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本編
06:暴れ馬は猛攻するが、狼の言葉で暴れるのを止めた。
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ワインセラーの下敷きになってしまった森田を見つめつつ、七歩は樽の隙間から出てきて朧の元に行く。
「死んだの……?」
森田は死んでいるのか朧に聞くと朧は……、
「多分、死んでねえだろうな……丈夫そうだからな。ちょっともったいなかったかな」
あのしつこさから見て森田は気絶しているだけでまだ死んでいないだろうと言い、割れてしまった年代物のワインを見て「少しテイスティングしておけばよかった」と朧はぼやく。
「――あはは、さっきの僕と同じようなこと言う」
「うるせーよ」
もったいなさそうに年代物のワインを見つめる朧に、ナイフを突き立てられたぬいぐるみを見て「可哀そう」と呟いた自分と重ねて七歩が失笑すると朧はちょっと顔を赤くして言い返す。
「そういや、さっきは悪かったな?」
「――えっ?」
朧が何に謝っているのか分からず、七歩は疑問符を浮かべる。
「いや、さっき押し倒しちまったろ? ……攻撃避けさせる為とはいえよ。」
先程、敵襲に遭ったという緊急事態だったとはいえ押し倒してしまったことを謝っていることを釈明する。
「あっ……」
――そういえば……。
七歩は先程、森田が襲い掛かって来た時朧に押し倒されたが森田に暴行されかけた時とは違って、嫌悪感も覚えなかった。七歩にはそれが不思議に思えた。
――なんでだろう、朧さんに押し倒された時……嫌な気がしなかった。
あのように覆い被るように押し倒されるとトラウマになっているあの記憶が発動するはずなのに。
屋敷の主から守ってもらえるように朧に庇護を受けているからかもしれないが、朧が相手だとトラウマの記憶が再発しないのが不思議に思えた。森田に覆いかぶさるように拘束されていたベッドに乗っかられた時は、酷く嫌悪を憶えていたのに……。
七歩にはそれが不思議でたまらなかった。
「――いえ、ああしなければ刺されていたかもしれないし……ありがとう。」
七歩はそう心の隅で思いつつも、朧の言葉にお礼を交えてそう答えると……、
「……それならいい、行こうぜ。地下の鍵を探しに」
朧はその答えに安堵し、地下に繋がる鍵を探しに行くことを提案する。
「鍵……ありそうなのは、執事室とかかな?」
「まっ、これだけ広い屋敷なんだ……執事位いるだろ。そいつに出くわしたら厄介だが、執事室にスペアキーぐらいはあるだろ? 貰って行こう」
七歩が目指すなら執事室はどうか薦めると朧はそれに同意し、執事室に向かうことにした。
森田の襲撃を受けたホールまで戻るルートを辿りながら部屋を探していると……、
「――あった、この部屋だ」
漸く目当ての執事室を見つけたのだった。
「……鍵は開いているな」
鍵が開いていることに朧は気付き……、
「――後ろに隠れてろ、もし中に人がいて襲撃受けるかもしれんから俺から離れるな」
「……はい」
朧はワイン貯蔵庫から拝借したアイスピックを手に持ち七歩に自分から離れないよう言いつけ、警戒態勢を整える。朧はそっと執事室の扉を開ける。中は暗くて朧は手探りでスイッチを探して電気をつける、七歩は離れないように朧の背中にくっついていた。
「……今、留守みてぇだな。」
電気をつけても人の気配がないことに朧も七歩も胸を撫で下ろす。
「――あっ、タグ付きの鍵がある」
「ご丁寧に名前書いてくれてうれしいな」
壁に鍵掛けフックがあり、タグ付きの合鍵が大きいリングにつけられて鍵掛けフックにぶら下がっていた。七歩達は部屋の主がいない内に鍵を拝借するとすぐ出ていって地下の階段につながるホールまで戻るのだった。
・・・
一方森田は七歩達がカギを取りに行っている間意識を取り戻し、ワインセラーの下敷きになっていたのをどうにかして身を捩りなんとか隙間を掻い潜って脱出する。
辺りには、落ちた衝撃で割れたワインやガラス瓶が散乱している。おかげで森田の身体には服も切れ、小さい切り傷が幾つもついていた。
「――クソ、あのくそヤクザッ!」
森田は下敷きになって自分の方に崩れ落ちたワインセラーの棚からなんとか抜け出すと、ワインセラーの棚を八つ当たりの如く蹴って朧を詰った。
