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本編
01:目を覚ました先に…
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――カチカチカチ……
「ん? ……あっ」
時計が秒数を数える音が鳴る中、少年は一人、目を覚ました。
「――あっ、れ? ここは……?」
少年があたりを見渡す。
見渡すと目にしたことない家具や小物ばかりで、明らかの自分の部屋ではないことぐらいは少年にも分かった。
「あれ……、僕は、どうしてここに?」
何故自分がこんなところにいるのか全く思い出せずにいた……。
「……!」
そして自分が裸にされていることに気付いた。
「? ……これって」
ベッドから離れると自分の足元に学生証があることが気付き、少年は学生証を開く。
「……名前、名前、山羊内七歩」
名前を調べると“山羊内七歩”と書かれた学生証だった。
少年は学生証に書かれていた名前を見て……、
「そうだ、これ……僕の名前だ」
漸く自分の名前をちゃんと思い出せた。
「そうだ……僕は七歩」
《そうだよ、ようやく目が覚めたんだね?》
「――!?」
この部屋のどこかにスピーカーが内蔵されているのか、機械音とともに声が流れた。
《七歩、待ってたよ……》
声の主は七歩が起き上がるのを楽しみにしていたことを話す。
七歩にも分かった、この男こそ自分を拉致した張本人だと言うことを……。
《丸いテーブルがあるだろ? そこに首輪があるだろ……それを嵌めるんだ。》
声の主は何を思ったのか、七歩に首輪を嵌めろと命令する。
「何でそんなことしなきゃいけないの?」
七歩は少しむっとして声の主に意見する。
《学生証を見なかったのかい? 君はΩなんだよ……。》
「Ω……?」
声の主の言っていることが分からず、確認するために学生証を開く。
すると性別の横にα 、 β、そしてΩと書かれており自分の学生証にはΩに丸が囲ってある。
《Ωには“発情期”があるって学ばなかったかい? 首輪をしていないと見知らぬ誰かの“番”にされちゃうよ……だから嵌めるんだ、じゃないと君に群がる虫どもに手籠めにされるよ?》
半ば脅しで声の主はΩに発情期がある事や首輪をしていないとΩにとっては危ない目に遭って下手すれば取り返しがつかないことを説明する。
記憶はあいまいなものの、確かに言われればそんなことを学んだ気がすると七歩は思った。
男が何を考えているのか分からないが襲われないでその“番”にされないためには声の主の要求通りに嵌めた方がいいのだろう……。
七歩は少し躊躇しつつも、首輪を手に取る。
「…………」
《さぁ、その首輪を嵌めて?》
声の主は首輪を嵌めることに躊躇していると声の主は早く嵌めるように急かしてくる。
自分が声の主の所有物扱いされているみたいで本当は嫌だが、嵌めていない方が危険と言われれば仕方ないと思い……、
ーーカチッ
首輪をようやく嵌めたのだった。
《そうそう……いい子だね、可愛いね七歩。》
自分が嵌めるように命令した首輪を七歩が嵌めたことに満足した声の主は、嬉しそうに褒める。
「いつまで……嵌めれば、いいの?」
この不愉快な首輪をいつまで嵌めればいいのか七歩は聞いた。
《そうだねぇ……、君が僕のところまでこられたら。》
声の主は首輪の鍵は自分が握っていることを七歩に話し、外してほしければ自分のところまで来るように言う。
「わかった……」
《それより、服を着た方がいいと思うんだけどなぁ?
裸体のまま行くなんて僕を誘ってるの?》
声の主は冗談交じりで七歩に服を着るように命令する。
「――!?」
――かぁ!
