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プロローグ
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「とても美しいよジゼル……。今度は、右腕を上げて頭の後ろに回して、腰を少しくねらせた感じのポーズを取って」
「……こ、こう、ですか?」
言われたとおり、右手を高く上げ、肘を折って手を頭の後ろに回す格好になる。その上でかすかに足を開き、腰を左に少し突き出すようにすると、目の前で鉛筆を握る彼は「そう! その角度! 最高だよ!」と興奮気味にまくし立てた。
「ああああ、やっぱり生身の女性に着てもらうのは正解だった。新たなアイディアが次々湧き出てくる……あ、もうちょっと腕上げて」
無意識のうちに腕が落ちてきていたようで、ジゼルは慌ててポーズを取る。
しかし……
(いい加減、恥ずかしいんだけど……!)
ポーズだけでも相当いやらしいのだが、今彼女が身に纏っている衣服――正しくは、布面積が極端に少ないランジェリーだが――は、恥じらうジゼルをいっそう色っぽく、いっそう艶やかに演出している。
彼女が身につけているランジェリーは、上下とも淡いピンク色で、そこここにフリルやリボンがあしらわれた可愛らしいものだ。
だが、肩から紐でつるし、背中側で結んで留めるタイプの胸当ては、レースに彩られた布が、乳房の本当に恥ずかしいところ……要するに乳首や乳輪だけしか隠していないのだ! 乳房の膨らみも谷間もほとんど丸見えな上、手を上げると布がずれて今にも乳輪が見えそうになり、本当に気が気ではない。
下も、これまた布が恥丘と割れ目しか隠していない、腰の左右で紐で縛るタイプのショーツだけという姿だ。
身につけているのがこんな心許ない下着のみとあっては……初夏が近づく室内は夜でも暖かく、風邪を引く心配こそないだろうけれど、羞恥のあまり体中が火照って、熱を出して倒れてもおかしくないと本気で思う。
(ああもう、早く終わって……!)
あまりに恥ずかしく、ハラハラしっぱなしの時間だが、目の前に座る青年がスケッチを終えれば、とりあえず解放される。
これまでの経験からそれをわかっているジゼルは、下唇を噛みしめ、真剣なまなざしを注いでくる青年から、少しでも意識を逸らせようとした。
しかし――
「……ジゼル、なんだか上の空だね。なにを考えているの?」
少し低い声で青年に指摘され、ジゼルはビクッと肩を揺らした。
「え、えっ? な、なにをと言われましても――」
「ちゃんとこっちを見てほしいな。僕を見て。そして、もっと誘惑してみて」
「ゆ、誘惑っ?」
そうだよ、と目の前の青年はにっこり笑う。
ランプの明かり一つしかない暗い室内の中でも、その美貌は昼の太陽以上に輝いていた。
さらりと揺れる金髪も、優しげに細められる紫の瞳も、見惚れるほどに美しい。
――だからこそ、いったいなにを言われるのかとビクビクして、ジゼルは全身に冷や汗をかいていた。
「そのランジェリーは、女性が男性をその気にさせるためにも身につけるものなんだ。……『その気にさせる』の意味はわかるよね、ジゼル?」
「あ、あああいにく、わたしにはさっぱり見当もつかなくて……っ」
「おや、それはすまなかった。では、そこから教えてあげないといけないね」
「へっ……?」
ジゼルの口から変な声が漏れる。同時に口角が不自然に上がって、緊張のあまり変な笑顔まで浮かぶ。
スケッチブックを置いた青年は優雅に立ち上がり、ゆったりと近づいてきた。
そして、ジゼルの細い顎に指先をかけて、顔を上向かせる。されるがままになっていたジゼルは、目と鼻の先に青年の顔が迫っているのに気づき、ひぃっ、と鳥肌を立てた。
「あ、あの、ご主人様……!」
「『その気にさせる』とは、つまり、男がこのランジェリーを身につけた女性に、こんなことをしたくなるように仕向ける――ということだよ」
彼はにっこり笑うと、おもむろに唇を重ねてくる。
突然のことに対応できず、まだ右手を上に、腰をくねらせたポーズを保っていたジゼルは、そのままの格好でビシッと固まった。
(こ、これって、つまり、いわゆる――、キ、キキキッ……!)
キス、とはっきり自覚する前に、ジゼルの意識はふつりと途切れる。
連日の緊張と突然のキスにすっかり頭が混乱して、理解できる容量を超えてしまった。
そもそも、どうしてこんなことになったのか……
――そのきっかけとなる出来事は、遡ること一週間ほど前に起きた。
ひょんなことから、ジゼルが主人である麗しの青年――ロイドの秘密を知ってしまったことから、すべては始まったのだ。
「……こ、こう、ですか?」
言われたとおり、右手を高く上げ、肘を折って手を頭の後ろに回す格好になる。その上でかすかに足を開き、腰を左に少し突き出すようにすると、目の前で鉛筆を握る彼は「そう! その角度! 最高だよ!」と興奮気味にまくし立てた。
「ああああ、やっぱり生身の女性に着てもらうのは正解だった。新たなアイディアが次々湧き出てくる……あ、もうちょっと腕上げて」
無意識のうちに腕が落ちてきていたようで、ジゼルは慌ててポーズを取る。
しかし……
(いい加減、恥ずかしいんだけど……!)
ポーズだけでも相当いやらしいのだが、今彼女が身に纏っている衣服――正しくは、布面積が極端に少ないランジェリーだが――は、恥じらうジゼルをいっそう色っぽく、いっそう艶やかに演出している。
彼女が身につけているランジェリーは、上下とも淡いピンク色で、そこここにフリルやリボンがあしらわれた可愛らしいものだ。
だが、肩から紐でつるし、背中側で結んで留めるタイプの胸当ては、レースに彩られた布が、乳房の本当に恥ずかしいところ……要するに乳首や乳輪だけしか隠していないのだ! 乳房の膨らみも谷間もほとんど丸見えな上、手を上げると布がずれて今にも乳輪が見えそうになり、本当に気が気ではない。
下も、これまた布が恥丘と割れ目しか隠していない、腰の左右で紐で縛るタイプのショーツだけという姿だ。
身につけているのがこんな心許ない下着のみとあっては……初夏が近づく室内は夜でも暖かく、風邪を引く心配こそないだろうけれど、羞恥のあまり体中が火照って、熱を出して倒れてもおかしくないと本気で思う。
(ああもう、早く終わって……!)
あまりに恥ずかしく、ハラハラしっぱなしの時間だが、目の前に座る青年がスケッチを終えれば、とりあえず解放される。
これまでの経験からそれをわかっているジゼルは、下唇を噛みしめ、真剣なまなざしを注いでくる青年から、少しでも意識を逸らせようとした。
しかし――
「……ジゼル、なんだか上の空だね。なにを考えているの?」
少し低い声で青年に指摘され、ジゼルはビクッと肩を揺らした。
「え、えっ? な、なにをと言われましても――」
「ちゃんとこっちを見てほしいな。僕を見て。そして、もっと誘惑してみて」
「ゆ、誘惑っ?」
そうだよ、と目の前の青年はにっこり笑う。
ランプの明かり一つしかない暗い室内の中でも、その美貌は昼の太陽以上に輝いていた。
さらりと揺れる金髪も、優しげに細められる紫の瞳も、見惚れるほどに美しい。
――だからこそ、いったいなにを言われるのかとビクビクして、ジゼルは全身に冷や汗をかいていた。
「そのランジェリーは、女性が男性をその気にさせるためにも身につけるものなんだ。……『その気にさせる』の意味はわかるよね、ジゼル?」
「あ、あああいにく、わたしにはさっぱり見当もつかなくて……っ」
「おや、それはすまなかった。では、そこから教えてあげないといけないね」
「へっ……?」
ジゼルの口から変な声が漏れる。同時に口角が不自然に上がって、緊張のあまり変な笑顔まで浮かぶ。
スケッチブックを置いた青年は優雅に立ち上がり、ゆったりと近づいてきた。
そして、ジゼルの細い顎に指先をかけて、顔を上向かせる。されるがままになっていたジゼルは、目と鼻の先に青年の顔が迫っているのに気づき、ひぃっ、と鳥肌を立てた。
「あ、あの、ご主人様……!」
「『その気にさせる』とは、つまり、男がこのランジェリーを身につけた女性に、こんなことをしたくなるように仕向ける――ということだよ」
彼はにっこり笑うと、おもむろに唇を重ねてくる。
突然のことに対応できず、まだ右手を上に、腰をくねらせたポーズを保っていたジゼルは、そのままの格好でビシッと固まった。
(こ、これって、つまり、いわゆる――、キ、キキキッ……!)
キス、とはっきり自覚する前に、ジゼルの意識はふつりと途切れる。
連日の緊張と突然のキスにすっかり頭が混乱して、理解できる容量を超えてしまった。
そもそも、どうしてこんなことになったのか……
――そのきっかけとなる出来事は、遡ること一週間ほど前に起きた。
ひょんなことから、ジゼルが主人である麗しの青年――ロイドの秘密を知ってしまったことから、すべては始まったのだ。
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