「……その様子だと不法侵入者に返り討ちに遭ったみたいですね、森田さん」
「――!?」
ワインセラーの棚を退けようと四苦八苦していた時にいつの間にか誰かがいたことに森田は漸く気付き、声を掛けた相手を見る。
「――んだよ、お前かよ」
「執事長がご立腹でしたよ……?」
声を掛けたのは仕事仲間の一人だった、森田は相手が執事長なら不味かったが執事長ではない彼を見て少し胸を撫で下ろしていた。仕事仲間の青年は、執事長が嘘をついて勝手な真似をした森田に腹を立てていたことを青年は森田本人に告げる。
「--ケッ」
「そんな態度取っていていいんですか? 若様に殺されますよ……?」
森田は執事長に勝手な行動がばれたことが知られると、舌打ちをする。
仕事仲間の青年は反省の態度を見せない森田に呆れて、挽回するようなことをしなければ屋敷の主である“若様”に殺されることを忠告する。
「ーー分かってるんだよ、んなこたぁ……! いちいち口出しすんな!」
苛立ちを隠せず森田は怒鳴って仕事仲間の青年に当たり散らす。
「……まぁ、あのΩの少年に勝手な真似をしようとしたことはあれですが、七歩を若様に献上すればお咎めは小さくなるかもしれませんね」
「……」
屋敷の主を差し置いて七歩に手を出そうとしたことは擁護できずとも、もし屋敷の主である若様に七歩を生きたまま若様の元まで連れて来れば若様も機嫌を治して森田を許すかもしれないと青年は提案する。
「つまり許してほしけりゃ、生きたまま連れて来いってか……?」
「若様が言うには、七歩様についているあのヤクザは“好きにしていい”と言っています。」
もし命が惜しければ、七歩を生きたまま屋敷の主の元まで連れてくれくることを条件に処分は無しにしてもいいということか確認すると、青年は補足として朧の方は生かして拷問するも殺すも森田の自由にしていいと報告する。それを聞いた森田はにやりと笑うと……、
「いいぜそれで……、あのヤクザの耳やら指やら切り刻んでやる!!」
森田はマネキンの頭に刺さっていた植木用ハサミを引き抜くと、朧と七歩を捕まえた暁には朧をじわじわ嬲り殺すことを宣言する。
――バン!
そう宣言した後、森田は乱暴にドアを蹴破って七歩達を探すためワイン貯蔵庫から青年を置いて出て行った。青年は何も言わず、ただ走り去っていく森田を見送るだけだった。
・・・
七歩達は地下室に繋がっている階段があるホールまでたどり着いていた。先程、執事室から拝借した地下室につながる扉の鍵を開けると鍵の開いた音が聞こえた。
「――よっしゃ、行くぞ。用心しろよ? あのマッドサイエンティストがいるかもしれねえからな」
「わっ、分かった……」
鍵が開くと朧はガッツポーズをした後、七歩に自分が見かけたネズミの死体を回収していたあの白衣の男が徘徊しているかもしれないので離れないよう言いつけてきて七歩は即答し、朧の後を追っかける。
もし地下室にいてもいなくても遭遇したくはない、何を思ってそんなことするのかわからないがネズミの死体を回収する位の人間ならあの図書室らしき部屋であったさっきの執事といい、普通ではないのだろうから……。
地下室につながる階段は薄暗く、明かりは壁のくぼみに配置するろうそくの火くらいしかなく、ろうそくの火を頼りに降りて行くしかない。
階段を下りてくると漸く地下のホールらしきところに辿り着いた。
しかも、豪勢に天井には大きいシャンデリアがついている。
しかし長いこと使われていないのかシャンデリアも明かりがついておらず、薄暗いことに変わりはなかった。
「あのマッドサイエンティストの塒に相応しい薄暗さじゃねえの」
朧は地下室全体の薄暗さに文句を言いつつも、あの白衣の男に似合う雰囲気だと皮肉る。
「久保井にふさわしいか……? あっははははは! 同意見だな」
「――!?」
――ヒュッ
「――ひぁっ!」
突然ナイフが投げられ、朧は七歩とともに投げられたナイフを避ける。
「――っ」
ナイフが投げられた方を振り向くと森田が立っていた、しかもかなり興奮した状態のようだった。
「……おう、随分早かったじゃねぇの。ワインセラーの棚の下敷きになった気分はどうだった?」
朧は森田の姿を見つけて思ったよりワインセラーの棚の下敷きから脱出したのが早かったことと、下敷きにされた気分はどうだったか挑発するように聞いてみた。
「へっ、へへへへへ……もうどうでもいい、お前さえ殺せりゃな!」
――ヒュッ! ドスドスドス!!