七歩は慌ててベッドに有るシーツを引っ張り出してバスタオルのように自分の体に巻く。
拉致して監禁して、しかも監視カメラを回しているなんて自分を拉致した張本人は相当異常だということは言われなくても分かった。
「……着るから見ないで」
拉致した声の主に嫌悪を覚える、せめて着替え中は裸体の自分を見ないで欲しいとお願いしてみる。
《クスクスクスクス……自分の身体を見られたくないの? 可愛いねぇ、じゃあお願い通り見ないであげるから着替えてどうぞ?》
声の主は牽制する七歩の様子を笑うが、まだこれくらいのお願いは聞いてくれるようだ。
「服は……?」
《ドレッサーの中にちゃんとあるよ》
七歩は服の居場所はどこなのか聞くと声の主はドレッサーの中に有ることを教えてくれた。
そう言われてドレッサーを開けると服がちゃんと丁寧にハンガーで掛けてあり、服のすぐ下には下着があった。
「……」
七歩は怪しみながらもドレッサーの中に入っていた服に着替える。
《もういいかい?》
声の主は着替え終わったか七歩に聞いてくる。
「……うん。」
七歩は声の主の質問に正直に答えると声の主は……、
《クスクス……やっぱり可愛いね七歩、最高だ。その服は特注で作らせたんだ、君に似合うと思ってね》
声の主は七歩が着替えた服を目にしたらしく、同時に七歩の今着ている服は声の主が専門の者に特注して作らせたことを明かした。
「――っ」
《そんな風に睨まないでくれよ、ちゃんと着替えている間は画像から目を背けていたよ?》
隠しカメラの居場所は分からないものの七歩は警戒し、着替えの最中はちゃんと見ていなかったと声の主は言う。
カチャン……
「――!?」
――すると急にドアの開く音が聞こえた。
《外してほしかったら僕のところまでおいで? 七歩……首を長くして待っているからね?》
男が何を考えているのか七歩にも分からなかった……。
ゲームを楽しむようにわざわざ自分を部屋の外に出すなんて。
《さぁ……早くおいで、僕の運命の人》
――カチャ
声の主はそう言い放つと電源を切ったような音が後から聞こえた。
取りあえずここから出なければならないと七歩は思った……。
声の主は間違いなく普通ではない、これ以上この場にいるのも声の主に会うのも危険なことに変わりはないと七歩は直感する。
「……」
警戒しながらも七歩は自分が監禁されていた部屋のドアを開ける。
廊下を見渡すとかなり長かった、どこかの御屋敷のようだ。
お金持ちの異常で勝手な娯楽に付き合わされているのかそこはまだわからない、だが逃げなければ……間違いなくあの声の主の言動からしてあの声の主は自分をモノにしたいのだと言うことははっきりわかる。
逃げなければ自分はあの声の主の慰み者にされるか、気が触れそうな空間で一生飼い殺しな気がしてならない。七歩は取りあえず屋敷の中を探索することにした。
「……」
七歩は何か違和感を覚える、これぐらい大きい屋敷があれば使用人が何人か見かけてもおかしくないはずなのに長い長い廊下を歩いて行っても使用人が今のところ誰も見かけないのだ。
ふつうこんなに大きいお屋敷なら使用人を何人か見かけてもいいくらいなのだが長い廊下を歩いて行っても今のところ誰ひとり使用人らしき人物が見当たらなかった。
長い廊下を歩いて行ってT字路まで着いた時だった……。
カツカツカツカツ……
左側の方から靴音が聞こえてきた、七歩は身をひそめてじっくり歩いてくる人物の正体を見る。
「――、……だろ、ホント! 畜生、あの男め!」
「……?」
歩いている人物の正体は見知らぬ使用人らしき男だったが不機嫌そうに何かぶつぶつ言っている。
何をそんなに苛立っているのか気になって七歩は耳を澄ました。
「思いっきり殴りやがって……!」
使用人の一人と思わしき男はよく見るとかなり大きい植木ばさみを引きずりながら何か一人ぶちぶちと文句を垂れている。
それを見る限り廊下を歩いている男は庭の植木の管理か何かやっている使用人なのだろう。
「あれでαとはな、世も末だろ。」
(ア、ルファ……?)
廊下を歩いている男が言っていたαという単語が気になった……。
おそらく声の主はこの屋敷の主だろう、もしかして声の主は愚痴っている男が気に入らないことをして殴ったのだろうか?
そう思った七歩は続きにじっくり耳を澄ました。
「――フン、でもあれで久保井の実験体にされるのも時間の問題だろ、ざまぁみろってんだ」
使用人と思わしき男は歩みを止めて自分が歩いて行った方向を振り返ると誰かをせせら笑うような発言をする。
「……!?」
そして実験体という言葉、おそらくこれは声の主に対しての愚痴ではなく自分以外の別の誰かが捕えられている証拠だと七歩は分かった。
そして男はまた廊下を歩み始め、その方向は七歩のいる方向だった。
(――不味い、どこかに隠れないと!)
言動からして声の主に絶対忠実とは思えないが仮にもこの屋敷の使用人だ、自分を見つけたら声の主のいるところに自分を差し出すかもしれない……。
七歩は慌ててすぐ近くに有った部屋に飛び込むように隠れる。
ギュッ……!
(お願い、ばれないで……!)
