被虐の王と不義の姫君

佐倉 紫

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第一章

005 ☆

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 二週間の旅はほどよく快適だった。
 思った通り、オスベリアの面々は愛想こそ少なかったが、隣国の王女であるアルメリアのことを尊重してくれた。彼女に無理のない行程を組み、休憩時には必ずお茶とお菓子を用意し、夜には上等な宿を取ってくれた。

 移動中はほとんど馬車に押し込められていたが、ヴォルフが何度も顔を出し、気分は悪くないか、退屈していないかと尋ねてくれるので、乗り物酔いを感じたときは遠慮なく休ませてもらった。だがそれも数えるほどのことで、用意された馬車はよほどの道でもない限り大きく揺れることもなかった。

 護衛兵たちもみだりにこちらを見ることもなく、非難のまなざしを向けるわけでもなく、その点では国境を越える以前よりはるかに楽だったと言っていいだろう。

 だが、そんな旅にも終わりがやってくる。

 国境を発ってからちょうど二週間後。アルメリアを乗せた一行は、とうとうオスベリアの中心地へと到着した。
 オスベリアのちょうど中央に位置する王都は、大国らしく実に大きく近代的な街だったが、そのさらに中心にたたずむ王宮は、まさに圧巻の一言だった。

「なんて大きな……これがオスベリアの心臓部」

 徐々に近づいてくる巨大な尖塔せんとうの数々に、アルメリアは目を白黒させる。
 その横を馬で並走しながら、ヴォルフがくすくすと小さな笑い声を漏らした。

「あいにくと、今見えている棟は客室棟や広間が連なるところで、心臓部と呼ばれる表宮と呼ばれる政治機関は、外からは見えない奥のほうに位置しているのですよ」
「まぁ……用途ごとに建物が分かれているということ?」
「その通り。さらに言えば、表宮の奧にあるのが奥宮。国王陛下と王子様方が住まうところで、そのさらに奧にあるのが、後宮。陛下のお妃様と王女様方が住まうところです」
「では、全部で四つの建物が、この城壁の中に入っているということね……」

『王宮』と言うからには『王城』とは違うのだろうと思っていたが、なるほど、どうやらこの城壁のその中には、もうひとつの街が広がっていると考えたほうがよさそうだ。

 やがて正面の城門へと一行はたどり着くが、大門ではなく、そのわきの小さな扉のほうから入るように指示された。
 小さな、と言っても、アルメリアが乗る馬車が横に三台並んで入れるような広々とした門だ。だが大門はその五倍近くの幅と高さがあり、規模の違いにアルメリアはただただ唖然あぜんとすることしかできなかった。

 そのあともいくつもの門を越え、舗装ほそうされた道を渡り、ようやく住まいとなる後宮にたどり着いたのは、城門をくぐってからゆうに一刻は経ったかという時間だった。

「お疲れ様でございました。ここが、今日から姫君の過ごされる後宮の棟になります」
「まぁ……」

 ヴォルフの手を借り、馬車から降り立ったアルメリアは、目の前にそびえる巨大な建物を見やり目を瞬かせた。

 四階建ての豪奢ごうしゃな建物は、さらにその上にいくつもの尖塔をいただいている。これまで見てきた建物に比べて白い石が多く使われているのは、女性が暮らす棟だからなのだろう。
 ざっと窓の数を見ただけでも、この棟だけで軽く三桁を変える女たちが生活できそうだ。

 ヴォルフに導かれ玄関をくぐり、いくつかの回廊を渡ると、そこにはお仕着せを着込んだ女たちがずらりと待ち構えていた。おそらく後宮担当の女官たちであろう。

「フォルランド王国第一王女、アルメリア姫のご到着である!」
「ようこそ、王女殿下。我々はこの棟を預かる後宮女官でございます。姫君のお越しを、心よりお喜び申し上げます」
「ありがとう」

 初老の女官が進み出て、挨拶とともに金の鍵を渡される。
 首を傾げながら受け取ると、女官は恭しく「こちらへ」と促してきた。

「姫君、ここからは衛兵ですら立ち入り禁止区域となります」
「あ……」

 当然だが、後宮は男子禁制だ。近衛兵と言えど、これ以上先には立ち入れないに違いない。
 思わず振り返ったアルメリアだが、戸惑う彼女とは逆に、ヴォルフはなぜかにっこりと微笑みを浮かべた。

