20 / 25
決心
しおりを挟む
いつものように開店準備をしているとドアが開く音がした。振り返るとそこには内藤さんがいた。
「よう!久しぶり!」
「……おひさしぶりです」
「元気にしてた?あ、コーヒー頂戴。砂糖とミルクたっぷりでよろしく。あと、デンさん呼んでもらっていいかな?」
コーヒーを出してデンさんを呼ぶ。
「どうした?めずらしいナ。なんかあったのカ?」
「まぁいろいろとね。とりあえずつむぎちゃんと三人で話がしたいんだ」
「わかった」
「それで、どうされたんですか?」
「いや、あのさ。例の話ね。ボクなりに考えてみたんだ。同じタイミングで日本からこの世界に来ているよね。でもこっちでの時間はすっごく離れているわけよ。もしかするとこっちでいくら過ごしても日本の時間はほとんど動いていないんじゃないかって。
ただボクはもう三十年もこっちで過ごしててすっかりおじさんなわけ。でもつむぎちゃんはまだ一年くらいしか経ってない。いま戻れればあっちでの生活にほとんど影響がないんじゃないかって。
もし日本へ戻りたいと考えているなら全てを使って戻る方法を考えようと思っているんだ。わからないよ?向こうも同じように時間がすぎているかもしれない」
「フム。さいきんツムギのようすガおかしかったのはそのせいか」
「うん。相談したかったけどどう話せばいいかわからなくって……ごめんなさい」
「デンさんはボクたちがここにきたこととか何かわかるのかな?」
「うむ。それがナ。ワシにもよくわからないんダ。コノくにのまもりがみナンだけど。スマナイわからない」
「あれから三十年経っているし少しは情報増えるかもしれないから調べてみるのもありかなぁ。まぁボクはもう戻る気はないんだけど。つむぎちゃんはどうなんだい?」
内藤さんの問いかけに黙ってしまう。
ここにきて一年ちょっと。たくさんのお客様に出会ってたくさんの猫さんに出会ってスタッフにも恵まれた。
何不自由していない。
日本は恋しいけど家族とは疎遠だったし親族もほとんど知らない。
戻っても……
「ごめんなさい……。少し時間をください……」
「いいよいいよ。大丈夫。また後日でもいいからさ。考えてまとまったら教えて」
そう言い残し内藤さんは猫エリアへ入っていった。タイミングを見計らったようにナナさんが来る。
「聞いてた?」
「はい。すみません。聞こえてしまいました」
「ううん。お店で話したからね。気を使わせてごめんなさい」
「わたしは紬さんに拾われてとても幸せです。いくら感謝しても足りないです。あのとき私の魔法石の核は壊れていました。紬さんの手当で直りました、壊れる前よりよくなった気がします。元気いっぱいなんですよ。本当にありがとうございます」
そういうとナナさんは猫エリアへ入っていった。
「あの娘なりの気づかいだな。おれは紬お嬢にここに雇ってもらって色々な料理を教えてもらった。これはとんでもない財産だよ。ありがとうな」
シェフのジェフさんはそれだけ言うと厨房へと帰っていった。そのタイミングでお店のドアがバンっと開く。振り返りいらっしゃいませと言う前に背中に衝撃が走る。
「紬お姉様!国へ帰ってしまうのですか!?本当なのですか!?お姉様が帰ってしまったら私は私は……」
ミキちゃんはそこまで言うとポロポロ泣き出した。対応に困ってしまいとりあえず抱きしめるとさらに泣いてしまった。また背中に圧を感じる。ハチくんがくっついてくる。
「オレはイヤだ。ツムギとここにいたい。かえらナイで。ツムギスキだからズットいっしょがイイ」
そう言うとハチくんも泣いてしまった。
お店のドアが開く。
「おはようございます」
「おはようさん」
「おはよう」
ティリさんとヤリさん。マリーさんが一緒に入ってきた。ミキちゃんとハチくんに泣きつかれている光景を目の当たりにして目を丸くする。
「これは一体……?」
ふたりを落ち着かせてから3人になんとなく話を伝えた。国へ帰る可能性があるかもしれないと。
そういうことならしかた無いよなぁと言うティリさんヤリさんに対して
「私は紬とお店、猫たちがいなくなるのは絶対いやよ。それにここの料理は世界中どこの料理より美味しいですもの」
「たしかに美味しいよなー」
「うむ。美味いよな」
「だから紬はここで料理を提供し続けなさいな」
マリーさんは真っ直ぐな気持ちを伝える。