「朧さん……!」
そう言い放った瞬間、森田はまたナイフを数本朧にめがけて投げてくる。
朧は避けるが、七歩は驚いて声を上げて朧を呼ぶ。
「Ωちゃんは殺すなって言われたからよ、見逃してやる……。ただ、αヤクザ! てめえは俺の手でぶっ殺す!!」
森田は、七歩は命令されているので殺さないが朧は殺すと宣言する。
森田は植木ハサミを持ち替えて、振りかざすと朧に突進してくる。
「――チッ」
朧は壁に掛けてあった槍のレプリカを手に取って森田に対抗する。
――ガキン!!
森田がハサミを振り下ろすと、その槍のレプリカで森田の攻撃を受け止める。
朧の後ろは壁である為、逃げ道を塞がれている状態だった。七歩はあの状態でどう朧を助ければいいのかわからなくて焦っている。
「てめぇらαはむかつくんだよ! どいつもこいつもお高く留まりやがって!」
森田は自分を馬鹿にしてきたαの人間たちの言葉を思い出して、それを朧にぶちまけていた。
『βが何でこの学校にいる訳?』
『こんなところ、βのいる所じゃないでしょ。希望校間違えてんじゃないよ』
森田の出身学でもあるβの集う学校、βだからと言って馬鹿にしてきたクラスメイトの連中の嘲笑う声が脳裏に聞こえてくる。
「――うるさい、煩い煩い煩い煩い!!」
森田は独り言を言って勝手に一人で取り乱している。
「――っ」
七歩はその隙を突いて、そこにあったレプリカの杯を森田に投げつける。
――ガン
「……てぇな」
レプリカの杯は森田の頭に直撃し、朧は七歩をぎろりと睨む。
「てめえも俺を馬鹿にするのか!? ――あぁっ!?」
今度は七歩に向かってきた、七歩はどう対処すればいいか何かないか手探りで探す。
朧はすぐさま壁に掛けてあったライフルを見つけてそれを手に取ると……、
「――伏せろ!」
「――っ」
七歩に大声で呼びかける、七歩は急いでその場を避ける。そして……、
――ドォン!
銃弾の音が地下のホール内に響いたのだった。
「――悪く思うな、その子に死なれちゃ困るんだよ。」
「――っ」
銃弾は森田の足に命中し、森田はその場に倒れ込む。七歩はびくびくしつつも、朧の元に行く。
「畜生……いくら足掻いてもαには勝てねえってことなのかよ」
森田は悔しそうに銃弾を撃ち込まれた足を押さえつけながらそう呟く。
「一度でもいいから勝ちたかったな……αによ」
森田は涙を流しながらそう呟いたのだった……。
「……そのしつこさを生かせば、俺以外のα見返せると思うがな」
朧は森田のしつこさはαに引けを取らないと褒め、いつか他のαを見返せると思うと森田に言う。
「――へっ、それで褒めてるつもりかよ」
朧に皮肉な褒められ方をしたのに、どこかまんざらでもない笑みが森田に零れる。
朧は七歩を連れて地下室の探索を再会するのだった、七歩が振り向いてみると森田は戦意喪失したらしく、もう追っかけてくる気配は無かった。
「死んだの……?」
森田は死んでいるのか朧に聞くと朧は……、
「多分、死んでねえだろうな……丈夫そうだからな。ちょっともったいなかったかな」
あのしつこさから見て森田は気絶しているだけでまだ死んでいないだろうと言い、割れてしまった年代物のワインを見て「少しテイスティングしておけばよかった」と朧はぼやく。
「――あはは、さっきの僕と同じようなこと言う」
「うるせーよ」
もったいなさそうに年代物のワインを見つめる朧に、ナイフを突き立てられたぬいぐるみを見て「可哀そう」と呟いた自分と重ねて七歩が失笑すると朧はちょっと顔を赤くして言い返す。
「そういや、さっきは悪かったな?」
「――えっ?」
朧が何に謝っているのか分からず、七歩は疑問符を浮かべる。
「いや、さっき押し倒しちまったろ? ……攻撃避けさせる為とはいえよ。」
先程、敵襲に遭ったという緊急事態だったとはいえ押し倒してしまったことを謝っていることを釈明する。
「あっ……」
――そういえば……。
七歩は先程、森田が襲い掛かって来た時朧に押し倒されたが森田に暴行されかけた時とは違って、嫌悪感も覚えなかった。七歩にはそれが不思議に思えた。
――なんでだろう、朧さんに押し倒された時……嫌な気がしなかった。
あのように覆い被るように押し倒されるとトラウマになっているあの記憶が発動するはずなのに。
屋敷の主から守ってもらえるように朧に庇護を受けているからかもしれないが、朧が相手だとトラウマの記憶が再発しないのが不思議に思えた。森田に覆いかぶさるように拘束されていたベッドに乗っかられた時は、酷く嫌悪を憶えていたのに……。
七歩にはそれが不思議でたまらなかった。
「――いえ、ああしなければ刺されていたかもしれないし……ありがとう。」
七歩はそう心の隅で思いつつも、朧の言葉にお礼を交えてそう答えると……、
「……それならいい、行こうぜ。地下の鍵を探しに」
朧はその答えに安堵し、地下に繋がる鍵を探しに行くことを提案する。
「鍵……ありそうなのは、執事室とかかな?」
「まっ、これだけ広い屋敷なんだ……執事位いるだろ。そいつに出くわしたら厄介だが、執事室にスペアキーぐらいはあるだろ? 貰って行こう」
七歩が目指すなら執事室はどうか薦めると朧はそれに同意し、執事室に向かうことにした。
森田の襲撃を受けたホールまで戻るルートを辿りながら部屋を探していると……、
「――あった、この部屋だ」
漸く目当ての執事室を見つけたのだった。
「……鍵は開いているな」
鍵が開いていることに朧は気付き……、
「――後ろに隠れてろ、もし中に人がいて襲撃受けるかもしれんから俺から離れるな」
「……はい」
朧はワイン貯蔵庫から拝借したアイスピックを手に持ち七歩に自分から離れないよう言いつけ、警戒態勢を整える。朧はそっと執事室の扉を開ける。中は暗くて朧は手探りでスイッチを探して電気をつける、七歩は離れないように朧の背中にくっついていた。
「……今、留守みてぇだな。」
電気をつけても人の気配がないことに朧も七歩も胸を撫で下ろす。
「――あっ、タグ付きの鍵がある」
「ご丁寧に名前書いてくれてうれしいな」
壁に鍵掛けフックがあり、タグ付きの合鍵が大きいリングにつけられて鍵掛けフックにぶら下がっていた。七歩達は部屋の主がいない内に鍵を拝借するとすぐ出ていって地下の階段につながるホールまで戻るのだった。
・・・
一方森田は七歩達がカギを取りに行っている間意識を取り戻し、ワインセラーの下敷きになっていたのをどうにかして身を捩りなんとか隙間を掻い潜って脱出する。
辺りには、落ちた衝撃で割れたワインやガラス瓶が散乱している。おかげで森田の身体には服も切れ、小さい切り傷が幾つもついていた。
「――クソ、あのくそヤクザッ!」
森田は下敷きになって自分の方に崩れ落ちたワインセラーの棚からなんとか抜け出すと、ワインセラーの棚を八つ当たりの如く蹴って朧を詰った。
「……その様子だと不法侵入者に返り討ちに遭ったみたいですね、森田さん」
「――!?」
ワインセラーの棚を退けようと四苦八苦していた時にいつの間にか誰かがいたことに森田は漸く気付き、声を掛けた相手を見る。
「――んだよ、お前かよ」
「執事長がご立腹でしたよ……?」
声を掛けたのは仕事仲間の一人だった、森田は相手が執事長なら不味かったが執事長ではない彼を見て少し胸を撫で下ろしていた。仕事仲間の青年は、執事長が嘘をついて勝手な真似をした森田に腹を立てていたことを青年は森田本人に告げる。
「--ケッ」
「そんな態度取っていていいんですか? 若様に殺されますよ……?」
森田は執事長に勝手な行動がばれたことが知られると、舌打ちをする。
仕事仲間の青年は反省の態度を見せない森田に呆れて、挽回するようなことをしなければ屋敷の主である“若様”に殺されることを忠告する。
「ーー分かってるんだよ、んなこたぁ……! いちいち口出しすんな!」
苛立ちを隠せず森田は怒鳴って仕事仲間の青年に当たり散らす。
「……まぁ、あのΩの少年に勝手な真似をしようとしたことはあれですが、七歩を若様に献上すればお咎めは小さくなるかもしれませんね」
「……」
屋敷の主を差し置いて七歩に手を出そうとしたことは擁護できずとも、もし屋敷の主である若様に七歩を生きたまま若様の元まで連れて来れば若様も機嫌を治して森田を許すかもしれないと青年は提案する。
「つまり許してほしけりゃ、生きたまま連れて来いってか……?」
「若様が言うには、七歩様についているあのヤクザは“好きにしていい”と言っています。」
もし命が惜しければ、七歩を生きたまま屋敷の主の元まで連れてくれくることを条件に処分は無しにしてもいいということか確認すると、青年は補足として朧の方は生かして拷問するも殺すも森田の自由にしていいと報告する。それを聞いた森田はにやりと笑うと……、
「いいぜそれで……、あのヤクザの耳やら指やら切り刻んでやる!!」
森田はマネキンの頭に刺さっていた植木用ハサミを引き抜くと、朧と七歩を捕まえた暁には朧をじわじわ嬲り殺すことを宣言する。
――バン!
そう宣言した後、森田は乱暴にドアを蹴破って七歩達を探すためワイン貯蔵庫から青年を置いて出て行った。青年は何も言わず、ただ走り去っていく森田を見送るだけだった。
・・・
七歩達は地下室に繋がっている階段があるホールまでたどり着いていた。先程、執事室から拝借した地下室につながる扉の鍵を開けると鍵の開いた音が聞こえた。
「――よっしゃ、行くぞ。用心しろよ? あのマッドサイエンティストがいるかもしれねえからな」
「わっ、分かった……」
鍵が開くと朧はガッツポーズをした後、七歩に自分が見かけたネズミの死体を回収していたあの白衣の男が徘徊しているかもしれないので離れないよう言いつけてきて七歩は即答し、朧の後を追っかける。
もし地下室にいてもいなくても遭遇したくはない、何を思ってそんなことするのかわからないがネズミの死体を回収する位の人間ならあの図書室らしき部屋であったさっきの執事といい、普通ではないのだろうから……。
地下室につながる階段は薄暗く、明かりは壁のくぼみに配置するろうそくの火くらいしかなく、ろうそくの火を頼りに降りて行くしかない。
階段を下りてくると漸く地下のホールらしきところに辿り着いた。
しかも、豪勢に天井には大きいシャンデリアがついている。
しかし長いこと使われていないのかシャンデリアも明かりがついておらず、薄暗いことに変わりはなかった。
「あのマッドサイエンティストの塒に相応しい薄暗さじゃねえの」
朧は地下室全体の薄暗さに文句を言いつつも、あの白衣の男に似合う雰囲気だと皮肉る。
「久保井にふさわしいか……? あっははははは! 同意見だな」
「――!?」
――ヒュッ
「――ひぁっ!」
突然ナイフが投げられ、朧は七歩とともに投げられたナイフを避ける。
「――っ」
ナイフが投げられた方を振り向くと森田が立っていた、しかもかなり興奮した状態のようだった。
「……おう、随分早かったじゃねぇの。ワインセラーの棚の下敷きになった気分はどうだった?」
朧は森田の姿を見つけて思ったよりワインセラーの棚の下敷きから脱出したのが早かったことと、下敷きにされた気分はどうだったか挑発するように聞いてみた。
「へっ、へへへへへ……もうどうでもいい、お前さえ殺せりゃな!」
――ヒュッ! ドスドスドス!!
「朧さん……!」
そう言い放った瞬間、森田はまたナイフを数本朧にめがけて投げてくる。
朧は避けるが、七歩は驚いて声を上げて朧を呼ぶ。
「Ωちゃんは殺すなって言われたからよ、見逃してやる……。ただ、αヤクザ! てめえは俺の手でぶっ殺す!!」
森田は、七歩は命令されているので殺さないが朧は殺すと宣言する。
森田は植木ハサミを持ち替えて、振りかざすと朧に突進してくる。
「――チッ」
朧は壁に掛けてあった槍のレプリカを手に取って森田に対抗する。
――ガキン!!
森田がハサミを振り下ろすと、その槍のレプリカで森田の攻撃を受け止める。
朧の後ろは壁である為、逃げ道を塞がれている状態だった。七歩はあの状態でどう朧を助ければいいのかわからなくて焦っている。
「てめぇらαはむかつくんだよ! どいつもこいつもお高く留まりやがって!」
森田は自分を馬鹿にしてきたαの人間たちの言葉を思い出して、それを朧にぶちまけていた。
『βが何でこの学校にいる訳?』
『こんなところ、βのいる所じゃないでしょ。希望校間違えてんじゃないよ』
森田の出身学でもあるβの集う学校、βだからと言って馬鹿にしてきたクラスメイトの連中の嘲笑う声が脳裏に聞こえてくる。
「――うるさい、煩い煩い煩い煩い!!」
森田は独り言を言って勝手に一人で取り乱している。
「――っ」
七歩はその隙を突いて、そこにあったレプリカの杯を森田に投げつける。
――ガン
「……てぇな」
レプリカの杯は森田の頭に直撃し、朧は七歩をぎろりと睨む。
「てめえも俺を馬鹿にするのか!? ――あぁっ!?」
今度は七歩に向かってきた、七歩はどう対処すればいいか何かないか手探りで探す。
朧はすぐさま壁に掛けてあったライフルを見つけてそれを手に取ると……、
「――伏せろ!」
「――っ」
七歩に大声で呼びかける、七歩は急いでその場を避ける。そして……、
――ドォン!
銃弾の音が地下のホール内に響いたのだった。
「――悪く思うな、その子に死なれちゃ困るんだよ。」
「――っ」
銃弾は森田の足に命中し、森田はその場に倒れ込む。七歩はびくびくしつつも、朧の元に行く。
「畜生……いくら足掻いてもαには勝てねえってことなのかよ」
森田は悔しそうに銃弾を撃ち込まれた足を押さえつけながらそう呟く。
「一度でもいいから勝ちたかったな……αによ」
森田は涙を流しながらそう呟いたのだった……。
「……そのしつこさを生かせば、俺以外のα見返せると思うがな」
朧は森田のしつこさはαに引けを取らないと褒め、いつか他のαを見返せると思うと森田に言う。
「――へっ、それで褒めてるつもりかよ」
朧に皮肉な褒められ方をしたのに、どこかまんざらでもない笑みが森田に零れる。
朧は七歩を連れて地下室の探索を再会するのだった、七歩が振り向いてみると森田は戦意喪失したらしく、もう追っかけてくる気配は無かった。
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イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
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