どうか自分に気付いていないでほしいと願って七歩は目を瞑る。
そう思いながら耳を澄ますと……、
カツカツカツカツ……
靴音が遠くなっていく、男が行ったことを知らせる靴音が聞こえるとホッと胸を撫で下ろすのだった。
そして入った部屋を改まってみるとそこは図書館のような場所で本棚がずらりと並んでいた。
「……」
せっかくなので何か手がかりになりそうな本はないかと七歩は本を探り始める。
そしてある本が七歩の目に止まった……。
「? ……『“性的階級”と“番”について』?」
(この本……なにか引っ掛かる。)
先程声の主が言っていたことと関係がありそうな本だった、もしかしたら男が自分を連れてきた理由が記されているかもしれない……七歩は試しにその本を開いたのだった。
そして本の中身を読み始める……。
その本は付箋がしてあり、付箋がしてある所は重要らしいにおいがしたため付箋が貼ってあるページを読むことにした。
〈ーー“性”には男女のほかに3種類の姓があることが発見された。
α…リーダー+エリート基質。個人差はあれどカリスマ性に富んでいる為、社会から優遇されやすい。
β…一般人。能力・知能共に平凡。
Ω…知能・能力はβより劣り両性具有である為、男性でも妊娠可能の身体を持つ。3ヶ月に一回の発情期がある。
これを学者たちは総じて“性的階級”と名付けたのだった。〉
第一の付箋が貼られているページにはこう書かれていた。
(α……さっきの人が言っていたのってこの事?)
七歩は読み進めば自分が攫われるまでの記憶がよみがえるかもしれないと思い、読み進める。
〈人はこのことにより生まれながらにして序列があることが発見された、これを学者たちは“性的身分《セクシュアル・》制度”と名付ける。〉
(嫌な単語……)
七歩は“性的身分制度”という言葉を知るなり不愉快に思えた。
(あれ……、もう一つ付箋がある?)
〈しかし近年、優遇されるαには新しく危険性を帯びた重症な短所が一部のαに見られることが発見されたのだ。〉
「αに重症な短所……?」
意味深な文章に首をかしげ、取りあえず先を読み進もうとした時だった……。
「――何をなさっているんですか?」
「――!?」
いつの間にか背後に何者かが立っていて七歩は驚いて振り返って自分の後ろに立っていた人物から距離を取る。
七歩の後ろに立っていた男は執事らしい風貌をした男だった……。
「ん? ……あっ」
時計が秒数を数える音が鳴る中、少年は一人、目を覚ました。
「――あっ、れ? ここは……?」
少年があたりを見渡す。
見渡すと目にしたことない家具や小物ばかりで、明らかの自分の部屋ではないことぐらいは少年にも分かった。
「あれ……、僕は、どうしてここに?」
何故自分がこんなところにいるのか全く思い出せずにいた……。
「……!」
そして自分が裸にされていることに気付いた。
「? ……これって」
ベッドから離れると自分の足元に学生証があることが気付き、少年は学生証を開く。
「……名前、名前、山羊内七歩」
名前を調べると“山羊内七歩”と書かれた学生証だった。
少年は学生証に書かれていた名前を見て……、
「そうだ、これ……僕の名前だ」
漸く自分の名前をちゃんと思い出せた。
「そうだ……僕は七歩」
《そうだよ、ようやく目が覚めたんだね?》
「――!?」
この部屋のどこかにスピーカーが内蔵されているのか、機械音とともに声が流れた。
《七歩、待ってたよ……》
声の主は七歩が起き上がるのを楽しみにしていたことを話す。
七歩にも分かった、この男こそ自分を拉致した張本人だと言うことを……。
《丸いテーブルがあるだろ? そこに首輪があるだろ……それを嵌めるんだ。》
声の主は何を思ったのか、七歩に首輪を嵌めろと命令する。
「何でそんなことしなきゃいけないの?」
七歩は少しむっとして声の主に意見する。
《学生証を見なかったのかい? 君はΩなんだよ……。》
「Ω……?」
声の主の言っていることが分からず、確認するために学生証を開く。
すると性別の横にα 、 β、そしてΩと書かれており自分の学生証にはΩに丸が囲ってある。
《Ωには“発情期”があるって学ばなかったかい? 首輪をしていないと見知らぬ誰かの“番”にされちゃうよ……だから嵌めるんだ、じゃないと君に群がる虫どもに手籠めにされるよ?》
半ば脅しで声の主はΩに発情期がある事や首輪をしていないとΩにとっては危ない目に遭って下手すれば取り返しがつかないことを説明する。
記憶はあいまいなものの、確かに言われればそんなことを学んだ気がすると七歩は思った。
男が何を考えているのか分からないが襲われないでその“番”にされないためには声の主の要求通りに嵌めた方がいいのだろう……。
七歩は少し躊躇しつつも、首輪を手に取る。
「…………」
《さぁ、その首輪を嵌めて?》
声の主は首輪を嵌めることに躊躇していると声の主は早く嵌めるように急かしてくる。
自分が声の主の所有物扱いされているみたいで本当は嫌だが、嵌めていない方が危険と言われれば仕方ないと思い……、
ーーカチッ
首輪をようやく嵌めたのだった。
《そうそう……いい子だね、可愛いね七歩。》
自分が嵌めるように命令した首輪を七歩が嵌めたことに満足した声の主は、嬉しそうに褒める。
「いつまで……嵌めれば、いいの?」
この不愉快な首輪をいつまで嵌めればいいのか七歩は聞いた。
《そうだねぇ……、君が僕のところまでこられたら。》
声の主は首輪の鍵は自分が握っていることを七歩に話し、外してほしければ自分のところまで来るように言う。
「わかった……」
《それより、服を着た方がいいと思うんだけどなぁ?
裸体のまま行くなんて僕を誘ってるの?》
声の主は冗談交じりで七歩に服を着るように命令する。
「――!?」
――かぁ!
七歩は慌ててベッドに有るシーツを引っ張り出してバスタオルのように自分の体に巻く。
拉致して監禁して、しかも監視カメラを回しているなんて自分を拉致した張本人は相当異常だということは言われなくても分かった。
「……着るから見ないで」
拉致した声の主に嫌悪を覚える、せめて着替え中は裸体の自分を見ないで欲しいとお願いしてみる。
《クスクスクスクス……自分の身体を見られたくないの? 可愛いねぇ、じゃあお願い通り見ないであげるから着替えてどうぞ?》
声の主は牽制する七歩の様子を笑うが、まだこれくらいのお願いは聞いてくれるようだ。
「服は……?」
《ドレッサーの中にちゃんとあるよ》
七歩は服の居場所はどこなのか聞くと声の主はドレッサーの中に有ることを教えてくれた。
そう言われてドレッサーを開けると服がちゃんと丁寧にハンガーで掛けてあり、服のすぐ下には下着があった。
「……」
七歩は怪しみながらもドレッサーの中に入っていた服に着替える。
《もういいかい?》
声の主は着替え終わったか七歩に聞いてくる。
「……うん。」
七歩は声の主の質問に正直に答えると声の主は……、
《クスクス……やっぱり可愛いね七歩、最高だ。その服は特注で作らせたんだ、君に似合うと思ってね》
声の主は七歩が着替えた服を目にしたらしく、同時に七歩の今着ている服は声の主が専門の者に特注して作らせたことを明かした。
「――っ」
《そんな風に睨まないでくれよ、ちゃんと着替えている間は画像から目を背けていたよ?》
隠しカメラの居場所は分からないものの七歩は警戒し、着替えの最中はちゃんと見ていなかったと声の主は言う。
カチャン……
「――!?」
――すると急にドアの開く音が聞こえた。
《外してほしかったら僕のところまでおいで? 七歩……首を長くして待っているからね?》
男が何を考えているのか七歩にも分からなかった……。
ゲームを楽しむようにわざわざ自分を部屋の外に出すなんて。
《さぁ……早くおいで、僕の運命の人》
――カチャ
声の主はそう言い放つと電源を切ったような音が後から聞こえた。
取りあえずここから出なければならないと七歩は思った……。
声の主は間違いなく普通ではない、これ以上この場にいるのも声の主に会うのも危険なことに変わりはないと七歩は直感する。
「……」
警戒しながらも七歩は自分が監禁されていた部屋のドアを開ける。
廊下を見渡すとかなり長かった、どこかの御屋敷のようだ。
お金持ちの異常で勝手な娯楽に付き合わされているのかそこはまだわからない、だが逃げなければ……間違いなくあの声の主の言動からしてあの声の主は自分をモノにしたいのだと言うことははっきりわかる。
逃げなければ自分はあの声の主の慰み者にされるか、気が触れそうな空間で一生飼い殺しな気がしてならない。七歩は取りあえず屋敷の中を探索することにした。
「……」
七歩は何か違和感を覚える、これぐらい大きい屋敷があれば使用人が何人か見かけてもおかしくないはずなのに長い長い廊下を歩いて行っても使用人が今のところ誰も見かけないのだ。
ふつうこんなに大きいお屋敷なら使用人を何人か見かけてもいいくらいなのだが長い廊下を歩いて行っても今のところ誰ひとり使用人らしき人物が見当たらなかった。
長い廊下を歩いて行ってT字路まで着いた時だった……。
カツカツカツカツ……
左側の方から靴音が聞こえてきた、七歩は身をひそめてじっくり歩いてくる人物の正体を見る。
「――、……だろ、ホント! 畜生、あの男め!」
「……?」
歩いている人物の正体は見知らぬ使用人らしき男だったが不機嫌そうに何かぶつぶつ言っている。
何をそんなに苛立っているのか気になって七歩は耳を澄ました。
「思いっきり殴りやがって……!」
使用人の一人と思わしき男はよく見るとかなり大きい植木ばさみを引きずりながら何か一人ぶちぶちと文句を垂れている。
それを見る限り廊下を歩いている男は庭の植木の管理か何かやっている使用人なのだろう。
「あれでαとはな、世も末だろ。」
(ア、ルファ……?)