「みんなありがとう。本当に嬉しいよ。ただ帰れるかもしれないってだけで決まったわけじゃないので……」
方法が見つからないかもしれない。たとえ見つかったとしても……。みんなのことを見る。デンさんはなにも言わずこちらを見ている。ナナさんはミキちゃんとハチくんを慰めている。キッチンからは調理の音が聞こえる。東京にはやり残していることは沢山ある。この国での生活には慣れて何不自由ない。それでも……。
決心して猫エリアで猫と戯れている内藤さんに会いに行く。
「あの! 私。決めました」
思いを内藤さんに伝えると
「わかった。ボクもできる限りのことは手伝うよ」
「よう!久しぶり!」
「……おひさしぶりです」
「元気にしてた?あ、コーヒー頂戴。砂糖とミルクたっぷりでよろしく。あと、デンさん呼んでもらっていいかな?」
コーヒーを出してデンさんを呼ぶ。
「どうした?めずらしいナ。なんかあったのカ?」
「まぁいろいろとね。とりあえずつむぎちゃんと三人で話がしたいんだ」
「わかった」
「それで、どうされたんですか?」
「いや、あのさ。例の話ね。ボクなりに考えてみたんだ。同じタイミングで日本からこの世界に来ているよね。でもこっちでの時間はすっごく離れているわけよ。もしかするとこっちでいくら過ごしても日本の時間はほとんど動いていないんじゃないかって。
ただボクはもう三十年もこっちで過ごしててすっかりおじさんなわけ。でもつむぎちゃんはまだ一年くらいしか経ってない。いま戻れればあっちでの生活にほとんど影響がないんじゃないかって。
もし日本へ戻りたいと考えているなら全てを使って戻る方法を考えようと思っているんだ。わからないよ?向こうも同じように時間がすぎているかもしれない」
「フム。さいきんツムギのようすガおかしかったのはそのせいか」
「うん。相談したかったけどどう話せばいいかわからなくって……ごめんなさい」
「デンさんはボクたちがここにきたこととか何かわかるのかな?」
「うむ。それがナ。ワシにもよくわからないんダ。コノくにのまもりがみナンだけど。スマナイわからない」
「あれから三十年経っているし少しは情報増えるかもしれないから調べてみるのもありかなぁ。まぁボクはもう戻る気はないんだけど。つむぎちゃんはどうなんだい?」
内藤さんの問いかけに黙ってしまう。
ここにきて一年ちょっと。たくさんのお客様に出会ってたくさんの猫さんに出会ってスタッフにも恵まれた。
何不自由していない。
日本は恋しいけど家族とは疎遠だったし親族もほとんど知らない。
戻っても……
「ごめんなさい……。少し時間をください……」
「いいよいいよ。大丈夫。また後日でもいいからさ。考えてまとまったら教えて」
そう言い残し内藤さんは猫エリアへ入っていった。タイミングを見計らったようにナナさんが来る。
「聞いてた?」
「はい。すみません。聞こえてしまいました」
「ううん。お店で話したからね。気を使わせてごめんなさい」
「わたしは紬さんに拾われてとても幸せです。いくら感謝しても足りないです。あのとき私の魔法石の核は壊れていました。紬さんの手当で直りました、壊れる前よりよくなった気がします。元気いっぱいなんですよ。本当にありがとうございます」
そういうとナナさんは猫エリアへ入っていった。
「あの娘なりの気づかいだな。おれは紬お嬢にここに雇ってもらって色々な料理を教えてもらった。これはとんでもない財産だよ。ありがとうな」
シェフのジェフさんはそれだけ言うと厨房へと帰っていった。そのタイミングでお店のドアがバンっと開く。振り返りいらっしゃいませと言う前に背中に衝撃が走る。
「紬お姉様!国へ帰ってしまうのですか!?本当なのですか!?お姉様が帰ってしまったら私は私は……」
ミキちゃんはそこまで言うとポロポロ泣き出した。対応に困ってしまいとりあえず抱きしめるとさらに泣いてしまった。また背中に圧を感じる。ハチくんがくっついてくる。
「オレはイヤだ。ツムギとここにいたい。かえらナイで。ツムギスキだからズットいっしょがイイ」
そう言うとハチくんも泣いてしまった。
お店のドアが開く。
「おはようございます」
「おはようさん」
「おはよう」
ティリさんとヤリさん。マリーさんが一緒に入ってきた。ミキちゃんとハチくんに泣きつかれている光景を目の当たりにして目を丸くする。
「これは一体……?」
ふたりを落ち着かせてから3人になんとなく話を伝えた。国へ帰る可能性があるかもしれないと。