「ですが、わたしは陛下より特別に入場の許可をいただいております。なので、しばらくはこちらで、姫君の護衛を務めさせていただくことになります」
「特別に許可を……?」

 首を傾げるアルメリアに、恐れながら、とヴォルフは続けた。

「わたしと国王陛下は父方の従兄弟同士なのです。この国では、現陛下と従兄以上の血の繋がりがあり、なおかつ近衛隊、あるいは王子様方の親衛隊に所属している者であれば、警護のために帯剣して後宮に立ち入ることが認められているのです。もちろん、陛下の覚え書きは必須になりますが」
「まぁ、そうだったの……」

 後宮とは言え、これだけ大きな国だ。どこになにが潜んでいるかわからない。
 その点で言えば、近しい身内を中心に後宮もまた警護させるというのは理に適っているように思えた。おそらく、陛下の御身を護るためにも必要な措置なのだろう。

「では、またしばらくお世話になるのですね」
「陛下のお許しさえあれば」

 にっこりと頷くヴォルフに、アルメリアも微笑みを返す。
 いくら警護のためとは言え、今後そう頻繁に会うことはないだろうが、顔見知りが近くにいると思えばいくらか心強く思えたのだ。

「では、姫君のお部屋までご案内いたします」

 鍵を渡した初老の女性が、先だって歩き始める。アルメリアは頷き、しずしずとそのあとに従った。
 何回か回廊を渡り、階段を上ったが、どうやらこの棟はかなり複雑な造りをしているらしく、アルメリアはしばらくしないうちに、入口までどうやって戻るかわからなくなっていた。おそらく意図してこういう造りにしてあるのだろう。基本的に、後宮の妃たちはそうそう気安く建物の外に出ることは叶わない。

 また妃同士が衝突しないように、わざと入り組んで作ってある可能性もあった。事実、アルメリアの祖国でも、第二妃と第三妃の仲違いは深刻なもので、父王はふたりを刺激しないために、わざと彼女たちの部屋を王宮の端と端に用意したくらいである。

(けれど……この建物を見て行くと、その複雑な造りでさえ、芸術のひとつなのではないかと思えてくるわ)

 緩やかに曲がる回廊、そこここに飾られた絵や壺などの美術品、優美な曲線を描く窓、そこから差し込む柔らかな光と厚手の絨毯。そのどれもが一幅の絵のように美しく、どこか現実離れした雰囲気があった。

 廊下でさえこれだけ美しいのだから、室内はどれほどのものだろうかと思っていると、ふいに女官が立ち止まり、先ほどの鍵を取り出すように言った。

「この扉の向こうが、姫君に与えられたお部屋でございます。扉の鍵は姫君の他には、陛下しかお持ちではございません。一度鍵を掛けてしまえば、陛下以外の方をこの扉から中へ通すことはできなくなります」
「え……でも、そうしたらあなたたち女官はどこからわたくしの部屋に入るというの?」
「女官には世話係専用の通路があり、そこを使わせていただいております。またこの扉の向こうにも、世話係が控える部屋が用意されておりますので、基本はそこに」
「すごいのね……」

 女官の口ぶりから察するに、どうやらこの扉は貴人以外は通り抜けすることもできないらしい。
 現に初老の女官は鍵穴だけ指し示すと、「では、先にお待ちしております」と言って、手近なカーテンの影に潜りこんでしまった。

 どきどきしながら鍵穴に鍵を差し込み、扉を開けると、先ほど消えた女官がすでに前の前に立っていた。おそらく見えないところにもうひとつ扉があったのだろうが、奇術を見ているようでひやひやする。

「では、お部屋をご案内させていただきます」

 扉の向こうには、広々とした部屋がいくつも用意されていた。
 日常を過ごす居間と、大きな寝台が置かれた寝室。さらに奧には衣装部屋と浴室が備えられており、広々とした露台からは巨大な中庭を見下ろすことができた。

 王女時代のアルメリアの部屋も、一国の王女として恥ずかしくない大部屋だったが、ここはそれ以上の大きさだ。居間は衝立ついたてで二間区切りにされ、そちらには食事ができる専用のスペースが取られている。反対側には大きなピアノがあり、最新の楽譜も揃えられていた。
 衣装棚にも新しいドレスが吊され、浴室にはめずらしい香油が取りそろえられている。