廊下を歩いている男が言っていたαという単語が気になった……。
おそらく声の主はこの屋敷の主だろう、もしかして声の主は愚痴っている男が気に入らないことをして殴ったのだろうか?
そう思った七歩は続きにじっくり耳を澄ました。
「――フン、でもあれで久保井の実験体にされるのも時間の問題だろ、ざまぁみろってんだ」
使用人と思わしき男は歩みを止めて自分が歩いて行った方向を振り返ると誰かをせせら笑うような発言をする。
「……!?」
そして実験体という言葉、おそらくこれは声の主に対しての愚痴ではなく自分以外の別の誰かが捕えられている証拠だと七歩は分かった。
そして男はまた廊下を歩み始め、その方向は七歩のいる方向だった。
(――不味い、どこかに隠れないと!)
言動からして声の主に絶対忠実とは思えないが仮にもこの屋敷の使用人だ、自分を見つけたら声の主のいるところに自分を差し出すかもしれない……。
七歩は慌ててすぐ近くに有った部屋に飛び込むように隠れる。
ギュッ……!
(お願い、ばれないで……!)
どうか自分に気付いていないでほしいと願って七歩は目を瞑る。
そう思いながら耳を澄ますと……、
カツカツカツカツ……
靴音が遠くなっていく、男が行ったことを知らせる靴音が聞こえるとホッと胸を撫で下ろすのだった。
そして入った部屋を改まってみるとそこは図書館のような場所で本棚がずらりと並んでいた。
「……」
せっかくなので何か手がかりになりそうな本はないかと七歩は本を探り始める。
そしてある本が七歩の目に止まった……。
「? ……『“性的階級”と“番”について』?」
(この本……なにか引っ掛かる。)
先程声の主が言っていたことと関係がありそうな本だった、もしかしたら男が自分を連れてきた理由が記されているかもしれない……七歩は試しにその本を開いたのだった。
そして本の中身を読み始める……。
その本は付箋がしてあり、付箋がしてある所は重要らしいにおいがしたため付箋が貼ってあるページを読むことにした。
〈ーー“性”には男女のほかに3種類の姓があることが発見された。
α…リーダー+エリート基質。個人差はあれどカリスマ性に富んでいる為、社会から優遇されやすい。
β…一般人。能力・知能共に平凡。
Ω…知能・能力はβより劣り両性具有である為、男性でも妊娠可能の身体を持つ。3ヶ月に一回の発情期がある。
これを学者たちは総じて“性的階級”と名付けたのだった。〉
第一の付箋が貼られているページにはこう書かれていた。
(α……さっきの人が言っていたのってこの事?)
七歩は読み進めば自分が攫われるまでの記憶がよみがえるかもしれないと思い、読み進める。
〈人はこのことにより生まれながらにして序列があることが発見された、これを学者たちは“性的身分《セクシュアル・》制度”と名付ける。〉
(嫌な単語……)
七歩は“性的身分制度”という言葉を知るなり不愉快に思えた。
(あれ……、もう一つ付箋がある?)
〈しかし近年、優遇されるαには新しく危険性を帯びた重症な短所が一部のαに見られることが発見されたのだ。〉
「αに重症な短所……?」
意味深な文章に首をかしげ、取りあえず先を読み進もうとした時だった……。
「――何をなさっているんですか?」
「――!?」
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