侵食

第8話

　のっぺの車はタバコの臭いがしたが、幾分きれいだった。
私自身もタバコを吸うので、のっぺに了解のもと、タバコを一本吸った。煙を見ていると、妙に落ち着いて行く。

「仕事慣れたか？」

　のっぺは軽い感じで聞いてきた。気を遣わせたくない為だろう。

「はい、みんな優しく教えてくれるので慣れてきました」
「特に俺が優しいだろ？」
「そうですね、あはは」

　建前で笑ったつもりが、のっぺは嬉しかったのだろうか？　少し上機嫌になり、

「オレの言う通りに動いたら、絶対良いから。損させないし評価も上げたる。だから何でも悩みを打ち明ける仲になりたいから、これからも宜しくな」

　宜しくなって何？　私はココロノ中で問うたが、のっぺの言葉に頷くしかなかった。
これを断ったらどうなるんだろうという恐怖や、のっぺの手が迫ってきそうで、思考が働かなかった。
　安泰といえば、その言葉で終わるが、とてもその言葉とは違う安泰の底に見える、
薄暗い影が、私の視界をどんどん覆うような感じでしかなかった。