「これが……本当に、一妃のお部屋だというの?」

 まるで王妃の部屋ではないかと呟くと、女官は淡々と「王妃様の部屋はこの上階にございます」と答えた。そちらにはさらに専用の応接間と食事室、図書室と音楽室があるらしい。

「こちらのお部屋は基本的に、陛下の寵妃となられた方か、第二妃様のお部屋となっております」
「え……」

 アルメリアは思わず振り返る。
 後宮の妃を次々追い出している国王のもとへ嫁ぐからには、王妃になれる可能性などほぼないと思っていたが、まさか第二夫人と同じように遇されるとは思ってもみなかった。せいぜい後宮の末席を与えられて終わりだろうと思っていたのだ。

「でも、他にお妃様もいるのでは……」
「つい最近までこちらのお部屋をお使いになっていたお妃様は、心身を病み、五日前にご実家へお戻りになりました」
「……」

 どうやらアルメリアが旅しているあいだにも、また不幸な妃が増えてしまったようだった。

「本日は長旅のあとで、さぞお疲れでございましょう。あとで若い女官たちを向かわせますので、お好きな者を侍女としてお引き抜きください。不備がございましたら、女官長であるわたしになんなりとお申し付けを……」

 無表情のまま頭を下げる女官長を見やり、アルメリアは呆然としたままあごを引く。
 彼女が出て行くのを見届けると、すぐに若い女官たちが嫁入り道具を持って部屋へ入ってきた。
 てきぱきと片付けていく彼女たちを見ながら、アルメリアはとりあえずひとり掛けの革張り椅子に腰掛ける。

 最初は芸術的な内装に驚くばかりだったが、ここへきてようやく、残虐非道と名高い国王の後宮に入ってしまったことがのしかかってきた。

「この先、いったいどうなるのかしら」

 呟いてみるものの、結局はなるようにしかならない。
 王妃になったわけでもないので、公式な行事に顔を出す必要もないし、要人の名前を覚えることもしなくていい。
 それこそ、求められるのは国王陛下のねやのお相手だけであって……

(それだってうまく果たせるかわからないのに)

 自分もまた、五日前に出て行った妃と同じように、心身を病んで国へ帰ることになるのだろうか。そんなことになっても、父はともかく、あの兄が帰国を許すはずがないというのに。
 はぁ、と知らずため息がこぼれていく。

 そうこうするうちに湯の支度が調い、軽く汗を流したアルメリアは、旅の疲れに引きずられるまま、眠りの中へと逃避したのであった。


 真っ暗な闇の中、アルメリアはふと意識が浮上するのを感じ、まぶたを上げようとした。
 だが長旅の疲れのせいか、身体中重たくて指一本動かせない。意識こそ浮上したが、身体はまだ眠りの中にあるのだとわかって、彼女は細くため息をついて、再び眠りの中へ沈もうとした。

 だが、どこからかかすかに、覚えのない音が入り込んでくる。
 なめらかな絨毯を踏んで近づいてくるそれは、誰かの足音だろうか? いつもならハッと身体を強ばらせるところなのに、今は不思議とそういう気持ちになれない。あまりに疲れすぎているせいだろうか?

「……ん、……」

 誰、と問いかけようとするも、唇は小さく震えるだけで、小さな寝息が漏れるばかりだ。
 そうこうするうち、近づいてきた何者かが、そっとアルメリアの額に手をかざすのが伝わってきた。

「……」

 大きな手だ。少し乾いていて、温かい。
 その手が額にかかる髪をそっと払い、アルメリアの顔を露わにしていく。

「……」

 いったい誰だろう。だがいやな感じはしない。
 むしろ幼い頃、アルメリアの寝顔を見にきた父や母が、慈しみを込めて髪を撫でてくれたのと同じ気配を感じる。
 そう思うと親しみが湧いて、アルメリアはほっと安堵の息をついた。

 ――と、その手がいきなり、首筋を伝い、薄い夜着に包まれた胸へと這わされた。

「……っ」

 アルメリアは驚くが、かろうじて動かせたのは眉だけだ。
 ぴくり、と動いたそれを認めたのかどうか、相手はやがてやわやわとアルメリアの膨らみを刺激してくる。
 包み込むように揉み込まれ、アルメリアはかすかな息を吐き出した。

(いったい、誰なの? どうして、こんなこと……)

 抵抗するべきかも知れない。けれど半分は眠りの中にあるアルメリアは、危機感よりも与えられるかすかな快感に引きずられていく。
 やがて胸を揉んでいた指先が、堅くなり始めた淡い突起をきゅっとつまみ上げた。

「ぁ、……」

 痛みはない。けれど痺れるような刺激が身体の奥へと染みて、唇から小さな声が漏れた。
 相手はそれを楽しむように、アルメリアの双丘を優しく刺激し続ける。

「ん……、ぅ、……」

 あえかな息を漏らしながら、アルメリアはぼんやりと、叔父との忌々しい情交を思い出していた。

 叔父のでっぷりとした脂っこい手は、ただ目にするだけでも気持ち悪いと思えた。
 だが香油によって与えられる快感はすさまじいもので、いくらあらがっても、最後には結局欲求の前に膝をつくことになってしまった。

 未だ思い出すだけでも憤りと屈辱に目の前が真っ赤になるようだが、香油に慣らされた浅ましい身体のほうは、心ほどに清廉せいれんではいられなかった。

 事実、ふとした拍子に叔父とのことを思い出しては、吐き気と嫌悪感の他に、紛れもない快感を思い出して悶々もんもんとしてしまったこともある。
 一度与えられた愉悦を、身体は決して忘れない。修道院にいたときですら、疼く身体をもてあまして、ひどく苦しむ夜もあったくらいだ。

(叔父様との行為などすべて忘れてしまいたいのに……あの快感は、絶頂に至るあの快楽は、どうやっても忘れられない……っ)

 今もまた、久々に与えられる愉悦のせいで、体中が敏感になってしまっている。
 ともすればはしたなくねだってしまいそうで、アルメリアは覚醒かくせいしきっていない頭をふるふると振った。

(そんなことをしてはいけない……。ああ、でも……気持ちいい……)

「ん、んく……、は、ぁ……っ」

 いつの間にか、唇から漏れる声にもつやめいた響きが宿っている。
 腰奧がじんわりと熱く火照り、上掛けを剥いでしまいたい衝動に駆られた。

 彼女の変化を察してか、胸を揉む何者かは、そっと彼女の身体から毛布をのける。
 そして彼女の足のあいだに膝を置くと、くっ、とかすかな力を込めて、彼女の股間をこすり上げた。

「は、ぁ……!」

 じっとりと潤い始めていた秘所が圧迫され、アルメリアの身体を愉悦が走る。思わず白い喉を反らすと、そこに熱い吐息が吹きかけられた。
 次のときには柔らかいなにかを押しつけられ、アルメリアはそれが大ぶりの唇であることを本能で悟る。

「……っ」

 無意識のうちにのけぞり、肌をわななかせながら、アルメリアは優しさとともに与えられる快感に酔いしれた。

(気持ちいい。ああ、なんて……、なんて温かい……)

「ふ、ぅ……、ん……」

 思わず腰が揺らいでしまう。そうすると当てられたままの膝に秘所が擦れて、尿意に似たむず痒さが立ち上ってきた。

「はぁ……、はぁ……」

 次々に襲ってくる快感に、アルメリアの秘所はたちまち濡れ、薄紅の乳首はツンと夜着を押し上げていく。
 そうして肌がじっとりと汗ばんでくる頃――ふいに、何者かの手が胸から離れ、首筋へと這い上がった。
 ぞくぞくするような指先の動きに、アルメリアは唇を震わせる。

 だが、その手が前触れもなく――白く細い首を覆うように広がり、きつく締め上げてきたときには、さすがに恐怖を覚えずにはいられなかった。

「――っ! ……か、は……っ?」

 息が詰まり、なにが起きたかわからず、頭が真っ白になる。
 だが締め上げられる一方で、胸に残された掌はそれまで以上の執拗しつようさで膨らみを揉みしだき、掌で転がすように乳首を刺激してくる。
 秘所を圧迫する膝も小刻みに動き出し、アルメリアは苦しさと愉悦の両方に襲われ、びくびくと身体を震わせた。

「は、ぁ……っ、く、うぅ……!」

 息が苦しい。けれど揺すられる胸と秘所が気持ちよくて、アルメリアはうめきながら激しく腰を揺らしてしまう。
 蜜が溢れる秘所を相手の膝にこすりつけ、さらなる快感を求めながら、胸を必死に上下させて酸素を取り込もうと足掻いた。
 だがその胸も形が変わるほどに揉まれ、さらにはち上がった乳首を指先でかき鳴らすように刺激され、苦しさと紙一重の快感に溺れてしまう。

(もう、だめ……!)

 頭の中をそんな一言がよぎる。
 次の瞬間、首筋に指が食い込むのと同時に、ふくらんだ花芯を膝がぐりっとこすり上げて、すべての感覚が頂点を迎えた。

「は、ぁ――……っ!!」

 全身に震えが走り、背筋がこれ以上ないほど反り返る。
 呼吸ができない中、全身に駆け抜けていった絶頂は、これまで感じたことがないほど深く――信じられないほど、気持ちよかった。

「……っく、……はっ……」

 何者かの手と足が、同時にぱっと離れて、アルメリアの胸に酸素が急いで送り込まれる。
 軽く咳き込みながら、なんとか呼吸を取り戻したアルメリアは、ひゅるひゅると弱々しく胸を上下させながら、力を振り絞って目を開いた。

「……」

 絶頂か、あるいは酸欠の余韻か、なかなか瞳の焦点が合わない。
 それでもようやく感覚が戻り、目が宵闇に慣れる頃には、アルメリアは衣服をはだけた状態で、たったひとりで寝台に横たわっていた。

 窓も、扉も、誰かが入ってきた気配など微塵もない。
 けれど身体に残る感覚は紛れもなく本物で……締め上げられた首筋は、皮膚が擦れてか、ほんの少しひりひりと痛んだ。

「お水、を……」

 とりあえず乾きを満たそうと、アルメリアは両手を寝台について起き上がろうとする。

「あっ……」

 だが起き上がった瞬間、濡れた秘所に夜着がこすれて、ぴりっとした刺激を生み出した。
 秘所は未だぐっしょりと濡れて、まるで粗相してしまったかのように、夜着までも汚してしまっている。

「……」

 アルメリアは未だ収まらない胸の動悸を感じながら、なにを思ってか、そろそろとみずからの秘所に手を伸ばした。
 夜着の上から、震える指先で押さえるように、ふくらんだままの花芯をついと撫で上げる。

「……あ! ……は、ぁ……っ」

 その瞬間、びりっとした愉悦が走り抜け、起き上がりかけていた身体はあえなく崩れ落ちた。
 大きな枕に頬を埋めながら、アルメリアは小さく唇を噛みしめる。
 いけない、こんなことをしては……と、そう思う気持ちより、先ほど味わった絶頂を……あの頭が真っ白になるほどの愉悦を、また味わいたい気持ちのほうが勝って、再び手を秘所へと伸ばしてしまう。

「んっ……ん、く……、は、はっ……」

 薄い夜着越しに花芯を撫で、円を描くようにこね回す。
 やがてそれだけでは足りなくなって、猫のように背を丸めた彼女は、もう一方の手まで使って、熱く震える陰唇の奧へと指先を潜りこませた。

「はぁ、あぁ……っ」

 目を閉じ、おとがいを反らしながら、みずからの指が生み出す快感に酔いしれる。
 だが単純な愉悦は、苦しみとともに感じたそれとは、まるで比べものにもならない。
 火照った身体を慰め続けながら、アルメリアはつい「足りない……」と呟いてしまう。

 あの苦しみが欲しい。息が詰まりそうだったあの苦しみが、かすかな恐怖が、愉悦を倍増させると知った今では、もうもとのようには戻れない。

 快楽を知ってしまった身体が、刺激を求めて夜な夜な疼いていたのと同じように――

「ふ、ぅ……、んン……、ん、あぁ……っ」

 切ないと息を漏らしながら、アルメリアはそれでも秘所をいじり続ける。
 ――やがて疲れ切って、そのままの恰好で再び眠りに落ちてしまうまで、その痴態ちたいを見つめていた目があることにも気づかないまま。
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