大きい注射器を取り出すと……、
「あぁ……丁度いい実験台がそこにいるじゃないか」
注射器の針をなぞるように舐め、久保井は朧を見る目を変える。
「もっと研究成果を進めなきゃ、進めなきゃ、進めなきゃ……あははっはははは」
「「――!?」」
そして久保井は何かをぶつぶつ言い始め、そして突発的に高笑いし始める。
「ふふふふふっ、実験が終わったらぶつ切りにしてちゃあんと骨にしてあげるから……これで」
そして捕まえて実験が終わり次第骨にすると久保井は宣言し、瓶に入った何かの液体を取り出す。
「知ってる? これでしか金を溶かせない魔法の水だよ、すごいよね……人にぶっかけたらどうなるかな?」
「――っ」
久保井は狂った目付きで瓶をこれ見よがしに見せ、液体が金を溶かす成分を持っていることを明かす。
その言葉で液体の正体がおそらく“王水”であることを察知する。
「――ちっ、逃げるぞ!」
――ぐいっ!
久保井の狂気を察知した朧は久保井から逃げるために七歩の手を引き、久保井から逃げることにした。
久保井にこれ以上関わったら危険と思った二人は隠れられる場所を探す。
「――何なの、あの人……!?」
「俺が知るか! とにかく逃げるぞ!!」
久保井の狂気を目の当たりにして朧に手を引かれながら七歩も取り乱すしかなかった。
・
・
・
屋敷の主は本を読み耽っていた……。
少年が座っているチェアの傍には森田と会話していたあの青年がおり、青年から七歩の現状を聞いていた。
「ふぅん、そう……七歩が久保井のいる地下室に」
「よろしいのですか? 久保井さんは一度発狂したら止まりませんよ?」
屋敷の主は森田と会話をしていた青年から七歩の現状を知らされ、七歩が今、朧とともに地下室にいることを知る。
青年は七歩の安全確保の為にも久保井を止めないのか聞く。
「もし久保井が七歩に手を出そうとしたら処分すればいい、もしその時が来たら……やってくれる?」
もし七歩を殺そうとすれば久保井を殺せばいいと館の主は平気で提案する、そして青年にその時が来てしまうなら自分の代わりに久保井を殺すことをお願いする。
「……かしこまりました。」
青年は何か言いたげだがそれを飲みこみ、命令を了承する。
「ここ結構広いね……」
地下室は結構部屋数も多く薄暗い雰囲気を保っていた。
「行くぞ……」
地下室の薄暗い雰囲気に押されて、怖気付く七歩に朧は手を引く。
部屋を手当たり次第探したが客室も兼ねているのかベッドや少しの家具がある暗い部屋位だった。
「こんなホテルがあっても絶対泊まりたくない」
「そうだな……」
部屋一室一室の暗さに七歩が感想を呟くと朧はそれに同調してくれた。
そしてある一室にたどり着くと……、
「? ――うひぃっ?!」
吊るされている首を切られたカラスやらネズミの死骸やら飾ってあった。
「ここ、尋常じゃないくらいヤバいな。」
「うん……」
本当ならこんな部屋に入りたくはないが、特効薬があるかもしれないので我慢してはいるしかなかった。
「うえっ、吐きそう……」
カラスの死骸を避けながら七歩達は部屋に入る、血生臭い匂いや腐臭がこもっていて気持ち悪くなる。
朧は腐敗臭が鼻についてしまい、その場でえずく。
「特効薬……あれば良いな。」
七歩はこんな部屋ばかりの地下室に有るのかは謎だが、朧に迷惑を掛けない為にも早く特効薬を探さなければならなかった。
そして、籠を見つけてそれを覗いてみると……
「――ひぃっ!」
今度はネズミの死骸がたくさん入っていてそれに驚愕した七歩は籠から距離を置く。
「いろいろ嫌だ……この地下室」
ネズミの死骸やら白目をむいて死んでいるカラスの死骸を集めている時点で、この部屋を使っている人間はまともではないことはよく分かる。
「こんなの集めて何する気なんだよ、正直引いたわ」
「本当に……」
部屋を使っているのは間違いなく朧が出逢ったと言う白衣を着た男だろう、こんな動物の死骸を集めて何に使うのかは理解できないが……何かしらの箍が外れている人物だと言うのは部屋を見てよく分かる。
――バサササッ!
がぁー、がぁー!
「――?」
何処からかカラスの声が聞こえ、七歩達はあたりを見渡すと籠に閉じ込められているカラスを見つけた。
「……あっ、この子。出たがっているのかな?」
部屋の現状を見るとここにはネズミだけではなく、たくさんの烏の死骸がある。
この部屋で仲間たちがたくさん殺されているのだ、このカラスの心情を考えると逃げたくて仕方ないのは当然と思い、七歩は天井近くにある空気換気用の窓に逃がそうとする。
「おい、敵と勘違いして突かれたらどうするんだよ……」
朧はカラスを籠から出そうとする怪我をするかもしれないと七歩にストップをかけるが……、
「この子も……、僕も……逃げたい気持ちは一緒だから。」
「――っ」
自分は屋敷の主から逃げたい、このカラスはこの部屋を使う人物から逃げたいという気持ちは同じである。
そう言って七歩は朧のストップを振り切り、朧もその言葉に言い返せなくなり七歩を止めるのを止めた。
そして籠を持ち、椅子の背を利用して空気換気用の窓を開けると、鳥籠の扉を開けてあげた。
「……お逃げ。」
七歩はカラスに早く逃げるように発破を掛ける。
カラスは最初戸惑っていたのか、なかなか籠から出なかったものの少しすると……、
バササ……!
雲行きが怪しい空へと飛んで行った。
カァー!
解放されたのが嬉しそうにカラスは鳴き声を上げて飛び去って行った。
「小夜人みてぇな事言いやがるな……こいつ」
朧はカラスを逃がした七歩を見てそう呟いた。
「行こう、朧さん……この部屋特効薬なさそうだし」
七歩はカラスを逃がしたことに満足そうな顔をすると、籠を置いてこの部屋を出ようと言った。
「……そうだな、次行こうぜ」
朧は腐敗臭と血の臭いにもうんざりしていたこともあって七歩の意見に同意する。
――そして部屋を出ようとした時だった……。
「おーやおや、野良犬と若様の番がこんなところで何をやっているんですかねぇ?」
「「――!?」」
後ろの方から声がして七歩と朧は驚いて声のした方を振り向く。
自分たちに声を掛けたのは朧程ではないが背が高く、白衣を着た男で目元には隈が出来ている薄気味悪い雰囲気をまとった人物だった。
いかにも怪しすぎる容姿に七歩は白衣の男から距離を置こうとする。
「……こいつだよ、俺が最初に会った#ネズミの死体集めてたマジキチ。」
「――!?」
警戒する姿勢を見せながら朧は自分が最初にあった男がこの男だと言うことを七歩に教えた。
森田は確か、久保井と言っていた……。
だとしたら久保井は彼で間違いないのだろう。
七歩はそう思いながらも久保井から距離を置こうと一歩一歩引き下がる。
「申し遅れました。私、“久保井義巳”と申します。七歩様……あんまり屋敷をうろつかれるのは感心しませんねぇ。大人しく若様の元に行ってくださいませんか? ここをうろつかれるのも私的にも不快なもので……」
そして久保井は挨拶をすると、屋敷を……特にこの地下室をうろつくような真似をするなと言った後に七歩に大人しく屋敷の主の元に行くように促す。その言葉にむっとした七歩は久保井を睨み返し……、
「屋敷の主さんが何を思っているのか知らないけど、僕はその人と番になると言った覚えはない! ――ここから出て家に戻るの!」
さっきから自分を屋敷の主の番と言うが、七歩は得体のしれない異常な屋敷の主のモノになるつもりはないのに勝手にそう呼ばれるのは不快に思ったため、久保井に反論する。
久保井は七歩の反論を耳にすると……、
「――ふっ、く……あははははっ」
何を思ったのか久保井は七歩の反論を馬鹿にするように笑い始めた。
久保井の反応に反感と不審を感じた七歩は……、
「何が、可笑しいの……!?」
久保井が何故自分の言い分を笑うのか七歩は怒りながら聞く。そして久保井はぴたりと笑うのを止める。
「七歩様ぁ、何を仰られます? ……貴方の帰るべき家は“ここ”じゃありませんか。」
「――はっ!?」
ますます意味の分からない言葉で返され、七歩は眉をひそめる。
「ショックで記憶が飛んでいるんですねぇ? 可哀そうに……あんなことがあればねぇ。でも、それも若様がじきにその心を埋めてくれるでしょう」
「えっ……? 何を言っているの?」
その言い方だと自分の家に何かがあったみたいな言い方だった。
ズキン……
「うっ……!」
すると突然、頭痛がその言葉に反応するかのように襲ってくる。
「? ……おいっ!」
その様子にいち早く気付いた朧は七歩に声を掛ける。
『七歩……大丈夫、おじさんが守ってあげるからな。』
『お前のお父さんの分まで……ちゃんと』
「ゆきお、……おじさん。」
頭に記憶の断片が蘇り、七歩はある人物の名前を呟きながら頭を抱えそこに蹲る。
そして血まみれに倒れる彼の姿が脳裏にフラッシュバックした……。
「――ひっ!」
「おい、落ち着け! しっかりしやがれ……!」
――はっ!
七歩が取り乱す様子に朧は見ていられず、七歩に大声を出して声を掛ける。
――はぁっ、はぁっ
「……っ」
朧が声を掛けてくれたおかげではっと我に返り、七歩は正常に戻れた気がした。
そして七歩は立ち上がり、久保井の方を睨むように見つめる。
――クスッ
「それに、ここから出られるわけないじゃないですか。その首輪をつけてるんだから……」
そして久保井は七歩の首輪の性能を指摘し、この屋敷から逃げられるわけないと嘲笑う。
「――たくっ、言いたいこと言やがって……マジキチ野郎」
「――はっ?」
朧は呆れた声で久保井を罵倒し、七歩を自分の方に寄せると……
「この子の首輪は外してこの屋敷とおさらばするさ、そう言う約束なんだ……。」
朧は久保井に、必ず手掛かりを見つけて七歩の首輪は外すと反論した。
「――はっ、野良犬の虚勢ですかな?」
「てめえのご主人が何考えてるのか分からねえけどよ、こんなもんつけるくらいマジキチってのは分かるぜ。お前も含めてな……」
久保井は朧の言い分を嘲笑すると朧はそれを遮り、七歩の首輪にこんな仕掛けをする主人が異常だと言うのは嫌でも分かるし、久保井も大概以上だと言い……、
「俺はこの子をてめえのご主人にやるつもりも、てめえのクソみてえな研究の実験台になるつもりもねえ。……この子はもう、俺の番だ。主人に会ったらそう言っとけ。」
そして七歩を屋敷の主にもやらないし、このまま捕まって久保井の実験台になるつもりもない。
朧は言い返して七歩はもう約束がある以上、自分の番だと宣言する。
――ぎりっ
「私の崇高な研究をそのような言い方、これだから野良犬は嫌いなんだよ……!」
――ヒュン!
「――ひゃあっ!?」
朧が実験を気が触れた所業と一蹴した言葉の一言一言に久保井は腹を立てたらしく歯軋りをした後、メスと危険な薬物が入っていると思わしき注射器を七歩達の足元にめがけて投げつける。
慌てて七歩達は避けると、注射器もメスも床に刺さっていた。
「――ちっ、あっぶねぇな!」
――ドン!
朧が注射器とメスを投げつけた久保井にそう言い放つと先程拝借した猟銃でお返しの如く久保井の足元に銃弾をお見舞いするものの、久保井は銃弾を避けてはいた。
「なーにが崇高な実験だよ! 動物の死体好き勝手してる奴のどこが崇高だ。ただのマジキチ以外にねぇだろうが!」
朧は自分の行いを崇高な実験と言う久保井に動物の死体を解剖たり薬品を注入して楽しんでいるだけの人間の身勝手な言い訳と論破する。しかし久保井は……、
「あぁああああ――っ!」
「「――!?」」
何を思ったのか突然奇声を上げ始めた、足に当たった手応えはなかったので朧は眉をひそめて七歩とともに久保井を見つめる。
「んだよ? ……今度はヒステリーか?」
「私は間違っていない、間違っていない、間違っていない……!」
朧は眉をひそめつつ、久保井の様子を見つめる。
久保井は訴えるように連呼しながら自分の髪の毛や顔を掻きむしり始める……。
――バリン!
そして久保井は飾ってあった壺を床に投げつけて叩き割る。
「お前らに私の実験の崇高さが分かってたまるか!」
そして今までで一番大きい注射器を取り出すと……、
「あぁ……丁度いい実験台がそこにいるじゃないか」
注射器の針をなぞるように舐め、久保井は朧を見る目を変える。
「もっと研究成果を進めなきゃ、進めなきゃ、進めなきゃ……あははっはははは」
「「――!?」」
そして久保井は何かをぶつぶつ言い始め、そして突発的に高笑いし始める。
「ふふふふふっ、実験が終わったらぶつ切りにしてちゃあんと骨にしてあげるから……これで」
そして捕まえて実験が終わり次第骨にすると久保井は宣言し、瓶に入った何かの液体を取り出す。
「知ってる? これでしか金を溶かせない魔法の水だよ、すごいよね……人にぶっかけたらどうなるかな?」
「――っ」
久保井は狂った目付きで瓶をこれ見よがしに見せ、液体が金を溶かす成分を持っていることを明かす。
その言葉で液体の正体がおそらく“王水”であることを察知する。
「――ちっ、逃げるぞ!」
――ぐいっ!
久保井の狂気を察知した朧は久保井から逃げるために七歩の手を引き、久保井から逃げることにした。
久保井にこれ以上関わったら危険と思った二人は隠れられる場所を探す。
「――何なの、あの人……!?」
「俺が知るか! とにかく逃げるぞ!!」
久保井の狂気を目の当たりにして朧に手を引かれながら七歩も取り乱すしかなかった。
・
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屋敷の主は本を読み耽っていた……。
少年が座っているチェアの傍には森田と会話していたあの青年がおり、青年から七歩の現状を聞いていた。
「ふぅん、そう……七歩が久保井のいる地下室に」
「よろしいのですか? 久保井さんは一度発狂したら止まりませんよ?」
屋敷の主は森田と会話をしていた青年から七歩の現状を知らされ、七歩が今、朧とともに地下室にいることを知る。
青年は七歩の安全確保の為にも久保井を止めないのか聞く。
「もし久保井が七歩に手を出そうとしたら処分すればいい、もしその時が来たら……やってくれる?」
もし七歩を殺そうとすれば久保井を殺せばいいと館の主は平気で提案する、そして青年にその時が来てしまうなら自分の代わりに久保井を殺すことをお願いする。
「……かしこまりました。」
青年は何か言いたげだがそれを飲みこみ、命令を了承する。
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