そういうことならしかた無いよなぁと言うティリさんヤリさんに対して
「私は紬とお店、猫たちがいなくなるのは絶対いやよ。それにここの料理は世界中どこの料理より美味しいですもの」
「たしかに美味しいよなー」
「うむ。美味いよな」
「だから紬はここで料理を提供し続けなさいな」
マリーさんは真っ直ぐな気持ちを伝える。
「みんなありがとう。本当に嬉しいよ。ただ帰れるかもしれないってだけで決まったわけじゃないので……」
方法が見つからないかもしれない。たとえ見つかったとしても……。みんなのことを見る。デンさんはなにも言わずこちらを見ている。ナナさんはミキちゃんとハチくんを慰めている。キッチンからは調理の音が聞こえる。東京にはやり残していることは沢山ある。この国での生活には慣れて何不自由ない。それでも……。
決心して猫エリアで猫と戯れている内藤さんに会いに行く。
「あの! 私。決めました」
思いを内藤さんに伝えると
「わかった。ボクもできる限りのことは手伝うよ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
黒猫魔女の猫カフェ奮闘記
ススキ荻経
ファンタジー
魔女狩りの時代。猫は魔女の使いとされ、人間たちから酷い迫害を受けていた。
でも――そんな偏見は、猫の可愛さに魅せられれば一発で覆るはず!
これは、黒猫に変身するしか能のない魔女のシルヴェスが、猫カフェを開き、猫嫌いの王国を変えるまでの奮闘記。
逆境に肉球で立ち向かう、もふもふファンタジー!
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
魔双戦記アスガルドディーオ 神々の系譜
蒼井肇
ファンタジー
手に紋章が浮かび上がった。それは魔神イフリートの紋章だった。魔剣イフリートの継承者ファイは魔神剣士として、三大世界構造アスガルドに侵攻してくる魔王アガスラーマとの戦いの日々が仲間たちと始まる。
第三シリーズ始動。闇の王の戦いの末、魔族フォライーが現る。エトワル帝国の皇太子が復活の書というものを持っているのだが。
バトルファンタジー。
主人公ファイ、美剣士ヒョウ、魔法騎士キュラ。天才魔法使いエリュー、
戦いの絵巻は続いていきます。
連載再開です。応援よろしくお願いします。
(更新、滞っていましたが、毎日更新していきます。応援よろしくお願いします。キャラ、物語など気に入ってもらえたら、お気に入りお願いします)お気に入りありがとうございます。
読者様の応援が頼りです。読者様の応援が作者の書く気力にかわります。
第十章スタート! 復活するのか!
更新滞っていましたが、更新していきます。
*表紙キャラ、ファイ。
(ファウストプリンセス、∞インフィニティナイツにもファイ出てます。魔双戦記サイドストーリー)
魔双戦記とリンクしています。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜
ガトー
ファンタジー
まさに社畜!
内海達也(うつみたつや)26歳は
年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに
正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。
夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。
ほんの思いつきで
〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟
を計画するも〝旧友全員〟に断られる。
意地になり、1人寂しく山を登る達也。
しかし、彼は知らなかった。
〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。
>>>
小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。
〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。
修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる